また、この作品は作者がピザデブであることを念頭に置いてから読んでください。
「きゃあああぁぁぁ!!」
さて、俺の間の前の状況を整理しようと思う。
ここは魔物の住む洞窟。
俺の目の前には無数の触手を生やした怪物がいる。
「不覚を取った、助けてくれヒデノブ!!」
そして俺に助けを求めるのは、金髪長身の女騎士である。
彼女は今まさに触手の怪物に凌辱の憂き目に遭おうとしていた。
だがなぜだろう、彼女を助ける気にならないのは……。
「ヒデノブ様!! 早くキャスリーン様をお助けになってください!!
彼女の従士のエイミーが俺に縋りついて体を揺すって来た。
「……ああ、ごめん。脳の処理が追いつかなかった」
さて、現実に目を向けよう。
目の前には、金髪長身の女性が触手の怪物に絡め取られている。
一部の愛好家には垂涎ものの状況だろう。
だが、状況を客観的に描写しよう。
触手生物が、金髪長身の女騎士を、今まさに凌辱しようとしている。
彼女はキャスリーン卿。この国一番の女騎士で、美女である。
その脅威のプロポーションを聞いて驚け。
上から180以上、200以上、180
以上!!
体重は多分300㎏近いんじゃないかな……。
「やめろ化け物!! 私のまさぐるんじゃない!!」
……どっちが化け物なんだろうか。
化け物に絡まる化け物、正直お似合いなんじゃなかろうか。
「ヒデノブ様!! このままじゃキャスリーン様が栄養豊富な苗床になって、魔物の群が我が国に押し寄せてしまいます!!
私もあんな化け物に殺されるなんていやだあぁ!!」
「よし、キャスリーン様を助けるぞ!!」
身長140㎝くらいのエイミーは、俺も可愛がっている子だ。
デブ猫みたいにぽっちゃりとしてて可愛いし、健気だ。
彼女に癒された俺は突撃用のランスを構えて、化け物の塊へと突貫した。
「おりゃああああ、死ね化け物がああぁぁ!!」
全身の魔力が滾り、カロリーが燃焼される。
俺の脂肪分を出力に変換して、地球に居た頃では想像もできない瞬発力と破壊力を伴って敵に突貫した。
ちゅどがーん!!
魔物どもは爆散した。
「邪悪は滅びた……」
魔物を倒した俺は汗を拭った。
「……ふう、助かったぞヒデノブ。
だが、危うく私を巻き込むところだったじゃないか」
「ええ、どちらが魔物か分からなかったものですから」
「はははッ、面白いことを言うではないか!!」
ちッ、じゃなくて、無傷でキャスリーン様は起き上がってこちらに戻って来た。
「キャスリーンさまぁ!! ご無事でなによりでしたー!!」
「ああ、ヒデノブのお陰だ!!
流石はオークの如き勇猛さよ!!」
ぼよん、とエイミーがキャスリーン様の巨体に抱き着いて泣きじゃくる。
彼女が豪快に笑い、五段腹以上の何かが揺れる。
「これ以上ない誉め言葉です……」
オーク、とは言うまでも無くずんぐりむっくりの豚の魔物だ。
この世界では、この魔物はエルフみたいな美麗な存在らしかった。
それに例えられるように、俺の容姿は醜い。
この世界に来る前から、ピザデブキモオタヒキニートだった。
そんな俺でも、この世界では称えられる。必要とされる。
なぜなら、この世界には“醜い”なんて概念は無いのだから。
§§§
俺はヒキニートとだと語ったが、転生する前は地球の日本に居た。
なぜ別の世界に居るのかというと、死んで神様に出会ったからだ。
死んで神様に出会う。
この時点で拒否反応を示したり、食傷気味な奴も多いだろう。俺だってそうだ。
でも、どうせなら暇潰しに俺の話を聞いてくれ。
それに、俺を転生させた神様もなかなかにキャラが濃かったし。
「■■ 秀信さん。
残念ながらあなたは死んでしまいました」
こんなテンプレ染みた台詞を言うのは、人形めいて整った容姿の女神様だった。
「そっすか」
「自らの死に疑問は無い、と?」
「別にあんたの所為じゃないでしょ」
俺は俺の部屋で、一人寂しく孤独に死んだはずだ。
きっと死因は脳卒中とかそのあたりだろう。
「殊勝な事ね。ここに来る死者は大抵錯乱してて自らの死を私の所為にしたがるものだから」
女神様は手元のクリップボードに何かを書き記した。
「さて、申し遅れたわね。
────我が名はメアリース。人類文明を司る、全ての人類の造物主。
……その分体で、私は転生担当をしているわ」
「メアリース……様?
めありーす、メアリー・スー? 冗談ですか?」
「言ったでしょう、私は人類文明を司る者だと。
それを理解した上でそう名乗っているのよ」
この時点で俺はこの女神様がろくな神様じゃないと悟った。
自分でメアリー・スーと名乗る奴がまともな奴なわけがないからな。
「で、俺は地獄行きですか?」
「地獄? まさか」
メアリース様は微笑んで、所謂アルカイックスマイルと呼ばれるような笑みでこう言った。
「貴方の来世は、私の管理する資源世界で死ぬまで延々と炭鉱労働をして貰うわ」
「は、はあ!? なんだよそれ!?」
それは地獄と、何が違うのか。
「人間が住む世界は、全て私の本体が創造したもの。
即ち、全てが私達の所有物。あなたは現世で何の社会貢献もせずに死んだ。
──そんな人間に、どうして来世で優遇する必要があるの?」
神様は、俺を冷たい眼で見ていた。
「例えば飲食店でポイントカードを発行するのは、常連客を優遇する為よ。
それともあなたは何もしないのに優遇しろなんて喚くつもりかしら?」
「ふざけんな、なにがポイントカードだよ、俺たちは家畜かよ!!」
「ごめんなさいね、あなたの知能水準で分かりやすく例えたつもりなんだけど」
神様は、まったくもって俺の憤りを理解してくれなかった。
「何も貢献しなかった、だって!?
俺がなんで引きこもりのニートしてたかどうせ知ってんだろ!!」
「自分が死んだって言うのに、そんな心配をしているの?
安心しなさい。因果応報はちゃんとある。
あなたをいじめて追い詰めた連中は、死後あなたの立場を延々と味わうところに行くわ」
ちがう、そうじゃない。
この女神は、絶妙に人間の機微を理解していなかった。
「お、俺は、来世でもやってける自信がないです……」
「大丈夫よ。資源世界では徹底的に体調やメンタルケアを管理しているから。
いじめが起こったら主犯はすぐに特定しより過酷な現場に送るし」
「そ、そうじゃなくて!!」
「わかってるわ」
女神は、全てを理解しているように頷いた。
「でも、甘えるのは母親だけにしておきなさい」
そう、メアリース様は全能の造物主。全てを知っている。
「あなたは、何もしなかった」
かの御方は、全て理解していた。
「努力をしなかった。本気ならなかった。ゲームやネットの世界に逃げて、現実を見なかった。
己の状況を改善しようと思わなかった。言い訳だけを述べて、悲惨な過去を盾に、現状に甘えていた。
手を差し伸べてくれた者を拒絶し、傷ついた振りで怠惰を貪った。
いつか転機が訪れるかもしれないと思いながら、その機会を探そうともしない。
典型的な何の役にも立たない社会のゴミよ」
図星だった。ぐうの音も出ないほどに。
「う、うるせぇ、あんた人間の文明を司る者なんだろ!!
だったら人間社会があんな風になったのもあんたの所為なんじゃないのか!!」
「あら、やっと死者らしくなってきたじゃない」
「バカにしやがって!!」
「当然の評価よ。人間の優劣は私達への貢献度によって決まる。
あなたは社会の産み出した失敗作に過ぎない、役立たずの穀潰しの不良債権に過ぎないわ」
これが、こんなのが、神。
俺たちが居ると信じていた、至上の存在なのかよ。
「とは言え」
女神メアリースは腕を組んで私を見下ろした。
「社会に適応できない人間が一定数存在し、それらの為に補償するのも私の義務の一つよ。
地球に馴染めないのなら、馴染める場所を用意してあげてもいい」
彼女は心底見下している俺に、
「ちょうど今、引きこもりニート改善キャンペーン中なのよ。
あなたのようなゴミ不良債権でも引き取ってくれる世界へ送り込んで改善してみましょうって内容なんだけど」
「い、嫌だ、働きたくなんてない!!」
「大丈夫よ、あそこならあなたはきっと受け入れられる。
キャンペーン中だから多少の優遇もしてあげるわ。
だけど、これは借金と同じ。私への貢献が出来ないなら、次の来世はあなたに無いわ」
微笑む女神は俺の言い分なんて聞くつもりなど無いようだった。
「その時は、どうしようもない失敗作としてあなたの魂ごと削除するから」
これが、俺の出会ったクソ女神とのやり取りの一部始終だった。
§§§
「……ここは、どこだ?」
俺は目を覚ますと、平原のような場所に寝転がっていた。
周囲を見渡すも、何もない。誰も居ない。
俺は途方に暮れるしかなかった。
だが、すぐに事態は動いた。
「なんだ、地震か、何が起こった!?」
僅かに地面が振動し始めたのだ。
しかし、この程度の地震なら大したこと無い、そう思った。
だが、俺は根本的に間違っていた。
近くの丘の上が、黒一色に染まっていた。
「なんだ、あれは!!」
それは、地面を覆いつくすほどの巨大なダンゴムシみたいな化け物の群だった。
それが一斉に大移動していたのだ。
「ば、化け物だ、誰か、助けて!!」
俺は悲鳴を上げて、無様に走り出した。
しかし、ろくに運動なんてしてこなかった俺な身体は、数十メートルも走ったところでバテてしまった。
命の危機だと言うのに、体は言うことを聞かない。
「だれか、たすけ……」
ごごごごご、と黒い壁が俺を呑み込もうと迫って来る。
もう駄目だと、そう思った時だった。
太陽が、陰った。
違う、上に何かが居る!!
“それ”は、魔物の群のど真ん中に着弾し、ダンゴムシの化け物を枯れ葉のように吹き飛ばした。
「魔物どもめ!! この私が居る限り、民草に指一本触れさせぬぞ!!」
それは、デカかった。
そして、太かった。
鎧を着たタルのような何かが、ゲームに登場するような鉄球を手に暴れまわっていた。
「騎士団、キャスリーン卿に続け!!」
「「応!!」」
巨漢の騎士に続くように、やたらと横幅がある騎士たちが魔物たちに立ち向かっていく。
騎士団は強かった。
瞬く間に、ダンゴムシの化け物どもは撃退されていった。
「君、大丈夫かね?」
腰が抜けて地面に尻もちをついた俺に、最初に現れた巨漢の騎士が歩み寄って来た。
そして、彼女が兜を取って、初めて気づいた。
彼女が女性だと言うことに。
「私はキャスリーン、もう大丈夫だ」
彼女、キャスリーン卿は肉まんみたいな顔を綻ばせて俺に笑いかけた。
それが、俺と彼女の出会いであった。
どこにも行くところがない、と言った俺に彼女は。
「では、私のところに来ると良い。
丁度屋敷の従者が一人辞めたところでな」
と言って俺を雇ってくれた。
キャスリーン卿は聖人級に良い人だった、これで見た目さえよければ……。
「いくら私が美人だからと言ってそんなに見つめないでくれ、照れるじゃないか」
そして彼女が無駄に自信があるのがイラっとした。
だが、そう思った俺は、すぐに勘違いに気づいた。
俺を保護した騎士団は、すぐに街へ凱旋した。
「きゃー!! キャスリーン卿よ!!」
「なんてふとましく、美しい方なのかしら!!」
「私もあんな風にふくよかになりたーい!!」
「キャスリーン様、なんてお美しい……」
「あの柔らかそうなお腹に顔を埋めたいぜ」
「見ろよあの脂肪、どんな太り方をすれば俺もあんな風になれるんだ……」
どういうわけか、町の人々はキャスリーン卿に憧れの視線を向けていた。
ぽっちゃりした女たちは黄色い悲鳴を上げ、腹の出た男たちは下卑た視線を彼女に向けていた。
「どうなってるんだ、この世界は」
美しさと醜さが逆転する、美醜逆転モノなんてジャンルもある。
だが、それはこれとは異なっているように思えた。
「大変だったな!!
今日は私のおごりだ、食え!!」
凱旋を終え、上司への報告を部下に任せると、彼女は俺を連れて飲食店に連れて行った。
その店名が『マックド』。
おい、アウトだろその名前!!
しかもそこで提供されているのが。
「まずは軽くトリプルチーズバーガーのセットを二つ。
君は何を食べる?」
いや、お前が2セット食べるのかよ!!
しかもなんでバーガーセットが異世界にあるんだよ!!
そんな風に思ってると。
「HEY‼ あんた日本人だろ!!」
カウンターに居たふくよかな店主が俺に声を掛けて来た。
「あ、あんたは、地球人なのか?」
「そうさ、俺はボブ!! リーマンショックでバーガーショップが潰れて首を括ったら、メアリース様に叱られてよ!!
こっちでもう一度バーガー屋をやってるわけよ!!」
ほれこれも同じ地球人のよしみだ、とボブさんはコーラを差し出してくれた。
いや異世界でコーラて……。
「なんだ、君はボブさんと知り合いか?」
「いえ、どうやら同郷だったらしくて」
「そうか、同郷の者が居るのは嬉しいことだ」
キャスリーン卿とそんな話をしていると、アメリカンなサイズのバーガーとポテトの山もりが運ばれてきた。
「はふッ、がつがつ、もぐもぐ、ごくん!!
もぐッ、んぐんぐ、ごくッ、ぷはー!!」
そしてそれを貪り食うキャスリーン卿。
「どうした、好きなのを頼んで良いんだぞ?」
「……いえ、見てるだけでお腹いっぱいというか」
「それはいかんな、そんなんでは効率的にカロリーを摂取できないぞ」
これ以上太る気なんかい。
俺は呆然とするほかなかった。
その後、俺はキャスリーン卿に連れられ彼女の屋敷に案内された。
「お帰りなさいませ、キャスリーン様」
彼女は屋敷のメイド達(リアル寄り、要するに恰幅のいいオバサンたち)に出迎えられながら、中に入ることになったのだが。
「誰か。彼に武具を」
「え?」
彼女はとんでもないことを言い出した。
すぐにメイド達が俺にプロテクターみたいな防具を取り付ける。
「私の従者になったのだ、鍛えて貰うぞ」
その日、俺は彼女にメタクソになるまでボコボコにされた。
§§§
キャスリーン卿は初めから俺を戦士にする為に拾ったのだ。
彼女は俺を見て一目で(この世界においての)戦士の才能を見抜いた。
この世界における強さとは、何か?
それは、どれだけ太れるか、で決まる。
この世界には魔法があり、魔法とは生命力に直結している。
つまりは脂肪分、カロリーを燃焼することで人体の常識を超える能力が発揮できるわけである。
手から火の玉を出したり氷の塊を飛ばしたりとかあるものの、ぶっちゃけ人体を強化して殴った方が早いし強い。
どちらかというと火とか氷とかを出すのは生活に使う魔法と言う位置づけらしい。
ボブさんの例を出すまでも無く、この世界には俺みたいな転生者……より正確には転移者が結構いる。
だから異世界ではありがちな飯がマズいとか、衛生面が最悪とか、そんなことはあまりない。
街の外は魔物は居るが、騎士団は精強なので困るほどでもない。
なにより食料は充実している。というか死活問題なので、最優先で確保している。
こんな世界なので、たくましさとは太れるだけ太った者のこと言い、美しさとは肉塊の如き巨体を示す。
美醜逆転モノなら、ここで貧しいけど立場の弱い少女とか助けて惚れられるなんてことがテンプレだが、太れることがこの世界の美徳なのだ。
線の細い女性なんて居るわけないし、どんな孤児院でも太れる才能を見極める為に食べさせる。
そして何より、この世界には奴隷制度がない。
詰みだった。
これが、今俺が生きている世界だった。
触手の化け物退治を終え、俺はキャスリーン卿たちとマックドに食事を取りにきた。
「よう、今日もキャスリーン様と一緒か!!」
「ひゅーひゅー!!」
「うるせえ、ピザでも食ってろデブども!!」
「もう食ってるぜ、コーラと一緒にな!!」
俺たちを囃し立てる常連たちへの罵倒も、この世界では罵倒にならない。
汗臭いむさくるしい男どもが大笑いしながらピザを食べてコーラで胃に流し込むのを忌々し気に舌打ちし、俺は席に着いた。
「キャスリーン様ぁ、やっぱり私にはビックマックドバーガー1つしか無理ですよぉ」
「エイミー、そんなんじゃ太れんといつも言ってるだろう!!」
席では(この世界の基準において)小食なエイミーがキャスリーン卿に叱られていた。
「もしや……」
キャスリーン卿がエイミーの睨む。
「夜食は毎日ちゃんと取っているのだろうな!!」
「ご、ごめんなさい、お腹に何か入っていると眠れなくて……」
「なんて嘆かわしい。私はお腹が空いていると眠れないのだぞ……」
それを聞いた彼女は深いため息をはいた。
気持ちはわかるがやめてやれよ。
「私は毎日ポテチ三袋、アイスを一リットルは食べないと調子が狂うと言うのに」
「いや、それでなんで調子が悪くならないんだよ」
食欲の怪物かよ。
「ごめんなさい、キャスリーンさまぁ」
俺はしゅんとしているエイミーの頭を撫でた。
「エイミー、お前はそのままで良いんだよ」
まだ俺が地球に居た頃、俺みたいなのにも普通に接してくれた姪に似てるんだよなぁ。
「ヒデノブさまぁ」
「こら、ヒデノブ!! あまりエイミーを甘やかすな!!」
「うるせぇ、ピザ食って寝てろ!!」
「なに!? 夜食にピザだと、そんな罪深いことが許されるのか!?」
なんでそんな反応なんだよ!!
それとその妙な一線はなんなんだよ!!
「キャスリーン卿には感謝してますがね、エイミーはこのままコロコロしてた方が可愛いでしょ!!」
「浅はかな、もっとぶくぶく太った方が可愛いじゃないか!!
私はエイミーにももっといっぱい食べて欲しいのだ!!」
衝突する俺とキャスリーン卿。
あわあわと俺たちを交互に見るエイミー。
これが、俺の新しい日常だった。
私は思いました。筋肉でマッチョなギャグ小説はたくさんあるのに、デブを題材にした脂肪とカロリーで戦う小説は無いな、と。
じゃあ書けばええやん!!
というわけで書きました。
前編中編後編程度の短編を予定しています。
登場人物のデブ率ほぼ99%ですが、需要があれば連載するかもしれません。
それでは、また次回!!