ぼて、と地面に叩きつけられたので目が覚めて……気絶してたな俺。体はまだ小さいままだが、何がどうして外に出されたんだろう。つーか忘れ去られてなかったことに驚きだよ。
思考は動かせるけど体は動かない。脱力していたら、ブウが指先で俺の頭を突いてきた。
「やめろ」
「おっ、生きてる」
「かってにころすな」
死にかけなのは認めるけど。
ブウがころんと俺を仰向けにした。硬い地面……テーブルか。ここ。
ん?建物の中?
重たい瞼を開けると、そこには魔人ブウともう一人、サタンがなぜかいた。
いやなんでだ。
「ブウさん、面白いものって、まさか、これ」
「そうだ。稀人だ。人質にしてる」
「ひとじちのいみ、まちがってるけどな」
「ひ、人質は悪いことですよ。人間で遊んじゃあ……」
「なんだ、しらないのか。こいつは稀人で、人間のかたちをしてるけど、人間じゃないんだ」
「まれびと?」
「そうだぞ。稀人はよその世界から来たんだ」
「ええ!?……ま、マレビトさん、そうなんですか?」
「あーまあ、うん」
神様のルール的に、魂が治外法権なもので、厳密には人間カテゴリに含まれないからな。その辺の括りで例えるなら、そこらの塵芥とか石ころの方が近いかもしれない。宇宙のルールが適用されないって意味なら。
つーか、いつの間に仲良くなったんだこの二人は。
そんなことをぼーっと考えながら、なんとか気を吸収してエネルギーを貯める。とりあえず、自力で体を起こしてもいいレベルまで……
「じゃ、じゃあ!元の場所に帰しましょうよ、ね!」
息が止まった。
「返す?」
「そっ、そうですよ!ほら、マレビトさんも困ってるでしょうし、」
「そうか。こまってるのか。じゃあおまえ、どこからきたんだ。返してやるぞ」
言葉が出ない。
「なんだ、しゃべらないぞ、こいつ」
「ああっ!ブウさん、あまりつついちゃだめですよ。弱ってるんですから」
重たい腕をなんとか持ち上げて、片腕で顔を覆う。それに気づいたブウが胴体を掴んで無理やり体を起こした。掴み方が悪かったのか硬質な音がなる。骨のどっか痛めたんだろう。
でも、そんなことより、言ってやりたいことがあった。もう片方の手でブウのピンク色の腕を掴む。
「…………おそいよ」
なんで今更、そんなことを言ってくれるんだよ。
両目からボロボロと涙がこぼれ落ちる。何度目かの号泣に、必死になって涙を拭う。
そうだ、帰りたかった。帰れないのだとしても、その言葉が欲しかった。
「なんで、もっと、はやくにさあ……」
……ああ。やっぱり俺はサイヤ人にはなれない。ドラゴンボールという世界の人間じゃない。
千年も前の故郷に縋って。割り切ったつもりで引きずって。
「とっくの、むかしに、あきらめて」
差し出された指を掴んだ。何万人と殺してきた、俺をあっさりと殺せる指に縋った。ブウが驚いてるけど、それを気にしている余裕はなくって。
力が抜けるように床に突っ伏して、顔を覆う。押し殺そうとした声が、腹の底から溢れ出た。
「う、あ……うわあああああ!!!!!」
感情が決壊して、泣き叫んだ。
そうだ。帰りたかった。家族にまた会いたかった。
異物なのは分かってる。俺の存在に困っていたのも理解している。それでも。
この世界に来たくて来たんじゃないって、帰りたいって、怖くて寂しくて不安で辛くて痛くて悲しかったって、わかってほしかった!!!
「う、ひくっ、ひぐ……」
散々泣き叫んで、そんな体力も突きかけて、なんとか呼吸を整えようとする。ふわりとハンカチが被せられて、それで必死に顔を拭って落ち着く。
「おまえ、なんで泣いたんだ?」
「……うれしかったから」
「嬉しかったら泣くのか」
「そうだよ。なあサタン、ブウ、ありがとう」
「?なにもしてないぞ?」
「……お前にとってはそうかもな」
泣いた。だから少しだけ感情が整理できた。
けほ、と何度か咳き込む。全力で泣いたせいで疲労がすごい。
「俺が来たのは、地球だよ」
「ここからきたのか?」
「俺の世界にも、地球って名前の星はあったんだよ」
「うーん、それじゃ、返せないな」
「そりゃそうだ」
帰れないから、稀人という存在なんだ。
一千年で嫌と言うほど思い知った。諦めたし受け入れてきた。
……今更、なんだ。本当に。
「……あとさあ、ブウ。おまえ人質の使い方なってねえから」
「えっ、そうなのか」
「普通は使い道が山のようにある切り札だ。忘れ去ってどうすんだよ。うっかり干からびててもおかしくなかったぞ勿体無い」
捕まっているのは俺の失態とはいえ、使い潰されるのはまだしも、忘れ去られるのは順当に腹が立つ。
指摘して、自分のペースもやや元に戻ったのを感じた。
「なあサタン、稀人も人にした方がいいのか?」
「え?ええ、そうですよ」
「そっか。じゃあお前で遊ばない。人質もやめる」
「おーそうか」
そう言ったブウのビームを浴びて元の大きさに戻る。びたん!と音を立てて床に沈んだ。つ、疲れた……太陽浴びたい……その前に寝たい……。
「マレビトさん?」
「疲れた、眠たい」
ブウがいそいそと毛布を持って来た。それをもらって頭から被る。なんつーか、とっても気恥ずかしい。まさか千年経ってあんなに大泣きするとは思わなかったんだ。
「……俺がどこから来たか知りたいか」
「え!?……まあ、はい」
「全く別の世界だよ。この世界が漫画とかアニメになってた」
ぽつぽつと、自分の境遇を話す。毛布から頭を出さないままだから、声はきっとくぐもっている。
「……だからさ、おれが頑張ったことって、実のところ意味はないんだと思う」
俺がいなくても敵は倒されるし、サタンは英雄になるし、孫一家やCC一家やラディッツ一家は仲睦まじい。
「でも、俺は元々弱っちくて甘ったるい家族の中の一員だったんだ。それを忘れたくなかった。あの日々を下らないものと見下したくなかった。
忘れない為には、辛い境遇でも平和とか正義とか愛を大事にしてるヒーローを真似るのが一番手っ取り早かった」
強いからできたことだった。他の種族より頑丈なサイヤ人だから真似事ができた。傷つけあうことに慣れて、圧倒的に強く暴力的な隣人を追いかけることで適応した。
「結局ハリボテだったけどな……って、何を言ってんだか」
「でも、ハリボテでもヒーローじゃないですか。まあ私には敵わないと思いますけど」
「あはは、確かに」
精神が混乱しただけで動けなくなった俺と、圧倒的に格下だと理解しながらハッタリをかませるサタンとじゃ天と地ほどの差がある。
「マンガ?って、面白いのか」
「面白いよ。俺にとっては、人を殺すよりずっと」
「見せろ」
「今度な。ドラゴンボールが使えるようになって、お前が起こした被害が全部元通りになったら教えるよ。これでもゲームをたくさん作ってきたんだ、人を殺すより楽しい遊びはたくさん知ってる」
まあ、生きてたらの話だけど。
「じゃあ、こいつと一緒に遊ぶぞ」
「今俺が犬と遊べる状態だと思うか?」
「脚がおれてるな」
「バビディのせいでな。じゃあサタンと一緒に遊んでこい。俺は寝る。寝て休む」
疲れてんだよあと目が真っ赤なんだよ察しろ。しっしと追っ払うように手を振ったら、ブウは犬と一緒に外に出て行った。サタンは一旦俺を抱きかかえて、ベッド的な奴にに寝かせてから外に出ていく。
「…………ふう」
ブウがいなくなったことを確認して、手探りで仙豆の所在を確認する。良かった持っているようだ。ブウがそこそこまともになっているのはサタンがどうにかしたんだろう。
さて、ここから俺はどうすべきか。仙豆による気の回復量にもよるが、正直戦闘ではそこまで役に立てなさそうだ。
今の俺、相当足引っ張ってるなあ。
「んー……」
頭痛いしねむいし。休んでる暇ないが、逃げ出してもなあ。つーかパニックだったとはいえ悟空に全力で当たり散らした上にいつもなら逃げられた相手にとっ捕まったので……会わせる顔がねえ。
あー恥ずかしい。
内心全力でジタバタしながら今後のことを考えてたら、銃声が聞こえた。ブウ討伐隊か?サタンがストッパーやるなら問題ないだろうけど酔狂なことで……
「!?」
まて、なんか増えた?
慌てて仙豆を噛み砕いてベッドから飛び降りる。剣を持とうとして……そういや悟空に投げつけたから今手元にねえ。何故投げつけた過去の自分!!!
とりあえず何も持たずにドアを開け放って空を見上げたら、ガリガリに痩せたブウが増えてた。
「…………あーもう」
悪化しかしねえな状況!!!