「・・・逃走手順は以上です。羽田でゲートを潜ったところでミズキさんと交替・・・って聞いてますか?」
「ん?、依頼主って凄腕ハッカーでしょ。どんな人かな?」
「お前・・・さては朝飯食わなかったな?」
「いや〜、寝過ごしちゃったと言うか起きたら時間がなかったというか・・・。」
「どうせ映画見てそのまま寝落ちしたとかだろう?」
「うぐっ!?」
店を後にした2人は駅で駿と合流した後、特急に乗り目的地まで向かっていた。
たきなは電車内で最終確認をするが、千束は駅弁を夢中になり話を聞く素振りがないため呆れた表情をしながら確認をとる。
結果、案の定聞いていなかった千束に彼は確信をつく言葉を投げかけると彼女は表情を引き攣らせて箸を止めた。
「・・・俺言っといたよな?仕事前日に映画鑑賞は控えておけって、」
「だって たきなに面白いの見て欲しかったんだもん!」
「それあの紙袋だよな。・・・俺の記憶が正しければ夕飯食い終わってすぐに準備終わってたと思うんだが?」
「い、いや、その後また開いて中身入れ替えて・・・。」
「井ノ上さん、仕事終わったら中身確認させてくれないかな?」
「はい、構いません。」
「ちょいちょい!アレは たきな用なの!駿が勝手に見るな!!」
「いや、そもそもあの中身、俺も相談に乗ったから知ってんだぞ?・・・入れ替えたなら何を入れ直したのか気になるしな?」
「それなら後で聞けばいいでしょ!」
「・・・本当のことを言いなさい。」
「・・・映画見てて3時くらいまで起きてました。」
「やっぱりな。・・・次から気をつけろよ。」
「・・・はい。」
圧のある笑顔で千束を問い詰める駿、初めは彼女の言い訳を続けるがどんどんと強くなる圧に押されてしまい最終的には俯きながら認める。
それを見た彼も たきなと同じ表情をしながら注意すると、千束は弱々しく頷いた。
「・・・そうだ、依頼主ってどんな見た目なんだろう?」
「その手の情報は送られてきていないので分かりませんね。」
「やっぱりハッカーだからメガネで、痩せてて小柄な男かな?カタカタ、タァ〜ン!!って、」
「映画の見すぎですね。」
「・・・もしかするとかなり奇抜な格好してるかもよ。」
「例えば?」
「そうだな・・・着ぐるみとか?」
「着ぐるみ・・・っあはははっは!それはないって!!」
「そうか?・・・千束、もし相手が着ぐるみで来たらどうするよ?」
「本当にそうだったら何でも1つ言うこと聞いてやら!」
「おっ?大きく出たな。・・・ならこっちも分が悪いが着ぐるみじゃなければ俺がお前の言うこと何でも1つ聞いてやるよ。」
「いいねぇ〜!・・・って たきななにそれ?」
2人が盛り上がっている中、たきながゼリー飲料を飲んでいることに気づいた千束が尋ねる。
「ゼリー飲料です・・・。」
「いやいや、たきなさん今の状況わかってるのかな?」
「依頼人に会いに行くまでに特急に乗ってます。」
「そう!その前にお昼食べとかないと〜。」
「今、食べてます。」
「俺は2人が来る前に駅で済ませた。」
2人の返しに納得行かないのか不満そうな表情をしながら たきなへと千束は近寄る。
「え〜!それが!?特急だよ!!駅弁食べようよ〜!・・・あ、ちょっと食べる?」
「結構です。」
「いらん。」
彼女の普段通りのテンションに鬱陶しそうにしている たきなはに何か思いついたのか千束は煮卵を彼女の口元へと運ぶ。
「まあまあ、そう言わないで、煮卵美味しいよ!はい、あーん!」
「・・・はむ、」
たきなは抵抗しようとするが彼女の性格を考え諦めないとわかると煮卵を食べる。
「美味しい?」
「・・・美味しいです。」
「は〜い!美味しい!!」
千束は彼女が食べてくれたことが嬉しいのか満面の笑みを向けると たきなは口を隠しながら顔を逸らし小さく返事する。
「何やってんだか・・・あ、2人とももう着くから降りる準備しろよ。」
「わかりました。」
「えっ!もう着いたの!?」
「話聞いとけよ・・・。」
「10分足らずで乗り換えなので、ゼリー飲料を選んだんですよ。」
「そうなの〜!!」
「すまん、フォローしてやってくれ。」
「・・・先が思いやられますね。」
慌てて駅弁を食べる千束の姿に、駿と たきなはお互いの顔を見合せ揃って大きなため息を吐いた。
「それじゃ、俺はここから別行動だから。」
「そっちもしっかりやるんだぞ〜!」
「そっちこそ無茶するなよ。」
目的の駅に着いた駿が予定通り別行動をするため送り出すと2人は目的地に向い歩き始めた。
「ねぇ、たきな。・・・そういえば私達ってウォールナットっていうハッカーさんと合流したあとどうやって羽田まで行くの?」
「ほんっと何も聞いてないじゃないですか・・・。」
「あれ?ごめ〜ん!もう1回お願いたきな様!」
目的地への道中で千束は たきなにこれからの予定を聞いてきた。
わかっていたことであるがやはり話を聞いていなかった千束にため息をつくと呆れながら答える。
「店長が駐車場に車を用意してくれているそうです。」
「えっ、マジ!!はいはい、は〜い!千束が運転しまぁす!」
「私がします。」
「えぇー、なんで?たきな運転出来んのかよ〜?」
「・・・出来なきゃリコリスになれないでしょう。」
「でもでも走行中の銃撃戦になると私、役に立たないからそれなら たきなが護衛して私が運転した方が良くない?」
「なんですかそれは、普通そんなことないでしょう。・・・もしかしてあの弾ですか?」
「そうそう!私のだとまともに当たらないからどうしようもないんだよね〜。」
「通常弾も持ってるって聞きましたよ?」
「えっ?誰に!?」
「羽東さんにです。・・・それと貴方には運転させるなと言われています。」
「駿のやつ!!なに?私を虐めて楽しいの!?」
「・・・何でも事故は起こさないけれど酷い目に会うとか?」
「まだあのこと根に持ってるんかい!帰ったら覚えてろー!!」
「・・・着きました、あの駐車場ですね。」
1人憤慨する千束を横目に たきなは目的地である駐車場へと目を向ける。
そこは住宅街によくある普通の駐車場であり、敷地内に数台の車が止められていた。止められている車の殆どが何処にでもある一般車だがその中に一際目立つ赤色のスーパーカーが1台置かれていた。
「スーパーカーじゃん!!」
「・・・目立ちますね。」
「すっげー!すっげー!!うぉぉぉ!!やっぱり私が運転するぅう!!・・・ん?」
滅多に見れないスーパーカーの存在に千束のテンションが振り切れるとフェンスにしがみつくように揺らして大きな音を立てながら興奮し始める。
その横で たきながその車を心配そうに見ていると、背後から車の音が聞こえたため2人はそちらへと目を向けた。
視線を向けた先、そこにはただ道があるだけで通っている車もないため不思議に思っていると公園の中から1台の車が車道へと飛び出してきた。
「えっ!?なになに!?」
その予想外すぎる光景に驚き固まる千束、車は1度止まるとバックを初め2人の前で停車した。
「ウォール!」
「・・・ナット。」
「早く乗れ追っ手が来るぞ。」
車の窓が開くとそこには奇抜な着ぐるみを来た人物がおり2人に対して言葉を投げかけてきた。それに対して驚くことなく返した たきなが何事もなかったかのように車に乗り込むと、やっと思考が追いついた千束は再び困惑する。
「えっ、え?なにそれ合言葉?かっこ悪って、えっ?ちょとスーパーカーは?スーパーカーがいいんだけど〜!」
スーパーカーを指さしながら訴える千束を たきなは車に引きずり入れると車は何事も無かったかのように動き出す。
静かな外とは真逆に混沌を極める車内で千束の声が虚しく響いた。