「おわっ、ひ、翡翠どうした!?」
横の席の真が背中をさすってくれる。
「ゲホッ、わ、悪ぃっ…ケホッケホッ、はぁー、ゴホッ…よし、落ち着いた」
「日陰ー、興奮し過ぎは良くないぞー」
と、一部一部から笑いが漏れる。
先生も乗ってくるでない。
「そういうわけじゃないんすけど…」
「まあでもめっちゃ可愛いのはそうだよな!」
「黒髪ロング…良い!」
「凄い綺麗ー!モデルさんみたい!」
「翡翠って意外と初心なんだな」
各々がざわざわとする。…おい最後こら。
「で、空いてる席だが…そうだな、むせこんだ翡翠の後ろが空いてるな」
おいこっち来んのかよ!あの教師絶対遊んでんだろ!
「よろしくおねがいしますね、翡翠さん」
…こいつ…
で、その後ホームが終わり、一限まで10分ほど時間が開いた。…今か。
「お前ちょっとこっち来い」
で、千刹と名乗る、恐らく…というか十中八九刹那の腕を掴んで引っ張る。とりあえず屋上。
教室内から奇怪の視線が送られたがそれよりやることがある。
──────────
─────
「な、ななな何ですか!?」
「しらばっくれんなお前…何してんだ」
で、屋上。とりあえず放り出して手首は離す。
「な、何の事だか…」
右手を向けて霊力を溜める。
「……霊葬魂…」
「あ待って待って待ってください!?」
吐いたな。つか…
「そこまで焦るか?」
確かに一応攻撃の方法の一つとはいえ、霊葬魂呪は直接ダメージを与えるものではない。霊体に関しては成仏作用があるが、妖怪などには威力半減、人間に対しては精々行動に制限をかける程度でしかない。
「そりゃあ鴉天狗を消せる時点で相当なものですから…何が起こるかわかりませんし」
「え、そんな強かったのか?鴉天狗って」
と、刹那は少し溜め息をついてから言う。
「そうですよ。一般的に天狗は種族なしのただの天狗や行っても木の葉天狗などが多いんですが、鴉天狗や白狼天狗はそれを纏める位置に値します。まあ、かなり高格の妖怪ではありますね」
…そうだったのか。つかそう考えるとこいつ結構ヤバめの妖怪ぶつけてきてなかったか?
餓者髑髏は言うまでもないが、鴉天狗もそうとなると…三体しか出してなかった上、5割程度の力でしかなかったとはいえよく勝てたな、俺。
「…まぁそれにしても…よく気付きましたね。姿形も完全に変えていたんですが」
と、ノイズが晴れるように千刹須臾という人の姿から昨日見た刹那の姿へと変わる。
「まあ色々ときっかけはあったがな。まあ一番大きかったのはそいつだな」
刹那の肩を指す。
「え?…あ、」
「木霊、だな」
肩の上で木霊が拍手しながらぴょんぴょん跳ねている。…器用な事するもんだ。
「…で、身長然り見た目然り、年齢詐称然りどうやったんだ?」
まあとりあえず色々と聞かなきゃな。
姿の変換とかには、俺はなんか耐性があるらしいが、それを貫通させて欺いた。
それに、本来2つ上のこいつが同じ学校、同じ学年の同じクラスに編入してくるとか本当に何やったんだ…
「見た目に関しては…まあ、術の精度を上げたといいますか。いままで使っていたのはただの化け術…普通の狐や狸、化け猫なんかが使うものだったんですね。で、今使っているのは九尾等が使うレベルの化け術、並大抵の看破能力ではそうそう見破られるようなものではありません」
あーなるほど?つまりめちゃめちゃ高度な化け方をしてるってわけか。…つか術っていうか化けてたんだな。
「年齢については…まあ、こっちの方でちょっと工作を…」
「お前…」
何やってんだマジで。
年齢工作は洒落にならんぞ。経歴とかどうする気だ。
「…まあ、そこはまだ良いとするか。…最後、本題だ。龍骸ってのは何なんだ?」
と、刹那の様子が変わった。
目が揺れ、反らし、明らかに動揺が見られる。
「それは…その…」
「…別に言いたくないなら良いんだが、それが原因で毎日家の前に黒服四人が待ち受けてるのは心臓に悪ぃからなぁ…」
と、刹那が少し食いついた。
「何かされたんですか?」
「うぉ、お、おう、龍骸様と接触するなとか誑かすな的な感じのことを言われてからリョウがちょっとキレて怨霊を数十召喚してたのを鎮めたりしてた」
《あれはしょうがない。》と声が聞こえた気がしたが、気の所為にしておく。
「なるほど…?後半はともかく前半ですね…
「…となると、この龍骸様ってのは刹那のことなんだよな?」
と、少しまごついてから刹那は首を縦に振った。…歯切れが悪いな。
「そうか。…お前一体何者なんだ?呼び方然りあの黒服の対応然り、どう見ても普通の家の人間への対応じゃない。…というかそもそもだが、俺も今まで幽霊こそ日常的に見てたが妖怪なんか見たことがなかった。だが、お前に会ってからチラチラと視認できるようになった。話したくないなら別にいいが、一応聞く。一体どういうことなんだ?何が起こってる?」
と、刹那は一度目を閉じ、大きく息を吐き、再び大きく吸ってからキッ、とこっちを見据えた。
「…分かりました、お話します。ですが、今それを話すにはあまりにも時間が無さすぎます。昼休みにここでか、放課後に事務所でか、どちらがいいですか?」
…なるほど、中々面倒な事情が絡まってそうだな。
「分かった。放課後、あのアパートで」
と、刹那は小さく頷き、言った。
「では、一旦私は「千刹 須臾」に戻りますね」
と、刹那の様子が一瞬で例の少女の姿に変化する。
「…そうでした、一つだけ約束してください」
「?」
屋上から去ろうとした俺に刹那が声をかける。
「この事情はかなり複雑で、人によってはショックを受けてしまうことでもあります。それはどうか、ご了承を」
「…了解」
複雑でショックを受けるかもしれない…か。
少し考え事をしながら階段を降りて教室に向かう。…そろそろチャイムが鳴るか。
「お、翡翠ー。どうした?なんかあった?フラれた?」
と、予想通り真が食いついてきた。が…
「別に…つかなんだフラれたって。どっからそんな話が出てきてんだ」
「いや、クラスの中ではお前が千刹さんに一目惚れして告白しに行ったって話になってるが」
な ん で そ う な る … ?
どこの誰が言い始めたのか知らんがどういう考えからそうなったのか説明してほしいところだ。
「んなわけあるか。…知り合いなんだよ、あいつ。連絡も何もなく急にここに来たもんだから何事かと思って話を聞きに行ってただけだ」
まあ、間違いではないからそういうことにしとこう。
「なんだそういうことかー。おーい、翡翠フラれたってー!」
「おい待てお前何でそうなるおい!」
大声で教室中にそういうこと言うな馬鹿!噂好きな野郎どもがニヤニヤしてんじゃねえか!
「真テメェ…!根も葉も無ぇいらん噂をばら撒くんじゃねぇ…!!」
後ろから真の頭をガッツリ掴み、揺さぶりまくる。
「っはは!まあまあ、人の噂も七十五日って言うじゃん?」
「な・ん・で・お前らの娯楽のために七十五日も辱められなけりゃいけねえんだよ!」
つかこいつ三半規管めっちゃ強いな。こんだけ動かしてんのに余裕で笑ってるんだが。
と、
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、一限の開始を知らせた。
…チッ、まあしゃあないか。
ちなみにこの後刹那に「何を言いふらしたんですか?」と詰め寄られたのはまた別の話。
どうもただの謎存在です。
何かシリアスっぽくてシリアスじゃないギリギリのラインを行ってますねぇ…本当に、なんか前半はとりあえず背景説明みたいになっちゃってるんでおもんないのが続きます。で、あと数話で本題行きます。
では、最後まで読んでくださり、ありがとうございました!