ハイスクールD×J~噛み砕け、俺のジョーカー!~   作:伊達 翼

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第四話『狼との語らい』

 風呂から上がった後、今更ながら俺は着替えを用意してないことに気付き、身体の水気をよく拭いてからバスタオルを腰に巻き、制服の胸ポケットに入れていた白銀のカードを取り出してから部屋に戻った。

 風呂から俺の部屋までそれなりに距離があるんだが、致し方なし。

 

 そうして俺は自室に入ると、まずは電気を点け、カーテンを閉めようとした際、ふと明香音の部屋の電気が点いていることもに気付いたが…格好が格好なので、素早くカーテンを閉めることにした。

 それから勉強机の上に白銀のカードを置き、クローゼットから寝間着代わりにしてる白ティーとハーフパンツ、あと下着のトランクスを取り出し、手早く着替えを済ませる。

 

 白銀のカードの中にいる『狼』から色々と聞きたい衝動はあるが、今は夕飯を食べることにしよう。

 

 と、そういえば…

 

「お前、飯とか食べるのか?」

 

 少し気になったので、カードの中にいる『狼』に尋ねてみた。

 

『む? そういえば、封印されてからは一度も食事をしたことはないな。まぁ、封印されてから目覚めたのも初めてのことだから、よくわからんが…』

 

「そうなのか?」

 

『うむ。別段、今は空腹感というものは感じんな。永い時の中をずっと眠っていたのだから、そんな欲求も忘れてしまったのやもしれぬがな…』

 

「ふ~ん…」

 

 それはそれでなんだか物悲しくなるような理由だな。

 

 そんな感想を抱きつつ、俺は電気を消してから部屋を出て夕飯を食べに一階のダイニングへと向かう。

 

 

 

 それから一人、遅めの夕飯を食べ終えた俺は食器を流しへと持っていってから自室へと戻ろうと階段を上がる。

 その際…

 

「忍、帰ってたのか」

 

 ちょうど書斎から出てきた紅神家の大黒柱にして現役の探偵でもある親父の『狼牙(ろうが)』に出くわす。

 

「あぁ、ちょっと前にな」

 

「そうか。最近、帰りが遅いみたいだが…依頼でも受けてんのか?」

 

 親父には学園で俺が探偵同好会を設立したことを伝えている。なので、時折こうして俺の活動の様子を聞いてくることもある。

 

「まぁ、そんなとこだな」

 

「そうか。ま、依頼を受けたからにはしっかりと解決するんだな」

 

 俺の返答を聞くと、そう言って親父はすれ違い様に俺の右肩をポンポンと叩いてくる。

 

「わかってるよ」

 

 俺は、そう答えながら自室へと戻り、電気を点ける。

 

『戻ったか』

 

 それに気付いたのか、カードの中の『狼』が話し掛けてくる。

 

「……やっぱ、幻ってわけでもないのか」

 

 などと言ってみるが、あの『狼』にしがみついてた感触は本物だった。俺がどれだけ否定しようと、どうやらこれは現実のようだ。

 

『? 何を言っている?』

 

「こっちの話さ。さて…どこから聞いたもんかね…」

 

 『狼』が首を傾げる様子を思い浮かべながら、俺はそう答えて何から問うべきかを考える。

 

『………………』

 

 『狼』は静かに俺の問いを待つようだ。

 

 何から聞くか…。

 色々あり過ぎて、すぐには決め切れないな。

 とは言え、時間は有限。パパッと決めないとな。

 

 俺は確実に知っておきたい要点をいくつかピックアップし、それらを聞くことにした。

 

「よし。だいたい決めた」

 

『ふむ?』

 

 俺が『狼』に聞くべきこと。まずは…

 

「お前は…なんなんだ?」

 

 その正体だ。

 どういう原理かはわからないが、こんなカードに封印された存在だ。しかも、こいつの言葉が正しければ、『我等』と口にしてた気がする。つまり、似たような存在が複数いることになる。

 

『なんなんだ…とは、また抽象的な問いだな?』

 

 流石に抽象的過ぎたか?

 なら…

 

「そうだな。『セイクリッド・ギア』ってのはなんだ? 俺に宿っているとか言ってたが…」

 

『ふむ。我もそこまで詳しいわけではないが…そうだな。確か、神の器…人の世で言う「神器」と書いて「セイクリッド・ギア」と呼称する。「聖書の神」が生み出したとされる人間に異能を与えるシステムの総称だ』

 

「『聖書の神』…?」

 

 また、随分と宗教的というか、オカルトチックなことを言い出したな。いや、まぁ…こいつの存在自体が既にオカルトチックでもあるんだが…。

 

『……ふむ。そこからか。とは言え、我も目覚めたのが今回が初めて。今の世がわからぬ以上、下手な説明は難しいか…』

 

 俺の反応で『狼』は困ったようにしばし考え込むと、こう続けた。

 

『とりあえず、神器というものは人間に異能の力を与えるものだと考えておけばいい。神器は千差万別。似たような系統のものもあれば、唯一無二の代物まである。そういうものだ』

 

 またザックリとした説明だな。まぁ、詳しくないとも言ってたし、あまり深くは聞くまい。

 

「えっと、つまり…人間なら、その神器とやらを誰もが持ってるのか?」

 

『いや、神器も全ての人間に宿るわけではない。特定の人間…それこそ、お前のように何も知らない者にも宿ることがある』

 

「ふむふむ…」

 

 つまり、俺みたいな奴もいるってわけね。そういう場合、どうなるんだ?

 聞いてもいいが…あまりそっちばかりに時間を食うのもいただけないか。他にも色々聞きたいし…。

 

「それで…お前は、その神器に封印された存在…なんだよな? 最初の口振りからして、他にもいるみたいなことを言ってたが…」

 

『ほぉ、あの状況でよく覚えていたな。いかにも。お前の中には本来、我の他に六体の存在がいるはずだった』

 

 『狼』は感心したように言うが…ちょっと待ってくれ。

 

「いるはずだった…? 今はいないのか?」

 

『うむ。永い時の中、我等は散り散りとなった。だが、こうして我が目覚めたということは他の六体もまた目覚めている可能性も高い』

 

「そいつらもカードの中に封印されてるのか?」

 

『おそらくは…我と同じような形態で現界しているだろう。所在までは流石にわからぬが…』

 

「そう、なのか…」

 

 この『狼』みたいな存在が他にも六体…色々と盛り過ぎやしませんかね?

 そういえば…

 

「普通にスルーしてたが…お前、名前は?」

 

 素朴かつ最初に聞かないとならない疑問に今更ながら気付き、尋ねるが…

 

『名、か…』

 

 『狼』はそれだけ呟いて黙りこくってしまった。

 

 あれ? もしかして聞いちゃダメだった…?

 

 俺がそんな風に不安に思っていると…

 

『すまぬが…我に名はない。というより、我等には名がないのだ』

 

「名前がない?」

 

 それはまたどうしてだ?

 

 俺が疑問に思っていると、『狼』はこう語る。

 

『我等は力があれど、名前のない存在。神器としての名ならあるが…個別に我等を示す名前は存在せぬ。今まで目覚めることもなかったのだから、それも致し方なし』

 

 仕方ないって…。

 そりゃ、あんまりだろう。

 

 自分達のことなのにあまりにも淡泊な『狼』の言葉を聞き、俺はそのことについてはなんだか納得できそうになかった。

 

 百歩譲って俺に神器ってもんが宿ったのは…まぁ、今更避けられない事実だとしても、だ。

 今まで目覚めなかったからって、名前がないのもなんかな…。

 まぁ、元々自然界(?)で名前が無いのなんて当たり前なんだろうけどさ…。

 こうして今ここに存在するのなら、個別の名前があったっていいだろう。

 

 そう考えた俺は…

 

「……よし、今日からお前は『天狼(てんろう)』だ」

 

 この『狼』に名前を付けてみた。

 

『なに?』

 

 俺の言葉に『狼』は疑問の声を漏らす。

 

「何の因果か、お前は俺に宿ったんだろ? なら、ちゃんと名付けてやるのが俺にできる最初の責任だろ」

 

『いや、しかし…』

 

「それに…お前には助けられた恩もある。このくらいはさせろ」

 

『……物好きな人間だな』

 

 俺の強引さの何が面白かったのか、どこか苦笑した様子だった。

 

『よかろう。ならば、今より我は「天狼」を名乗ろう。よろしく頼むぞ、宿主よ』

 

 そう言って『狼』…もとい、『天狼』は挨拶をしてくれる。あと…

 

「俺の名前は、紅神忍だ」

 

 ついでだから俺も名乗っておいた。

 

『そうか。だが、名付けの礼と、宿主を認めるかは別問題だ。せいぜい、精進しろ』

 

「なんで上から目線なんだよ…」

 

 天狼の言葉に俺は何とも言えぬ微妙な感情を抱いた。

 

「そういえば、あの天野夕麻達についても知ってるのか?」

 

 名付け云々はともかく、俺は次の質問をすることにした。

 

『あの堕天使共のことか。詳しくは知らん。が、種族なら匂いで判別できた』

 

「堕天使だぁ?」

 

『本来なら聖書の神に仕える天使が反逆したり欲を持ち、堕天した者達…それが堕天使だ』

 

 またオカルトチックなことを…。

 

「仮に天使や堕天使がいるなら、悪魔とかもいるってのか?」

 

 と、俺が冗談交じりに尋ねてみたら…

 

『いる』

 

 即答された。

 

 え? マジ?

 冗談のつもりだったんだが…。

 

『そもそも、この町自体…悪魔の匂いが強い。もしかしたら、悪魔の縄張りやもしれんな』

 

 と、天狼は追加でそんなことを言ってきた。

 

「は…?」

 

 それを聞き、俺も思わず目が点になり、間抜けな声を漏らしてしまった。

 

『特に、先の…お前を降ろした建造物前…あそこは特に悪魔の匂いが強かった。悪魔の根城かもしれんな』

 

 先の建造物って…まさか、駒王学園のことか?

 おいおい…ちょっと待ってくれ…。

 色々とツッコミどころが多くて、頭がパンクしそうだ…。

 

 そんなオカルトチックな情報に俺が頭を押さえていると…

 

『天使と悪魔、そして堕天使の勢力はそれぞれ敵対してたはずだ。悪魔の領域で堕天使が動いているとなると…少し事情が気になるところだが…』

 

 天狼がさらにそんなことを言ってくる。

 

「ま、待て。待ってくれ…」

 

『む? どうした?』

 

 俺の待ったの声に天狼が首を傾げる姿を幻視してしまう。

 

「色々と処理がしきれねぇんだよ…」

 

 こうして目の前にある以上、神器とかいうのは百歩譲ってあるのを認めるとしても、だ。

 天使、堕天使、悪魔が存在してる、なんてオカルトを信じるのはちょっと厳しい。

 しかも、なんだって? この町が悪魔の縄張りだって?

 何の冗談だよ…!

 

 流石に理解しきれなかった。

 

『ふむ。まぁいい。だが、あの堕天使共には近付かないことを勧める。今の宿主では死にに行くようなものだ。無論、悪魔についてもだ』

 

 言われなくても近付かねぇよ。俺だって命は惜しいわ!

 とは言え、イッセーからの依頼…どう結果報告したもんか…。

 凄く悩ましい問題だ…。

 

 俺は溜息を吐きつつ、今更ながら宿題を片付けようとして時計を見ると…もう深夜だった!?

 思いの外、天狼との話で時間が経つのが早かったらしい!

 急いで宿題を片付けたものの、深夜一時を軽く回ってしまってしまった…。

 明日、起きれっかな?

 

 

 

 こうして俺は…知らぬ間によくわからない世界の入り口に立ってしまったのだった。

 どうなる? 俺の人生…。

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