そうして、彼女は姫となる   作:カルーアミルク

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第二話〜女泥棒との出会い〜

『こっちの方に逃げたぞ!逃がすな!』

 

 複雑な路地に逃げ込んだナミは思わず舌打ちをしていた。逃げ切れる可能性が決して高くないこと、そしてそのような状況に陥ってしまった自分の詰めの甘さに苛立っていたからだ。

 

(あんな罠にひっかかりさえしなければ……!)

 

 脇腹がジクジクと痛む。傷口に手を当てればねっとりとした液体の感触がして顔を顰めた。傷はそれほど深くないが、走るのを阻害する程度には煩わしい。

 

『血の跡が続いてるぞ!間違いない!!近くにいるはずだ!探せ!!!』

 

 どうやら連中の目は節穴ではないらしい。走りながらナミは周囲を見渡す。左右には壁があり道は前にしか存在しない。こんな状況でもし前からも追っ手が来ようものなら、逃げ切れる見込みはほぼない。

 だが、運の悪いことに前からも怒号が聞こえてくる。

 

『お前らキリキリ走れ!反対側からは別の連中もこっちに来てる!この通りは一直線だから逃げ場はねぇんだ!』

 

 万事休すか。思わず足が止まり膝をついてしまう。こんなところで自分は終わるわけにはいかない。やらねばならぬ事があるのだから、と思案を巡らすが妙案は出てこない。せめてこの壁を越えられたらと思うが、能力者でもなければ突出した運動能力がある訳でもない自分には不可能だ、とナミは頭を振る。

 

「クソっ、こんなところで捕まるわけにはいかないのにっ……!」

「はいじゃあお嬢さん、少し失礼」

 

 突然降って湧いた声に何かを返す間もなく、ナミは浮遊感と何かに抱えられる感覚を味わった。視点が突然移動してしまったかのように気がつけばナミは夜空に浮かぶ星と月を眺めてきた。

 

「え?何、これ」

「追われてるみたいだったからね、強引だけどあそこから逃げることを優先させてもらいましたよ。怪我は──うん、その脇腹の傷だね。まーったく、こんな可愛い子を傷物にするなんて勿体ないなぁ」

 

 月がシルエットになっていて気づかなかったが、どうやら自分を抱き上げているのは女性らしい、と気づいたナミの表情から緊張が消え、少し相手を観察する余裕が出来た。

 

 蝙蝠のような翼、人形のように精緻に整えられた顔、白い肌と髪、その白に紅を落としたような唇と瞳、そしてその口から覗く2本の牙。ゴシック・アンド・ロリータ調の服は黒と桃色が大部分を占めている。

 

「貴女は──誰?」

 

 気がつけば、口からそんな言葉が漏れていた。その問いに少女、メアリーはにっこりと笑って答えた。

 

「ボク?ボクはメアリー、どこにでも居る普通の元人間だよ。君の名前はなんて言うんだい?」

「え、私?私はナミよ」

「それじゃあナミ、とりあえずあの連中から逃げ切るけど、少しの間口を閉じていてね。舌を噛んだら死んでしまうからね」

「へ──きゃああああ!!!!!?」

 

 これが、吸血姫メアリーと女泥棒ナミの邂逅となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は〜い、少し沁みるけど我慢してね〜」

「んんっ」

 

 お嬢さん、もといナミの傷に消毒液の着いた綿を当てて治療をする傍ら、外に蝙蝠を一羽飛ばして様子を探らせる。どうやら近くにさっきの集団は居ないらしい。とりあえず身の危険はなさそうだな、と安心してナミの治療に集中しようとすると、ナミに押し止められてしまった。

 

「もう、いいわ」

「え?まだ止血しかしてないよ?これから傷口に麻酔して少し縫わないとまたすぐ血が出てきちゃうから」

「いいの。ここにいたら迷惑になるから、私は泥棒なの。これ以上貴女の善意には甘えられない」

 

 そう言って立ち上がるナミだが、足元は覚束無い。やはり無理をさせるべきではないだろう。それに、このままでは助けた意味がなくなってしまう。

 

「ナミ、君は一つ勘違いしてる。ボクが君を助けたのは善意じゃなくて君と契約がしたいからだ。云わばビジネスパートナーだね。まあ君が泥棒だっていうならそれを手伝う。その代わりにボクは対価が欲しいんだ」

「ビジネス?言っておくけど、私は貴女にお金を渡す気は無いわよ」

「お金じゃないよ。ボクが欲しいのは君の血さ、ナミ」

「はぁ?血ぃ?」

 

 胡乱な目でこちらを見るナミに苦笑しつつ改めて羽と、少し牙を伸ばして見せつける。

 

「貴女……やっぱり能力者なのね?」

「うんうん、察しが良くて助かるよ。ボクはヒトヒトの実、モデル吸血種(ダンピール)を食べた吸血鬼人間さ」

「ふうん、なるほどね。にしても吸血鬼なのね。姫じゃなくて」

 

 今その事を話すとややこしくなるかもしれない。今は黙っておこう。

 

「まあ、その姫に近い能力を持ってるからそう呼ばれてるんだ。詳しいことは色々調べてもわからなかったけど、まあそういうものだと思ってくれればいいよ。

それはそれとして、僕はその名の通り吸血鬼。つまり人の血を吸うんだけどやっぱり個人個人で味に差があってさ。これでも長いこと吸血鬼をしてると、匂いで大体の血の味がわかるんだよねぇ」

 

 そこまで話をするとナミの顔が青ざめていく。ああ、良いなぁその表情(カオ)。コチラの気分も高まってくる。

 

「君の血を僕に分けて欲しいな、ナミ♡」

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