まれびとの旅   作:サブレ.

54 / 82
第五十三話

そんなこんなで戻ってきたぜ地球。最長老様は、否、あのナメック星人は少し前にサヨナラしていたらしい。しかしそれ以外のナメック星人は幸いなことに全員揃っていた。次のドラゴンボールの願いでクリリンを甦らせたあと、別の星に移って暮らすらしい。まあそれには賛成する。コルド大王とか報復に来るかもしれないしな。あと星そのものもだいぶボロッボロだし。

ナメック星人たちとベジータはカプセルコーポレーションに、なんやかんやで地球で腰を落ち着ける場所を持ってなかったラディッツはしばらく俺の家に滞在することになった。部屋多めに作っといて良かったわ。人生なにがどう転ぶか分からんな。

 

 

「じゃ、行ってくる!」

「お父さん、がんばってね!」

「悟空さ、しっかりやってくるだよ!」

 

約二週間後、ヤードラット星に話を通した上で悟空を瞬間移動習得のために修業に送り出した。これは前世の流れを守るためでもあり、瞬間移動取得者を増やすための長期出張……要するに単身赴任という形を取っているので家族の別れも爽やかだった。

さっくり悟空を送り届けて、とりあえずひと段落。給料は毎月決まった額をチチに渡せば良いだろう。

ついでに、悟空が不在の間は色々な雑事をラディッツに任せることにした。一年限定で雇用したわけだ。ラディッツはそういう下働き的なのが苦ではないのか、何日かして家事に慣れたら普通に働いてた。

 

 

「おい、これも仕事か?」

「そうだよ。悟空にも相手してもらってたし」

 

とある土砂降りの日。今日は家庭菜園の手入れも修業も出来なさそうなので、ボードゲームに付き合ってもらうことにする。一対一で遊べるマンカラを取り出して準備。ルール説明をして、お互いおやつを摘みながら淡々と進めていく。

 

「……なにが楽しいんだこれは」

「俺は楽しいんだけどなあ……ピンクのパンツとか、プロポーズとか、命乞いの方が好み?」

「そのラインナップはなんなんだ」

 

何戦かしたあとポイっと放り出されたマンカラを片付ける。オセロの方がいいかもしれない。そんな感じでオセロを新しく取り出して並べた。そういやバーダックともやったような気がする。

 

「これはすげー興味本位なんだけど、バーダックってどんな子育てしてたの?」

「……基本的に放置だな。ガキは飯と布団と風呂が要るとはよく言ってたが」

「うっわ不器用。ただなんかめっちゃ“らしい”な。それにしても、覚えてたんだバーダック」

「やはりお前の影響か?」

「まあ持論ではあるよ。子供は美味しいご飯とあったかいお風呂とふかふかのお布団で育つべきだ」

 

バーダックに何回か言った覚えがあるからな。飛ばし子文化のせいか、子供は放っといても育つって言ってたから反論したんだっけ。

 

「超サイヤ人になったの見たことないって言ってたのは?」

「実際、なっていたことは無いな。ただ、カカロットの超サイヤ人を見て確信したが……今も親父の方が強い」

「へえ」

 

やっぱりあれの更に上があるのか。確かにボス枠があと二つあるんだったな。しかも続編もあったよな。インフレが止まるところを知らない。

 

「だが、カカロットはともかく親父はどうやって超サイヤ人になったんだ」

「知らんよ、俺別に科学者じゃないし仮説しか持ってない」

「仮説があるのか?」

「愛」

「…………」

「真面目に聞かれたから真面目に答えたのになんだその胡乱な目付きはァ!!!」

 

じとーというオノマトペがぴったりな目で見られて流石に叫ぶ。めちゃくちゃ疑ってんじゃねえかしばくぞ。そう思いつつ、自分も言葉が足りてなかった自覚はあるので説明を続ける。

 

「あのな。そもそも超サイヤ人の伝説が歪曲されて伝わってると思う」

「なんだと?」

「ベジータやフリーザの反応を見るに、超サイヤ人は“狂戦士〈バーサーカー〉”として伝わってるんだが、俺からしたらズレてる。多分長年の言い伝えとか、あと直接相対した敵側の印象とかと混ざったんだろうな」

「ならばお前の思う超サイヤ人はなんだ」

「“復讐者〈アヴェンジャー〉”。俺から見た仮説だけど、そもそも超サイヤ人って外敵からの侵略に対する防衛機能っぽいんだよね。敵の攻撃を受けて縄張りを侵されて初めて成り立つ、かなり受動的な進化だよ。少なくとも一番最初の変身は」

 

つまり、超サイヤ人を生み出したくないのなら子飼いにして適度に侵略行為をさせつつ、更に上のめんどくさい外敵に対処してやれば良かったのだ。その点フリーザはとんでもない悪手を打ったとも言えるだろうか。

 

「だが、ナワバリを侵されることが条件ならベジータ王も超サイヤ人になっているだろう」

「だから愛だよ。支配しているものじゃなくて、愛しているもの。それに最低限の戦闘力……まあ300万くらいは欲しいか」

「最低でもその数値か」

「そうだな。あとは、それだけの強さを有してなお守れなかったという無力感か。種類はともかく、愛が無力感をトリガーに憎悪へと転換したときになるのが超サイヤ人なんじゃね?ってのが俺の意見。

 逆に言えば、この条件満たせるなら子供同士の喧嘩でも超サイヤ人になれると思う」

 

冷蔵庫で大事に取っておいたプリンとかな、奪われたらまさしく愛しているものに手を出されたってことになるし……自分で想像してなんだけど、なんかやだなプリンで超化するサイヤ人。

 

「ま、この説は穴だらけだろうし、もっと生物学的な条件があるんだろうけどそっちは完全に専門外」

 

ひょい、と肩をすくめて話を切り上げる。ちなみにこの仮説だと、バーダックも愛で超サイヤ人になったことになるが、ラディッツは思い当たる部分があるのか頷いて納得していたようだった。

心当たりあるのか。仲間か、もしくは嫁か……?

 

+++++

 

130日が経過して、ドラゴンボールが使えるようになった。悟飯はデンデという子供のナメック星人と仲良くなったらしく別れを惜しんでいた。いつのまに。

その辺りのやりとりを一歩引いた位置から眺めていたら、老人が話しかけてきた。

 

「マレビト」

「はいよ」

「最長老様より言伝を預かっている。かのナメック星は、あなたの思うようにして良いと」

「やめとけ。マジでやめとけ。俺がどんだけ厄介か知ってるだろ。あそこで俺がなにをやっても“悪いこと”にはならんぞ」

「しかし、あなたはそのような事はしないだろう、と」

「信頼が重いんだよなあ」

 

いや、確かに変なことはしないけどさ。立場ってものがあるじゃん。あ、もしかしてあれか。もう死ぬから最後に好きなことやっとけとかそういう感じ?水一杯のお返事にしてはちょっと大袈裟すぎねえか。

 

「最長老様は、あなたに深い感謝を抱いていた。恩を返したいのだと」

「大したことしてないんだが。それに、恩ならもう返されてる」

「そうなのか?」

「……ある人曰く、逆転しない正義とは献身と愛であるらしい。眼の前で餓死しそうな人がいるとすれば、その人に一片のパンを与えることだそうだ。俺は稀人だ、悪でも正義でもない。どちらにもなれない。

 だけど、俺がかつて分けた一杯の水をもって、あのナメック星人が俺の行動を“正しいこと”と称したのなら、嬉しい。俺の行動基準は、どうやらそれほど間違ってはなさそうだ。俺はそれだけで充分返してもらった」

 

テレビの向こうのヒーローに憧れた。主人公を応援した。かっこいいと思う人がいた。

ご飯と、風呂と、布団を当たり前のように与えられて、いいやつになれと言われて育てられた。

こればかりは絶対に譲れないアイデンティティだ。だから、いい人間にはなれないにしても、いい人間が取っている行動を真似て生きていきたい。

サイヤ人至上主義者が持ってていい思考じゃないことは、重々承知の上で、だけど。

 

 

そうして、クリリンが生き返って、ナメック星人たちは去っていった。古い方のナメック星は結局もらった。話聞けよ。

にしてもフリーザとの戦いは大団円、でいいのかね。

ベジータとラディッツが若干ギクシャクしてるのを除けば、だけど。




次の投稿は二月二十日となります

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。