「まあ、ともかく名前の案ぐらい出しておいてください。」
あらかた聞くと、表向きに名前は出さないらしく、あくまでも妖怪、霊、あとその警察の特殊課のこっちに対する呼び方を決めるだけらしい。
「…まあ、それぐらいならいいか。」
デカデカと看板掲げるような真似をしなけりゃな。
っと、そうだ。
「つか、刹那って霊見えるのか?」
と、刹那の肩がピクッ、と動いた。
「……確かに、どうなんでしょうか。」
そうか、分からないってことは見えない可能性が高いな…霊って結構そこらへんにいたりするからな。一目見れば幽霊ってわかるし。それで分からないってことは少なくとも整霊は見えてないな。悪霊は…ちょっと微妙だな。怨霊は見えるはず。あれは一般人にも見えるからな。
霊に関する知識はリョウから聞いたものだが、霊は本来冥界という所にいるらしい。妖界や人界とはまた別の世界で、普通人や生き物は死んだらそこに行くらしいんだが、この間言った通り未練やらのこの世に対して何らかの心残りがあった場合魂がここに留まるようになって霊になるという。霊自体を形作っているのはその元々の生き物の魂と霊力なのだが、普通の人には霊力も魂も見えない。霊力は集まりに集まって凝縮されれば見えるようになるが、それはもう怨霊レベルまで圧縮されれば、の話。普通見えない。
で、だ。刹那が見ている妖怪のいる妖界っていうのは人界とは違うものの大きく見れば一つの世界。死んだものというよりかは恐怖や認識から生まれた精霊みたいなもののほうが近い。
ちなみにだが精霊と霊は全くの別物だ。つかそもそも精霊がいるのかは知らん。例えばの話だからな。閑話休題。
まあ、要するに霊と妖怪では存在している見方が違うというかなんというか…
刹那が見ているのは人界と妖界、2つのもともと同じ世界なのだが、俺が見ていたのは人界とそもそも違う世界。生き物と、生き物が死んだ成れの果て(言い方悪いな)のいる世界を見ている感じだ。図にするとこんな感じ。
図の言い方をすれば見ている方向が違うとも言えるか。
人界を基準にして、刹那が見ているのは横方向、俺が見ているのは縦方向なんだ。
妖怪は妖力があれば見えるらしいが、霊はそうはいかないっていうのはそういうこと。霊力があっても冥界にアクセスできる能力が無いと霊は見えないってわけだ。
どうやったらアクセスできるのかは俺も知らん。生まれつきなんか見えてた。
「…なるほど。」
んでお前もお前で勝手に人の思考を読むなよ…
「ちなみにですが、翡翠さんは霊を出せたりしないんですか?」
?…あー、刹那がそんな感じだから、か。
「できないことはないが…いや、忘れてくれ。無理だ。」
と、刹那がじとーっとこっちを薄目で見てきた。
「…何で最初肯定したのに否定し直したんですか?」
聞こえてたか。…いや、まあそりゃそうか。
「出せないことはないが、それなら霊力を補うために怨霊解放を使う必要があるんだ。その状態で呼べばほとんどの霊がリョウの霊力に曝されて悪霊になる。もとから悪霊や怨霊を呼び出す分には構わないが、整霊を呼ぶのはまず無理っていう意味だ。…それに、そうなるとちょっとばかし厄介なもんでな。」
整霊を悪霊にすると、ちょっとと言わずかなり厄介なことになる。
整霊、悪霊、怨霊の違いは性格の違いのようなもので、主に負の感情の量の違いによって分類される。それを無理矢理変えると存在自体が揺らいでしまう可能性があるわけで…と言っても意味が分からないかもしれないから分かりやすい例で言うと、霊を構成している要素である思いや未練、まあそれを心と称するなら、それを外部から壊して無理矢理纏めてくっつけるみたいな感じになるわけで、つまり作り直すことになる。
その結果霊そのものに負担がかかって、最悪消滅。成仏とは違って、輪廻転生の輪からも外れて完全に
「まぁ…整霊位ならそこら辺にもいるだろうし、探せばいるんじゃないか?…あ、言っておくがあの足が無いシーツおばけみたいなやつは一体もいないぞ。…いや、いる可能性は0じゃないが、多分いねえ。大体生前の姿の内、未練を果たしやすい姿になってるはずだ。外見はちょっと透けてる人間って感じだな。」
整霊と悪霊は、な。悪霊の場合は人に危害を加えやすいように危険な見た目や恐ろしい見た目をしてる可能性はある。あと霊力が多いと透けてないパターンもある。
…怨霊はちょっと例外。リョウが出てきた段階で気づくと思うが、怨霊の場合は一部を除いて決まった形を持たない。負の感情と霊力が強すぎて形を維持できないから大体煙みたいになる。
「なるほど。なら、探せば今まで気が付かなかっただけで見えるのかもしれないですね。」
「そうだな。…外出歩いてて大丈夫なのか、って所はあるが。」
黒服共が警戒してる可能性あるしなぁ…
「それなら、
と、刹那の姿が一瞬ノイズに包まれる。で、ノイズが晴れると千刹須臾の姿になっていた。
「…それで出かけるとなるとクラスの輩に見つかると俺が面倒なんだが…他の仮の姿はないのか?」
ちなみに一応例の噂の誤解は解いてある。と、刹那は苦笑いして頬をかきながら言った。
「それが、その…あまり変身のレパートリーを増やしすぎるとどれが本当の私か分からなくなる可能性がありまして。私は使うキャラクターごとに背景とかを作って、そこから性格、容姿等を形作っているので元の姿以外に仮の姿が複数あると頭の中でごっちゃになるんですよ。」
聞いてみると、生まれたところから現在に至るまでのストーリーを作ってそれに矛盾しないように容姿を作るらしく、そのため3つも4つも姿を作っているとどの出来事がどの姿の出来事だったのかがごちゃごちゃになってしまうことがあるそう。
そりゃ面倒くさそうだな。
「まぁそれならしょうがないか。少しの泥ならこっちで払えるだろ。」
やむをえん場合はな。極力面倒事は避けたいところなんだが…さて、にしても整霊か…そういやここに来るまで一体も見てなかったな。それはそれで変だが…
と、
《ア、主…》
「ん?」
「?どうしました?」
あ、やべ声に出てたか。つーかこいつ起きてたのか。
「いや、なんでもない。(リョウ起きてたのか。どうした?)」
《アー、ココラヘンニ整霊ガイナイノハ朝ニ我ガ暴走シカケタカラカモ…》
…あー…
つまり、だ。十数秒とはいえ、相当高位のしかも怨霊が出現、更にその周りに数十の怨霊が同時出現したことによって無害な霊が怯えて出てこれなくなってる可能性がある、と…
「(お前のせいじゃん。)」
《グ…スマヌ…》
いやまあいいんだけど。…良くはないか。
「悪い、ここらへんには整霊がいなくなってるらしい。今霊が見れるか確認するんだったらちょっと離れたところに行かないと駄目っぽいが、どうする?」
と、刹那は少し考えながら答えた。
「うーんそうですね…まあ、今すぐの用事じゃないですし、また確認してみます。大体何日ぐらいで戻るでしょうか。」
そうだな…一回死んでるからか、意外と霊って用心深かったりビビりだったりするから…
「かなり短くて明日。長くても一週間あれば戻るだろ。」
少なくとも今日はないだろうな。あれだ、道に明らかにヤバくてゴツいヤクザが10人ぐらいいたら2、3日位そこ通るのちょっと躊躇うだろ?俺は躊躇う。それと一緒だ。…いや、それよりヤバいな。立ち位置的にはヤクザというよりは殺人鬼の方が近いか。
「なるほど。じゃあ明日からちょっと透けてる人がいないか注意しながら見てみますね。」
「不審者にならんようにな?」
言い方が不審者の予備軍なんだが…大丈夫だよな?