ハイスクールD×J~噛み砕け、俺のジョーカー!~   作:伊達 翼

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第二話『調査と邂逅、そして…』

 天野夕麻の調査を始めてから土日の休みを挟んで早三日が経つ。

 学生である以上、休日や放課後しか動けないというのもあるが、ぶっちゃけ進展がない。

 

 判明している天野夕麻の特徴に合致する女子高生は存在せず、天野夕麻が着用していたという制服の学校にも聞き込みに行ったが、そんな生徒はいないと言われてしまった。あと、どうやらイッセーもこの学校への聞き込みに来ていたようだが、結果は空振り。まぁ、俺も人のことは言えないんだが…。

 

 こういう行き詰った時は視点を変えてみるに限る。

 そこで俺は昼休みにイッセーが天野夕麻と行ったというデート内容を聞くことにした。イッセーはあまり思い出したくない様子だったが、そこは我慢してもらって話を聞く。

 

 イッセーから天野夕麻とのデート内容を聞いた俺は、その日の放課後にイッセーの辿ったデートの軌跡を追うことにした。正直、デート内容を聞いた時に感じたのは、妙に具体的な内容だと思ったことだ。松田や元浜は妄想だと言っていたが、それにしては具体的な内容だ。妄想や夢だとしても、ここまで具体的な内容になるだろうか?

 違和感が拭えない俺は、早速洋服店やファミレスに行ってみてイッセーのことを聞いて回った。この近辺ならイッセーの悪名や姿も認識されているはずだから、見間違えることはないだろう。

 

 結果はビンゴ。

 イッセーと天野夕麻がデートしたという日、イッセーは確かに店を訪れていたという。ただ、不可解なのが…イッセーは一人だったという話だ。それなのに、まるで連れがいるような感じで店を見て回っていたそうだ。話をしている店員も何故か不思議そうに首を傾げていたが、どうやら本当にイッセーしか見ていないような素振りだった。

 

 どういうことだ?

 イッセーの軌跡は確かに残っているのに、『天野夕麻』という存在だけがすっぽりと抜け落ちている。まるで、誰かが意図的に『天野夕麻』という存在だけを消し去っているようにも感じてしまう。

 

 しかし、その一方で…イッセーの軌跡を追う中、俺はなにか取り返しのつかない領域に足を踏み入れたのでは?

 という錯覚を覚えていた。危機感に近い直感…。頭の中で警鐘が鳴り響いてるような…そんな感覚も確かにあった。

 

 このまま引き返すべきか?

 いや、引き返すにしてももう手遅れな気がする。ならば、前に進んで真実を見極めるべきだ。そのために俺はここまで来たのだから。

 それに依頼を途中で放棄するつもりはないしな。

 

 そして、俺はイッセーが最後に訪れたという公園へと辿り着いた。時間的には夕暮れで、だいぶ暗くなってきた頃合いだ。公園の外灯が灯る中、俺は噴水の前へと移動する。

 

 不気味な雰囲気だ。人の気配がまるでない。それと…

 

「そろそろ姿を見せてくれるかい? さっきから俺のことを見てるだろ?」

 

 俺は噴水に向けて言葉を発する。正確には、俺のいる噴水の反対側にいるだろう、何者かに対して、だが…。

 

 これでも親父と伯父さんのしごきである程度の気配は察せられるようになったからな。敵意や殺意というのも親父のアルバイトで災難に遭った時なんかに感じたことがあるから、何となくでわかる。

 しかし、今回感じている視線は…どちらかと言えば、殺意に近い、ような気がする。ここまで冷たい視線は初めてだ。背中にもチリチリとしたざわめきに似た悪寒が走っている。

 こりゃ…マズいか?

 

 すると…

 

「ふ~ん。単なる嗅ぎ回り野郎じゃないってことかしら?」

 

 噴水を回り込むように黒髪にスレンダーな体型をした女子高生くらいの女が姿を見せる。

 

「お前が、天野夕麻か?」

 

 俺は警戒しながらも目の前に姿を現した女に質問する。

 

「へぇ~、痕跡は全部消し去ったはずなんだけど…どういう絡繰りかしら?」

 

 痕跡は消し去った?

 一体どういうことだ?

 

「質問してるのは俺なんだがな…」

 

 女…天野夕麻の言葉の意味を考えながらも俺は、相手との距離を一定に保つ。

 

「はっ、下等な人間風情が私に質問なんて百年早いのよ」

 

「……何を言っている?」

 

 これまた意味不明なことを言ってきたので、つい反射的に言葉を漏らしてしまった。

 

 人間風情?

 まるで自分は人間じゃないみたいな言い方だが…?

 

「今ならまだ引き返せるわよ? それと、私は慈悲深いの。私のことなんか忘れてさっさと帰りなさいな」

 

 などと天野夕麻は言うが…

 

「………………」

 

 正直、俺はこの女に背を見せたくなかった。

 ここで引き返せるなら、俺だって引き返したい。しかし、目の前の女がそんな口約束を守るとは思えない。ここで背中なんか見せたら、きっと俺の最期に違いない。そんな予感がする。

 

「……ふん、そこそこ勘がいいのね」

 

 俺の態度に天野夕麻は面倒そうに口調を崩す。

 やはり、何か仕掛けるつもりだったのか…。

 

「いいわ。私は手を出さないことを約束しましょう。さっさと姿を消しなさい。目障りだわ」

 

 そう言って天野夕麻は、俺に背を向けてきた。

 今の内にさっさと消えろということか。まぁ、それも吝かではないし、俺だってさっさと立ち去りたいんだが…。

 

「そう思うんなら、素直に見逃してほしいもんだがね…!」

 

 そう言って俺は噴水に向かってダイブする。

 

バシャァンッ!!

閃ッ!!

 

 噴水の中で素早く身を起こして背後を見やると…

 

「うっそ!? 今のを避けちゃうの!?」

 

 ゴスロリ風の衣装を身に纏った変な幼女がいた。しかもその手には、槍のようなものを持っている。

 

「ちっ、ミッテルト!」

 

「あたしのせいじゃないでしょ!? そこの人間が避けたのが悪いんじゃん!」

 

 こちらの様子を見た天野夕麻がゴスロリ幼女の名を呼び、そのゴスロリ幼女…どうやら『ミッテルト』というらしい…は避けた俺が悪いと言う。

 

「なんで、俺が悪いんだか。身の危険を感じたら、普通避けるだろ?」

 

 そう呟きながらも俺は、噴水の中から二人の様子を窺う。

 すぐにでも逃げたい欲求はあるが、あんな槍を持ち出されては俺も慎重にならざるを得ない。

 

 しかし、なんだあの槍は?

 どっから取り出した? いや、そもそもあんなもんを持ってて警察に捕まらないのがおかしい。何か仕掛けがあるのか?

 

 そんな考えを巡らせながら俺はミッテルトとかいう幼女の持つ槍を観察しつつ、逃げるタイミングを見計らう。

 とは言え、水を吸って制服が重い。さっきみたいに動けるかと問われれば、否だろうな…。

 

「それにしても、どうして避けられたのかしら?」

 

 忌々しそうに顔を歪めながら、天野夕麻が俺に尋ねてくる。

 

「さてな…」

 

 と、俺は答えを濁すが、ちゃんと根拠はあった。

 

 これは初歩的な推理だが、天野夕麻は『私()手を出さない』と言った。つまり、他に手を出す奴がいる訳だ。それが背後にいたミッテルトなのだろう。

 背後からも妙な気配を感じてはいたから、もしかしてと思って噴水に飛び込んだが、見事に的中してしまった訳だ。

 

「まぁいいわ。いずれにしろ、消すことには変わりないんだから」

 

「アハハ! 次は外さないわよ~」

 

 天野夕麻とミッテルトがそんなことを言いながらも俺を逃がさないように噴水の周りを回り始める。

 

 ったく、なんだってんだ?

 集団殺人グループか、宗教じみた変な集団かなんかか?

 

 俺は噴水の周りを回っている二人を警戒しながら打開策を考える。

 

 こういう時は、武器を持ってない奴を狙って逃走を図るべきなんだろうが…なんでだろうな。嫌な予感しかしねぇ…。こういう勘は大事にしろって伯父さんも言ってたからな…。

 かと言って、丸腰でリーチのある槍を持ってるミッテルトを狙うのも厳しい。

 ……わりと八方塞がりなのでは?

 

 状況的に俺がかなり不利だと理解してしまい、諦めるしかないと一瞬だけだが、考えてしまうが…

 

『……約束だよ?』

 

 ふと幼馴染みとの約束が思い出される。

 

 あぁ、そうだな。

 俺が死んだら、約束なんて果たせねぇよな…。

 

 そう考えた俺は、腹を決めて噴水の中で少しでも確率の高い方に賭けることにした。

 

 狙うは…ミッテルトの方だな。

 まさか、相手も俺が武器持ちの方に行くとは思うまい。その意表を突いて逃げる。これしかねぇよな…。

 

 今も天野夕麻って方から嫌な予感しか感じないが…俺は少しでも可能性の高い方に賭ける。生きて、あいつの元に帰らないとだからな。

 ………………あれ? でも、これって死亡フラグっぽくね?

 

 俺はかぶりを振ると、集中する。おそらく、勝負は一瞬。それに負ければ、俺は……いや、今は考えまい。とにかく、今は…!

 

「あら? やっと観念したのかしら?」

 

「さっさと出てきなさいよ。こんなことで濡れるの、やなんだけど~?」

 

 俺が動きを止めたことに天野夕麻とミッテルトがそんなことを言う。

 

 悪いが…俺はまだ生きていたいんでね。足掻かせてもらう!

 

 そして、いざ俺が動き出そうとした時…!

 

「二人して何を遊んでいるのだ?」

 

 第三者の声だと…!?

 しかも口振りからして…!!

 

 俺が新たに現れた男らしき声に反応してしまい、そちらに意識を向けると…

 

ヒュッ!!

 

 俺の眼前に何かの切っ先が迫っていた。

 

 あ、ダメだ、これ。

 避けられねぇ。

 

 俺はゆっくりと流れる意識の中で、そう確信してしまう。

 

 これで、死ぬ?

 訳もわからないまま、こんなとこで…?

 

 周りの音や噴水の水が落ちる景色が、とても遅く感じ、色々な思い出が脳裏に思い浮かんでくる。これが、走馬灯ってやつなのかな?

 

 イッセー。松田、元浜。

 親父、母さん、夜琉、雪絵。

 伯父さん、伯母さん、領明。

 叔母さん、叔父さん、吹雪。

 おじさん、おばさん…。

 明香音…。

 

 見知った顔が思い浮かぶ中、最後に浮かんだ笑顔の幼馴染みの映像が過ぎった時…

 

 嫌だ…。俺は、まだ…死にたくない!

 生きたい、生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい…。

 生きたい…!

 

 強烈に感じる『生きる』ことへの執念。

 しかし、いくら願っても、この状況を打開できる術を俺は…。

 

 その時だった。

 

ドクンッ!!

 

「!?」

 

 突然、俺の中から何かが溢れ出してくるのがわかる…。

 

 なんだ、これは?

 

 そして、俺の脳内にこんな声が響き渡る。

 

『汝、何を求む?』

 

 なに…?

 

『汝の想いにより、我等(・・)は目覚める。永い…そう、永い永い時の中を揺蕩(たゆた)うだけであった我等は、遂に目覚めるのだ』

 

 わ、我等…? 目覚める…? ど、どういうことだ!?

 

『今は説明する余地はない。故にもう一度、問う。汝、何を求める?』

 

 俺は…生きたい!

 生きて、あいつの元に帰りたいんだ!!

 

『……よかろう。ならば、見定めさせてもらう。お前の生き様を…お前の生きたいと願う想いを…』

 

 脳内に響いていた声が遠のいていくと感じた次の瞬間…

 

 カッ!!

 ギイィィィンッ!!!

 

 何かが俺と眼前に迫る何かの間に出現すると、それを受け止めていた。

 

「は…?」

 

「へ…?」

 

「なに…?」

 

 時間の流れが元に戻ったかのようになり、天野夕麻とミッテルト、謎の男の疑問に満ちた声が聞こえてきた。

 

 

 

 当の俺にも理解ができなかったが…一体、俺の身に何が起きたというんだ?

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