「・・・おや?」
「千束!」
駿の別れた千束は体力測定のため更衣室へと来ていた。
最終日だからか人のほとんどいない室内で1人の少女を見つけると彼女は笑いながら声をかける。
「しっかり者のフキさんがライセンス更新最終日なんてどうしちゃったの?」
「忙しかったんだよ。お前のズボラと一緒にすんな。どうせ今回もアイツに連れてこられたんだろ。」
「いや〜。今回は先生に言われてねぇ?」
「・・・先生に迷惑かけるなよ。」
揶揄うように笑う彼女にフキと呼ぼれた少女は軽く睨みながら嫌味を返す。
しかし千束は気にすることなくロッカーを開け準備を始めたのでフキは顔を背けるように自身のロッカーへと向き直る。
「・・・先生はお元気か?」
「元気だよ〜。たまには遊びにおいでよ!」
「だから!」
「はいはい、任務外の勝手な外出は出来ないって言うんでしょう?」
「不満はねぇよ。」
「会いたい人にも会えないのに〜?」
「ああ、もううっせぇ!終わり終わり!」
素っ気ない態度を取るフキに千束はますますご機嫌になって彼女を揶揄う。それに顔を赤くしたフキはロッカーを乱暴に閉めると部屋の外へと出て行った。
「ウブですな〜、」
「てめぇにだけは言われたかねぇ!」
「おっと、聞こえてたか、」
「着替え終わってんならさっさと行くぞ!」
「は〜い。」
彼女が出ていったことを確認した千束が腹を抱えて笑っていると入口から顔を出すフキ、彼女の睨む中笑い続ける千束に言い返すと今度は千束が顔を赤くした。
「たきなとは上手くやれてんのかよ。」
「もっちろん!私も駿も殴ったりしませんからねぇ〜。」
「チッ、しつけぇな、お前は、」
「あっ!そうだ、駿から伝言!」
「・・・なんだよ。」
「今日会うことあったら模擬戦な、だって。」
「はぁあ!まだ根に持ってんのかよ・・・。」
「そりゃ禁句だからね。」
「いつも反応しねぇ癖に・・・今日体力測定で正解だったな。」
千束が外に出ると廊下でフキが待っており、歩き始めるとたきなについて聞いてきた。それを嫌味ったらしく返す千束に嫌味で返すと千束は思い出したかのように駿からの伝言をフキに伝える。
聞いたフキは顔を引き攣らせながらも体力測定をするため会うことは無いと安堵しているとその後ろで千束は薄らと笑っていた。
「・・・なんで連れてきた。」
「ん?」
「どうせ戻りたがってんだろ?」
「そうなの、なんでここがいいんだろうねぇ〜?」
「お前が変なんだよ。私達はDAに救われてここで育てられた。・・・アイツは別としてもお前には親への感謝とかねぇのかよ?」
「いや、ありますよ。でも、親離れ、みたいな?」
「先生持って行って親離れもねぇわ。・・・移転組にとって本部は特別だからな。」
「てか、それが分かってるならフキも協力してよ。」
「それは上層部が決めることだ。」
「そんなこと言わないでさぁ〜。」
体力測定のため様々な種目を一通り終わらせた2人は休憩室のベンチに腰をかけていた。
「相変わらずタフだな。」
「そりゃど〜も。」
「・・・何やってんだ。」
「駿に連絡、もうそろ終わるからたきな迎えに行ってそっち行くってね。」
「そうかよ。」
「あとフキが一緒に体力測定受けてることも教えといた。」
「・・・はぁ!巫山戯んなよてめぇ!?」
「にっひひ、まあ、頑張りたまえフキさん!」
「こいつ人ごとだからって!!」
「久しぶりだな千束。」
「「!?」」
フキはいきなりの爆弾発言に千束飛びかかろうとするが、その寸前入口側から声をかけられる。
その声に反応しそちらに視線を向けると、そこにはDAの司令である楠木の姿があった。
「はぁ〜、こんなもんか。」
千束達と別れて1時間程経った頃、駿は廊下に設置されている椅子に座っていた。
その手には普段から使用しているスタンガンがあり、それをお手玉するように中に投げながら悩ましそうな表情をしている。
「やっぱり、リーチが短いからワンテンポ遅れるんだよな〜。でも長くすると戻しが遅くなるから結局遅れるし、どうするか・・・ん?」
彼はスタンガンをしまい天井を見ながら考え込んでいると、不意に近寄ってくる足音が聞こえる。
「千束はまだ早いし井ノ上さんか?・・・どちら様でしょうか?」
「・・・あ、あのたきなと一緒に来ていた人ですよね?」
「あぁ、さっきの・・・そうですね。2人の付き添いで来ました。」
彼は時間からたきなだろうと考え音の方へと視線を向けるとそこには先程たきなを負い目を感じているように見ていた少女が立っている。
彼女は彼に言葉を詰まらせながら不安そうに声をかけてきたため彼は優しい表情をしながら返す。
「たきなは元気ですか、」
「元気ですよ。」
「・・・そう、ですか。」
「ただ少し馴染めてはないですね。」
「えっ!?」
「元々私達の支部は本部や他支部と違いますから、そっちになれてる彼女は慣れないんだと思います。」
「・・・。」
続く彼の言葉に顔を俯かせる少女、それを見た彼は立ち上がり近場の自動販売機で飲み物を二本買いその片方を彼女に渡す。
「これどうぞ?・・・紅茶苦手でしたか?」
「い、いえ大丈夫です。・・・ありがとうございます。」
「・・・取引現場で人質になったリコリスですよね?」
「ッ!・・・はい、」
「それで彼女に対して負い目を感じていると、」
「そうなんです。・・・私が捕まらなければあんな事には、」
「それは今更考えてもどうにもなりませんよ?」
「・・・でも!」
「ならあのまま死んだ方が良かったんですか?」
「・・・ッ!」
軽い雰囲気で放たれた言葉、それに少女は強く反応するが次の一言を聞いた瞬間彼女は口を閉じてしまう。
その意味は理解してしまったからだ。あの状況でたきなが行動を起こさなければ彼女は確実に死んでいた。それを理解しているから彼女は何も言えない。
「正直あの行動は正解だと思うんですけどね。」
「・・・でも命令では商人は生かせって、」
「言わせてもらいますが、仲間の命よりもそっち優先ってはっきり言って馬鹿ですよ。」
「リコリスは命令が絶対です。」
「仲間の命よりも?」
「そう学びました。」
「こうなるから状況判断能力が落ちるって言ってんのに、学べDA」
「何か言いましたか?」
「いいえ、なんでも。」
首を傾げる少女を横目に彼は少女に見えないように舌打ちすると缶コーヒーのプルタブを開けて飲む。
「彼女は本部に戻りたいそうですが、たぶんウチに来て正解だと思いますよ。」
「どうしてですか?」
「本部じゃ潰れますからね。・・・彼女は、」
「・・・え?」
「彼女は優しすぎる。・・・それじゃ、本部じゃ生き残れない。」
「でもたきなは・・・。」
「戦闘技術が高いのは理解してます。でも技術が高いだけじゃここではダメだ。・・・命令があれば仲間すら殺す、それがリコリスですから。」
彼は飲みきった缶を握り潰すとゴミ箱へと勢いよく投げる。缶は一直線にゴミ箱へと入るがその衝撃に揺れ倒れそうになるがギリギリのところで踏み止まり転倒を回避した。
「そんな生活を続けたら彼女は耐えられそうにありませんからね。・・・たぶん彼女自身気づいてないですけど、」
「・・・。」
「その点フキの判断は正しいですよ。ただやり方に少々問題がありますが、」
「・・・。」
「だからあまり気を負わないでください。」
「・・・けど、」
「そう思うなら普通に話しかけたらどうですか?・・・助けてくれてありがとう、見たいな感じで、」
「そうですかね?」
「そうですよ。こういう時はあまり固くならず笑顔で自然体に言えばいいんです。その方が気持ちが伝わりますから、」
「・・・気持ちが。」
彼の言葉を反芻する少女、それを見た彼は満足そうに頷くとスマホを見る。
「すみません、呼ばれたので行きますね。」
「こちらこそすみません。・・・えっとお名前は?」
「そういえばまだでしたね。私の名前は羽東 駿、リコリコ支部でサポーターをしています。」
「私は蛇ノ目 エリカです。・・・ありがとうございました。」
「何もしていませんよ?それでは、」
「はい、」
そこには千束から検診等が終わった事とたきなのいる訓練所に向かっていることが書かれており、それを確認した彼は少女・・・エリカ別れを告げてその場を後にした。