「楠木さんになんて言うの?」
「・・・今考え中です。」
珍騒動があった翌日3人は電車に乗っていた。
窓の外には山が並ぶのどかな風景が映し出されているが雨のためどこか雰囲気は暗い。
彼女等以外に乗る人がいない車内で千束空気を変えようと難しい表情でメモ帳を書くたきなに問いかけた。しかし彼女が素っ気なく返すため話すことの無くなる千束、彼女は少し悩むとポケットに手を入れ中から飴を取り出した。
「たきな、飴いる?」
「結構です。」
「・・・、」
「・・・井ノ上さんも色々考えることがあるんだからそっとしてやれよ。」
「でもさぁ〜!」
「でもじゃない。・・・てかお前健康診断だろ、いいのか?」
「1個だけだしいいじゃん!」
「糖分の摂取は血糖、中性脂肪、肝機能、その他の数値に影響を与えます。」
「そういうことだ。・・・ただでさえ普段から甘いものばっか食べてんだから今くらい我慢しとけ、」
渡そうとするが拒否されたため千束は自信で舐めようと開けるがそこで駿が止めに入る。
そんな彼に文句を垂れていると今度はたきなから言葉が飛んできてしまいその内容に顔を引き攣らせた。
「それは糖分補給!頭使うから糖分ないとやってられないじゃん!」
「・・・頭使ってますか?」
「酷い!?私は結構頭使ってるんだぞ!」
「そうでしょうか・・・。」
「・・・駿、たきなが虐める!!」
「はいはい、俺はわかってるから大丈夫だぞ。」
「・・・なんか適当じゃない?」
「・・・気のせいだ。」
「気のせいじゃないでしょう!」
「ちょっ、馬鹿!暴れんなここ電車内だぞ!」
たきなのあんまりな言葉に千束は涙目になりながら駿に抱きつく、そんな彼女に彼が棒読みで返すと顔を上げジト目を向ける彼女、それを視線を外しながら答える彼に彼女は顔を赤くしながら飛びかかった。
それからも車内は彼女達の最寄り駅に着くまで騒がしいままだった。
「お待ちしておりました。錦木様、井ノ上様、羽東様。」
「いつもご苦労さまです。」
「・・・仕事ですので、それでは中へ。」
3人が駅を出るのそこには黒いワンボックス車とその前に立つ傘を指した女性がいた。
女性は3人に気づくとこちらの名前を呼ぶためそちらに歩いていくと車のドアが開き中へと促される。
3人は指示に従い車内に入るとドアが閉まり車は山の方へと走っていった。
車が進むこと数十分、建物が見えなくなり木々と道のみが視界に広がる中、道の先に仰々しいゲートがたっておりそこには『この先国有地につき立ち入り禁止』と書かれゲートを囲むように無数の監視カメラ群が並んでいた。
「べぇ〜だ。」
「・・・いつもやるよな、」
「まあ・・・ねぇ?」
ゲートの前で車が止まると窓越しにそれを見た千束は嫌そうな顔をしながらカメラに向かって舌を出す。それを見て呆れた表情をする彼であったがそんな彼も表情には出さないがカメラを睨みつけていた。
しばらく経つとゲートは重々しく開きアナウンスに従い車が動き出す。そこからまた数分経つと木々が開け大きな建物が姿を表す。
「やっと着いたよDA本部。・・・ほんと時間かかるんだよな。」
「だから嫌なんじゃん、めんどくさいし。」
「けど来ないとマズイだろ?・・・着いたしさっさと済ませて帰るぞ。」
「賛成〜!」
「・・・。」
車が止まると降りて建物・・・DA本部へと入っていく3人、顔認証に金属探知機、パスワード入力などを済ませ奥へと入っていくとそこには大きな廊下があり紺やベージュの制服を着た少女達が歩いていた。
「錦木さんは体力測定ですので隣の医療棟へ、井ノ上さんは、」
「楠木司令にお会いしたいのですが、」
「司令は現在会議中です。お戻りになるのは2時間後ですが、」
「あれ、ほら味方殺しの、」
「DAから追い出されたんでしょう?」
「組んだ子みんな病院送りにするんだって、」
「チッ・・・やっぱりこうなってるか、」
廊下の先にある受付で案内を聞いていると背後から小声が聞こえてきた。それは全てたきなへと向けられたものでありそれを聞いた千束と駿は横目で確認しながら軽く睨む。
「なんだ、アイツら、」
「いつもの事だろ。」
「・・・となりますが、お待ちになりますか?」
「あっ・・・はい。」
「すみません、俺は付き添いなんで予定がなくて、空いてる模擬戦室ありますか?」
「そうですね・・・なら訓練所のとなりが2時間程空きがありますがお使いになりますか?」
「あそこですか・・・ならそれで、お願いします。」
「では申請しておきますのでこちらをどうぞ。」
「ありがとうございます。・・・2人共、行くぞ。」
駿は受付に空いてる場所を聞くとそこの使用申請をもらい2人を連れて受付を離れる。千束は納得いかない表情をしながら彼について行く、廊下を進んで行き3人以外誰もいないことを確認すると彼はたきなへと振り返った。
「気にすることないぞ。」
「元々気にしていません。」
「・・・そうか、」
「ほんとなんなのアイツら、イラッとくる!」
「先生にDAの外で育てられたお前と違って、彼女達はそう育てられてるんだから仕方ないだろ。」
「でも、さぁ〜。」
「現場にいなかったヤツのことなんて無視だ無視、どうせアイツ等じゃ気づかない。」
「・・・私は訓練所行くので失礼します。」
「うん、また後でね!」
2人が話し合う中、たきなは興味がないのか2人に断りの言葉を入れると1人何処かへと駆け出してしまう。それを見送った千束がその後ろ姿を見て悲しげな表情をすると駿はそっと彼女の頭に手を置く。
「今はそっとしといてやれ。」
「そう、だね。」
「・・・にしてもほんとここは嫌になる。お前の来たくない気持ちわかるわ。」
「でしょう!だから私嫌いなんだよ〜!」
「お前はただめんどいのも入ってるだろうが。」
「・・・なんか今から憂鬱だわ〜。」
先程のことが尾を引き気落ちする千束、それを見て駿は彼女を励まそうと考える。彼は少し悩むと何かを思い出したのか顔を上げた。
「気持ち切り替えなって言っても難しいか・・・そうだ、さっきまともそうな子が1人だけいたぞ。」
「本当!誰、誰!?」
「名前までは知らないがたぶんあの時人質に取られてた子だな。・・・井ノ上さんを見て申し訳なさそうにしてたし、罪悪感で声掛けられないんだろ。」
「・・・なんで教えてくれないのさ〜。」
「お前すぐ凸るだろ。いきなりされたら余計話しづらいと思ったからやめたんだ。」
「そんなことしないよ!・・・後で見つけたら教えて?」
「わかった。・・・もう時間だし早く行きな、着替えあるだろ?」
「そうじゃん、それじゃまた後で!」
「おう!」
彼の言葉を聞き元気を取り戻した千束は廊下の奥へと消えていった。
それを見た彼もゆっくりとした足取りで廊下の奥へと進んで行った。
「・・・さて、」
2人と別れた彼は1人薄暗い部屋にいた。
そこは学校などの体育館程の大きさであり中には彼の身長ほどの木箱や壁、柱などが不規則に設置されていた。その室内には数体の人形が所々に置かれている。
その中で彼は目を閉じ深呼吸を始めた。
初めはゆっくりとしたものであったそれは重ねる毎に次第にそのペースをあげていく。
深呼吸を十数回続けもはや過呼吸かと思えるペースになった時彼の目は開いた。
「ちょっと、八つ当たりさせて貰うぞ。」
そこには薄明かりの中で淡く輝く蒼眼があった。