まれびとの旅   作:サブレ.

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第五十二話

ピッコロを呼び出して、数分後。順当に死んだ者は生き返り地球へと退避していった。残ったのは超サイヤ人と化した孫悟空と100%の力を出すことにしたフリーザ、そして俺の三人だけ。

荒れてんなあ悟空。当たり前だ。そう思いつつ、手をフリーザに向かって差し出す。流石にいつでも倒せる俺より、目の前の伝説である超サイヤ人を優先するらしい。

真っ当な判断だ。そこに付け入る隙がある。

 

「言っておくが、オレはきさまなんかに殺されるくらいなら、自ら死を選ぶぞ」

「スキにしろ……」

「だがこのオレは死なん、死ぬのはきさまらだ……オレは宇宙空間でも生き延びられるぞ。だがきさまらサイヤ人はどうかな?」

 

ごめん、得意げだけど臨気鎧装なら宇宙空間耐えられるわ。ただ、悟空はダメだよな。

フリーザが生み出した気弾をそのまま地殻へと投げ付けた。だが自分でも怯えが出たのか、そのエネルギー総量は即座に星を消すにはやや足りない。

うん、これなら……全部俺が吸い取れる。

フリーザが気を探れなくて良かった。バレない程度に、星の中心に到達しないギリギリで放たれたエネルギーの全てを奪い取って糧にする。フリーザ軍と相対するために散々気を消費し続けて目減り具合がヤバいからな。ここで少しでも回収しとかんと。

 

「……おお、まあなかなか」

 

この量をもらって“なかなか”って評価もまあヤバいな。それに、頭の上で行われている戦闘を見上げる。一瞬も気を抜けない攻防、その全てを目で追える。

おそらく、数回の瀕死により俺の素の戦闘力は悟空とほぼイコールだ。そりゃ魂二つも抱えられる余裕がなくなる。嫌気性症候群とサイヤ人の特性の組み合わせ恐るべし。

二人の戦闘に目を細める。一進一退の攻防だが、多分悟空の勝利で終わる。

フリーザは全力の出し方を知らないのだ。強者ゆえの傲慢と経験不足。例えば俺なら、いかに格上の敵を倒すかというのは大猿化したナッパで、まるで敵わない相手の時間稼ぎをするかはフリーザで、行ってきた。孫悟空も、同格もしくは格上との戦闘経験は多く積んできた。自分のコンディションの秒単位の変化、全力を出せる時間、バットコンディションとの付き合い方、それらを経験で身につけている。

しかしフリーザにはそれがないのだ。

悟空の見逃しという提案も蹴って、平静を失ったフリーザは命乞いによってもらった気を使って悟空に攻撃を仕掛けて、トドメを刺した。

 

「……うーん」

 

終わったが、悟空にとってはあまりに納得できない終わりであったらしい。口をぎゅっと引き結んで、一度は自力で解いた超化状態のままだ。

 

「おーい、悟空!」

 

叫んでみるも、反応が芳しくないか。まあ、ピッコロの時の結末と比べると、思うところがあるんだろうな。

……仕方ない。

 

「臨気鎧装」

 

息を吸って、気を装甲のように纏う。そのまま戦闘力を一気に倍化する。これまでの最高だった20倍を更に超えて、超サイヤ人と同じだけ、そう、50倍にまで無理やり引き上げた。

やたらと強くなった体だ。孫悟空が50倍化に耐えられたなら俺が耐えられないはずがない。

何より、臨気鎧装とは強さを求めた気高き黒獅子が使う武装の名前だ。そして、目の前にサイヤ人の伝説が降臨している。これから先、超サイヤ人は更にその先を歩む。すでに伝説は現実となったのだ。

ならば──その強さのはじまりに、臨気鎧装が届かないはずがない。

というか、届かなければ、その強さを真似た者として、面目が立たないのだ俺は!

 

「悟空!!!」

 

剣を握り、一気に地を蹴った。未だ高ぶる感情を持て余す悟空は、俺の叫びに気づいたことで本格的なカウンターを仕掛けてきた。しかし鎧を身につけた状態では、同じ戦闘力でも俺の方がやや耐久性で勝る。

大きな音を立てて攻撃を受け止めると、俺の存在に気付いたのか悟空が目を丸くした。それを見て追撃にかかる。

まず、剣を捨てた。攻撃手段を取り落としたことで悟空の意識がそちらに割かれる。その隙に俺は空いた手の指を輪っかの形にして悟空の額に持っていく。

 

「いったあ!?」

 

直後、割といい音と共に悟空の悲鳴が聞こえた。

 

+++++

 

「ショックだったか?」

 

悟空が大の字になって地面の上に寝っ転がっている。星は爆発しないよと言ったら気が抜けたらしい。髪は黒い色に戻っていた。

悟空の隣に腰掛けて空を見上げると、やっぱり太陽が昇っていた。

 

「うん。マレビトは?」

「俺はどっちかというとフリーザ側の思考だし。目的の為なら、死んだフリもするし命乞いも構わない。ただ、フリーザにはサイヤ人に負けたくないってプライドがあったけど、俺には特にないっていう違いはあるな」

「殺したくなかった」

「安心しろ、多分だけど生きてるかしぶとく復活するかの二択だから。あいつはバイキンマンだぞ」

「ばいきんまん……?」

 

首を傾げながらも、俺の言葉になにを納得したのか、まあいいかと悟空は思考を切り替えたようだった。

プライドはいい方にも悪い方にも転がる。そこに貴賤も優劣も付けるべきではない。と、個人的には思っている。

厄介かどうか、違いはそれくらいだ。

 

「さっきマレビトも超サイヤ人のオラと同じくらい強くなってたよな。あれも臨気鎧装っちゅーやつか?」

「まあな。がんばった」

 

Vサインを向けると悟空が楽しそうに笑った。こいつ俺と試合したいだけだろ。

 

「試合は却下。お前疲れてるだろ」

「あはは……クリリンは生き返れそうなんか」

「ナメック星のポルンガは何回でも生き返れるし、使えるようになるまでの周期も短めだからな。どう使うかは相談として、生き返れると思う」

「やった!」

 

懸念事項も解決したので、悟空はあー!とどこか晴れ晴れと伸びをした。しかし悟空にとっての懸念事項は解決したとして、俺の懸念事項は残っている。

と、いうのも。自分で気を一切生み出せなくなったっぽい。

クリリンが殺された瞬間に怒りに身を支配されかけた感覚があったが、どうやら俺もそこで擬似的に超サイヤ人になりかけ、完全な超サイヤ人には届かないにしても戦闘力が急上昇、嫌気性症候群が進行したらしいのだ。神龍が言ってた一定ラインの戦闘力とは超サイヤ人のラインだったのだろう。

それに、今ふと思い出したんだが、だいたいこのくらいの時期に孫悟空も覚えてたはずだ。

 

「悟空」

「うん」

「瞬間移動覚えるか」

「いいんかっ!?」

「いいよ。ただ俺が教えるんじゃなくって、俺が瞬間移動覚えた星に行ってもらうけど」

「えーっ!マレビトが教えてくれりゃいいじゃんか」

「俺の方法、座標指定するやり方だからどっちかというと邪道なの。どうせなら正しい方法ならってこい」

 

見様見真似で習得したら、「普通は座標指定じゃなくて気を感知して移動する」って言われて「先に言えよ!」ってなったのは懐かしい。

ヤードラット星人も稀人の扱いをどうしたものか悩んでたし、仕方ない部分もあるのだろうけどさ。

と、いうか。単純に座標指定方法は悟空に向いてないと思う。

 

「で、この瞬間移動習得に必要な修業期間は、俺からの業務命令による長期出張っていう扱いにするから」

「どういうことだ?」

「給料出すよってこと。あと、盆正月とか悟飯の誕生日には送り迎えするから休みで帰ってきていいよ」

「はえー……マレビトはすげえなあ」

「そうか?」

 

て、いうか。孫悟空に業務命令とか長期出張とか似合わねえ単語すぎてちょっと笑えるかもしれない。

でも、冷静に考えるとフリーザ軍に所属してたサイヤ人ってやってることはともかく立場はサラリーマンなんだよな……そう考えるとバーダックもサラリーマン……。

突然脳内にスーツ着込んで名刺交換するバーダックが浮かんで吹き出しそうになった。慌てて誤魔化そうとするものの「ゴフッ」と変な咳が出て悟空が首を傾げる。

なんかすまん。


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