ハイスクールD×J~噛み砕け、俺のジョーカー!~   作:伊達 翼

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第三話『逃げの一手、わからぬ状況』

 永遠とも刹那とも言える時の中で、俺は死を覚悟していた。

 しかし、明香音の顔を思い浮かべた瞬間、絶対に『生きたい』という激しい執念にも似た欲求を覚えた。

 そこに脳内で響く謎の声…。

 その声に答えるように、俺は生きたいのだと訴えた。

 そしたら…

 

ギィンッ!!

 

 何だかよくわからないが、俺に迫ってきた何かが目の前に現れた光る何かによって弾かれていた。

 

 俺、助かったのか…?

 

 などと少しだけ安堵したのも束の間…。

 

『まだだ。早く我を呼べ!』

 

 目の前に浮かぶ光る…白銀のカード(?)から脳内で聞いた声が聞こえてくる。

 

「っ!? なによ、アレは!?」

 

「異能使い!?」

 

「それともこの島国特有の術士だったのか!?」

 

 周りでは天野夕麻の困惑の声を始めとして、ミッテルトと謎の男の驚きの声も聞こえてくる。

 

 な、なんだなんだ?

 あいつらは一体何を言ってんだ?

 

『奴等が混乱している間に、早く我を呼べ! そのカードを持ち、「召喚」と叫べ!』

 

 俺自身も混乱している中、カードからそのような怒声が聞こえる…!

 

「ッ!」

 

 俺はその怒声に対し、咄嗟に白銀のカードを右手で掴むと…

 

「『召喚』ッ!!」

 

 思いっきり叫ぶのだった。

 

カッ!!!

 

 すると、俺の声に呼応して白銀のカードが輝く。俺は思わず左腕で目元をガードし、光で視界が奪われないようにする。

 

スタッ…

 

 と、そんな何かが地面に着地した音が聞こえたと思ったら…

 

『ウオオォォォォン!!!』

 

 何とも美しくも、気高いような…そんな雄叫びが、耳に入ってきた。

 

「「「ッ!!?」」」

 

 雄叫びが聞こえると同時に天野夕麻達の息を呑む音も聞こえてきた。

 

『随分と穢れた匂いだ。ここが、今の人間界、か…』

 

 その声を聞き、俺はガードしてた左腕を退けて何が起こったのかを見ようと目を開くと…

 

「っ……」

 

 噴水前に佇む存在を見て俺は息を呑み、目を奪われてしまった。

 

『だが、これも時の流れの残酷さか。これまで目覚めなかった我等にも非はあろう』

 

 そこにいたのは…『狼』だった。決して大型犬とかではない。それが直感的に理解できてしまう。

 黒の混ざった白銀の毛並みに、右が琥珀で、左は真紅の瞳を持った、『狼』だ。

 

『ふむ、貴様等は堕ちた天使共か。しかし、この周辺に漂う匂いは…』

 

 な、なんだ? 堕ちた天使共? な、何を言ってるんだ?

 

 何やら『狼』が言葉を発しているが、言っている意味の半分も理解できない。

 

『我が宿主も混乱状態、か。ならば、ここは遺憾ながら退かせてもらうとしよう』

 

 そんな風に言いながら『狼』が未だ噴水の中にいる俺に近寄ってくると…

 

『我が宿主よ。しばし我慢せよ』

 

 袖を噛まれて引っ張られると、そのまま俺はバランスを崩してしまう。が、『狼』は濡れるのも承知で俺をその背に乗せる…というよりも完全に荷物扱いで乗せられる。

 

『そのカードは落とすなよ? それが無ければ、我も困るからな』

 

 俺にそう言いながら、いざ『狼』が駆け出そうとした時…

 

「ま、待ちなさい!」

 

 天野夕麻が背中から黒い翼と、手元に赤い槍を出現させていた…!?

 

 お、おいおい、なんなんだよ、ありゃ!?

 

 俺が疑問に思ったのも束の間…

 

『遅い』

 

ブンッ!!

 

 『狼』が呟いた瞬間、俺の視界の景色が超高速で変わり始めた。いや、超高速で変化しているというか…これは、移動してるのか…!?

 

『宿主よ。振り落とされないようにな。あと、喋るのもあまりお勧めしない。慣れていないと舌を噛むことになるからな』

 

 などと『狼』は言ってくるが…

 

 んなこと言われても喋る余裕がねぇ?!

 

 俺はこの速度の中、振り落とされないように『狼』の身体にしがみつくのに必死だった。

 

………

……

 

 それからどれだけ経ったのか…。

 短いような、長いような…時間の感覚が麻痺した俺の意識が覚醒したのは、そんな時だった。

 

 あ、れ…?

 俺、いつの間に意識を失って…?

 さっきまでのは…夢…?

 

 そう思いながらも、俺はいつの間にか倒れてることに気付き、身を起こしてから周りを見回す。

 

 ここは…駒王学園の校門前?

 なんだって、こんなところに…?

 それに、もうこんなに暗い…。

 早く、帰らねぇと…。

 

 などと状況が全くわからないまま、俺は帰宅しようと立ち上がろうとするのだが…妙に体が重い。違和感を覚えて制服を左手で触ってみると…湿っていた。

 

 湿って…?

 それに俺、右手に何か持って…。

 

 制服が濡れてて気持ち悪いのもあるが、右手に何かを掴んでいる感触を今更ながら覚え、右手を見てみると…

 

 白銀の、カード…?

 じ、じゃあ、さっきまでのことは…!?

 

 そこで一気にさっきのことがフラッシュバックして思い出される。

 

『ようやく目覚めたか』

 

 それと同時に聞き覚えのある声が俺の耳に届く。声のした方を向くと、例の『狼』が佇んでいた。

 

「お前は…?!」

 

 思わず、警戒して後退ってしまう。

 

『そう警戒するな。我は、お前に宿ったモノ…神器(セイクリッド・ギア)に封じられし存在』

 

 セイクリッド…ギア?

 聞かない単語だ…。

 いや、そもそも、なんで『狼』が喋ってんだよ!?

 

 俺がまだ混乱しているのを見てか…

 

『やはり、まだ混乱しているか。しかし、ここでは些か場が悪い。カードを我に向けて「帰還」と告げよ。そうすれば、我はカードの中に戻る』

 

 『狼』はそのように告げてきた。

 

「き、『帰還』…?」

 

 俺がオウム返しのように呟くと…

 

ポワァ…キュインッ!

 

 『狼』が淡い光に包まれていき、そのままカードの中へと吸い込まれるように消える…!?

 

「なっ!?」

 

 それに再度驚きながら、白銀のカードを見ると…表面には横から見た狼の頭部が黒い刻印で描かれていた。

 

『この状態でも会話はできる。今の内にこの場から離れるがいい』

 

「いったい…なんだってんだよ…?」

 

 『狼』の言うことを聞くわけじゃないが、俺は足早に家へと向かうのだった。

 

………

……

 

 そうして、俺は家に辿り着く。

 

 俺の実家である紅神家は一軒家であるが、探偵事務所も兼任している、普通の家よりかは少し広い間取りの二階建ての家だ。

 一階は公私共有の玄関にリビングダイニングやキッチン、洗面所、風呂場、トイレの他、依頼人を案内して話を聞く応接室がある。

 二階は基本的にプライベート空間であり、両親の寝室と俺達子供の部屋が三つに、親父の書斎があり、他には洗面所とトイレ、ベランダもある。

 ちなみに俺の部屋は隣の天道家に面した一番端にあり、窓を挟んだ正面には明香音の部屋がある。

 

「ただいま…」

 

 そんな我が家の中に入ると、真っ先に出迎えてくれたのは…

 

「お帰りなさい、お兄ちゃん」

 

 俺の二人いる妹の内、双子の妹の方である『雪絵(ゆきえ)』だった。

 

「あぁ、ただいま。雪絵。出迎えてくれて早々に悪いんだが…バスタオルを持ってきてくねぇか? ちょっと濡れちまってな」

 

「? 今日って雨は降りませんでしたよね?」

 

 俺の言葉に雪絵が今日の天気を思い出すようにして首を傾げる。

 

「いや~、ちょっと転んだ拍子に噴水に突っ込んじまってな…おかげでびしょ濡れなんだわ…」

 

 俺は半分嘘を織り交ぜながら雪絵に事情を話す。

 

 調査中に変な奴等に襲われ、噴水に飛び込んだなんて言ったら色々と言わないとならないからな。悪いが、ここは嘘で誤魔化そう…。

 

「え!? だ、大丈夫だったんですか!?」

 

「ははは、平気平気。それよりも早くバスタオルを持ってきてくれ。このままじゃ風邪を引いちまう」

 

「は、はい!」

 

 俺の冗談交じりの言葉に雪絵はトタトタと走って家の奥に向かう。

 

「忍くん。おかえりなさい」

 

「おかえり、兄さん」

 

 その雪絵と入れ替わるようにリビングから出てきたのは、俺の母親である『雪音(ゆきね)』と、二人いる妹の内、双子の姉である『夜琉(よる)』だ。

 

「ただいま。母さん、夜琉」

 

 二人にも帰宅の挨拶をする

 

「? どうして上がらないの?」

 

「ちょっとドジってな。ずぶ濡れなんだよ」

 

 母さんの疑問には簡潔に答えておいた。

 

「あらあら、忍くんがドジだなんて、珍しいね?」

 

「俺だってたまにはドジるさ」

 

 母さんが珍しいものを見るように俺のことを見るもんだから、俺も苦笑しながら答える。

 

「お兄ちゃん。はい、バスタオル」

 

 すると、雪絵がバスタオルを二枚ほど持ってきてくれた。

 

「ありがとよ。雪絵」

 

 とりあえず、一枚を足元に置いて、もう一枚で髪や制服の中を拭く。ある程度は乾いているが、気持ち悪さはまだ拭えないな。さっさと風呂に入るか。

 

「そういや、親父は?」

 

 この場にいない我が家の大黒柱殿を探すが、見当たらない。気配もないな。

 

「ご飯を食べた後、二階の書斎に行ったよ」

 

「そっか。もうみんな飯は食べてたか。ま、先に風呂に入っちまうよ」

 

「うん。じゃあ、その間にご飯を温め直しておくね?」

 

「ありがと」

 

 親父が二階にいることや既に飯後だったことを聞き、俺は先に風呂に入ることにした。その間に母さんが俺の分の飯を温め直してくれると言ってくれたので、感謝の言葉を送っておく。

 

 ありがたいことだよ。本当に…。

 しかし、この温かい家族も、俺は守りたい。

 だからこそ、今回の依頼に関することは言わない方がいい。

 家族を危険に晒すわけにはいかないからな…。

 それに…親父はこういう類の話が嫌いだしな…。

 

 俺はそんなことを心の中で思い、静かに決意するのだった。

 

 

 

 それから俺は風呂へと入って疲れを癒しつつ、今日起きたことをどうイッセーに報告すべきか、少し思い悩むのだった。

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