天下一武道会も終わり、俺も仕事しつついつもの生活に戻った。お仕事も順調で何よりである。最近はボードゲームやカードゲームに並行して、テレビゲームなんかの開発にもお呼ばれするようになったので忙しさはひとしおだ。ありがたい。
が、基本在宅ワークとはいえ、仕事の量が増えたので家のことが回らなくなり始めた。最低限の家事はできるがその他、例えば無駄にでっかいイノシシの害獣駆除とか家庭菜園の手入れとかその辺が。しかし山中の家なので下手に人を雇えない。
「よ、悟空久しぶりー。突然なんだけど俺のとこでアルバイトしてくれないか?」
「ほら悟空さ!マレビトさが仕事持ってきてくれたから働いてくるだ!」
「ん?」
悟空をアルバイトに誘いにパオズ山の孫家を訪れたところ、真っ先に反応したのがチチだったのはこれいかに。なんやかんやで上手くやってるとは聞いてたが。
チチに話を聞いたところ、悟空が働かないのだという。今は牛魔王の財産を食って生活してるらしい。木こりとか食料調達とかその辺はきちんとやってるが、金を稼ぐ、という行為だけはやらんのだと。
ほうほう。
「悟空、ちょっとこっちこい」
「なんだ?」
警戒心なくてくてくこっちに近づいてくる悟空。自分よりいささか高い場所にある額を見上げて、なるべく綺麗な笑顔を一つ作ると、俺はこれまでやってきたように右手を持ち上げて悟空に一発デコピンを喰らわせた。結構いい音が鳴る。
「いっでぇ!?」
「働け」
そんなこんなで、雇った。いやー生活がだいぶ楽になった。
悟空の仕事は家庭菜園の管理、薪割り、あと害獣駆除。あとたまに如意棒の棒術を教えてもらってる。狩った鹿とか猪とか恐竜は食べていいよってあげてるし、それとは別に日給で一万ゼニー渡してるから高級取りではないけど、パオズ山でそこそこ暮らしていける程度には支払ってるはずだ。暇なときは好きなだけ修業していいよーって言ってるし。
ピッコロとの交流は、頻度は減ったけどぼちぼちやってる。新技開発やってるから邪魔しても悪いなって。完成が楽しみだ。
余談だが、悟空は俺から渡した給料をそのままチチに渡してるとかなんとか。たまに小遣いもらってるんだけどほぼ手付かずらしいと雑談の中で聞いた。
マジで金に頓着ないなあいつ。
+++++
ある日、悟空が俺の家の近くで修業してたら電話がかかってきた。相手を確認すると牛魔王で、チチが急遽病院に行くことになった、という内容だった。慌てて悟空に伝えると、悟空は筋斗雲で飛んでいった。
いやあ、こんな時に思うことじゃないけど、ちゃんと家族やってるんだなあ。なんか感動してしまった。
その数時間後に電話がかかってきた。悟空からかな、チチは大丈夫だろうか。
「もしもし、悟空か?」
『にいちゃんか』
「チチは大丈夫だったかー」
『うん、子供産んでた』
「……は?」
待てや。
「え?気付いてなかったのか?」
『だって、母ちゃんって腹膨らむだろ。流石にオラもそれくらい分かるぞ』
「まあ野生動物とかもそうだしな」
『チチ、ずっと普通だったぞ』
…………あー、なるほど。腹が膨らまなかったから、二人揃って妊娠の可能性に気付かなかったのな。
「あのな悟空。人間って、腹筋が極端に鍛えられてると、妊娠しても腹が膨らまないことがあるんだ」
『そうなんか!?』
「そうなんだよ。ほら、チチって天下一武道会で本戦トーナメントに残るくらい鍛えてただろ」
いやあ、前世で弟が生まれたときのことを思い出すな……小学校から帰ってきたら誰もいなくて、留守番してたら電話口で父親から「お前兄ちゃんになったぞ」って言われたときの衝撃よ。事後報告される子供の身になれと思うけど今思えばある日突然子供が出てきた親も衝撃すごかったんだろうね……。
『はー……』
「……まあ、同じこと繰り返さなければ、いいんじゃないか。とりあえずチチと一緒にいるといいよ。仕事のことは後で俺がなんとかするから」
仕事っていっても、雑用とかそんなんだしな。
「ちなみにこれは純粋な興味なんだが、チチは子供産んでなんか言ってたか?」
『おら、妊娠してたんだなって』
「似た者夫婦が」
+++++
子供は、悟飯と名付けられた。爺さんからもらったらしい。いい名前の付け方だと思う。
ただ、しばらくして顔見せに行ったら悟飯に尻尾が生えていた。流石に、これ以上隠し通すのはあまりよろしくない。そう判断して、悟空には尻尾が生えている意味を教えることにした。もちろん、サイヤ人であるということは伏せて。
「───って訳だ」
「……じゃあ、じいちゃん殺しちまったのはオラなんか」
「ま、そういうことだな。ただまあ、ほら、悟空は一回じいちゃんに会っただろ」
「うん」
「そのとき、普通に甘えさせてくれたのが答えなんじゃないかな。まあゆっくり考えるといいよ。悟飯の尻尾をどうするかもな」
悟空は珍しく何かを考え込むようなふうになりながら帰って行った。そして翌日、俺の家に悟飯を連れて来た。やはり、思うところがあったらしい。
悟飯、ふくふくしてて可愛いな!ピッコロの時はすでにある程度自立してたから、こんなにザ赤ん坊みたいな子はこの世界の地球では初めてだ。
よしよし、おっきくなれよー。多分波瀾万丈にも程があるけど。
「チチと話して、尻尾は取らねえことにしたんだ。切るときは悟飯に説明してからにしようって」
「うん、いいんじゃないか」
「ぜってぇ満月は見せないって」
「そーか。もし手に負えなくなったら言えよ。俺がなんとかするから」
尻尾のひとつくらいぶった斬ってやるよ。
「はは、にいちゃんに負けねえよう頑張らねえとな」
「おー、がんばれよ」
悟飯を抱っこして悟空に返す。に、しても本当にデカくなったな……悟空の方が。俺の元々持ってた孫悟空の印象にどんどん近づいてる。そりゃ俺の中の悟空の印象ってそもそも父親で頼りになる大人だったしなあ。俺の方が歳上とはいえ、第一印象は拭い難い。
……いかん。
第一印象は、地球で初めて会ったときの方だろうが。アニメの向こう側と現実にいる目の前の孫悟空を混同するな。あのちびこい悟空に世話になったときのことを思い出せ。
一番最初に好きになったヒーローにも。
一番大好きになったヒーローにも。
一番最後に好きになったヒーローにも。
孫悟空の名前は入ってないだろう、前世の俺。
「俺の家に来る時とか、悟飯連れてきても良いからな」
「そうか、ありがとな」
悟空は悟飯を連れて、家へと帰っていった。
抱っこされた悟飯が悟空の肩越しにこちらをじいっと見ていて、思わず笑った。
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