【完結】逃がし屋・リコイル   作:兼六園

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人質を取られた際の対処法

「よぉ、手ぇ洗ったか?」

「は──おがご」

 

 10階廊下、呑気にトイレを済ませていたテロリストの一人に唐突に声をかけ、反応したと同時にこちらを向いた顔を掴んで壁に叩きつける。

 

 ゴンと嫌な鈍い音が鳴り、テロリストの男の視界にチカチカと星が散らばる。

 そのまま続けざまにトイレの中に連れ戻され、個室に放り込まれると同時に、オマケとばかりに顔面にベネリM4の銃床(ストック)がめり込んだ。

 

「尋問……は時間が無いな。仕方ない、会場に籠城してるやつらで全員だと考えるか。──ナッツ、中の様子はどうだ?」

『まだ動いてないな。つーかずっと膠着状態だ、テロリストの方は人質を部屋の隅に纏めたまま、テーブルを盾に警備員と睨みあってる』

「ふうん。……変だな」

『そうか?』

 

 ああ、と言ってジョンは続ける。

 

「テロリスト側の目的がわからない。金目的なら社長を連れてさっさと金庫なりなんなりに案内させるべきだし、人質を盾にして警備員の武器を捨てさせて拘束しないと危険だろう」

『ずっと睨み合ってんのはまあ、変だな。なんかこう、()()()()()()()()って感じだ』

「────」

『……どうした?』

 

 ナッツの何気ない言葉に、ジョンは黙り込んで思考に耽る。それから口を開いて言った。

 

()()()()()()んだ、こいつら」

『は?』

「目的は金じゃない」

『おいちょちょちょ、どういうことだよ』

「今から踏み込むから自分で考えろ、ヒントはこの三者の配置」

『おい、ジョ

 

 

 

 

 ──ン、と続ける間もなく、ナッツはジョンに通信を切られた。

 

「ちっ、なんなんだ。三者の配置……?」

 

 キーボードをタタンと叩いて、ナッツは画面の映像を切り換える。10階のダンスホールにもなっている会場で、真ん中にスペースを空けて睨み合う警備員とテロリスト。

 

「配置……配置か。警備員は防弾シールドとサブマシンガン構えてて……テロリストは()()()()()アサルトライフルを────」

 

 そこまで言葉にして、ようやく気づく。

 

「……いや、逆じゃないか? なんでテロリストが人質を守ってるんだよ」

 

 ナッツがカメラを動かし、ズームしてテロリストと警備員をそれぞれ見やる。

 画面越しとはいえ、その表情を見れば多少なりとも緊迫感は察するだろう。

 

「殺気立ってるのは……警備員の方。そうか……ここは銃での武装を許可されたブラック会社、テロリストは()()()()()()()んだ」

 

 ナッツの手がノールックで複数のキーボードを叩き、テロリスト側の顔を自作のソフトで照合する。日、月、年ごとに全国の監視カメラの映像やSNSの写真と照合し──それから数人の顔が、紛争地帯(べつのくに)で活動していた時に撮られたらしき写真と合致した。

 

「んーにゃるほどなぁ、過去に村雨ビルで密造された銃で襲われて、出処(でどころ)を調べてここにたどり着いたわけか。復讐──じゃないな、さしずめ『真実を公表してやろう』ってか?」

 

 ──お優しいねえ。と呟いて、その後ナッツは彼らを鼻で笑う。

 

「なわけないだろ、ったく。テロリストに成功体験を与えちゃいけませんってお母さんいつも言ってるだろ、おいジョン、さっさと全員倒してこい………………ジョン~?」

 

 トントン、と耳に引っ掻けて口許にマイクを伸ばしたインカムを叩く。

 つい先ほど通信を切られたんだったな、と思案して、こちらから改めて通信を繋げ直す。

 そうしていたナッツが画面の向こうに目を向けると──そこではちょうど、ダンスホールを見下ろすための上階からテロリストの一人と一緒に落ちてきているジョンの姿が映っていた。

 

「……なにやってんだあいつ……」

 

 

 

 

 

 ──テーブルを粉砕する勢いで落ちてきたジョンは、テロリストをクッションにして着地。テロリストは背中からテーブルに叩きつけられ、テーブルも二人分の体重を支えきれず足を折った。

 

「ご、っふ、おえ……いってぇ」

 

 ズンッと逃がしきれなかった衝撃が走り、思わず胃の中身が出そうになり堪える。

 ジョンは一拍置いてからさも当然かのようにさらりと立ち上がり、片手にベネリM4を握りながら、片手を胸ポケットに入れると、彼は日本人ならほぼ全員が見覚えのある手帳を取り出した。

 

()()()()()()。全員武器を捨てて投降し」

 

 ──なさい、と言いながらジョンは低姿勢になり誰も使っていないテーブルに駆け出す。料理の乗せられた皿をなぎ倒しながらテーブルを倒して盾にすると、そこに数発の銃弾が突き刺さる。

 

「ダメか。なら仕方ない」

 

 真っ先に発砲したのが警備員の方であると認識し、脳裏でやはりかと独りごちる。

 そして発砲を皮切りに撃ち合いになると察して、ジョンはとりあえずと、自分に発砲してきた警備員を狙ってベネリM4に装填していた非殺傷の──2cm大の岩塩(スラッグ弾)を脇腹に撃ち込む。

 

『殺したくないが威力は欲しい』という要望に応えて作られた特注の岩塩仕様スラッグ弾。当たり前だが、そんなものを胸に撃ち込まれれば肋骨は折れ、頭に当たれば頭蓋を砕く。

 

 ジョンの腕ならきちんと殺さないように狙えるが──脇腹に当たったとなれば、プロボクサーのボディブローを食らったも同義だろう。

 

 

 

 果たして、警備員は、呻き声すら上げられずに蹲るようにして倒れた。

 同時に2発目をテロリストの方に向けて撃ち、唖然としていた一人の右肩を粉砕。

 

「ほらどうした、お前らの敵は俺だぜ」

 

 これにより、双方からの注目(ヘイト)を買ったジョンは、人質に弾が行かないことを確認して一先ずはとホッとする。

 

「……しかし凄いなこのテーブル、()()()()()用に裏に鉄板敷かれてやがる」

 

 ガガガガガガと断続的に放たれるAKの7.62mm弾とMP7の4.6mm弾がテーブル越しの背中に伝わり、ジョンは通信を繋ぎ直しながらぼやく。

 

「ナッツ、聞こえるか」

『聞こえ──うるっせえな!』

「悪いな……いきなりだが、この階の明かりを担う電源を落としてほしい。出来るとして、ビル側が復旧させるまでに何秒掛かる?」

 

 インカムの奥にまで届く銃弾の集中豪雨に、通信越しのナッツは声を荒らげる。だがいきなりの提案に、意識を切り替えて言葉を返した。

 

『……そこは全40階っていう馬鹿げたデカさのビルだ、当然搭載してるだろうサーバーから見てもその手のスペックは優秀と言っていい』

「つまり?」

『早くて5秒で予備電源によって明かりが点く』

「お前なら何秒伸ばせる」

『……今からだと3秒』

「計8秒か。ま、充分だな」

 

 腰のホルダーからショットシェル2発を取り出してベネリM4のチューブに装填しながらそういうと、ジョンはナッツに言う。

 

「準備が完了したら言ってくれ、でそのあとすぐに電源を落とせ」

『どうするつもりだよ』

「いきなり暗くなったら、同士討ちを避けるために向こうは撃てない。でも俺は撃てる」

 

 ……せこっ、という声が耳に届く。ジョンは構わず視線を覗かせて警備員とテロリスト全員の場所と立ち位置を記憶し、ふぅと一息。

 

『──準備完了だ、落とすぞ』

「────」

 

 ジョンの言いつけ通りに、ナッツは10階の明かりを全て落とす。バツン! とブレーカーが落ちたような音がして、それから一瞬で室内が完全なる暗闇に包み込まれた。

 

 双方から発砲を控えろという怒号が飛び交い、反してジョンは暗闇に迷わず飛び込む。

 数瞬前までに記憶していた辺りにとにかく岩塩を撃ち込むと、ドバン! ドバン! と独特の発砲音が響き、部屋の片隅で不意打ち気味に叩き込まれる岩塩による鈍痛でテロリストたちが声も出せずに倒れて行く。

 

 

 

 ──直後、8秒が経過しパッと明かりが点く。

 すると、テーブルを盾にしていた第三者(ジョン)がおらず、その本人の声が──警備員の一人の背後から聞こえてきた。

 

「やべぇ一人撃ち漏らした」

『再走しろ』

「いや、こいつらが先だ」

 

 人質の方へと駆けて行くテロリストを見て舌打ちをするジョンは背中合わせで立っていた警備員の太もも付近をサイドアームのグロック34で撃ち、非殺傷弾特有の赤い煙を(くゆ)らせる。

 

 咄嗟に他の警備員がMP7を向けるが、撃てない。『仲間を巻き込んでまで敵を殺せ』とは教わっていないがゆえに、グロックを仕舞い4発のショットシェルを2度の動作で装填するジョンに発砲できない。そしてそのまま、リロードを終えたジョンが行動を起こす。

 

 ドバン! ドバン! という発砲音と共に放たれる岩塩(スラッグ弾)が、警備員一人一人の防弾シールドを剥がし、むき出しになった太ももや脇腹、肩を容赦なく殴り付ける。

 

 グロックで太ももを撃たれた警備員を背にしたまま器用に体を相手ごと回転させ、周囲の警備員たちを気絶させて行くジョンは、リロードし、発砲し、装填して、引き金を引き、ガッとホルダーに手を伸ばして──何も掴めない。

 

「……最後の一発か」

 

 ちらりと視線を腰のシェルホルダーに向け、弾切れを視認。薬室(チャンバー)の近くに固定していた緊急(とっさに撃つ)用の一発を装填し、背後の警備員を銃床(ストック)で殴り、片手でホルスターに仕舞ったグロック34を抜き直して眼前の一人の頭を撃つ。

 

「非殺傷弾なら、味方ごと撃てたのにな」

『いや、めちゃくちゃ痛いんだろそれ』

「胸に当たると息止まるぞ」

 

 バスッバスッと2発撃ち込み、残った警備員一人の胸と頭に1発ずつ当ててそう言ったジョンに、ナッツは静かに指摘する。

 さて、と呟いたジョンがグロックをホルスターに挿し、ベネリM4を構え直す。

 振り返った先では、くだんの社長──村雨夕伍にナイフを向けながらこちらを見ている、撃ち漏らしたテロリストが立っていた。

 

「……お前……何者だよ」

「誰だっていいだろ。ナッツ、情報くれ

「っ──近づくな、銃を捨てろ! こいつがどうなってもいいのか!」

「……好きにしろよ。もっとも、そいつを殺したら困るのはお前の方だろうがな」

 

 あっけらかんと言い放つジョンに、男は困惑する。そんな男に、ジョンは更に言った。

 

「紛争地帯で、新品のAK-47含む複数の銃器で襲われたんだろう。だがピカピカの新品だなんておかしい、誰かから買ったに違いない」

「っ!?」

「そうやって調べてここを突き止めて、そんで何がしたいんだお前ら」

「それはっ、銃の密造によって失われた命の償いを! こいつにさせる!」

「ふうん」

 

 ジョンはテロリストの()()()目的を聞き流し、ちらりと夕伍を見る。

 その視線を察知した夕伍は、ジョンに向けて言葉を投げ掛けてきた。

 

「助けてくれ」

「おい、黙れ!」

「こいつを殺してくれるなら言い値分の金を出そう。まさかとは思うが、テロリストなどという犯罪者の言い分が正しいとは思うまい」

 

 淡々と語る夕伍に、テロリストは焦る。

 そしてジョンは──ため息をついた。

 

「俺は人は殺さん。そういう主義だ。……まあ、これは単なるリスクを考えての行動で、別に博愛に目覚めたとかではないんだが──」

「……?」

「こんな主義、言い換えれば、()()()()()()()()()()()()()()()とも言えるわけだ」

 

 

 ──何を言っているんだ? 

 

 夕伍がそんな疑問を抱いた──刹那、腰だめで構えていたベネリM4を即座に向けて発砲。

 

「ぐあっ、がっ!!?」

 

 ドバン! と音が響き、銃口から放たれた2cmの岩塩は、綺麗に()()()()()右肩を粉砕した。

 思わず後退りしたテロリストの脇を抜けて床を転がる夕伍は、あまりの激痛に意識を失う。

 最後の一発を撃ち終え役目を果たしたベネリM4を捨てたジョンは、男に向けて口を開く。

 

「な、なにやってんだよ、お前……!?」

「人質を取られた際の対処法は大きく分けて2つだ。1つはさっさと犯人(おまえ)を撃ち殺す、そしてもう1つは──人質を負傷させる(足手まといにする)。簡単だな」

『鬼かお前は』

「これなら入院は免れないから、妹がリークするまでの間に逃げるなんてことはできまい」

『……お前、合理的なのはいいけど、マジで死ななきゃ何をしてもいいと思ってないか』

「千束には内緒だぞ」

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