目が覚めたというのに、ちょっとだけ世界が遠かった。例えるなら、自我と世界の間にガラスを一枚挟んでいるような、そんな感覚。
「大丈夫か」
ナメック星人の老人が、俺の面倒を見てくれてたらしい。頭が重いがなんとかなるだろうか?
なんとか身体を起こしたけどふらついている。戦うどころか、立って歩くことで精一杯だ。
「状況が知りたい」
「ピッコロという若者が君をここに預けにきた。そして、ネイルをはじめとした残っている全てのナメック星人と合体したことで、今フリーザと戦っている。孫悟空、ラディッツ、ベジータと共に。二人の地球人も近くにいるようだ」
「……そっかあ」
瀕死復活したからだいぶ戦闘力上がってる筈なのに、肉体が悲鳴をあげている。傷自体は治ってんだがなあ。これだからこの身体は厄介だ。
「……一旦、地球への避難を提案するよ。フリーザとの戦いは熾烈で危ないから」
「しかし、ドラゴンボールの願いは使い切ってしまったのでは?」
「地球のドラゴンボールがある。こういうときのために取っておいたんだ。連絡をとりに行ってくる」
界王様の力を借りるという手も無くはないが、稀人の頼みをホイホイ聞くとは思えないし……悟空とラディッツを介せないなら、自力で連絡したほうが良いだろうし。
てくてく徒歩で通信機を積んでいる宇宙船を目指す。瞬間移動はな、この体調だとな、無理。
そうして歩いてると、一つの気が突っ込んできた。
「マレビトさーん!」
「……悟飯かあ」
「大丈夫ですか!?」
「ぜんぜんまったく。状況は?」
「ベジータさんが殺されてしまいました今はお父さんとピッコロさん、ラディッツさんが戦っています」
「ピッコロの叶えた願いは?」
「ふたつです。お父さんとおじさんの潜在能力を解放してください、と。残りふたつの願いは叶える前に最長老様がお亡くなりになったのか、石になってしまって……」
「あー、だから願いが爆速だったのか」
つまり使える願いはみっつとな。じゃあどうすれば良いんだろ。
えーと、フリーザたちに殺された人がいて、ここに残ってる人たちがいて、で、あとは……
どうしよ、頭が回らん。
「とりあえず、宇宙船に積んでる通信機で地球と連絡を取ろう」
「はい!ドラゴンボールですね!僕が持ってきます!」
「悪いな、頼む」
猛スピードで飛んでいった悟飯を見送って、岩壁に背を預けて座り込んだ。ダメだ立ってるだけでキツい。
上を見ると、ラディッツと悟空がメインで戦いピッコロとクリリンが何とかフォローしているところだ。それでも押されている。純粋な暴力って、小手先の細工じゃどうにもならないところあるしな。
「マレビトさん!持ってきました!」
「……んあ、ありがと。おーい、誰かいるか」
『マレビトだな!?』
「ドラゴンボール使えるようにしといとくれ。近々願いを頼むから」
『わかった!』
よしこれで下準備はおしまい。願いはブルマたちに任せよう。
悲鳴を上げる身体を無視して無理矢理立ち上がる。臨気鎧装は無理にしても、お邪魔虫程度には働いてやろうか。
「いいか、悟飯」
「はい!」
「俺たちサイヤ人はな、間に合わないんだ」
「……え?」
脈絡のない言葉に、悟飯が首を傾げた。そうだよな、意味わからんよな。
でも、多分今が伝えるに相応しいタイミングな気がする。
「死にかけるたびに強くなる……負けることでしか、強さを手に入れられない。そして、何かを守るための強さは、守りたいものを失うことで得られる。サイヤ人ってのは、一手遅いことでしか、強くなれないんだ」
その極致が、超サイヤ人という伝説だ。
……叶うなら、超サイヤ人になんてなれない方が良いのかもしれない。身を焦がすほどの怒りと痛みを、喜んで受ける者はいないだろうに。
「失わない為に必要なのは、何だろうな。俺は、時間という答えを出した。だけどこれだって正解じゃない。立ち向かわず逃げ回ったツケを、払うことになる。……俺は間に合わなかったよ。でも、悟空たちが間に合うなら、それで良いかって、思えるときもある」
時間稼ぎをしたところで、敵を倒せる訳でもない。
それでも、その時間がひとつでも悲しいことを減らせるのだとしたら。
意味はあるのだと、そう思う。
なんだか、ひどく饒舌だ。それも仕方ないか。
このあと意識を失って、戻ってきたときにアスラはいないだろうし。
「地球人の血を継ぐサイヤ人、君は間に合うといいね」
「……マレビトさん?」
「離れて、通信機守ってて」
悟飯が離れたのを見てから、すう、と息を吸い込む。脚がガクガク震えている。行けるか?いや、やるんだよ。まずはクリリンのフォローをせねばなるまいし。
地面を踏み締める足に意識を割いたところで、フリーザの視線が俺に向いた。
しまった、そういや俺、フリーザのヘイト買いすぎてたな。いや、ここはむしろラッキーと言うべきか?他からフリーザの狙いを逸らしたんだし。うん、過去の俺よくやった。
逃げられるわけがないので、力を抜いて攻撃を受ける体勢になった。防御体勢をとって、死なないようにだけ気をつける。巨大な眩いエネルギーの塊が、俺に向かって飛んでくる。悟飯には当たらないな、ならいっか。
「マレビトさん!!!」
「へ?」
横からガツン!と衝撃が飛んできて俺は見事に吹っ飛んだ。吹っ飛ばされるの二回目だな。
なんて呑気な考えは目の前の光景で霧散した。クリリンが庇ったのだと、理解する。
は?
「なっ、おま───」
にっと、冷や汗を流しながらもどこか不敵に笑うクリリンの顔が最後に焼き付いて。次の瞬間、クリリンの身体が爆散した。
「…………は」
殺したのか。
俺が、目の前の死に?無防備になったから?
ああ、本当に、なんて馬鹿なんだろうか俺は。
「……は、は」
体の奥の熱が一気に沸騰する。ぐわり、と怒りが持ち上がる。
ああ、本当に、これだから俺は、度し難い。
遠くに、膨れ上がった気を感じ取る。怒りのボルテージと比例するように身体が重くなって──
身体が地面に叩きつけられたのを機に、意識がブラックアウトした。
+++++
「マレビトさん!」
「!悪い悟飯寝てた!」
慌てて飛び起きると、身体が随分と軽くなっていた。挟んでいたガラスも無くなってて、視界がクリアだ。アスラの気配はない。
……逝ったか。ただまあ、マジでそれどころじゃないけど。
「マレビトさん!お父さんが、お父さんがなれたんです……超サイヤ人に!」
「!」
慌てて様子を伺うと、金色のオーラを纏った一人のサイヤ人が見えた。逆立つ髪の毛、宝石のような碧色の瞳、そして湧き立つオーラと、内に秘めた激情……間違いなく、超サイヤ人だ。
懐かしい、と言っていいのだろうか。
間違いなく、フリーザを倒せるだけの強さを手にしている。孫悟空は超サイヤ人に進化した。
……それにしても。
「…………かっこいいなあ」
本当に──美しく、かっこいい。前世の俺も、今世の俺も、両方の俺が憧れた姿なのだから当たり前かな。
本当は、喜ぶべきじゃないんだ。クリリンの死は悲しむことで、その怒りで到達したその高みも。
それでも、この感情だけは、否定したくない。
でも、それどころじゃないのは確かか。
さあ、感傷はこれで終わりだ。
「悟飯!まず地球のドラゴンボールで、『フリーザたちのせいで死んだ人を生き返らせてください』と願ってくれ。そしたらポルンガが復活するから、次はピッコロに頼んでポルンガの最後の願いで、悟空とフリーザ、俺の三人を残した全員を地球に転移させろ」
「マレビトさんも残るんですか!?」
「俺まで居なくなったら、誰が悟空を地球まで送るんだよ」
俺さえいれば、勝った悟空を地球まで運べる、ドラゴンボールを使うまでもない。
フリーザと悟空の戦いには割って入れないけど、それでもサポートのやり方は何かしらあると思うしな。
しゃがみこんで、不安そうな悟飯を撫でてやる。
「大丈夫、悟空は責任持って地球に連れて帰るから」
帰るまでが遠足ですってな。
いや、遠足じゃないけどさ。