グチャグチャと音を鳴らせながら悪霊は突進してくる。その間も肥大化した体から肉がこぼれ、肉塊を生み出している。それは刹那に任せ…刹那大丈夫か。顔青いぞ。
「大丈夫か?」
突進を躱して跳躍、餓者髑髏の元に行って聞く。
「し、正直ヤバいです…よ、よく何ともなく…いられますね…うっ…」
……刹那の方が限界っぽいな。が、生憎袋は持ってきてない。無理だったら逃げててもらおう。
「限界だったら逃げてていいぞ。そんなに時間はかからせん。」
「い、いえ、頑張ります。」
大丈夫か。まあ、本人が大丈夫なら大丈夫か…?さて、こっちから逃げないとこっちに悪霊が突っ込んでくる。となると多分刹那が限界超えるから逃げとくか。
「さて、と。」
戦闘中はリョウと会話はしない。俺の体に馴染むようになるからだいたい考えとか戦略は共有される。…こないだみたいに突発的な戦闘は馴染ませるのにちょっと時間がかかるから最初の間は話せるが。
と、悪霊はこっちに向きを変えて、雄叫びを上げながら突っ込んできた。…今だ。
「
霊力を糸のようにして悪霊の前に大量に張り巡らせる。悪霊はブレーキをかけることなく突っ込んでくる。霊力は見えてるだろうが、障壁になりえないと考えたんだろうか。糸に突っ込み、糸がちぎれていく。
と、
「オロラッ…!?」
違和感を感じたか。だが遅い。
「…来たな、
すべての糸は俺の両手に繋がり、俺の手の動きに合わせて悪霊の動きが操られる。
「吹っ飛べ!」
右手を振り上げると悪霊はそのまま吹っ飛ぶ。そして、糸を切り離して違う形に霊力を練る。と、
「!」
悪霊が空で霊力を口に溜め始めた。やべ、
急遽練っていた霊力を分解し、違う形に練り直す。直後。
「オアァァァアアア!」
緑の霊力波が放たれた。色が付いてるのはそれほど霊力が濃いからか。
勝てるか知らんが、こっちも放つ。
「霊哮!」
こっちの方が遅かったのもあってちょっと負けてるか。霊力の濃さも質も向こうが上か。が…
「怨霊解放…《肆式!霊哮二波!》」
一気に肆式を解放して霊哮を消し、再度霊哮を放つ。今度の霊哮は黒い。
伍式でも良かったか?と思いつつ多分無理だな、と思い直して相手の霊力波を穿つ。細く、濃く凝縮させた霊力は相手の霊力波より一回り細かったがそのおかげで真ん中を貫きながら進み、そして、
「ウロアッ…!」
霊力波を打ち消した。反動で飛んでたのか、あいつ。
まあ、空にいたほうが都合がいい。そのまま霊力を再度練る。
「ラスト…霊葬魂呪!」
相手の核、魂の場所にピンポイントで霊葬魂呪を放つ。無論、弱めで。強くしすぎると魂がやられるからな。あくまで無力化させるぐらいの威力で。
「ガッ…ア、アアアァァァァァ…」
と、悪霊はボドボドと肉塊を落とし、細くなって元の大きさに戻り、地面に落ちてきて倒れた。肉塊は落ちる途中で霧散した。と、
「ぁ…」
刹那に任せていた方の肉塊も霧散したようだ。
「お、終わったん、ですか…」
…刹那は限界そうだな。
「まだ一段落ってことだな。こっからが勝負だ。」
「ま、まだ、戦うん、ですか…」
いや、違う。
「こいつを成仏させるために未練を解消させる。だから戦う必要はない。」
「よ、良かっ…あ、げ、げんか…」
─規制音─
「…さて、と。」
とりあえず無かったことにしておいて悪霊に近づく。
「ウ…」
「…おい、そろそろ喋ってくれ。言葉は話せるだろ?」
「……知っ…てた…のか…?」
「そりゃあな。悪霊は知能を持ったやつも半分ぐらいいる。…ま、わざわざ隠れて力を溜めるような真似をする悪霊がいたとは驚きだったが。」
正直これはビビった。その手があったかってね。負の感情を元にして悪霊とか怨霊は成長するからほっといても強くなるんだわ、これが。
「そう、か…成仏させるなら、早くしてくれ…僕は、負けた、んだろ…う?」
「まあな。だが、別に強制的に成仏させるわけじゃない。」
相手の顔の近くに寄る。
「…何があんたをそんな悪霊にさせたのか、それを聞きたい。」
「…言って…何になる…」
「解決できることなら俺が協力する。解決できないことならできる限り代替案を見つける。何にせよ、悪霊だろうが一応元人間。話ができるなら聞かねえとな。」
と、悪霊はふっ、と笑った。
「そう、か。…どうにもできないと思うけど、聞くだけ聞いてくれるかな。」
「ああ。」
ぽつぽつと話しだした彼の話を要約するとこうだ。
彼は元々普通の会社員だった。給料も高くもなく低くもなく、まあ普通の生活をしていた。
そんなある日、彼は部長の横領を見つけてしまった。どうするべきかとさんざん悩んだ挙げ句、会社の仲間達にも話して、部長に詰め寄った。結果、横領は事実で部長は解雇、警察にも連れて行かれたが、まだ額がそこまで高かったわけでもなく、返金と罰金で済んだ。済んでしまった。
その1ヶ月後に彼の家にネットでした買い物の配達員が来た。彼の家は後ろに山がある平屋で、広くはないが普通の平屋である。ネットで買い物を済ませることが多かった彼はそのまま開けて荷物を受け取り、配達員が去るのを見てからドアを閉めようとした。が、閉める直前、誰かにドアの隙間に足を挟まれて閉めれなくなった。配達員の反対方向を思わず見ると彼の部長がいたという。その直後腹が熱いことに気が付き、自分が倒れたのに気がついた。同時に刺されたらしいと気がついたがスマホは手元に無いし、唯一の同居人である妹も大学に行っていて家に誰もいなかった彼はそのまま死んでしまったという。が、だ。ここからが問題で、その後彼は霊体になって一部始終を見ていたのだ。その部長は彼の遺体を運び、後ろの山に埋めたのだという。妹は翌日になっても連絡もなく、帰って来もしないことを不審に思って通報、警察の捜査が始まったが、どうやったのか血痕も指紋も全く残っていなかった上警察に問題視された部長もどういうことか近所のスーパーに行っていたとかいうアリバイがあったという。
そして、山の中で見つけられることなく肉体が腐敗していくと共に彼の霊体も腐っているようになって、悪霊と化した…というのが一連の顛末らしい。
「うへっ…これヤバいな…」
正直言って濃い。めちゃくちゃ濃い。そりゃ知能もあるしこんな悪霊になるわけだ。
「解決できるなら、してみてください。」
うーん、そうだな…………よし、
「なんとかいけそうかな。」
「…えっ?」
驚いてる驚いてる。こういう場合はテンプレートがあるんだよな。
「とりあえずは部長に警察に自白させるように誘導する。んで、自白すると罪が軽くなる可能性もあるから追い打ちをかける。だいたいこの二段階かな。」
彼に向かって二本指を立てつつ言う。
「そ、そんな事が…」
「ああ。んで、それに関してはそっちにも協力してもらわないといけない。…できるか?」
と、彼はグッ、と起き上がって真剣そうに言った。
「私からお願いさせてもらうのだ、勿論協力させてもらうよ。」
…オーケー。なら…
「とりあえず一回俺に取り込まれてくれ。」
「…………………はい?」
…あ、言葉足らずか。
「流石に街中をそれで歩かせるわけにいかないからな。霊力をこっちに渡してくれるとあとはこっちでできる。」
が、彼は首を傾げながら…というかめっちゃ曲げながら呟いた。
「れ、霊力を渡す…?」
そこからか。うーん…
「分かった、じゃあ霊力波は出せたよな?あれを俺に向かって撃ってくれ。そこから回収する。」
「で、でもそれじゃ君が怪我するんじゃ…」
まあ普通に考えたらそうなるか。
「散々攻撃しといて今その心配かよ。…問題ない。俺はちょっと特殊なんでね。」
彼は渋々といったように手をこっちに向けて、小さく霊力を溜めた。で…
「…ふっ!」
細くとも勢いよく霊力波が放たれた。同時に俺もそれを霊力で保護した右手で受け、そのまま手の中で循環させる。んで…
「…よしよし、
と、
「うおっ!?」
彼が俺の右手に吸い込まれた。
で、右手の上に映像通信みたいに彼が浮かぶ。
「わっ!?なんだコレ!?」
まあビビるよな。
「まあ、ちょっとあんたを取り込んだって感じ。んじゃ、そっちからこっちは見えるか?」
右手に話しかけると、彼の像が俺と同じ方向を向く。
「見え…るね。どうなってんだいこれ…」
見えるらしい。なら問題ないな。
「まあまあ、んじゃ、その部長の家まで案内できるか?」
「分かった、頼むよ?」
「了解…と行きたいところだが…」
「?」
視界の隅に視線をやる。
「刹那ー大丈夫かー?」
「だっ…大丈夫、じゃ…ないです…」
マジで限界そうだな。んー…
「先戻っとくか?」
「う……でき、れば…」
うん、完全に限界だな。
「悪い、先にあいつを家に戻してもいいか?」
と、彼は少し笑って、
「ああ、まだ夜は長い。あの子のほうが大事だろう?」
とのこと。
まあ…な。何やら色々意味を含んでそうな物言いだったが、とりあえず限界の刹那をおぶって先に事務所まで連れて行くことにした。ちなみに餓者髑髏と結界は既に解けてた。よほど限界だったんだな。