ハイスクールD×J~噛み砕け、俺のジョーカー!~ 作:伊達 翼
俺の答え。そんなのは決まっている。
「俺は…その誘いを受ける気はありません。謹んでお断りさせていただきます」
頭を下げ、グレモリー先輩の勧誘を丁重に拒否させてもらった。
「……理由を聞いてもいいかしら?」
グレモリー先輩は意外そうな表情で俺に問い掛けてくる。
まぁ、命の危険がある以上、悪魔の庇護下に入るのもアリっちゃアリな選択肢だろうさ。
そうすれば、少なくとも今の堕天使の脅威からは守られるだろう。
だが、しかし、だ。
そのために俺は何を差し出すべきなのか?
俺の命? はたまたこの神器の宿った身体?
いずれにしろ、俺の自由はきっとなくなり、このリアス・グレモリー先輩の支配下に置かれることになる。ただの直感だが、そんな気がする。
悪魔の社会がどのようなものかまでは現時点では知らない。けど…決して良いものばかりではないだろう。
悪いが、俺は悪魔の都合なんて知ったこっちゃない。
イッセーが殺され、悪魔に転生した。その事実はもう変えようがないのだろう。
それでもイッセーは大事な友人だ。それに変わりはない。友人が悪魔になろうと、俺は友人として接し続ける。それは確実だ。松田と元浜には悪いが、この事実は隠しておくさ。
神器とかいうものが宿ってるってだけで、イッセーは狙われ、殺された。まったく、嫌になるね。そして、俺にもその狙われるだけの可能性が十分にある。
勧誘を断るのなんざ、間違った選択かもしれない。命を危険に晒すことになるだろう。
だが、俺にも俺の誇りがある。
そして、何よりも…。
「俺には、愛してる女がいるんですよ」
明香音の存在だ。
悪魔云々にかまけて、大事な女との時間が減るのなんざ、真っ平御免だね。
「自分の命よりも、その女性を取る。愚かな選択だとは思わないのかしら?」
「思いませんね。俺はあいつの元に帰りたいと願い、強く生きたいと想ったからこそ、今この場にいるんですよ」
それが俺の神器が目覚めたきっかけだ。
それを否定してまで、悪魔の庇護下に入る気はさらさらないね。
「……これが最後通告よ。私の元に来なさい。あなただけでは無駄死にするだけよ?」
それでも、グレモリー先輩は俺の勧誘を諦めていないようだ。
「答えは既に伝えた通りです。ノー、ですよ。それに、俺には天狼がついています」
だが、俺は答えを曲げるつもりはない。
「そう。なら、勝手になさい。たとえ、あなたが死んだとしても私は無関係を貫くわ」
俺の頑なな答えと意志を聞き、グレモリー先輩も軽い溜息を吐いてそのように言う。
「お、おい、忍…。いくらなんでも無謀なんじゃ…」
そんな俺にイッセーが話しかけてくるが…。
「いいんだ。俺には俺の道がある。それよりも、人の心配よりも自分の心配をしたらどうだ?」
逆に俺はイッセーの心配をする。
「え?」
「まだ、悪魔社会のことを聞いてないだろ? イッセーはこれから悪魔として生きてくわけなんだし、その辺はしっかりな?」
そう言ってから俺は出されていた茶を一気に飲み下すと…
「行くぞ、天狼。これからは俺達だけで何とかする」
『……わかった』
ソファから立ち上がり、天狼を連れてこの部室を出ようとする。
「忍!」
イッセーが俺を呼び止めようとするが…
「イッセー。頑張れよ? 友人としてなら、いつでも力を貸してやるからよ」
ま、その前に自分の自衛手段を確立しないとかね?
そんな風にイッセーに告げつつも、俺は自衛の手段を考えながらオカルト研究部の部室を出るのだった。
「バカな人間ね」
去り際、部室の中からグレモリー先輩の悪態が聞こえてきたが…まぁいいさ。
「悪いな、天狼」
旧校舎の廊下を歩きながら、俺は横を歩く天狼に謝る。
結局、他の六体に関する有益な情報は集められなかった。
ま、他の存在について、あの場では言ってないんだから仕方ないのだが…。
『気にするな。だが、本当によかったのか?』
「何が?」
『あの悪魔の言い分は正しい。それを蹴るとは正気の沙汰とは思えん』
珍しく天狼が俺のことを心配したようなことを言ってくる。
「いいんだよ。俺には、明香音さえ傍にいてくれれば…」
『だが、宿主との関係が判明すれば、あの娘も狙われる可能性だってあるのだぞ?』
確かに、その可能性もある。
けどま…。
「女一人守れないで、どうするよ?」
俺はそう言ってニカッと笑ってみせる。
『楽観主義が過ぎるのではないか?』
そんな俺に天狼はそう言ってくる。
「ま、自分でもそう思うけどな」
そう言ってると、旧校舎の玄関まで辿り着く。
「流石にそろそろカードの中に戻ってくれ」
『うむ』
「じゃあ、『帰還』だ」
ポワァ…
天狼が淡い光に包まれると、そのまま胸ポケットのカードの中へと戻っていく。
それから旧校舎の玄関から外に出ると、すっかり暗くなっていた。
急いで帰るかね…。
そう思い、俺は走って駒王学園を後にするのだった。
………
……
…
あれから数日。
俺は比較的穏やかな時間を過ごしていた。
穏やかと言っても、いつも通りに過ごしているだけだ。
朝は明香音と登校し、授業を受け、昼休みは明香音の作った弁当を食べ、放課後は探偵同好会にくる依頼を片付けたりと、堕天使や悪魔の皆さんと遭遇する前の日常サイクルを送ってるだけだが…。
まぁ、ともかく、あれから特にこれといった危険にも遭遇しておらず、天狼とも今のところは良好な関係を築いている。未だ宿主呼びだがな。
そうしてさらに数日を過ごしていく中。
ある日、イッセーが休むとの連絡があったらしい。
何かあったのか?
ま、悪魔稼業には危険の一つや二つもあるのだろうさ。
だが、いくら神器を持っていようと、イッセーは最近まで一般人だったのだ。
友人として、あまり危険な目に遭ってほしくはないが…。
そんなことを考えながら過ごし、放課後になって帰り支度をしている。
今日は依頼がなく、特に片付けたり、急ぐような案件もないので、明香音と共に帰るつもりだった。
しかし、そん時にマナーモードにしてた携帯が振動する。
「?」
俺は周りを見てから携帯を開き、画面を見る。連絡してきた相手は、イッセーだった。
ピッ。
「どうした、イッセー?」
俺が通話に応じると…
『忍。力を貸してくれ!』
随分と真剣みのある声音だ。
「……何があった?」
俺はイッセーから事の詳細を聞くことになった。
電話越しでもイッセーが今走っているのが空気の音でわかる。
それはともかくとして、イッセーは先日とあるシスターと遭遇したという。
そのシスターは堕天使達の陣営に与しているのだが、心根が優しく詳細は省かれたが、昨夜イッセーを庇ってくれたそうだ。
そして、そのシスターに今日も出会い、友達になったという。
悪魔とシスターが友達とは、何の冗談かと思ったものの、きっとイッセーがそのシスターを助けたのだろうな。イッセーは、アレでお人好しな部分もあるし…特に女の子にはエロい目線を向ける以外では意外と紳士的だからな。
で、さっきまで一緒に遊んでいたのだが、色々あって堕天使に連れていかれたそうだ。その際、イッセーは己の無力を感じ、今からグレモリー先輩に助けに行かせてくれと直訴しに行くのだと…。
そして、その途中に俺に電話を掛けてきたのだ。俺は便利屋じゃなく、探偵なんだがな。
おそらくはそのシスターを本気で助けたいのだろう。
電話越しに聞くイッセーの声からは本気が伝わってくるのがわかる。
しかし、同時に懸念もある。
あのグレモリー先輩が許可を出すかどうか…。
おそらくは口論になるだろう。そうした場合、イッセーにグレモリー先輩を動かすだけの説得力はないはずだ。
何しろ、敵対勢力の一員を友達だから助けたい、と言っているのだ。普通に考えれば、正気の沙汰ではない。
先日聞いた悪魔と堕天使の関係を考えれば、イッセーのやろうとしていることは不利を通り越して無謀と言ってもいいだろう。
だがまぁ…悪魔と接触し、悪魔の庇護を拒否したあの日…俺はイッセーに『友人としてなら、いつでも力を貸してやるからよ』と言った手前、それをいきなり反故にするのもな。
そう思った俺は電話越しに…
「……わかった。場所を教えな。そこで落ち合おうぜ?」
『!? サンキュー、忍!!』
俺が応じたことに少し驚きながらも、イッセーはそう言って落ち合う場所を伝えてから通話を切る。
「しぃ君。どうかしたの?」
俺の通話しているのを見てたのか、待っていた明香音が声を掛けてくる。
「ん? なに、大したことじゃねぇよ。それよりも、早く帰ろうぜ?」
「? うん」
俺がそう言うと、明香音もついてくる。
さてさて…ちょいと忙しくなりそうだ。
ま、イッセーがグレモリー先輩に直訴しに行く間に、俺は明香音を家に送り届けますかね。
その後は適当な言い訳を作ってイッセーの加勢に行きますかな。
俺がどれだけ役に立つかなんて知らないが…。
ま、堕天使には俺も借りがあるんだ。それをちょっくら返しにいってもいいだろうさ。