【完結】逃がし屋・リコイル   作:兼六園

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敵の敵は味方

 途中、9階で服を回収してジョンが借りている5階の506号室に入った二人は、恥をかなぐり捨てて背中合わせになり大急ぎで着替える。

 

 社交用のスーツから戦闘用の防弾仕様のモノへと着替えたジョンは、一度部屋を出た。

 

「千束、荷物を取ってくるから着替えておけ」

「んお!?」

「……なんだ」

「ちょちょちょっ、背中のジッパー下ろして」

 

 振り返ったジョンが見たのは、背中に手を回してドレスを脱ごうと四苦八苦している千束の間抜けな姿だった。ジョンは呆れ気味にため息をつき、手を伸ばして布の裏に隠されていたジッパーを下ろして、改めて部屋を出る。

 

 清掃員として潜入していた際に仕込んでおいた荷物──ガンバッグをトイレの個室の便器を足場にして天井裏から引っ張り出し、万が一にもテロリストが見回りに来ていないかを確認しながら一応は足音を立てないようにして戻った。

 

「お帰り……って凄い荷物」

「念のために多目に用意して正解だったな」

 

 部屋に戻れば、千束は既に元の赤い制服に着替え終わっていた。

 ジョンの手にあるちょっとした子供くらいはある大きさのバッグを見て驚きつつ、それがベッドの上に置かれる様子を見守る。

 

 バッグを開けて広げると──中には銃が何丁か収まっている。他にもマガジンや予備のサイレンサー、最低限の整備道具など。

 ジョンはそのうちの2丁、拳銃と突撃小銃(アサルトライフル)を千束に投げ渡すと、受け取るのを見てからガンベルトとマガジンをバッグから取り出した。

 

「どぉわっ、危なっ!?」

「お前の小さい拳銃だけだと心許ない、その2つも持っていけ」

「ありがと……ねえ、これなんて銃?」

 

 小銃を壁に向けて構えつつ、即座に片手の拳銃を向ける動作を取り、重さを確認しながらそう質問する。ガンベルトの後ろにあるポケットにマガジンを挿しながらジョンは口を開いた。

 

「AR-15と2011(トゥエンティーイレブン)コンバットマスター」

「あー、人気処だね」

「2011の弾は弾数を優先して9mmにしたが、発射薬を増やした強装弾仕様だ」

「それ銃身ぶっ壊れるよ?」

「ここからの数分の戦闘に耐えられればいい。メインはAR-15の方だ、2011はあくまでも咄嗟のサイドアームとして使え」

 

 AR-15と2011用のマガジンをそれぞれ2本ずつ挿したガンベルトを千束に渡し、それからAR-15を再度受け取って肩に吊るすための帯を取り付け始めるジョン。

 千束はそれを見ながら、腰に回して前でカチリと停めたベルトを落ちないように締め、太ももの辺りに伸びたホルスターに2011を納めた。

 

「これ、流石に過剰火力じゃない?」

「協力者が誰かは言われてなかったから、念のために持ってきただけだ。元々はPCC(ピストルキャリバーカービン)カスタムのMPXを持ってくるつもりだったんだが、調べたところ社長室付近の警備員が重装備だったからAR-15(それ)を持ってきたんだよ」

「重装備だったから……って?」

 

 千束のおうむ返しに、ジョンは一拍置いてから心底面倒くさそうな声色で続ける。

 

「一般人が立ち寄らないのがわかりきってるから、防弾ベストとアサルトライフルを装備した元軍人や傭兵を雇ってやがった」

「うわ…………」

「正直『ぶち殺した方が早くないか?』って思ったのは間違いじゃないと思っている」

「でも弾は全部、非殺傷なんだね」

「自分で始めた主張だけは最後まで貫かないと、裏切った主張(それ)に殺されるからな」

「──そっか」

 

 帯を繋いでから、横に2つ並んでいるマガジンを装着したAR-15を改めて千束に渡す。

 それからジョンもまた、ガンバッグから2丁の銃──千束に渡したモノとは別の拳銃と、近代的な散弾銃(ショットガン)を取り出した。

 

「そっちは?」

「グロック34とベネリM4のカスタム……まあ要するに、得意分野(いつもの)ってやつだな」

 

 自身もガンベルトを腰に回し、グロック34のマガジンを背中側に差し込む。

 それから太ももの右側のホルスターにそれを仕舞い、左側にショットシェルを1列2個ずつ固定したホルダーを装着すると、バッグから小さな箱を取り出して小型のインカムを手に取る。

 

「千束」

「ん?」

「これを携帯と同期させて左耳の奥に入れろ」

「インカム……えっこれ入れるの?」

「出っ張ってる方を外側にしろよ、外すときはピンセットでそこをつままないといけないからな。下手したら病院行きになる」

「何でそうなるって……あっ、ふーん」

 

 ──行ったのね。と同情の目を向けつつ、それがバレないように顔を逸らすついでに携帯と同期させたインカムを耳の奥に入れる。

 その数秒後、()()()()()()通話アプリの向こうから、男とも女とも取れないボイスチェンジャーを挟んだ声が聞こえてきた。

 

『よう、リコリス』

「うわっ、誰!?」

『僕はナッツクラッカー。ジョンの相棒……いやいつも命を救ってやってる救世主だな』

「自分に都合良く盛るな。ナッツは大金で雇ってるハッカーだ、払った分の仕事はするから、ここからはこいつの援護を受けながら動け」

『よろしくなぁ』

「うん、よろしくナッツ……くん? ちゃん?」

『どっちでもいいぞ』

「じゃあナッツくんで」

 

 はいはい、と雑に返すナッツにジョンがおもむろに問いかける。

 

「ナッツ、10階の監視カメラの映像を出せるか」

『誰に聞いてんだ。……ほらよ』

 

 得意気な声色を聞きながらジョンは携帯を取り出して画面を見る。そこには、部屋の隅に客と社長・村雨夕伍が拘束され押し込められ、テーブルを盾にAKなどの量産品を構えるテロリストたちと、防弾シールドとMP7を構えて睨みを利かせている警備員の姿があった。

 

「この数分でこうなったか。やり手だな」

「言ってる場合? ……ジョン、まだ客に被害が言ってないのはいいけど、このままだと痺れを切らして撃ち合いになる可能性は高いよ」

「わかってる……が、少し妙だ」

 

 口許を手のひらで覆うようにして呟くジョンは、それから一拍置いて続ける。

 

「……なあ千束、リコリスという暗殺者とそれを育てた組織の存在理由は?」

「──日本の治安維持だけど…………あっ」

「ビルにテロリストがやってきて、立て籠りまで始めた。ならなんで──リコリスはこいつらを始末しにやって来ないんだ?」

『少なくとも、ビル周辺の監視カメラにそれらしい人影は見えないな』

「…………んー……あー……ううん」

 

 二人の声に、うんうんと唸る千束は、観念したかのように小さく挙手してから言った。

 

「ごめん、私のせいかも」

「……なぜだ?」

「リコリスの組織って、超スーパーすごいAIが事件を察知してそこにリコリスを送り込むのが基本的な流れなんだけど……ファーストリコリスの私がここにいるから、組織の方も十分だと判断してるのかも……しれない……。たぶん」

『超スーパーってなんだよ』

「AIが事件を察知……それで未然に事件を防いで平和を築き上げてるわけか。道理で俺の仕事先にピンポイントで現れてたわけだな」

 

 うん、と答える千束に、ジョンは事実を鑑みてその危険性に気付く。

 

「疑わしきを事前に消し去る──つまり、悪さをする前に罰を与えるシステムが存在したのか。そのわりには……なんというかだな」

『【事件が起きた? 強い兵士が一人いるからまあなんとかなるだろ】って判断してるってことだろ? そこそこガバくないかそのAI』

「いやあ、私はそういうの詳しくないし」

「……ともあれ、組織に実力を買われているんだろう。ならそれに頼らざるを得ない」

「ジョン……」

 

 携帯を懐に仕舞い、ジョンはベネリM4を手に立ち上がり、ふっと笑いかけながら言った。

 

「逃がし屋、武装した警備員、テロリスト。そこにお前以外のリコリスが加わってみろ、敵の敵は味方どころか敵の敵は敵でしかない」

「……そりゃあ、まあ……」

「なら、俺たちで最速で片付けるしかない」

『それはいいんだが、ジョンと千束はどっちがどっちに向かうんだ?』

「そうだな。片や警備員とテロリスト、片や社長室警備の元軍人相手に社長秘書であるターゲットの連れ出し……両方キツいが」

「私がテロリストの方に行こうか? 小柄だし、女だから初手は相手も油断するはず」

 

 AR-15を両手で持つ千束がさらりとそう言って、ジョンは少し考えるそぶりを見せてから「いや」と返して更に続けて言う。

 

「俺が10階、お前がターゲットの保護で行こう。ナッツ、エレベーターの移動を知らせるランプとチャイムを切った無音状態で、千束を5階から最上階に連れていけるか?」

『余裕』

「……ジョンはそれでいいの? 元々はこの仕事はジョンが受けたものだし──」

 

 千束の戸惑いに、ジョンはベネリM4のグリップの調子を確かめながら返した。

 

「千束がリコリスであることを組織が隠蔽しないといけないとして、その労力はどれくらい掛かる? 方法は? 一般人にそれを知られた場合の手段はどうなっている?」

「それは……」

「──そんなに心配なら、さっさと村雨聖(ターゲット)を逃がしてから援護しに戻ってこい」

 

 コンと額を小突いて、ジョンが千束にそう言う。彼女もそんな軽口に口角を緩め、ようやく彼の言葉を受け入れて従った。

 

「わかった、じゃあ早速行動しよう」

「ああ。お前はエレベーターに乗れ、俺は階段で上がっていく」

 

 頷いた千束と共に部屋を出て、エレベーターと階段で別れて行動する。階段を上がりながら、ジョンはぼやくように小声で呟く。

 

「なんで面倒な方を選んじまったんだか」

『お前があのリコリスに絆されたからだろ』

「かもな」

『敵はテロリストだけじゃない、事情を知らない警備員もお前のことを狙うぞ』

「そうだな……」

 

 ほんの数時間の付き合いで、ジョンはもう既に、千束のことをかなり気に入っている。

 それを自覚しながらも、ジョンは、カンカンと階段を駆け上がりながら言った。

 

「……めんどくせぇ、全員撃てば終わるだろ」

『おいおい、季語が抜けてるぞ』

「俳句じゃねえよ」

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