「ごめん先生から聞いてると思ってたよ。」
彼に連絡が届く数時間前、千束と たきな は公園のベンチに座っていた。
ストローを咥えて何かを考える千束を横目に たきな は先程まで訪れていた場所を整理し始めた。
「何するところか・・・改めて聞かれると考えちゃうな、」
「保育園、日本語学校、組事務所・・・共通点が見いだせません!」
「困ってる人を助ける仕事だよ!」
「・・・困っている人とは?」
「言葉のまま、たきなが今言ってた保育園の保育士とか日本語学校の先生とか組事務所の組長とか何かに困ってる人のことだよ。」
「特定の個人ということですか?」
「特定とかそんな事は考えたことないな〜。ただ困ってる人がいれば助ける・・・それだけ、」
「ですが、リコリスは社会のため存在します。」
「そうかもね〜。だけど少しぐらい誰か個人を助けるリコリスがいてもいいんじゃないかな?」
千束から返ってきた言葉に疑問を覚えた たきな は他の質問をするが、質問をすればするほど疑問は大きくなっていく。
「・・・個人のためのリコリス、」
「そうそう、コーヒーの配達も外国語の先生も、保育園のお手伝いも喜んでもらえるよ。」
「私達リコリスは国を守る公的機密組織のエージェントですよ?」
「おお!そう言うと映画みたいで何かカッコイイ!!・・・け〜ど!凶悪犯を処刑して回る殺し屋って言われたりも・・・ねぇ?」
「・・・ああいうことも起きる時代ですから、私達が必要です。」
「・・・そうね〜。そうなんかもね〜。」
たきなの言葉にどっちつかずの反応を見せる千束は1度背伸びするととある場所に視線を向ける。彼女の行動にたきなも気づき視線を追うとそこには桜並木とその背後に斜めに傾いた構造物があった。
「しかし、新しい電波塔が完成間近なのに、何故残しているんですかね?」
「壊れてできた意味もあるんじゃない?」
「そんなものありますか?」
「・・・さあ、どうかな〜?でもそう言う意味不明なところが私は好き。」
「だから意味不明のことをしているんですね・・・。」
「フッヒヒヒ!言うねぇ〜!」
たきな の苦言に千束は笑って返すと勢いよく立ち上がる。
「まぁともかく!DAが興味持たなくても困ってる人はいっぱいいてさ、助けを求めてる。・・・だから たきな 力を貸して!」
「・・・。」
「・・・まぁ、私は全てのことに意味があると思うけどな〜、」
「何か言いましたか?」
「何も?・・・そうだ、何か質問ある?」
「・・・ありすぎますね。」
言い切った彼女は誇らしげに手を差し出す、それを見た たきな は複雑な表情をしながらも彼女の手を取った。
公園を後にした2人は警察署に来ていた。そこには千束の顔馴染みの警察官、阿部がおり彼からとある依頼の内容を聞く。
「・・・
「うん、ストーカー被害ってのには警察も動きが鈍くてね。女の子同士だし話しやすいと思うんだ。ちょっと話を聞いてきてくれない?・・・バイト代は弾むからさ!」
「おぉお!」
阿部の言葉に気分を良くした千束は元気な声を出すと彼も微笑みながら2人を見送った。
「次は たきな 向きの仕事かもよ。何たってボディーガードだから!!」
「・・・。」
「えっと待ち合わせ場所は・・・。」
「あの・・・。」
「ん?」
テンションの上がった千束がスマホで被害者との待ち合わせ場所を確認していると たきな が声をかける。
「こんなことをして評価されるのでしょうか?」
「・・・評価?」
「はい、DAに戻るには実績を積み評価を上げることが最も現実的なので、」
「・・・そうね〜。まず待ち合わせ場所まで行こう?そこで聞くから、」
「・・・はい。」
たきな の言葉に千束は難しい表情をすると、スマホの画面を見せ被害者との待ち合わせ場所へと促した。
待ち合わせ場所であるカフェに付くと千束は たきな の思いを聞いた。
「・・・活躍で評価を上げて早くDAに戻りたいねぇ〜。・・・戻りたいのか〜、」
「私へと人事は正当だと思えません。」
「・・・じゃぁ、何で撃ったの?」
「・・・。」
「あぁ、いやいや別に責めてるわけじゃないよ。揉めたくないなら何で命令無視したのかな〜って、」
たきな の言葉に千束は疑問を口にすると彼女が俯いてしまったため千束は慌てて訂正する、それを聞いた たきなは顔を逸らしながら口を開く。
「あの状況において最も合理的な行動だと思いました。」
「・・・合理的、」
「それがあんな騒動に・・・、」
「なるほど・・・まぁでも、騒動になんてなってないよ、多分ね。・・・普段はそういうの全部組織が揉み消しちゃう。」
「・・・!?」
「・・・事件は事故になるし、悲劇は美談になる。・・・今回のもきっと表向きには別のことになってるよ。」
たきな 無意識に呟いた言葉に、先程まで明るかった千束の雰囲気が一変した。それに気づいた たきなは息を飲む。
まだ出会って1日も経っていないがこれまでの行動から彼女の性格をある程度予想付けていた たきなは背けていた顔を戻し彼女を見ると、そこには先程の満面の笑みとは打って代わり、悲しくそして苦しそうな表情の千束がおり、彼女は1口コーヒーを含むと窓の外へと目を向ける。
その先には公園からも見えた建造物、旧電波塔がありそれを見ると彼女の瞳にはより深い悲しみが宿った。
「最後の大事件も今や平和のシンボル・・・。あの時もどれだけの犠牲が出たのかほとんどの人が知らない。・・・リコリスの存在は誰も知らないし誰も知ってはいけない。それが日本が平和であるということだから、」
「誰も知らない、ですか、・・・でしたら私は何をしたのでしょうか?」
物静かに語る千束に何か思うことがあったのか たきなは視線が落ちる。
視線の先にはコーヒーカップがあり、その中に注がれている中身には彼女の顔が映し出されていた。その表情は中身の色も相まって暗く見えその色が今の彼女の心の中を表しているかのように思えていまう。
「なぁ〜に言ってんの!仲間を救った、カッコイイって!!」
「しかしそれは結果で・・・、」
「当たらないようにわざと射線を外したんでしょう?」
「・・・えっ?」
「合理的って言うなら、命令のことを考えて手や足などの末端や臓器の密集していない下半身を狙うのが最適解・・・だけど彼女に当てないために上を狙った、違う?」
「・・・確かに考えましたが、どうしてわかったんですか?」
「駿に教えてもらったんだ〜、射線が全部上に向いてたって、」
「・・・羽東さんが?」
「うん、あの時、駿も現場にいたんだ〜。そして突入したら機銃掃射って笑っちゃうよねぇ〜!!」
「何処に笑える要素が・・・えっ!まさかあの時彼は室内にいたんですか!?」
「うん、そうだよ。入った瞬間に弾丸の雨だったみたいだから驚いてたよ!聞いた時笑っちゃったね!!」
「なんで笑えるんですか!?お怪我は!?」
「ないない、それに駿も気にしてないから別に気にしなくていいよ。・・・そもそも当たらないし、」
「気にしないでって!・・・それに当たらないとはどうi、」
「そうだ!たきな の復帰に私、協力するよ、こう見えて結構上と話せるからきっと役に立つぞ〜!!」
「いや、その前に聞きたいこt、」
「あっ!沙保里さ〜ん!!」
雰囲気の戻った千束突然語られた疑問の数々に たきなは困惑しながらも彼女から話を聞こうとする。
しかし千束は店の入口から入ってくる人物を見つけると手を振り呼び初めたためもどかしそうな表情をしながら言葉を飲み込んだ。
「この写真をSNSに上げてから?」
「ええ、脅迫リプも来たから怖くなって直ぐに消したけど、その後、彼も私も変な奴にずっと付きまとわれてて、」
「前の交際相手とかは?」
「それ!警察も痴情のもつれだって取り合ってくれないけど、前の人なんていない。・・・本当に心当たりないのよ、」
被害者の女性、沙保里から渡されたスマホには彼女と男性の2人で撮った写真が映し出されており、千束はそれを見ながら首を傾げる。
「どこで恨みを買うか分からない時代ですからねー。」
「・・・このビルは、」
「そうそう、ガス爆発事件のビル、窓ガラスが割れて大変だったとか言う。・・・だいたい爆発の3時間くらい前かな?」
スマホを たきなに渡し彼女から事情を聞くが何らおかしい部分はなく困った表情をしていると横から たきな声が聞こえそれに反応した沙保里の口からガス爆発事件、先日の銃取引の話が出てきた。
「ガス爆発だって、・・・随分早くから開けているお店なんですね。」
「そうなの、朝日のインスタ映えスポットで有名なのよ!」
先日の事件が早速隠蔽されていることを聞いた千束が微笑をしながら たきなの操作するスマホへと視線を向けるとそこには背後のビルが映し出されておりそこには、
「プッルルル!!」
「大丈夫!?な、何かわかったの?」
「あっ、いや・・・この写真貰えます?」
「・・・ええ、」
取引現場が映し出されており、そのあまりの衝撃に千束は含んでいたコーヒーを吹き出しむせる。
それを見た沙保里は心配そうに千束を見つめるが、彼女は何事もなかったかなように返事をし写真を貰えないか頼みながらスマホを沙保里へと返した。
「取引の現場、写ってんじゃん!?」
「知らないですよ。」
「銃は無かったんじゃなくてとっくに引き渡されてたんだよ。」
「その相手があの写真をSNSで見て・・・、」
彼女がスマホを操作している間に、彼女に聞こえほどの小さな声で会話を済ませると千束は頭を抱えて、
「めちゃヤバなのに狙われてるよ、沙保里さん、」
彼女の悲運を嘆いた。
「ありがとう2人とも、刑事さんにもお礼を言っておいてね。」
「・・・沙保里さん」
「どうしたの?」
無事写真を貰い3人で店を出ると、千束は何かを思いついたらしく沙保里に声をかける。
「今夜はとりあえず一緒にいません?」
「えっ?・・・いいよ、じゃあうちに来てよ!」
「本当!なら、親睦も兼ねてパジャマパーティーとかどうです?」
「いいわね!」
「やったぁ!!」
千束の提案に沙保里が快く承諾すると彼女は両手を大きくあげながら喜び声を出すと振り向き たきなの肩に手を置いた。
「しばらく任せるね。無理はしないように、命大事にだからね!」
「・・・はい、」
「じゃあ、沙緒里さん、私支度してきますね!今夜は大いに盛り上がりましょう!!」
そう言い残すと千束は2人から離れて行く。
「そうだ、先生に写真送らないくちゃ、ついでに駿にお泊まりセット出しといて貰おっと!」
2人の姿が見えなくなると千束はスマホを取り出し写真とメッセージをミカと駿に送る。
そして送信されたことを確認すると彼女は元気よく駆け出して行った。