まれびとの旅   作:サブレ.

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第五十話

ガキィン!という硬質な音が響く。フリーザの拳は剣で受け止められるが、お互いにそれは想定内。まだアロンダイドを持ち出すほどじゃないかな。

しばし打ち合ったあと、フリーザはおもむろに手を止めた。お互いまるで息があがってないから、ここまで準備運動みたいなものだ。

 

「このわたしをここまでコケにしてくれたあなたは、完膚なきまでに叩きのめさないと気が済みません」

「そーかい」

「見せてあげましょうか……死よりも恐ろしい、究極のパワーを!わたくしの真の姿を!」

 

そう言うや、フリーザの姿が爆炎に包まれた。

何段階か変身形態があるとは聞いてたが、一番最後の形態にいきなりなるとは、思ってたよりフリーザの怒りは強いらしい。まあ最終形態引き摺り出すつもりだったからちょうどいい。

それにしても。

 

「………………もったいない」

 

究極、だなんて表現を使ってしまうだなんて。

 

「その言葉は、もっと先に取っておくべきだ」

「なに?」

「その程度の戦闘力が、極みなわけがないだろう!」

 

臨気鎧装を、最大倍率まで引き上げる。

俺の最大戦闘力は600万、対するフリーザの最大戦闘力は一億オーバー。

まるで敵わない、そんなことは知っている。それでも俺は、アスラという肉体は、それをさらに超えた姿を見てきた。さらに上があるのだと、戦闘民族であるが故の美しさを知っている。

だからこそ思う……なんて、もったいないのだと。

 

「アロンダイド」

 

剣に気を纏わせて、特攻する。スピードをこれ以上ないくらいに上げたのに、簡単にかわされて鳩尾に拳がめり込んだ。内臓が悲鳴を上げて胃液を吐き出す。さらに背中に追撃を受けて、体が海へと叩き込まれた。衝撃を受けながらもすぐさま立て直す。

 

「偉そうな口をききますね、わたしの足元にも及ばない猿が」

「ああ、そうだな」

「所詮はうす汚いサイヤ人ということですか。惑星ベジータの敵討でも?」

「俺がサイヤ人なのは確かだけどな、あいにく敵討だなんて、高尚なものじゃない」

 

剣を握り直す。ここで一歩でも引いたら、俺はこいつに殺される。一歩も引かなければ、気が済むまで嬲られる。

選択肢なんて実質一つみたいなものだ。絶対に引かない。

 

「……サイヤ人はさあ、悪いことばっかりしてきたよ。それを止めようともしなかった俺も同罪だ。滅びるに相応の罪がある」

 

因果応報?自業自得?表現はたくさんあるだろう。それに文句を言えるほど偉い身分でも、清廉潔白でもない。俺がどれほどサイヤ人を好きであろうと、多分嫌いなやつの方が圧倒的に多い。

 

「だけどさ、その滅亡のトリガーは、サイヤ人が滅ぼしてきた者たちの怒りであるべきだった。己の行動の結末として迎えるべき滅びだった」

 

だけど、フリーザの行為による滅びは、違う。たとえ結末が同じでも、過程にこそ意味がある。悪行を知らぬほんの少しの生き残りが数多のサイヤ人が作り上げた憎悪の歴史を背負うべきではない。

孫悟空に、一体何の罪がある。

罪を犯したなら、犯した者たちが、それを正面から受け止めるべきだった。

 

「少なくとも、お前が……サイヤ人を手足のように使って利益を得ていた者が、好き勝手滅ぼしていい種族じゃない!!!」

 

焚ける感情のまま、剣を上段に振りかぶった。気が充填され、光り輝く。それをフリーザは逃げるでも避けるでもなく正面から迎え撃つ。

 

「エクス……カリバー!!!」

 

そうして撃った本気のエクスカリバーは、いとも簡単にフリーザに無力化された。うーん、分かっててもしんどいなこれ。元気玉を作りたいが、下手にそうすると悟空の戦略が一つ減ってしまうことになる。それは避けたい。

俺はあくまで、フリーザに悟られないように時間稼ぎをするのが仕事だ。

それでも、ニヤリと笑うフリーザに口元が引き攣るのを抑えられなかった。

……やばい。

 

「遺言はそれだけか?」

「……さあな」

 

今度はこちらから、と言わんばかりにフリーザが突っ込んできた。瞬間移動の判断をするよりも殴られる方が早い。そのまま首を鷲掴みにして力を込められる。気で作った装甲がみしりと嫌な音を立てた。壊れるのも近いだろう。

 

「ふうん、虫みたいなことをしてるじゃないか」

「あいにく、虫ケラなんでね」

 

流石に、首の骨を黙ってへし折られる趣味はない。装甲があるおかげで多少耐久が上なのは良かった。おかげで奇襲をかけられる。

手を持ち上げて、フリーザに抵抗するように腕を掴む……と見せかけて、一気に額にまで手を持っていった。

 

「太陽拳!」

「なっ!?」

 

突然の閃光に視界をやられたフリーザが思わず手を離す。よし!てか太陽拳使い勝手いいな。俺の寿命がほんの少しだけ延びた。

慌てて剣を片手に、海の中へと飛び込む。即座に気を消して、フリーザの視界から外れた。

海の中から見上げるフリーザは怒り狂って俺を探している。臨気鎧装は宇宙空間で酸素供給が絶たれても多少活動できるようにしてるから、海の中に長い間潜ることも可能だ。

しかし、そうなればフリーザの行動が恐ろしい。下手しなくても、星ごと俺を殺しにかかるに違いない。そうなっては全てを巻き込んでしまう。それはダメだ。

 

「…………」

 

頭を抱えたくなるほど強大で。

どうしようもなく嫌いで。

震えそうなほど恐ろしくて。

コソコソ隠れるより他にないほど、隔たりがある存在だ。

だからこそ、全力で戦わなくてはならない。

少なくともフリーザが俺を“なぶり殺したい”と思った時点で、俺は勝負に勝った。あとは試合に勝とうが負けようが、どうでもいい。

やることをやるだけだ。

 

「……って、言い聞かせないとならないくらい、逃げてえ」

 

この辺りの弱気は俺に前世がある故だろうな。昔の俺はびっくりするくらい平和ボケしてる世界で呑気に生きてたから。

あー帰りたい。前世の家庭に帰って呑気にポテトチップスとか食べながらテレビを見ていたい。

現実逃避?知ってる。

 

「さて、やるぞアスラ」

 

剣を握る手に力を込めた。

 

 

その後の顛末は、まあ想像通り。

普通に敵わなくてボコボコにされた。

剣は辛うじて無事だけど、骨があちこち折れてるし、顔半分くらい潰れてるし、胴体にはビーム喰らって風穴空いてるし。嬲るって言葉がピッタリだ。

流石に最大戦闘力一億オーバーは荷が重かった。うん。

 

「こ、ふっ」

 

肺がガッツリ傷ついたのか、咳き込んだら鮮血が口から出てきた。通りで呼吸がおかしいわけだよ。フリーザは余裕綽々といった態度で、俺の首に尻尾を巻き付けて持ち上げている。腹立つ。

 

「大口を叩いた割には大したことがないですねえ」

「……うるせえバイキンマン」

「わたしを不潔なものに喩えるとは……よほど死にたいようですね」

 

フリーザの手にこれまでとは比べ物にならないくらいの気が集まっていく。流石にそろそろ殺しにかかったか。と、思ったその瞬間。

ふ、と空が真っ黒になった。その光景が意味することを、俺は知っていて、フリーザは知らない。驚きのあまり空を見上げるフリーザには、俺の微かな笑顔は映らない。

……よーやく使ったかドラゴンボール。

状況を把握される前に、辛うじて手の中に引っかかってた剣でフリーザの尻尾を切り落とそうとして、即座にフリーザに叩き落とされた。うわあマジでか、俺弱りすぎ。怒りのままに腹に新しい風穴が開いた。こいつ俺のこと粘土細工か何かだと思ってない?痛いんだけど。

フリーザが俺に意識を戻した間に、空はすぐに明るくなった。めっちゃ早口で願い三つ連呼したなこれ。

よくやったよピッコロ。

 

「……何が起きたか調べる前に、あなたを殺しておかなくては。これ以上邪魔をされたくないんでね」

 

今度こそ、フリーザが俺を殺そうとする。これ以上抵抗してもあんまり意味ないな。そう判断して力を抜いた、その瞬間。

ものすごい勢いで横殴りの衝撃が俺を襲った。そのまま吹っ飛んだ俺の体が、誰かに受け止められる。辛うじて生きてる半分の視界で辺りを見ると、俺を蹴り飛ばしたのはラディッツで、受け止めたのは悟空だった。

そういやラディッツ、メタクソに速かったなスピード。俺を蹴り飛ばすことでフリーザから離脱させたのかなるほど。

 

「にいちゃん」

 

いや、にいちゃん呼び卒業してなかった?

と言おうとして、喉からせり上がった血液が邪魔をして結局咳き込んだ。まったくポンコツな身体だ。

悟空はめちゃくちゃ怖い顔して、俺の辛うじて開いた口に仙豆を押し込む。なんとか嚥下すると、身体のダメージが即座に回復した。

それと同時に、世界が回るような眩暈が起こって。

そのまま意識が、ストンと闇に落ちた。




どうでもいいんですが、第五十話というキリのいい話数でマレビトのサイヤ人に対する価値観が出せたので何となくいい気分になりました
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