ウーロンの隠し持ってたカプセルのキャンピングカーで爆睡すること数時間。うん、やっぱ質のいい睡眠って大事だな。布団で寝るって大事にすべき幸せなことだよ。
「おはよう」
「にいちゃんおはよう」
ご飯を食べてさあ出発。ブルマのバニーガールは……あきらめた。人間諦め大切。ツッコんでたらキリがない。車が大きいのでソファで横になった。たまにはこういうのも良いな。車に揺られてうつらうつらしてたら、なんか昨日感じた気配が近付いてきた。ブルマのテンション上がってるしなんとなく様子見してたら、爆撃された。振動でソファから落とされる。床と頭が激突してゴン!とわりと派手な音が鳴った。
あ、これ様子見したらダメだったやつか?でも殺意見えなかったしなあ。
「結構手荒だな、と。おーいブルマー。大丈夫かー」
目を回してるブルマを横たえる。軽い脳震盪だから、安静にしてればいいだろう。あの反応を見ると、昨日襲ってきたヤムチャという男らしい。初手で殺しに来ないあたりめちゃめちゃ有情だなヤムチャ。ちょっと好感度上がった。
「やいやいやいっ!なにすんだよっ!」
「おい貴様ら、おとなしくドラゴンボールをおれによこせ!いうことをきかんとまた痛い目にあうぞ!」
殺す、じゃなくて、痛い目にあわす、だと……!?
ますます好感度が上がった。いやー、地球って平和な星だなあ。前世の出身者としてなんか鼻が高い。それはそれとして悟空、ぶちのめしてやれ。
「よしいけ悟空!」
「おうっ!」
突っ込んでいった悟空とヤムチャの戦いはまあ悟空が優勢で……なんで前歯折れたくらいで撤退するんだ。やる気が足りんやる気が。
「ん、悟空おつかれさん」
「にいちゃん、オラやったぞ!」
ブイサインを決める悟空に、俺も親指を立てて返した。車は壊れたがそれ以外の被害はない。怪我がないなら、まあいっか。ブルマには素直に怒られよう。
「ブルマの怪我もひどくないし。進めるうちに進んどくか。太陽が高くなったら厳しいからな」
「筋斗雲呼ぶか?」
「そうだな、それも視野に──おっと」
近寄ってくる音と気配に視線を向けると、さっきのヤムチャがいた。何しにきた?相変わらず殺意は見えない。
「いやー君たちさっきはごめんねー!」
「……うさんくさっ」
「ギクッ!そ、そんなことないよー!ボクたちはお詫びに良いものを持ってきたんだ!」
ギクッ!てしたな今。ただまあ、車をもらえるなら貰っといて損はない。ブルマ背負って長距離移動とか大変だし、ショートカットは大切だ。瞬間移動?最後の手段。
「なんか話がうますぎる気がせんか……?」
「奇遇だな、俺もだ」
「じゃあなんでお前は乗っかったんだよ!」
「炎天下歩くのとどっちがいい?」
「…………」
そんなこんなで車をゲット。さあフライパン山へ急ごうか。
+++++
約二日経過。うん、車を貰っといてよかった。
ウーロン曰く、フライパン山は昔は涼景山という過ごしやすい場所だったが、十年前に火の精が落ちてきたことで燃え盛る山へと変化したらしい。
たしかにめっちゃ燃えてんな。
麓まで近づいたら、人骨があちらこちらにある。あらまー。燃えて死んだのか殺されて死んだのか。燃え盛る炎の中には城が一つ佇んでいて……うまくやれば観光資源になりそう。
「ブルマ、レーダー反応どうなってるか」
「ちょうどあのお城の中を指してるわ」
「……その格好、熱くねえの?」
「いまさらかっ!」
「にいちゃん!オラちょっと筋斗雲で見てくる!」
「いや悟空じゃ熱いだろ、俺が行くから……って、行っちゃった」
筋斗雲でひとっ飛びしてしまった悟空を見送ってから、そっと背後に忍び寄っていた気配を伺う。ただの素人ではないな。少なくとも何か技術をかじってる。
ギリギリまで気づかないふりをして、後ろの気配が動いた瞬間、振り向く。降ってきた大きな斧を片手で受け止めた。
間違いない。こいつがウワサの牛魔王だ。
「怪しいのは重々承知の上で言うが、一声すら掛けずに襲い掛かるのはどうかと思うぞ」
「……おめえたず、こっだらどこでなにすてるだ?」
訛りすげえ。ブルマとウーロンは完全に萎縮してしまっている。無理もない。ただなーんか、話通じる気がするんだよな。
「おーい、だめだー!熱くて中入れねえよーっ!」
「バッバカ!」
「悟空、ちょっと降りてきてくれるか?」
牛魔王の意識、というか興味が筋斗雲に向いた。すうっと降りてくる金色の雲に、それに乗っている子供。何かを思い起こしているらしい。
「あら?誰だ?おっちゃん」
「あの城の持ち主の牛魔王だよ」
「アンタたち!クチを慎みなさいよ!」
「も、もうダメだ殺されるー!」
パニックになってるブルマとウーロンは置いておいて。牛魔王はというと、どこか興奮した様子だ。
「こぞうっ!それはひょっとすて筋斗雲ではねえだべかっ!?いえっ!誰にもらっただっ!」
「亀仙人のじいちゃんに、にいちゃんと一緒にもらった」
「亀仙人っ!?む、武天老師さまだっ!」
「あの爺さん、武天老師って名前もあるのか」
そういや聞いたことあるな、ウワサ程度で。めちゃめちゃ偉大で強い武術の達人って。本人が色々とあれなエロジジイだったから全然結びつかなかったのは仕方ない。うん。
牛魔王が亀仙人の弟子だと判明した。ついでに悟空のじいちゃんの孫悟飯が兄弟弟子だと判明した。そんな感じの縁で、芭蕉扇を借りに行くことでドラゴンボールを譲り受けることが決定した。いやあ、人の縁ってどう繋がるかわかんないもんだなあ。
「じゃ、オラ行ってくる!」
道中で牛魔王の娘のチチを回収して、そのまま亀仙人の元へ。俺はお留守番。男二人で乗り込むより悟空一人の方がチチも必要以上に緊張しないで済むだろうし。
「……それはそれとして心配だ」
「何がだよ?」
「パンパン」
「「あ〜……」」
しばらく後。到着するや否や目を回してゲーゲー吐いた亀仙人が落ち着いた頃。
改めてゴーゴー燃え盛る山を見上げた。上着を脱いだ亀仙人はガリガリで、まさしく老人の身体という感じがする。手伝ってもらってなんとか塀の上に立ったあたりで、亀仙人が気合を入れた。
途端、筋肉が膨れ上がる。気が膨れ上がったのを感じた。
「でるだっ!!武天老師さまのかめはめ波っ!」
「かめはめ波ァ!?」
待て。めっちゃ聞き覚えのある技名なんだが。記憶を辿る。孫悟空の代表技だ。たしかに亀仙人も撃っていた、気がする。俺の困惑を他所に亀仙人は気を溜め始めた。
「か……め……は……め……」
瞬間、脳裏に思い出が浮かび上がった。いっそ残酷なほど鮮明に。
『かーめーはーめー……はーーー!!!』
まだずっと小さかった頃。いつかかめはめ波が出せるのだと本気で信じていた前世の愚かで幼稚な自分。筋斗雲もCCもサイヤ人もいない、矮小で平凡で美しいいつかの光景。
「波!!!」
エネルギー波は真っ直ぐに城めがけて飛んで、建物ごと炎を吹き飛ばした。やりすぎだ、と思うより早く、笑いが込み上げてきた。
これに、憧れていた時代があった。なにを不安に思うことなく、目の前のカッコいい技に目を輝かせていた、そんな昔が。
ちょうど、今の悟空みたいに。
「すげえ技だな!じいちゃんオラにも教えてくれよ!」
「ふぉっふぉっふぉ、それは無理じゃよ。かめはめ波を会得するには五十年は修行せんとの……」
それをすっ飛ばすのがサイヤ人とかいうバグ種族なんだよなあ。こと戦闘において、サイヤ人の進化はなにより早い。だからこそ、色々な種族を差し置いて『戦闘種族』なんて名前がついたんだし。
「むむ〜……」
「お、がんばれ」
「う〜……はっ!」
「出た!」
かめはめ波の構えをとった悟空の手から、エネルギー弾が飛び出て目の前の車に直撃した。威力はまだまだ、でも最初の一歩が踏み出せた感動に打ち震えた。
お馴染みの言葉こそ出てなかったけど、そっか。これが、悟空の最初のかめはめ波か。
「悟空!すごいじゃん!」
「えへへ。にいちゃんはやらねえのか?」
「俺はさあ、昔いっぱい練習したんだけど……さっぱりできなかった!」
悟空の真似をしてたんだぞ、とは言わないけど。それでもかつての憧れが目の前で起こってテンションが上がる。
悟空のかめはめ波に可能性を感じたのは亀仙人のようで、一人喜んでいる俺を通り越して悟空に声をかけた。
「これ、こぞう。悟飯のじじいは元気か?」
「じいちゃんとっくに死んじゃったよ」
「なんと!むむ〜そうか、惜しい男を亡くしたのう……どうじゃ、わしの家にこんか?修行しだいではおまえ、このわしを抜けるかもしれんぞ?」
かも、じゃなくて抜くよ。絶対に。悟空どうこう関係なく、サイヤ人の進化は早いんだからな。今の時点で亀仙人の方が強いのは否定しないけど。
「あったー!七星球みっけ!やったー!」
「お、見つかったか」
これで六個だから、後一個か。だいぶ終わりが見えてきたな。牛魔王から古い型の車を譲り受けたことで、移動にも目処がついた。あと少しで旅が終わる。せめて最後のひとつまで、楽しい旅だといいな。
あとこれは余談だが。
亀仙人のエロジジイ度がめちゃめちゃ高かった。
それでいいのか武天老師。