目の前の青年こと未来からやってきた孫悟飯を観察すると、かなり強くなっているのが分かる。片腕であるというハンデを踏まえても相当な強さと言っていいだろう。そして、着ている服は悟空を思わせる亀仙流の道着だ。ラディッツは初見こそ驚いたものの、すぐに未来悟飯に順応していた。
「俺は、約十五年後の未来から来た、孫悟飯です」
「そうらしいな。カカロットはこのことを……まだ知らんか」
「道具でも使ったか?落ち着いてるあたり事故ではなさそうだけど」
「そ、そこまで驚かないんですね……」
「俺の親父を考えればな」
「バーダックの孫だし」
あいつ単独事故で千年遡った挙句摩訶不思議アドベンチャーして神様なったトンデモ経歴下級サイヤ人だから……。
未来悟飯も自分の祖父の経歴を思い出したのか「……あー」と妙に気の抜けた納得をしていた。
「ただの観光ってことはないだろう。なにがあった?」
「そうですね……とても、たくさんのことがありました。ですが、話すのはマレビトさんとお父さんに」
「俺?」
悟空にだけ話したいってことなら分かるけど、俺もか。で、ラディッツやブルマやピッコロはダメな理由……なんだろ。
「でもまあ、理由はあるんだろ?」
「ならば俺は離れていよう。あいつらにも説明が必要だろうからな」
「下手に誤魔化すより、今は口止めされてるってハッキリ言った方がいいかも。悟飯の話は俺があとでまとめて教えるよ」
「そうか、頼んだ」
そう言って、ラディッツは一旦俺たちから外れてみんなの元へと飛んで行った。悟空が来るには、あとどれくらいだろう。ちょっと急かすか。
「じゃ、悟空呼ぶからな」
「そんなことができるんですか?」
「まあ俺雇用主だし、移動中の悟空と通信できるようにはしてる」
「そういえばこの時期のお父さん、出張でしたね」
「そゆこと」
カプセルからちょっと大きめの通信機器を取り出して、周波を合わせる。すぐに通信がつながって、悟空の呑気な声が聞こえてきた。
『あれ、マレビトか』
「そーです、マレビトです。悟空、客来てるから瞬間移動で帰ってこい」
『宇宙船置いてきていいんか?』
「いいよ。どうせ地球の荒野に着地するんだし、後で回収すればいい」
『わかった』
数秒後。
シュン、と唐突な気配がちょっと離れた場所に現れた。数ヶ月ぶりの孫悟空である。無事に帰って来れたのは良いとして、なんでそんなに離れてるんだろう。
悟空はキョロキョロ周囲を見渡してから、ようやくこっちに走ってきた。
「……マレビト、オラ気を感じれなかったんだけど」
「あー、この技のせいだな。今後俺の気を辿ってくるの無理だと思う。完全にシャットアウトしてるし」
「いいっ!?そりゃねえよー」
「誰の気を辿って帰ってきたんだ?」
「ベジータと兄ちゃん」
「あー」
どおりでそっち寄りに転移してきたわけだ。なんかすまん。何回か会ってるから心配はしてなかったけど元気そうでなによりである。
久々の再会を楽しんだあと、悟空の視線が背後に向いた。未来悟飯は緊張するのか、脱いでたフードを再び被ってしまったが、それで誤魔化されてくれるような悟空ではない。
下から覗き込むようにして接近したことで、未来悟飯が一歩後ずさった。
「……悟飯か?」
「こちら、未来からやってきた未来悟飯くん」
「えええええ!?……ま、そういうこともあっか!悟飯よく来たな!」
流石タイムスリップ経験者を父に持つ息子、こちらも順応早い。悟空にフードを取られて緊張を隠せない未来悟飯に悟空は割とテンション高めだ。
「おめえがフリーザを倒したんだろ?強くなったなあ!」
「いえ、俺は……とてもマレビトさんやお父さんのようには」
「俺とか悟空が増えてもそれはそれで困ると思うぞ」
落ち着け、と悟空を宥めるとようやくテンションも落ち着いたらしい。改めて並んでみると、なんというか……
「あ!!!」
「なにかありましたか!?」
「悟飯の方が微妙にでかい!」
「そこですか!?」
「マレビト、自分よりでっかい奴には文句言うからな〜」
「お前も抜かされてるだろ!ふわふわの頭で誤魔化してるだけじゃん!よし髪の毛潰したろ」
「うわあっ!」
ぴょんぴょん跳ねた悟空の髪の毛を押し潰せば大して本気でもない悲鳴が上がった。うん、やっぱり悟空の方が若干小さい。なんかちょっと満足。
「あの、聞かないんですか?俺のこの、腕とか」
「聞くもなにも、苦労してきたんだろ?それぐらい分かるし、どーせ何があったか色々話すんだろうし。じゃあその前に成長したこと素直に盛り上がってもバチは当たらないって」
「ああ。悟飯、おめえがこんなに大きく強くなって、オラすっげえ嬉しいぞ。よく頑張ったな」
わしゃわしゃと、俺がさっき悟空にしたようにちょっとだけ強い手つきで、未来悟飯の頭に悟空の大きな手が乗っかる。
瞬間、ぼたぼたと両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。思わずギョッとするが、それは悟空と、あと泣いた本人である未来悟飯も同様だったらしい。
「あ、あれ?」
「うええ!?マレビト、オラの悟飯泣かすなよ!」
「俺のせいか!?」
頑張って涙を拭う未来悟飯の頭を、悟空が抱きしめながら俺に文句を付けてくるのは悟空自身半分パニックになってるからだろうか。確かに未来の息子を褒めたら泣いたのはビビるだろうけどさあ。
どうしよ、と目線だけで聞いてくる悟空に、ちょっと落ち着いた。はあ、と一呼吸置いてから、改めて未来悟飯の無くなった片腕と、顔の大きな傷を見た。
「……泣かせとけば?俺のせいで泣いたってことでいいよ」
多分、何年かぶりの再会なんだろうし、性格的に溜め込んでる部分もあるのだろう。状況が変わらなくても、泣くことで感情が落ち着くこともあるしな。父親のせいで泣いたってのが嫌なら、俺のせいでいい。
それからしばらく、未来悟飯は悟空に抱きついていた。自分より大きくなった息子のその様子に思うところがあるのか、悟空もまた静かなものだ。
……ふつふつと、心がざわめき立つ。父親と再会している。たぶん、何かがあったんだろう。
うらやましい。ずるい。そんな感情が暴れ狂いそうになって必死に歯を食いしばる。幸い、二人はお互いのことで精一杯で、俺のことなんて見えていなかった。
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「……お見苦しいところを」
「落ち着いた?」
しばらく泣いて落ち着いたのか、未来悟飯は着ているマントのフードをちょっと深く被ってそう言った。今度は取らないでおこう。大人になったら相応の見栄とかあるしな。
「で、なんで悟飯はこっち来たんだ?」
「何もないわけないだろ?話しやすい順番でいいから教えてくれ」
「はい。まず、俺はエイジ779年から来た孫悟飯です。父親は孫悟空、母親はチチ、師匠はピッコロさんです」
「ん、俺らの知ってる孫悟飯だな。エイジ779ってことは……今22か」
「はい」
どうりで育っている筈である。悟空に換算するともう悟飯できてた年頃だしな。
「今の時代から約三年後、五月十二日の午前十時ごろ、南の都の南西九キロの地点の島に恐ろしい二人組の敵が現れます」
「!…………なにものだ、宇宙人か?」
「いえ、地球で生み出された人造人間です。作り上げたのは元レッドリボン軍の科学者、ドクター・ゲロ」
「レッドリボン軍!」
「これまた懐かしい名前だな」
しかしこれで、未来悟飯が俺たちだけに話をしようとした訳が理解できた。過去、レッドリボン軍に殴り込んだのは俺と悟空の二人だ、残党が狙ってこようってなら必然、狙いは俺たち二人だろう。
しかし、その人造人間……19号と20号は生みの親である科学者を殺害するほど残忍だったらしい。そのせいで、ラディッツやベジータをはじめとする戦士は全員殺されてしまったのだとか。未来悟飯は敵を倒す方法を知るべく、そして未来を変えるべく過去にやってきたらしい。
「……俺と悟空は?」
「お父さんは、心臓の病気で人造人間が誕生する前にこの世を去りました」
「えっ」
「えっ」
病死するの悟空の方なの?俺じゃないんだ。
「そしてマレビトさんは生き残ってはいますが、既に地球を去っています。地球に残った戦士は、実質俺一人になってしまいました」
「えっ」
「えっ」
なにがあった、未来の俺。