まれびとの旅   作:サブレ.

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第七十二話

スポポビッチとビーデルの戦いでビーデルが一方的になぶられるという後味の悪い試合ののち、悟飯とキビトの試合では二人が乱入したあと悟飯から生命エネルギーを吸い取っていなくなってしまった。

せっかくの天下一武闘会なのに何も楽しくねえ。何となく不機嫌になったからか、ハチマキで締め付けられるような頭痛までしてきた。

電話とメールで元主催者の影響使って予定変更に関する相談に乗りつつ、サタンのバトルロワイヤル方式が採用されたと聞いて一安心。観客の盛り上がり自体は守れたようだ。時間も大幅短縮。これで極端な集まり自体を解散できるまで時間を稼げれば被害も減りそうか?

 

「チビ二人はどうした?」

「今のところは会場にいるようだ。探検と称してあちこち行っているが」

「んー……」

 

決勝トーナメントは四人。サタン、18号、他ふたり。18号ならいい感じに場を納めてくれるだろうしここは心配しなくていい。あとはチビ二人がどう動くか……あいつら結構自由だからな……。

いっそ放置するか?いや、それより。

 

「マレビト、例の者の敵船を見つけたらしい。孫悟空たちが指示を仰いでいるが」

「現場判断と言っといて」

「いいのか?」

「リアルタイムで状況わからんのに指示出しも何もあるか。界王神サマに従った方がよっぽどいい」

 

俺、超能力者でも魔術師でもなんでもねーから。原作知識すら曖昧なのに遠くからハイこれなんて言えねーわ。

ちなみに、俺は界王様からしかテレパシー受け取ったことないけど、これは俺へのテレパシーはめっちゃコツがあって難しいらしい。セルの時も通信機わざわざ使ったほどだ。マレビトであるコトが理由なのか何なのか。

どうでもいいか。

 

「チビ二人回収頼んでいいか?状況だけ説明しといてくれ。どう動くかは監督するもしないも任せる」

「どうするつもりだ?」

「どうもこうもしないから。じっとしてる」

「そうか」

 

それを確認してから、16号はいなくなった。あの二人、順当にやんちゃ坊主に育ってるから捕まえるの大変だろうな。でもまあ、16号って静かな迫力あるから、多少時間かかっても二人揃って捕獲するだろうという確信はある。

あとできることといったら……特にないか?ドラゴンボールは確保済みだし。

あとは、これか。

 

「…………俺に何か用か」

 

背後から、嫌な気がこちらに向いている。最後列取っといて良かった、観客を巻き込まずに済む。

ため息をつきつつ、車輪を動かして半回転。やたらムキムキになった……予選出場者だろうか?本戦メンバーにはいなかったはず。男がふたりか。額のMの字や、血走った目が異常を思わせる。

そいつらと向かい合った瞬間、ズキン、と頭がさらに痛くなった。

 

「お前をバビディ様の元へ連れて行く」

「えっやだけど」

 

何の用か知らんが、明らかにお前らの方が怪しい。

そう思ってさくっと断る。16号がいなくなるのを見計らって現れた?洗脳した?あたり、バビディって奴もロクなもんじゃないのは明らかだ。

……まさかライナスの毛布的な意味合いで持ってきてた剣が役に立つとは思わなかった。

車椅子に座ったまま、目の前の男が近づいてくるのを待ち構える。深呼吸して意識を整え、頭の中に位置情報を展開。

手が伸びてきて肩を強引に掴まれる。その瞬間、あらかじめ設定していた座標に瞬間移動した。

視界が切り替わり、一瞬目眩がするが、相手の隙をついた形のおかげで反撃されることはなかった。よし、運がいい。そのまま腕を掴んで強引に投げ飛ばし、距離を取る。

 

「……若干ずれたか」

 

悟空達が向かった場所と会場の完全な中間地点を狙ったのだが、上手くいかなかったようだ。いくらかバビディがいると思わしき座標に近い。うーん、不調。七年前から常にだけど、ここまで酷いとは。

背中から剣を抜いて構えた。

ガンガンと、外側からノックされるように頭が痛い。無理に瞬間移動したからか?

 

「ほんで、バビディ様とやらは俺に何のようだ」

「お前に教えることはない」

「知らんのか」

 

捨て駒か。どう対処したもんか。俺を狙ってきただけで別に害とか及ぼしてないんだよな。

震える足を無理やり止めて、ウィザードマントを発動。僅かな気の取りこぼしも抑える。

頭が割れるような錯覚に、思わず目を細めた。

 

「くひひ……!」

 

飛びかかってくる二人組を避けるように、一旦空を飛ぶ。もちろん追撃してくるが、俺の方が早く地面から離れたことで二人のルートはほぼ一本に絞られた。

 

「clock up」

 

そのまま加速の世界へ。相対的にゆっくりと動く二人の脇腹に峰打ちを叩き込む。そして即座にクロックアップを解除すると、あっという間に地面に激突する音が聞こえた。バクバクとうるさい心臓を落ち着けつつ、敵が起き上がってこないのを確認する。

 

「はっ、はあ、はー……」

 

キッツい。肩で息をしてるし、長引かせないためにクロックアップ使ったの失敗だったかもしれない。肉体の限界超えて動き出す可能性を考慮して地面には降りず、空中に留まる。

とりあえず筋斗雲を呼び寄せて、休んで、それから……

 

『や〜〜〜っと捕まえたよ』

「…………!?」

 

なんだこれ。てか誰だお前。

 

『うーん。なかなか終わらないなあ。結構時間たってるのに』

 

は?

頭痛の原因お前か?

もう空飛んでるどころか、体起こしてるのもしんどいんだけど。

さっさとやめろ。

 

『そうはいかないよ。稀人ってのがどんなものなのかずーっと気になってたんだ。ボクもパパみたいに、つよーい魔人を作ってみたくってさ』

 

人を融合素材扱いしてるんじゃねえ!!!

頭が割れそうな痛みに、思わず手で頭を押さえる。頭の中で反論するのも、そろそろ限界になってきた。歯をグッと食いしばって耐える。

 

『善人だって聞いてたけど、覗いてみれば、なかなか邪心があるじゃないか』

「……だ、ろう、なァ」

『それ!』

 

瞬間、体から力が抜けた、かと思えば、数秒後に地面に肉体が叩きつけられていた。頭痛はさっぱり消え去っていて、全身がだるくって、ぼけーっと空を眺めている。

……あれ。

…………なんで俺、空なんて飛べてたんだ?

 

『ひっひっひ!やったよ!稀人がボクのものになった!』

「マレビト!」

「!?」

 

頭の中がうるさい。と同時に、近くの声もうるさい。しかもなんか聞いたことあるし。

なんとか身体を起こす。空には金色の雲が飛んでいる。隣には知らない男が倒れている。目の前にはオレンジ色の道着を着た男が驚いたように立っていて……

 

「…………そんごくう」

 

待て、待って。

なんで、アニメキャラクターがここにいるんだ?

あまりに造形がリアルだ。ぴょんぴょんと跳ねた髪も、声も、服も、鍛え上げられた肉体も。

……素人の俺でもわかる、人を簡単に殺せてしまうほどの力も。

 

「マレビト、おめえも洗脳されたんか?」

「ひっ!?」

 

上擦った悲鳴をあげて、一歩後ずさる。立ち上がって逃げ出すには、体が重すぎた。一歩を踏み出そうとすれば、目眩がして足が震える。

さっきまで、どうやって動いてたのか想像もつけられない。それでどうやって、目の前の奴から逃げればいい?

脳内の思考を必死に回す。紛れもない恐怖をなんとか押さえつける。

そんごくうは、無様な俺をみて、すごく困ったような顔をしていて、

 

 

「……にいちゃん?」

 

 

瞬間、何かが切れた。

弟の声がフラッシュバックする。日曜日の午前中、テレビの前で四人揃っていて、家族揃って画面の向こうを見つめていた──

思わず近くにあった何かを掴む。それが剣だと気付かぬまま握りしめる。

違う、その声じゃない。俺はそんな声で呼ばれたことなんてない。呼ばれるはずがない。

テレビの向こう側だった、お前が、俺を認識するな、近寄るな、話しかけるな。

違う、迷い込んだのはこちらの方だ。おかしいのは俺だ。異物なのは自分だ。

だから……そんな呼ばれ方なんて、されていい筈がない!

思考がパンクする。向こう見ずな怒りと恐怖のまま、八つ当たりそのものの感情で、混乱のままに叫びながら手にしたものを投げつけて。

気づいたときには叫んでいた。

 

 

「〜〜〜うるっさい!!!黙れ!!!」

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