まれびとの旅   作:サブレ.

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第六十六話

だいぶ長らく神殿で過ごしていたせいでテレビとかラジオに触れてなかったから気づいてなかったけど、Mr.サタンという格闘家も参加予定だったらしい。気はめっちゃ小さい、一般人よりまあまあ多いくらい?戦士ではないな。もしかしたら俺みたいに、気を常に消している可能性も……。

いや、弱いわ。フツーに弱い。

 

「なあクリリン。あのMr.サタンって」

「ああ、格闘チャンピオンらしいですよ?街全体がサタン一色になってて」

「えっ」

 

それってつまり、民衆の不安による暴動とかパニックを抑え込んだってことじゃないか?一応昔、アニメやら漫画やら使ってピッコロ大魔王に関するプロパガンダ仕掛けたことあるけど、それを素でやったってこと?

しかもテレビ局まで引き連れてるってことは、こっちがセルをなんとかしたら即座に地球全体に情報行き渡らせる準備ができてるってことだし。しかも、自分で前線まで出てきてる訳で……

 

 

「………………すげーかっこいい」

 

 

なんか、周囲のみんなが一斉に俺を向いた。

 

「は!?」

「マレビト!!!戻ってこいマレビト!!!」

「錯乱したのか!?」

「マレビトさん!落ち着いて!」

「…………あー」

 

なんか誰もが俺を正気に戻そうとしてくる中、未来悟飯だけはそっと目線をそらした。お前未来で一体何があったというのだオイこら。

 

「俺だってサタンをかっこいいって思うとは思ってなかったよ!けど思ったんだから仕方ないじゃん!!!」

「お前はアイツがセルを超える戦士だと思っているのか!?」

「戦闘力的には負けてると思う!総合的にはサタンの方がすごい!サイン欲しい!」

「あちゃー」

 

だめだこりゃ、と言わんばかりに悟空が頭に手を当ててサジを投げるジェスチャーをした。セルはなんかつまんなさそうだし、他のみんなも呆れ返ってるし。

悪かったな。

 

「……終わったか?」

「ハイ、セルが暇してるんでこの話終わり!」

 

柏手一つ打つと、渋々といったように俺の話題が収束した。気弾の一つや二つ撃たれても文句言えなかったような気がする。

そんなサタンは早速セルゲームに挑んでさくっと吹っ飛ばされて場外負けした。ここはまあ当たり前であるので、筋斗雲で受け止められないかなって思い崖に待機してもらった。

するっと通り抜けた。ダメだったか。

 

「あらー」

「お前、サタンのことが好きなんじゃなかったか?」

「うん、だからいけるかなーって試した。ダメだった」

 

なんか周囲の呆れた視線が増えた気がする。

気を取り直して、ようやく本命その一、孫悟空がセルと対峙することとなった。本人はむりだろうなって言ってたけど、こうして並んでるところを見ると何となく言いたいことが分かった。

 

「……ねえ、悟空ってセルゲーム前に直接セルに会ったりした?」

「はい、一度だけ」

「なるほど」

 

今の段階でセルの方が悟空より強い。上にあいつ、何しだすかわからん。だってあいつ勝てれば試合形式とかどうでもいいタイプだし。

戦闘途中で、セルがわざわざ作り上げた武闘台を完全に破壊してしまった。コレでフィールドは地球全体とか言い出して確信する。

こいつマジで何しでかすかわからん。そう、悟空との戦いを見上げながら思う。

 

「コレが天下一武闘会だったら悟空勝ってたのにな」

「え?」

「場外戦法取れるもん。それこそさっきの初手瞬間移動かめはめ波で上半身吹っ飛ばして再生のタイムラグ使って動かない下半身を場外に投げれば悟空の勝ち。セルは再生できるので殺したらダメよルールにも抵触しません」

「……なるほど?」

「が、今回はセルゲームであってセルが納得しなかったら屁理屈捏ねて試合続行するし、何なら気分害して虐殺に走るかもしれないのがな」

 

実際つまんないという理由オンリーで武闘台ぶっ壊したわけだ。自分勝手なルール制定するのはまだしも、それすら守らんってどうなんだろう。

 

「まいった!降参だ!」

「!?」

 

あ、悟空がついに降参した。

どうするんだ、という雰囲気と何となく俺に向けられる期待。そして覚悟を決めたような現代の方の悟飯。

悟空が、次の試合相手に悟飯を指名した。動揺する周囲をよそに、俺は戻ってきた悟空を出迎えるために一歩踏み出す。

 

「おつかれー」

「ああ。次は悟飯……この時代の悟飯に任せてえんだ。マレビト、どう思う」

「妥当な人選だと思うな」

「何を言っている!?お前たちは悟飯を殺す気か!?」

「ピッコロ忘れたか。奇策持ってるって言ったじゃん。悟飯のことは、ちゃんとフォローするから」

「大丈夫ですよピッコロさん。孫悟飯はそんなにヤワじゃありません。なっ、俺」

「はい!」

「ほら、本人もこう言ってる訳だし」

 

未来悟飯のお墨付きにピッコロが黙った。純粋な“戦闘”に関してはそれこそ本当に心配はいらない。俺たちが本当にフォローすべきは、それ以外だ。

 

「やれ悟飯!平和な世の中を取り返してやるんだ。学者さんになりたいんだろ?」

「はい、がんばります!」

 

重たいターバンを脱ぎ捨てて、悟飯がセルの前に降り立つ。俺は悟空の戦闘を見ていたときの余裕という名前の心の余白を追い出した。

タイミングがあるはずだ。俺が新技を披露するのに、いちばん都合のいいタイミングが。

どうせこの先短い命だ、死に方もうまく使ってやれ。

 

「おいマレビト。悟空が仙豆をセルに渡しているがお前はいいのか」

「うん」

 

その程度で悟飯には勝てんだろ。

いつでも動き出せるように構えた体勢で、しかしセルに目をつけられないよう最低限の呼吸以外の動作を止める。

そうして、戦いが始まった。セルは嬉々として一方的に攻撃を仕掛けるが、悟飯の気が全然減らない。やはり強い。そして、乗り気じゃない。

なんとなく、わかる。

 

「そうだよな」

 

できるなら、戦わずに生きていたい。

地球の命運だとか宇宙の大王だとか、そんなそんなものを相手にしないで。

家族を大事にして、当たり前に勉強して、将来の夢が叶うかもしれないし叶わないかもしれないけど。

ぬくぬくと、甘ったるい世界で。

……俺だってほんとうは、それが、いちばんいいよ。

 

「そこの男は、オレを倒す奇策があると言っていたな」

「……あ?あー、言ったね」

「ふむ、ならばその奇策を貴様ごと叩き潰してみせよう」

「うげ」

「!待て!」

 

あぶねえ!ボーッとしててタイミング見逃すところだった!

集中力を極限まで高めて、時間流を感覚で捉える。あとはいつでも剣を抜けるように。奪われた仙豆は……燃やされてはいないな。なら後で奪い返せばヨシ。

すう、と見えないように深呼吸。

セルの背中から小型の完全体セル、セルジュニアたちが合計で十体も生まれて……やっぱり一対一のルール守るつもりねえなお前ー!!!

 

「気をつけろ!恐ろしく強いぞこいつら!」

「落ち着け全員」

 

さて、このタイミングを待っていた。

悟飯と戦闘しつつ俺が乱入しても文句がつけられない……“セルが自ら一対一を放棄する”、この瞬間を。

予測って案外当たるものだな。

背中の剣に手をかける。さて、釣りは未経験だが上手くいくといいんだが。

死ぬ前に、悟空に釣りのコツ教えて貰えばよかったかなあ。

ま、今更だけど。

さて、デカい餌だぞ食いつけセル!

 

「clock up!」

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