TS少女はその恋に気付くのか? 作:愚者かくあるべし。ぺしぺし。
花散れり
表面しか見ない脳足りん人々が腐る程世の中に雑草の如く蔓延している。
其奴らは薄っぺらい思想を掲げる癖して、その思想は酷く脆く折れ易い。口先だけのインフルエンサー共の意見を鵜呑みにして、“やはり自分もそうだと思っていた”だなんてしゃらくさく宣っては直ぐに鞍替えするのだ。まあ何とも節操が無い事だ。
彼らは権威にとことん弱い。彼らは偶像に支配されているのだ。彼らは偶像に盲目的なのだ。
だけど、この世の中は消費社会。偶像崇拝の対象が聖人君子などでは無いのだと分かったら、直ぐに廃棄処分行きだとさ。所詮偶像などは消耗品に過ぎないのか?
人々は偶像には只清廉潔白のみを求めているのだ。
…あれ?だとするならば。
偶像気取りの醜悪な道化の末路とは、これ如何に。
◆◇◆
冬の残滓が残る青い風が桜の花びらを蝶の様に舞い散らせる。
そうやって散る瞬間。地面に散るその瞬間まで桜は美しい。冬の陰湿さとはうってかわって、春とは実に心地良い。
…うざ。
此処は某県、某市、某町。季節は春。時間帯は朝である。
桜並木の遊歩道。そこは登下校中の生徒たちにもよく使われる道でもあった。
そんな道を少女が一人、歩いている。
身長は凡そ140cm台と言ったところであろうか。
十歳程だろうか?その身長から幼げな、子供子供した容貌をしているのだろう。と推測して驚く。
その少女の容貌は決して齢十歳程では出せない凍てつく様な怜悧さと気怠げな雰囲気を醸し出している。出来のいい彫刻品か何かと思えば、その癖してやけに血の気がいい。
…まあ当たり前と言えば当たり前か。紛らわしい言い方をした私が悪いのだが、何せ彼女の年齢は十程などでは無く、今年で十六になるのだから。
彼女は名を
幼少期の頃はその容姿故に周りに持て囃され、其れが助長したのかかなり驕り高ぶっていた。何か気に食わないものがあれば直ぐに文句を言い、其れが改善しない様であれば泣き出す。“此れは拙い”と彼女の両親が気付いてももう後の祭り。幼いんだから仕方ないと言っても実際の負担は如何程か。彼女の
だが、ある日を境にパタリと彼女の我儘は鳴りを潜める様になった。というか性格から変わってしまった。直ぐに癇癪を立てる様な性格は消え去り、お淑やかと言えるものに変わっていた。
此れには”如何にかなってくれないか“と半ば諦めかけていた両親も驚いた。何せ其れに至る様な何かのきっかけがあったと言う訳でもないし、前兆があったと言う訳でも無かったのだから。
”何かあったのかい?“
彼女の酷さに手を焼いていた両親だが、何も彼女の事が嫌いな訳では無い。寧ろ愛しているからこそ彼女の我儘にも此処迄付き合っていたのだから。無条件にただ相手の行動を許容するのを愛というかは疑問符を付けざるを得ないが。
其れに対しての彼女の解答は実に明快であった。
”何って、理由なんて要りますか?強いて言うなら周りに迷惑を掛けているなと思ったからです“
まるで可愛げのない解答。此処まで人は変われるのか。変われるなら何故此処まであんな所業を繰り返していたのか。実に明快などと言った私は馬鹿なのか。
…兎に角。少々腑に落ちない両親だが、其れを追及するのは辞めることにした。態々彼女の機嫌を損ねる必要はないし、またあんな状態になるのは懲り懲りだったからだ。…全くと言っていい程我儘を言わなくなった彼女には其れは其れで寂しいと感じた様だが。実に勝手な願いではあるが、自分の子供が六、七才とかなり早めに両親離れをしてしまった彼、彼女らの気持ちは推して知るべきである。
そこからの彼女の人生はまあ聞くに耐えない程順風満帆だ。
此れ迄連んできた友人は当然、彼女の余りの傍若無人さに畏れをなし関わり難いと考えていた人々も、大人しく優しくなった彼女に徐々に絆されていき、彼女は何時も沢山の友人に囲まれる様になった。
元々の地頭に加えて勤勉になったのが作用したのか、学業でも好成績を収めるようになった。
元々の運動神経をより磨く様になり、様々な競技の大会を総なめした。
中学校では圧倒的な票数を獲得し生徒会長を任命された。
見かけ上は容姿端麗、文武両道、婉娩聴従を体現した様な人間だ。其れは正しく中学生ぐらいの子供がifとして思い描く妄想然としていて痛々しい。
…が、此れは妄想などではなく事実だ。現実だ。彼女が積み重ねて来た軌跡だ。
皆が彼女の過去などは忘れて、今の彼女を大いに讃えた。
…結局私が何故こんなに冗長に只遊歩道を歩いていただけの彼女について語ったかと言うと。
メタ的に言えば、彼女がこの話の主人公だからである。
◆◇◆
そんな彼女———雪割 瑠衣が何とも物憂げな、アンニュイな雰囲気を漂わせて桜散る遊歩道を歩いていると、後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえた。
「るーいちゃーん!」
瑠衣が後ろを振り返ると、こちらに迫ってくる同じ制服を着ている、いや若干着られている少女の姿を確認出来た。肩で息をしながら追いついて来たこの少女の名前は確か…そう。
元気溌剌な彼女とは対称的に、睡眠が足りていないのか瞼を半分ほどしか開けていない瑠が声をかける。
「…凛ちゃん、朝から元気だね」
意図せぬ形で嫌味の様な事を言ってしまい少々焦る瑠衣であったが、其れを言われた当の本人は一切気が付かず、そのまま会話を進める。
「勿論!何たって今日は待ちに待った入学式だからね!」
「…そうだね」
そうである。恰ももう何度も登校しているといった小慣れた雰囲気の彼女であったが、実際の所入学試験の時と下見の時を含めてまだ二回目しか学校に行ったことがない。今回で三回目で、今日が初めての生徒としての登校日だ。
「!そうそう。瑠衣ちゃん新入生代表の挨拶するんでしょ?凄いね!」
「…うん。頑張るね」
屈託のない笑顔と祝辞を受け、やはり頭がまだ回っていないのか、いつも人前で見せる花如き表情は見せず、只バツの悪そうな表情を浮かべる彼女に、凛が心配そうに声をかける。
「…どうしたの?元気無いね」
「ッい、いや。ちょっと考え事しててね。何でも無いよ」
…何でもない様には見えない。半分程しか開いていなかった瞼をカッと開いたし、その拍子に表情を冷たいものから明るい笑顔にすり替えた。何なら現在進行形で冷や汗を流している。
普通の人相手ならそう勘付かれる所ではあるが、相手の凛は少々鈍感な部分があるので何とか事なきを得た。
「そっかー。遂に私たちも高校生になるのか。高校生活が楽しみな反面、何だか不安だなー」
「そうだね!ちょっと不安だね!」
…不安とは?と問いかけたくなる様な露骨な迄の語尾の強調。此処まであからさまにしてくれれば逆に清々しい。やはり頭に酸素が行き渡っていないのだろうか。さっき迄陰鬱な表情だった癖に其れはもうにっこにこである。だけど冷や汗だけが隠し切れていない。
が、先程も告げた様に凛は鈍感なので事なきを得た。都合のいい事だ。
勿論角道でパンを咥えた誰かにぶつかる事もなく。其れから数分後。二人で他愛も無い会話を駄弁りながら歩いていると、何かに気がついた凛が瑠衣の卸したての制服の裾を引っ張りながら声を上げた。
「あ!見えて来たよ!瑠衣ちゃん、ほら!あれ!」
「おー。やっぱり大きいね」
「だね!」
凛の呼びかけに応じ見上げた瑠衣の視界に入って来たのは———
「此処が私たちの新しい学校…」
———私立明雪高校。
此処は此れから彼女達が三年間学び舎として過ごす場所であり、
何番煎じかも分からない青春群像劇が繰り広げられる場所でもある。
◆◇◆
そこからの出来事は駆け足で説明するとしよう。
玄関に張り出されたクラス分けを確認した凛と瑠衣は、二人が同じクラスであったことに安堵したり。
中学や小学校で同じだった友人と再会したり。
隣の席になったクラスメイトに話しかけたり。
入学式で瑠衣が新入生代表の挨拶をしたり…。
たりたりたりで嫌になってしまいそうだが、生憎の所私には語彙力と言うものが不足しているので仕方ない。言い訳とも言う。
その後もまあHRで愉快なことがあったりはしたのだが、其れはまた別の機会で話せばいいだろう。
少しだけ触れるとするのならば…実に個性的であったと言える。見ていて飽きないというか、個人的にはかなりの好印象をこの学校に抱いた。
彼女にとってこの学び舎で過ごす時間は実に
…