そして翌日─────
《坂本妹side》
「………」
兄さんが死んで、どれぐらい経ったかな。三週間…一月位ぐらい…か。大学ではもうなんともないように振る舞ってるけど、家に帰ってきて誰もいないんだなって思うとやっぱり、寂しい。
先週兄さんを殺した元部長とかいうのの裁判に出た。何があったのか知らないけど、急に警察署に駆け込んできて自白して、ソイツは兄さんの霊に憑かれたとか何とか言ってた。
…ふざけるな。
今思い出しても腹が立つ…勝手に…兄さんを殺しておいて…何が霊だ…何度私が殺してやろうと思ったか…!
…でも、兄さんは多分望んでないだろうなって思うと、やっぱりやる気は失せる。
………私がまだ10歳のとき、父さんと母さんがいなくなった。交通事故だった。それから親戚の家にも行ったけど、
私は、多分引きずるタイプなんだろうな…あの時は、結局兄さんがお金の援助だけしてもらって二人で暮らすことにして、側にいてくれたから、何とかなった。でもっ…
「どうしたらっ…良いの…っ!」
優しかった兄さん。たまにちょっと面倒くさいときもあったけど、それでも、寄り添っていてくれた。でも、その寄りかかるのを許してくれた兄さんが、いなくなったら…今度は…誰を…
と、その時だ。
ピーンポーン
チャイムが、鳴った。
配達なんて頼んでないし、わざわざここに来るような人はいない。
信じられないような心持ちをしながら、ドアに駆けていく。──もしかしたら、ドアの向こうに兄さんがいるかも知れない、そう思ってた。
「は、はい。」
震える声で、応える。と…
「お届け物ですー。」
……違った。そりゃそうか。頭から熱が急に冷めていく。無感情でドアを開け、前の女の人を見る。いやそれより謎に大きないかにもプレゼントと言わんばかりの白い包装をされた箱の方に目が行く。
でも、次の一言で急激に体中に熱が籠もった。
「お兄さんから、妹さんに誕生日プレゼントだ、と。」
「…は、」
数分、そこで止まっていたような気がする。
何て、言った?兄さん、から…?なんで?どういうこと?人違い?あぁそうか、そういうことか。
「あの、家が違うのではないでしょうか。」
「え?でもここ坂本さんのお宅ですよね?坂本
…間違って、ない…?
どう、いう…え、どう、え?
一瞬で頭の中がパニックになる。
何が、起きて、いる…?
「元々12時程に配達予定だったのですが、湊様がその時間にはもう家を出ているかもしれないとおっしゃっていたので、お二人にサプライズということで2時間早めに配達させていただいたのですが…いらっしゃらないようで…?」
「あ、え、兄、は…」
何を、言えばいい…?
頭が、回らない…何…?
何が…?
体から、力が抜ける。立てない…何で、意識は、はっきりしてるのに…あれ、手が濡れて…何で、私、泣いて…?
「えっ、あ、大丈夫ですか!?えっと…」
「あ…すみま、せん、兄は、」
どう、言えば…
「もう、家を出て、いて…」
「あー…もう一時間早く来るべきでしたか…」
「あ、いえ、その、もう朝には…」
「!予定が狂いでもしたんでしょうか…?」
「あ、はは、かも、しれない、ですね…ちょっと、嬉しくて…つい…」
必死に笑おうとする。でも、笑えない。涙が、止まらない…
「お兄さん、真剣に選ばれてましたよ。4時間もずっと選び続けて。よほど大切に思ってらっしゃるんだと思いますよ。」
っ…兄…さん…
そこから、少し意識が朦朧としていた気がする。
なんとか立ち上がって、サインをして…なんか記憶がモヤモヤとしてる。まだ何か、信じられない物が起こっているような、それでいて、この箱を開けたらすべてが終わってしまいそうな、そんな、感じ。……兄さんも、優柔不断だったな…
…ゆっくりと、箱を開ける。まず目に入ってきたのは、紫の背景の上に乗せられた一通の手紙。
そして、その下にあったのは、これ、は…
「すみれ、の、着物…」
いつだったか、口を滑らせて兄さんに言ってしまった成人したら着物がほしいという我儘。
…まさか、覚えてて…それに、すみれの、花…
「…これ、は、」
震える手で手紙を開封して、中身を取る。…独特の、走ったような汚く見える、兄さんの字だ。
優香へ
とりあえず着物、ちゃんと届いたかな?
前に言ってたよね?成人した誕生日には綺麗な着物がほしいって。それを着て成人式に出て兄さんを泣かせてやるって言ってたっけか。随分と大きく出たなと思ったけど、案外そうでもなかったかもね。
実際選んでる途中でどれが似合うかとか考えてたら、これを着てる優香の姿を想像して既にうるっと来そうになってたよ。
さて、まあ取り敢えずは成人の誕生日おめでとう。多分僕はその場にいないと思うから手紙で伝えるしかなくなっちゃうと思うけど、何事もなく無事でいてくれて嬉しいよ。
ここまで。ここまで読んで限界だった。泣いた。完全に泣いた。
成人した誕生日が、こんなに嬉しくて悲しい誕生日でいいのか。良い訳が無い。
私が無事でも…兄さんは全く無事じゃないっ…何で…こんなもの、こんな、もの…
視界が、ぼやける。手紙が読めない。拭っても拭っても止まらない。やめて…もう、十分泣いたよ…これ以上…
その合間に、見えた。
ちょっと色々と複雑なんだけど、
複…雑…?
何を、言って…?
ちょっと色々と複雑なんだけど、まあ、とりあえず僕が今死んでるってのは分かってる。あの部長のせいでね。ちなみにこれ書いてるの多分優香がこれ読んでる二日前だよ。
…は?
え、どう、いう…?
頭の中がごちゃごちゃになっていた状態から、一気に一色、意味不明な混乱へと移る。
兄さんは確かにおちゃらけてるところもあるけど、真面目な人だ。急に変なことを言い出すような人間じゃない。
とりあえず、とりあえず全部読むことにする。
いや、信じてもらえなくてもしょうがないんだろうけど、僕今何か幽霊の状態みたいで。まあ、他の人から視認されるどころか気付かれることもない事になってた。
更にその上、部長に対する怒りやらなんやらで何かすごいことになってたんだって。詳細は言えないけど。とあるその子に言わせれば「悪霊」っていう、まあ暴走状態の霊だったんだって。
でも、そんな僕を助けてくれた子がいた。…いや、子達、か。一人は高校生の男の子。一人は…あれは何才ぐらいなのかな、まあ、多分男の子より年下の女の子。彼らは幽霊とかが見える子たちみたいでね。いや本当に何言ってるんだと思うかもしれないけど。(笑)
それで、暴れてた僕を鎮めて、色々と世話になった。あの部長にも意趣返しができたしね。それに、彼らのおかげで、優香の着物も買えた。詳細を言ってもわからないと思うから省くけど、とりあえず、買ったのは僕自身だし、僕は死んじゃったけど確かにここにいるよってこと。まあそのうち成仏しちゃうのかもしれないんだけどね。まあ当分は大丈夫なんじゃない?
さて!まあそういう話は置いておいて、できれば優香の前で着付けした姿を見たかったんだけどねぇ、流石にそれはできなそうだから想像にとどめとくよ。多分警察から遺骨とかもらうと思うから、その前で着付けして見せてみておくれ。もしかしたら見えるかもしれないしね。
…そして。優香は真面目だから、色々と引きずっちゃうかもしれない。というか絶賛今引きずってるかもしれないね。ちょっと自意識過剰かな?
まあでも、心配しないで。ちゃんと僕はいるよ。目には見えなくても、音は聞こえなくても、触れることができなくても、僕はちゃんと優香の兄として、そこにいる。
忘れろとは言わない。というか僕自身忘れてほしくはない。でも、気には病まないでほしい。僕は僕、優香は優香。血の繋がりはあるし、もちろん中も良かったと自負してる。喧嘩もたまにしたし、ずっと一緒にいる気ではいたけど、何も僕の痛みまで優香が背負うことはないし、そんなことさせられないよ。
そんなこんなでこの手紙は最後になるけど、言っちゃえば僕が言いたいのはとりあえず優香には前を向いていてほしい、ってこと。後ろを向き続けても良いことなんかないよ。僕もきっと優香のことを見守ってるから。ね?前に、ゆっくりでいいから、歩き始めてほしい。兄からの、最後の我儘。最期じゃないよ、聞いてくれるね?じゃあ、またいつか、どこかで。
どうもただの謎存在です。
とりあえずこれで一章本編終了ですね。次がエピローグです。
感動テイストにしたかったのになんか違う気がする…?
まあいっか。
では、最後まで読んでくださり、ありがとうございました!