まれびとの旅   作:サブレ.

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第六十二話

なんとなく気が抜けた、というか虚をつかれたというか。

とにかく、予想外に何もなかった邂逅が終わったのでとりあえずティーカップを洗って食器かごの中に伏せて置いた。なんだったんだあれ。

情報伝えつつ生還するっていう目的は果たしたし、まあいい……のだろうか。

中途半端に残ったクッキーはもったいないしカメハウスに差し入れに持って行こう。本当なら土産として押し付けたかったんだけどいなくなったし。

 

「おーい、筋斗雲」

 

遥か上空で待機してた筋斗雲がひゅうっと飛んできた。悟空は筋斗雲は本当に平和な時に趣味で使う程度にとどまっているが、空を飛ぶ力すら可能な限り節約する俺にとってはいまだに現役だ。こういう非常事態でさえも。

とりあえず筋斗雲に乗っかって大きく背伸び。それから目的地を告げて、あとは任せる。

 

「セル……セルなあ」

 

前世ではいっとき、毎週日曜日にドラゴンボールを見ていたが、一番印象的なのがセル?編だったのだろう。覚えてるキャラクター一番多いし。

ただ、どうして印象的だったのだろうか。なにか、特別で心に残るシーンがあったのかな。

思い出せない。何もわからない。そもそも、俺はドラゴンボールのファンでもオタクでもない。たまたま、日曜日の午前中にアニメが放送されてたから見ていただけの話なのだから。

大体、ドラゴンボールファンなら、こちらに迷い込んだ時点で気付いている筈だ。バーダックなんて顔が悟空とそっくりなんだし。

それでも、俺は孫悟空に出会うまでドラゴンボールというフィクションそのものを忘れていた。俺のドラゴンボールの関心と知識なんてその程度だ。

人造人間のときはたまたま原作知識が活きたけど、これ以上は期待しない方が良いだろうな。

そんな感じで、カメハウスまでやって来た。

 

「ども、これ中途半端なあまりだけど」

「マレビト、無事だったか!」

「よくわかんないけど生きてる。あ、これ開封済みで悪いけどクッキー。あとなんか進展あった?」

 

亀仙人にクッキーの箱を渡しつつ、大雑把に状況を説明するとピッコロやヤムチャが大袈裟に顔を顰めた。それと正反対に、亀仙人は何か納得するように頷いた。気になるけど、今はとりあえず置いとこう。まずピッコロの話を聞かないと。

 

「ラディッツが神殿でポポに精神と時の部屋の使用許可を求めに行った」

「精神と時の部屋?」

「一日で一年が経過する部屋だ。今は使えないようにポポが管理しているからな」

「なんでまたそんなに厳重管理を」

「『サイヤ人、いつまでも精神と時の部屋に入りたがる。だめ』らしい」

「サイヤ人の習性をよく理解してらっしゃる」

 

まあ流石に譲歩というか、落とし所は出してくれるだろう。状況が状況だし。

俺は、邂逅の時に積極的に狙われない的な意味の話をされたとはいえ、割とガッツリ煽ったので念のためセルには接触を控える、そして時期を見て精神と時の部屋に入る、で良いだろう。

しんどいだろうけど俺だって修業したい。これで最後の修業になるかもしれないんだし精神と時の部屋入りたい。

 

「引き続き、17号18号が不必要にセルと接触しなくていいように、俺はセルとの戦闘を避けるからよろしく頼む。精神と時の部屋の目処立ったら教えて」

「……ああ」

「歯切れ悪いな、なんかあった?」

「いや、マレビト。お前は……」

 

そこまで言って、ピッコロは首を横に振った。言いたければ言えば、とは言えない。言葉にする事で目を逸らしていた事柄を直視する羽目になったりするし、それって結構キツイよね。

 

「マレビト、お前さんにとってそのコートはなんじゃ」

「なんでいきなり」

「なに、未来から来た悟飯が、黒いマントを『マレビトさんの真似』と言っておったものでな。ジジイの興味じゃよ」

「うん?まあ、虚勢と見栄と強がりだけど」

 

ほんの少しでも立っていられる時間が増えるように。立っているだけで精一杯な自分がバレないように。

少なくとも、セルも人造人間も“ラスボス”ではない以上、ここで力尽きるのはダメな気がするから。

 

「大丈夫なのか?」

「頑張って大丈夫にしてるのが今。そんなことより今は人造人間とセルを考えろ。俺も逃げ隠れしつつゆっくり休むからさ」

 

じゃあな、と手を振って筋斗雲に乗り込む。家にはあまり帰らない方がいいかもしれない。どこに隠れようかなあ、悟空の昔の家に掃除に行ってもいいかもしれない。

 

+++++

 

……あー、セルのところに行きたいぶん殴りたい叩き斬りたい、けど人造人間の狙いを俺優先に移した?から我慢がまん。完全体に進化されるのがいちばん怖いから。

そして、精神と時の部屋の使用目処が立った。具体的には、一人二日まで!っていう制限付きで解放された。そんなに厳密にしなくても、不老不死のバーダックとかじゃないとあっという間に老けるから入り浸ったりしないよ。多分。

……ここで多分って付くから、ポポも信用しないんだろうなあ。

 

「で、どんな順番で入るの?」

『まずはベジータが入ると言っていた。そして悟空と悟飯、ラディッツと未来悟飯、俺とお前だ』

「あ、俺は一人で入るから」

『何?』

「たぶん、というかほぼ確実に集中を削ぐことになるから」

 

ちょっと精神と時の部屋の活用方法を考えたんだけど、そしたらまあ確実に一緒に入ってる人の邪魔になる。なら一人でいい。

 

「死にはしないから」

『本当だな』

「うん」

 

通信機を切って改めて一人になる。暇ださびしい。くそー昔は一人が当たり前だったのに。慣れって怖いなあ、でも俺、死んだらまた一人ぼっちになるんだよなあ。やだなー、天国にも地獄にも行けず生まれ変わりもできず魂のままどっかその辺に放置だろ?今からこえーわ。

よし、頑張って死なないようにしなければ。

筋斗雲と戯れて暇を潰しつつ、気を吸収してお昼寝。セルの気も吸収しようか悩んだけど、あそこまで強いと吸収するスピードが人間捕食して補充するスピードに勝てない。

つまりイタズラに犠牲者を増やすだけで終わりそう。このやろ。

 

「そもそもなあ、完全体に進化する前に倒し切った後にドラゴンボール使えば一発解決だよなあ。がんばれみんな」

 

そんな感じで隠れ住みながら何日か経った。ラジオで状況を把握しつつ、悟空が復活したこととか、色々と聞く。悟空も復活した。よしよし、とりあえず完全体になるのと悟空が死ぬのは防げそうかな。

と、思ってたら。

 

「……おあ、セルと人造人間が戦ってないかコレ」

 

やべえ、慌てて気の位置から場所を割り出して瞬間移動する。そこではピッコロ、セル、人造人間の三人が揃い踏みしていた。

 

「うーん、まずいなこれ」

「まずいだと?俺が負けると思っているのか」

「試合と勝負の勝ちは別だよ。逃げ隠れする奴に完全勝利はとても難しい。少なくとも17号の性格にセルは相性悪い」

 

独断と偏見だけど間違いではない筈だ。目の前の勝利に拘泥しては足元を掬われる。自分の弱さを自覚した奴は案外めんどくさい。逃げ隠れの一手とか、特に。

自己評価というか、自分でやってきたから言えることではあるけどさ。

 

「さて人造人間、俺とセル、倒したいのどっち」

「あのみにくい妖怪野郎だ!」

「だめか」

 

これで打ってきた手が頓挫した。仕方ない。

剣を抜いて構える。これで逃げてくれたら御の字だったのだが、こうなったらここで倒すしかないだろう。

まあ、すげー強化されてて勝てる気がしないのだが、今はすでにベジータが精神と時の部屋に入っている。合流も時間の問題だ。

つまり、お得意の時間稼ぎという奴だ。得意分野である。

さて俺とセル、どっちの性格の方がセコいかな?


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