妖従者と霊操者の現代録   作:謎の通行人 δ

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着物を買う

というわけで飛んで土曜日。

学校が終わって坂本さんが来るのを待っていた。

この数日で山彦を使って霊の言葉を代替させるのと、霊力を過密度圧縮させて実体化させるのは成功した。問題は山彦と坂本さんの喋るタイミングを一致させることだったのだが、実体化させてしまえば妖怪が取り憑くことはできないのか、という坂本さんの考えでやってみたら、できてしまった。マジ?霊に妖怪って取り憑けるんだ…ただ、実体化を解いてしまうと山彦も弾き出されてしまったため、何が何でも坂本さんが着物を買っている間は霊力を止めてはいけないことになった。まあ止まることは無いと思うけど。

そして。

 

「じゃあ、できる限り急ぐよ。」

 

「いや、じっくり選んでてくれ。んじゃ始めるぞ…怨霊解放、《伍式。》」

色々やった結果、一応伍式までまず解放しておいて、途中から肆式、参式まで最終的に開放すれば3時間はまず問題ないのが結果だ。というかリョウ自体が永久エネルギー炉みたいなものだからな…参式まで行くと霊力の回復量と消費量の差が伍式のときと倍近く減るからな。

まあそこはさておき。

坂本さんの全体に繋げていたリンク先を魂の方に移す。そして、俺の本体から体の外側から、と魂から内側から大量の霊力を流し込み、密度を上げていく。どんどん坂本さんの姿が濃くなっていく。そして…

 

「《………よし、ここらへんかな。坂本さん、ドアをすり抜けようとしてみてくれ。》」

 

「了解…うん、無理だね。」

よし、問題ない。完全に実体化したな。更にここから霊力を流し込んでいって…

 

「《よし、ここだ。ここから毎秒これぐらいのペースで…》」

外側から霊力を伝えるのをやめ、右手から魂の方へと霊力を流すだけにする。

 

「《もう大丈夫だ。》」

 

「分かりました。山彦、取り憑いて。」

 

「ウン」

…山彦って素の声あんな感じなんだ。今初めて聞いた気がする。つか山じゃないのに普通にいられるんだな。

 

「よし、じゃあ行ってくるよ。」

 

──────────

─────

 

「さて、と。どんな感じになってるか見ますか?」

 

「《……見れるのか?それ。》」

 

「はい。百々目鬼の力を使えば。」

百々目鬼か。聞いたことはある。目がいっぱいあって悪事をした人を見つける目の妖怪だったな。

 

「《…悪事はしてないだろ。》」

 

「いえ、見るだけなら何でも見れますよ。」

そうなのか。、っと、そろそろ伍式じゃきつくなりそうだな。伝える霊力の量を変えないようにしつつ…

 

「《怨霊解放、肆式。》」

 

──────────

─────

《坂本side》

本当に…本当にあの二人には感謝しかない。

自分よりも確実に年下の二人だ。なのに、自分を助けてくれた。

あの少年は…強い人だ。どんな状況でも周りの人を見て、()()()というだけでやり遂げる。

あの少女は…賢い人だ。何が起こっても想定通りの如く何が駄目だったが何が起こったかを理解しようとして、最適な行動を起こせるようにする。

彼らが何者なのかは詮索しないようにしている。というか恐らく名前を出してはいけない人達だ。表立ってあんなことをしてはならないだろう。生者は死者に干渉しすぎないべきだ。逆も言えることだが…まあ、エゴだが、これぐらい許してほしいと思ってる面もあったりする。

あの二人が良いと言ってくれたから。妹が待っていると言っていたから。…せめて、これだけでいい。これだけでいいから遂げさせてほしい。

 

店についた。

…ここに来てちょっと不安が出てきた。大丈夫だろうか。…いや、だろうか、じゃない。大丈夫なんだ。ドアノブに触れるとしっかりとした感触がある。霊体だと触れることは触れるのだが、触覚が無い。しかし、確かに触る感触がある。

ドアを開けて入ると、着物がズラッと並んでいた。こんな感じなのか…

と回っていると、

 

「あ、いらっしゃいませ。」

 

「……あ、僕か。」

隅から声をかけられた。声の方を見るとエプロンのようなものをつけた店員だろうか、大学生位の女性がこっちを向いていた。少し周りを見渡してから自分に対してだと気がつく。

いや…霊体だった時間がありすぎて自分が話しかけられてる感覚が薄れてた。ダメだね、これは。

と、店員と思われる人は、立ち上がってこっちに来た。

な、何だ…?

 

「なにかお探しでしょうか。」

…あ、あぁ、そういうことか。

 

「あー、その、着物を妹にプレゼントしたいんだが、どんなものがあるかと。」

ちゃんと聞こえているか…?僕の耳には少なくとも僕の声しか聞こえていない。山彦といったか。ちゃんとしてくれよっ…!

 

「妹さんへのプレゼントですか!いいですね!きっと喜びますよ!」

良かった。聞こえていた。さて…ここからが問題だ。どんな物が良いか…

 

「そうですね…妹さんのサイズとかって聞いてますか?」

 

「あー、メモを預かってます。いや、本人から渡すまで絶対に見せるなと釘を差されてまして…」

とりあえずポケットからメモを取り、店員さんに渡す。

 

「なるほど…分かりました。じゃあ、着物の柄はどうしましょう。妹さんの好きなお花とかありますか?」

そう、だな。

 

「花の柄…そうだ、すみれが好きだったな。」

 

「すみれですか。確か…こっちに…あっ、こんなのどうでしょう!」

出してきたのはすみれの花があちこちに描かれた着物。だが…何か違う気が、いや、なにか違うじゃ駄目だ。せっかく出してきてくれたんだからせめて…

 

 

『中途半端で終わらせるな。妹さんの事を大事に思ってるなら、完璧にやり通してみてくれ。』

 

 

………はぁ、駄目だな、僕は。全く…

 

「良い…ですけど、なにか違うというか…」

 

「何か、ですか。そうですね…」

それから多分十数着見せてもらったと思う。その中で、だ。

 

「…これだ。」

あの子が着ている姿が目に浮かぶような、綺麗な着物だ。

すみれの花が淡く大きく2つだけ描かれた全体的に薄い紫色に染められた着物だ。

 

「これ…ですか?」

 

「ああ…何か不都合があったか?」

 

「あ、いえ、そういうわけではないんですが、少し…いや、これかなり値段が高くて…」

値段を見てみると、確かに他の着物よりかなり高い。だが…

 

「いや、これでいい。お金ならあるんだ。」

どうせこちとら死んでる身だ。遺すのも一つの手だが、最後の最後で妥協したくない。最終貯金まで下ろせば200は下らないだろうし、まあ問題ない。

その後も帯や留め金などを買い、一緒に簪も買って会計に進む。

 

「それでは…お会計78万9000円になります。…あ、それと、プレゼントということでしたらこちらからラッピングと配送をいたしますが、どうしますか?」

確かにちょっとかかるね…まあ、これぐらいなら問題ないけどね。

さて…なるほど、その手があったか。渡し方についても色々と考えていたけど、たしかにそれなら問題無いかな。

 

「じゃあ…それで。送料はいくらぐらいになるんだ?」

と、店員さんは少し考えて、「ちょっと待っててください」と言って奥に戻っていった。何だろう。

 

「…はい、お誕生日のプレゼントということで、送料は無しにして頂きます。こちらに、お名前の方を。」

 

「え、良いのか?」

 

「はい。店長と話したところ、問題ないとの事でしたので。」

 

「そうか。それならありがたい。…そうだ、そのプレゼントの箱の中に、手紙を入れて貰ってもいいかな?当日ちょっと家にいれる時間が限られていてね…その時間に着物が来ないと大変だから、同封していてもらいたいんだ。」

鞄から手紙を一通取り出して言う。…本来なら置いておこうと思ってたんだが、サプライズ的なやつだ。この数日で書いておいた。

 

「そういうことでしたら問題ありませんよ。お預かりします。」

 

「ああ。あ、中身は見ないでおくれよ?」

 

「ふふ、勿論です。」

で、紙にサインを…あ、判子が無い…

 

「すまない、判子がないんだが…」

 

「あ、その場合はサインだけでも結構ですよ。住所と電話番号も書いておいてください。」

電話番号…どうするか。一応書いておくか。こういうのでかかってきたことなかったけどねぇ…

 

「書けたよ。それと…料金だね。」

紙とお代、78万9000円をキッチリ払う。

 

「では、お預かり…ん?」

ん?何かまずかったか…?

 

「なにか?」

 

「あ、いえ、お名前のほうがちょっと…」

名前…あー、この間、部長の裁判がちょっと有名になってたからね。それで僕の名前も出てるってわけか。変なベクトルで有名人になっちゃったなぁ…

 

「なるほどね。でも生憎僕はここにいるよ。」

 

「ふふ、一瞬幽霊とかかと思っちゃいました。こんなのですけど、一応幽霊とか信じてるタイプなので。」

まぁその通り、幽霊なんだけどね。

 

「まあ、どこかにはいるかも知れないね。」

 

「そう、ですね。では、包装はどうしましょうか。こちらから選べますが。」

幽霊は置いておいて、提示してきた包装紙は5種類。柄は同じだけど、色が違う。うーん…そうだね。

 

「白で頼むよ。」

 

「かしこまりました。では…妹さんのお誕生日はいつでしょうか。」

 

「明日だよ。」

 

「分かりました。明日となりますと…12時頃に配達という形になりますが、大丈夫でしょうか。」

12時…まあ、流石に起きてるだろう。

手渡せないのは残念だが、流石に無理だ。妹は、あの子は僕が死んだことを知っているから。

 

「問題ない。…まあ、その時間にはもう僕家にいないけどね。まあ渡せるなら。」

と、店員さんは少し考えてからこちらを向き、返事をした。

 

「………かしこまりました。では明日、必ずお届けしますので。」

 

「ああ…頼むよ。」

それだけ言って、店を出た。

…上手く、やれただろうか。いや、やれたんだろう。あの子達には、礼を言わないといけないね。




どうもただの謎存在です。
はい、この章も後2、3話となりました。
相変わらずですけど、日常系書くの難しい…あと、1章が終わったらまた書き貯めるためにちょっとまた休むかもです。まあでも、それはそこまで長くはならないはずです。



では、最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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