ウマ娘ならば、誰しもが追いかける夢。それはレースで……もっと言うのであれば格式も実力も一番の『G1レース』で勝つこと。
けれど、本当にそんなことを信じているウマ娘というのは一握りなものだ。数千といるウマ娘の中を勝ち続け、たった18の枠数に入るのも大変なのに、その中で1番早いウマ娘とならなければならない。どこを見回しても、化け物の集うG1レースでだ。
さて。スマートファルコンは面食らった頭をふりふり(可愛く出来ただろうか)。眼の前のトレーナーに問いかける。
「ごめんね。今なんて――「スマートファルコンさん。……貴方なら、きっとG1を取れると。言いました」
眼の前のトレーナーの目は、真剣そのものであった。
でもなんで、さっきの選抜レースではドベも良いところだったはずだ。
どうして手を握られて、熱狂的なスカウトを受けているのだろう。
ファルコンには分からない。だから。
「あのー……」
おずおずと声をかけてみる。
「はい?」
「ファル子、さっき負けちゃったんだよ。スカウトはすっごい嬉しいんだけど、どうして勝てるって思ったの?」
「ええ。確かに先程の走りでは、あなたは最下位でした」
「じゃあなんで?」
「……その理由は適正です。走り方、息継ぎの仕方。そして……貴方は芝よりも、ダートのほうが得意なはず。それはファルコンさんが、一番わかっていると思っています」
「……うん」
「貴方はそれでも芝を希望している。……難しい挑戦になると思います。だけど、貴方は中盤ぐらいまでずっと先頭だった。つまり、そんなハンデがあっても……それを跳ね除けるほどのパワーがあったってことです。ファルコンさんに才能がないわけじゃないって、今日の走りを見て思いました」
なるほど、そういうことか。
確かに今のままではダメかもしれない。
でも、この人についていくことに不安は無いのかと言われれば、それは否だ。
だって、今までのスカウトしてくれた人達とは全然違うのだもの。
ダートなら、って言う人は居た。けど……『芝でも良い』なんて。
だからこそ、確認したいことがある。
「ねえ。一つだけ教えて欲しいんだ。……私に期待してる理由って、それだけじゃないよね?」
未熟なのはわかってる。でも、だからこそ。
それでもいいと言ってのけた貴方の、私に向ける、その熱意の籠もった目の訳を。
「……ええっと」
「一応、人を見る目はあるつもり。トレーナーさんは信頼できそうだけど……よかったら、教えてくれないかな」
「……。わかりました。ファルコンさんの早朝ライブ、毎日こっそり見ていたんです。それで……応援したくなりました。貴方は私に元気をくれたから」
「私も、貴方と夢を……貴方がウマドルとして輝いている時、ファンの一人として一緒にいたいんです! だから、貴方が芝を目指す理由があるなら、叶えてあげたい」
決意を感じさせるようにまっすぐ熱意をぶつけてくるトレーナーを見て、ファルコンは確信する。
彼女は、私が欲しかった言葉をくれると。
彼女の言葉を聞いて、ファルコンは決心する。
やっぱり、この人の元で学びたい。……そして、叶えたい夢があるんだ。
自分の気持ちを伝えるため、大きく息を吸う。
「……ファル子」
「へ?」
「スマートファルコンって可愛くないから、ファル子って呼んで。……これからよろしくね、ファン一号さん☆」
そう言って、ファルコンは満面の笑みを浮かべた。
☆
時は流れて。
専属契約の契約書にサインを二つ並べ、用意されたのがこのトレーナー室だ。
デスクと備え付きの扇風機ぐらいしかない殺風景だったその場所に荷物を一緒に運び込み、一息ついた時。
「……ねえ、トレーナーさん」
「はい?」
「ちょっと聞きたかったんだけどさ。……どうして、ファル子にあんなに自信があったの? ライブを見ただけで、何で分かったの?」
「えっと……。あはは……。実は、ファルコンさん「ファル子!」ファル子さんのライブを見た時、それはそれはもう私めしょめしょになってて」
トレーナーは恥ずかしそうに頬をかく。
すると、彼女の口から思いがけない言葉が飛び出してきた。
なんと、彼女がファル子のライブで泣いてしまったというのだ。
「小さい頃……空き地で歌いながら踊っている、ウマ娘の小さい女の子が居て。私その時は恥ずかしながら、地方でアイドルみたいなことしてて……。うぬぼれ半分ですが、人気はあったんですけど」
プレッシャーに押しつぶされていた。けれど、その子に勇気づけられた……。そしてその子と同じものを、ファル子へと見出したのだと言う。
ファル子は思う。……これは、運命なのではないかと。
「あのね、ファル子も……。そういうこと、あったんだ。それでアイドル……ウマドルになろうって思ったの」
この人となら、きっと夢を叶えられる。……そして、二人で夢を叶えられたらいいなって。
だから、聞いてみようと思った。
「ねえ、トレーナーさん」
「はい?」
「ファル子の夢、知りたくない?」
「もちろん、聞かせてください!」
「ふふ。じゃあ、よく聞いていてね?」
ファル子が口にしたのは――。
「私、宝塚記念に出たいな」
☆
『さあ、今年もこの季節がやって参りました! G1レース・宝塚記念。貴方の夢、私の夢が走ります』
実況の声が響き渡る中、ゲートインが始まる。
今年の出走メンバーは17名。去年より少し多い人数だ。
テレビの向こう側の会話は、テレビの外には聞こえない。
見えるのはどのウマ娘も輝いていて……そして、絶対に勝つと闘志をみなぎらせている。ただそれだけ。
『各ウマ娘、綺麗なスタートを切りました。好ダッシュを決めたのは7番サイレンススズカ。続いて9番マチカネフクキタルが行く! その外、1番人気のメジロドーベルも行きます』
『先行争いが激しくなりそうですね』
『さあ、早くも第一コーナーに差し掛かりました。先頭は変わらずサイレンススズカ』
『さぁ、第二コーナーを回って向こう正面に入りました。先頭は依然としてサイレンススズカですが、すぐ後ろにメジロドーベル。3番ビワハヤヒデが上がってきています。2番手に、3馬身離れて9番ナリタトップロードがいます』
『外から5番テイエムオペラオーが上がってきたぞ。4、5番手集団に取り囲まれる格好になりました。その外に11番アドマイヤベガ。さらにその外、12番ゼンノロブロイと続いておりまして、内ラチ沿いは17番アグネスデジタルです』
『第四コーナーカーブに入っていきます。おぉっと、ここで来たのは8番ゴールドシップ! ゴールドシップがぐんぐんと伸びてくる。その内に10番エアシャカールも追い込んでくる! 残り400mを通過、先頭は変わらずサイレンススズカだが、後続がじりじりと差を詰めていく。さあ、先頭が第6コーナーに入った! ここから坂になるぞ――』
☆
「……凄かったね、人もレースも!」
「そうですね。……本当はレース場まで行って、生の歓声を見て欲しかったんですけど」
「大丈夫だよ☆ 何回も見に行ったこと、あるから。……やっぱり、彼処に立ちたい」
担当が決まり、専属契約を果たしたとしても、すぐにレースが出来るわけではない。契約が決まったウマ娘達には最長で半年の猶予期間が与えられる。トレーナーと絆を深め、自らの適性を知り、そして新バ戦に備える大事な期間だ。
ファル子達のように自身の適性をひっくり返そうとする場合、その時間は更に大事なものになる。これは今までにない取り組み方であり、試行錯誤の連続だろう。しかしそれでも勝てるとは限らない。何しろ前例がないのだ。
だからこそレースが行われる休日であっても、トレーニングをしようとトレーナーとファル子は学園へとやってきていた。
「なら、やっぱりトレーニングは頑張らないとですね。……ただ、新バはダートで行こうと思ってます。芝の走り方を覚えるのには間に合いませんから」
「うん、それは……。わかってる。でも、そんな中途半端でいいのかな」
「出来るようになんとかするのがトレーナーのお仕事ですから」
もちろん、覚悟して貰う必要はあると思いますけどね。
彼女はファル子に何かを問う時、真っ直ぐに顔を覗き込んでくる。なんだか顔の裏まで見透かすような瞳に、けれどもファル子は不敵に笑ってみせた。
「任せて☆ ……我儘だし、変わっているかもしれないけど。ファル子の夢だもん!」
レースシーンは実装済みウマ娘を出すか、時代に沿わせるか悩んでいるので改稿するかもしれません
ただファル子の周りにはあんまりウマ娘になった子がいないので、とりあえずダスカ世代に混ぜるかも