戦いの中で   作:真冬の朝の炬燵

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 その時の気分で書いた。気が向いたら読んでみて


敗走

 

 シュボッ

 

 「…」

 

 気が付いた

 

 誰かがライターを着けた音だった

 

 疲れからぼーっとしていたようだ

 

 暖かい熱気を伴った振動が冷えた体を癒やす

 

 後方からは砲撃音。しかしそれも段々と遠のいていく

 

 ふと、隣の奴が気になった

 

 …酷い顔つきをしながら煙草を咥えている

 

 やけにギョロりとした眼。その割には力無い眼力。元々彫りの深い顔立ちにヘルメットの影と、日々の疲れとストレスから来る酷いくまが合わさり目元は炭を塗りたくったような黒

 

 見て居られなくなり視線を反対に向けた

 

 そこにも酷い顔つきで無表情に涙を流す、煤と血だらけの男が一人。何かブツブツと呟いている

 

 右手には写真を、左手には…無機質な文字列が陳列する紙切れを一枚…

 

 右手の写真は中央に金髪の女児。女児を挟むようにして佇む男女。右側には美しいブロンド色の髪を肩に流した、柔らかく微笑む女性。左側には父親の顔をした…その男が立っている

 

 左手の紙切れの内容を視線だけ覗き込み、ベルリンと言う文字列が出てきた所で読むのを辞めた

 

 その男は手紙をしまうと、手紙の代わりにその右手には白い錠剤が二粒あった…そっとしておこう

 

 肩が叩かれた

 

 後ろを振り返ると赤十字のヘルメットの衛生兵がいた

 

 彼は視線を下に降ろす。俺も釣られて視線を下ろした

 

 視線の先には横たわる血だらけの男が一体あった

 

 衛生兵の彼は再び視線を戻し、次は俺の目に視線を合わせた

 

 そのことに気が付いた俺は視線を向けてくる死んだ魚のような眼を眺める

 

 俺が視線を合わせた事を確認したのか彼はゆっくり首を左右に動かした

 

 横たわる男は息絶えた事が伝わった。そこで俺は初めて一言呟いた

 

 「タグは」

 

 「回収しました」

 

 「遺品は」

 

 「回収しておきます」

 

 「分かった、終わったら声をかけてくれ、手伝う」

 

 「了解」

 

 視線を前へ戻した時、キュウポラから身を乗り出し前方を眺める男が呟いた 

 

 「小隊長殿、前方1800に陣地確認。どうしますか」

 

 「大丈夫だあれは味方の最前線だ。なんとか辿り着けたようだな」

 

 その言葉で安心したのか心なしか肩の力が抜けたように見えた

 

 「そう言えばお前さんは何処の所属だ」

 

 「自分達は元々戦車猟兵師団所属だったんです」

 

 俺はそこで察した。彼らは先の防衛戦で壊滅した生き残りだった

 

 「そうか…」

 

 かける言葉が見つからない

 

 「小隊長殿は?」

 

 先に声を発したのはその男からだった

 

 「元々〇〇歩兵師団の所属だった。知っての通り壊滅した」

 

 「そうですか…」

 

 多分今その男も俺と同じく反応に困ったのだろう。助け舟をだしてやるか

 

 「こんな事を言うのはあれだが、お前さんの突撃砲がいなかったら今頃俺達は皆揃ってイワンの餌食だったろうな…ありがとな、拾ってくれて」

 

 お礼を言うとその男は疲れた笑顔だったが笑いながら答えた

 

 「助け合いですよ」

 

 少し和やかな空気がその場を包んだが、後ろからの呼びかけで現実へと引き戻された

 

 「小隊長、回収しました…では…」

 

 「あぁそうするか…」

 

 俺と彼は息絶えた男だった物が横たわる担架を左右に持ち上げた

 

 それは真後ろに転がっていった

 

 俺達の乗っている突撃砲の速度が心なしか早くなった気がした

 

 「…許せ、どうか安らかに眠ってくれ」

 

 俺達を載せた突撃砲は雪雲で滲んで見える白い太陽を背に西へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 





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