TS少女はその恋に気付くのか?   作:愚者かくあるべし。ぺしぺし。

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後悔後先に立たずと言うけれど。


ある男の懺悔、或いは人生。

 幸か不幸か、可か不可か、正か誤か。

 

 何方を選べば良いかなんて一目瞭然だ。

 だけど、本当に切羽詰まったものが冷静に選択できるだろうか?より楽な方へ、より苦しくない方へ。

 

 例えその選択肢が、生か死だとしても。

 

 二者択一を迫られた者は———

 

 

 

 

 

 此れは(彼女)の懺悔だ。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 春が好きだった。

 

 小鳥たちは囀り、野には命が芽吹くから。皆が志を新たにし、一歩踏み出すから。

 

 

 

 春が嫌いだった。

 

 周りが自分より一歩先に行ってしまう気がしたから、皆が過去を無かったことにしようとするから。

 お前にもう居場所はないと言われるような気がしたから。

 

 君の存在も、忘れられていく気がしたから。 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 君は偏屈な人だった。

 

 皆が右を向きなさいと言えば左を向き、慢性的な惰性と思考停止こそ最も唾棄すべきものだと言う考えをモットーにしていた。

 それは思春期特有の尖り方、まあ有体にいえばスカしてたのか。兎に角、当時の君はかなり関わり難い空気を纏っていて、若干浮いていた。

 

 そんな君が僕に話しかけてきたのは、ただの気まぐれだったのか。

 

 

 

 

 

 『そこの君。…君だよ君。「僕ですか」って、そう言ってるんだよ』

 

 『何用かって、君に少し話があるんだ。後で少し時間をくれないかな?』

 

 『いやー。大して接点がある訳でもないのに、時間をとらせてごめんね?』

 

 『…時に君。何か夢はあるのかな?』

 

 『あー。何も無理に聞き出そうと言うわけじゃないよ。只()が興味あるだけで』

 

 『へー。其れで其れで?何でそうなろうと思ったの?』

 

 『…!うん。良いね、すごく素晴らしいと思うよ。…笑わないのかって?まさか』

 

 『むー。私がそんな人間に見えたのかな?』

 

 

 

 

 

 少々意外だった。君は思ったより話し易くて、ついつい話し過ぎてしまった。

 しどろもどろになりながら、不恰好に話す僕の事を彼女は急かさず、じっと待ってくれた。

 

 今思えば、彼女のやり方はかなり強引で。

 

 だけどそんな事、今までなかったから。…僕にはそれが暖かくて。

 

 その日から、僕と君はよくつるむようになった。

 

 

 そして君との日々を重ねていくうちに。

 

 

 知り合いから友人に。

 

 友人から親友に。

 

 親友から———。

 

 

 歳月を重ねていくごとに、君は僕に新しい一面を見せてくれた。それがとても嬉しかったんだ。

 そうだ。君との関係性は決して悪いものでは無かった。だと言うのに、君は。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 関わっていくうちに、君は案外抜けてる…包み隠さずに言うならばズボラであることに気がついた。

 

 初めの違和感は君と二人で遊びに行った時のことだった。

 

 

 

 

 『…何?人の方をジロジロ見て来て。あ!もしかして私に見惚れてしまったのかなー?ん?』

 

 『…え?襟元をよく見ろって?……ぁ』

 

 『…んんッ。ぇっと、ぁの、ぃや、これは違くて、その』

 

 『…ちょっとお手洗いに』

 

 

 

 

 ネームタグをつけたままにしている君を見て親近感が湧いた。それまでの君は完璧すぎて、やはり何処か遠慮してしまうところがあったから。

 …だけど、これだけで終わる玉ではなかったんだよね。君は。

 

 

 

 『ぇ、この引換券はもう使えない?』

 

 『ぇ、もう閉店時間だから開いてない?』

 

 『道にお迷いですか?もし良ければ、私が……別に迷ってない?…』

 

 

 

 最初の関わり難い空気は霧散してしまったのか?数ヶ月関わっていくうちに何だか可哀想に思えてくるレベルにまで達してしまった。

 …せめて一年はイメージ通りであって欲しかった。だけど勿論、それで失望するなんて事もなく。

 やがて君と僕は互いの家を行き来する仲になった。あー。恥ずかしいから妙な勘繰りは止めてくれ。色々あったんだ。

 

 

 その頃からだろうか、君は妙なことを聞いてくるようになったのは。

 

 

 『所で君。定言命法に興味はない?』

 『何言ってんの?』

 

 何言ってんの?

 それは一つなら気にも留めなかったかもしれない。だけど、それが続いたら流石の僕でも違和感を覚えた。

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 此れは3月30日の事。

 その日、君と僕はいつものように僕の部屋に集まっていた。

 集まっていたと言っても、何をすると言うわけでは無い。此れが別の相手だったら話は違ったかもしれないが、生憎の所僕には君以外の友達はいなかったし、君だってそうだった。

 だから互いに何の気兼ねもなく、何の生産性もないお喋りはしながらも目を合わせることはなかった。

 君は寝台の上で寝転びながら僕の本棚から取った漫画を見ていたし、僕は勉強机で翌週が提出期限の課題の仕上げをしていた。

 

 やがて二人とも自分の世界に入り、会話も途切れ途切れになった頃。

 

 

 

 

 君は『——そういえば』と、思い出したかのように言った。

 

 『死ぬってさ、生きることより苦しい事なのかな』と。

 

 

 

 余りにも突然のことであったが、こう言った突飛な問いにも慣れて来ていた僕は、またか…なんて。にしても変な質問だなと思いながらも、難航していた数学の課題から一旦手を引き、手持ち無沙汰にペンを遊ばせながら適当に答えた。

 

 『んー。継続する苦痛よりも一過性の苦痛の方が楽なんじゃない?多分。だから死ぬ方が結果的に苦しくないと思うけど。生きててもどうせ死ぬんだし』

 

 何という無責任且つ倫理観のない回答だろうか。恐らくその時の僕は脊髄だけで会話をしていたのだろう。まるで人の心がない。

 

 だけど、君にとっては十分だったのか。ともすれば、最初から聞く気などなかったのか。

 只、君は何処か困ったような、それでいて安心したような口調で、ただ一言言った。

 

 『…そっかー』って。

 

 

 帰り際に見た君が、少し寂しそうに見えたのは、僕の見間違えだったのかな。

 此処での選択を誤らなければ、余計なことを言わなければ。君は、君と僕はまた、くだらない事で笑えてたのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今でもさ、時々夢を見るんだ。

 

 

 3月31日。君の家を訪ねた日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3月31日。君が死んだ日の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 君がいなくなってから、いろいろな事があった。

 だけど、僕は前に進めなかったんだ。

 

 ”退化とは成長である“だなんて、昔の人は言ったけど。

 停滞してしまった僕は何なの?

 

 

 

 

 そうそう。君の両親から「日記」を渡されたんだ。流石の僕でも人の日記を見るのは忍びなかったので、返そうとしたら———

 ———まあ一度だけでも見なさい。ってさ。

 ………ごめん。お義父さんには勝てませんでした。

 

 

 

 

 …君の日記を見てから、自分がどれ程無知だったかを悟ったよ。

 

 君の行動は、全て……。

 …全く。分かりづらいんだよ。そう言えば良いのに。…教えてよ

 

 僕じゃ頼りなかったのかな。

 

 

 

 

 

 

 ……そして。

 

 

 

 

 

 君が死のうと思った理由も、分かったんだ。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 薄々気がついてはいるんだ。

 この体は()のものではないって。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 冬を生き延びた者にのみ、春が訪れる。

 たったそれだけの話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは果たして誰の懺悔なのか?




「そんな気がする」するだけなのに。



(余韻をぶち壊す音)

部活動の制作があるせいで時間があまり取れません!
よって2〜3日に一回投稿になる可能性が高いです。

できるだけ頑張って書きます。
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