第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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次回未定。週一更新にしていこうかと思っています。


電の思い

『疲れたぁ』

 

ドサリと倒れ込むような音と敷波の声が

 

『戦艦の砲撃にあたるのは駆逐艦じゃないとか意味わかんないですけど〜』

 

『戦艦の砲撃を避けるのとか無理っぽい』

 

まさかこの子たちは戦艦と正面から撃ち合うつもりなの?一発でも当たればこっちは轟沈なのに避ける以外どう言う方法があるのかしら。

今回は桂島訓練学校の戦艦一隻だったけど最低でも第二艦隊の金剛型4隻の斉射を避けてもらわないと困るのに。

 

『できてたの一水戦の不知火だけだったしね』

 

『流石は一水戦って所ですかね』

 

『陽炎教官は砲口の向きと角度を見れば避けれるとかいうけど無理に決まってます。脳みそ筋肉でできてるんじゃないでしょうか』

 

安心しきっているのか次から次へと教官に対する悪口が出てくる出てくる。明日はもっと厳しくしてあげないと。にしても…

 

「盗聴するなんてストーカーみたいね」

 

「二水戦は個人の実力はもちろんそれ以上に仲間同士の連携を重視しているのです。仲間に横柄な態度をとったりしていたら部隊の和を乱す事になるのですから当然のことなのです」

 

だから普段の私生活も盗聴して確認すると。

 

「されてる側からしたらあまり気分のいいものではないわね」

 

「いつもしているわけではなくギンバイがあった時と候補生の数がある程度絞られた時に最終判断を下すために録音していた会話を聞くのに使っているのです」

 

そう言うと電はポケットからタバコを取り出すと口に加えた。

 

「陽炎、火」

 

「ここ禁煙ですよ」

 

「二水戦教導隊では教艦がルールなのです」

 

思わずため息を吐くと電はマッチを取り出して電のタバコに火をつけ、私もタバコを取り出し火をつけた。

しばらくの間無言で紫煙を燻らせていると唐突に電が口を開いた。

 

「……この前は申し訳ないことをしたのです」

 

「どう取り繕おうと私がした事は許されることではないわ」

 

未だに私自身、二水戦の誇りを汚した自分を許せていないのに他人から許されたって益々苦しくなるだけだ。

 

「陽炎にケジメをつけさせるかどうか最後まで私達は悩んでいました」

 

あの時の3人は迷いなどないように見えたのに…。特に電は心底怒っていたように思う。

 

「その割に遠慮なさげだったわね」

 

「元二水戦として誇りを汚したものを許しておけないのです」

 

けど、と電は泣きそうな表情を浮かべると続けた。

 

「二水戦を生きて引退した私達に本来陽炎を責める資格はないのです。指揮艦として部下や後輩達より先に死んでいくべき立場にありながらそれが出来ずに死に損ねた私たちには、陽炎と違ってもうそのチャンスもありません」

 

まだ艦娘として戦う時間の残っている私には電達の気持ちはわからない。現役の私から見れば引退が拒否できない以上仕方のないことだと思うけど多分その気持ちは私が生きて引退しない限りは分からないのだろう。

 

「誤解しないでほしいのですが何も陽炎に死ねと言っているわけではありません。私達が知っている二水戦はなくなり、新たな二水戦が生まれるのですからそれまでの伝統を継承する必要はないのです。新たな二水戦で二水戦は偉大だったと言われるような活躍をしてくれればそれでいいのです」

 

そう言うと電は一筋の涙を流した。

 

「今更涙がでるなんて不思議なのです。二水戦が壊滅したと聞いた時には一滴の涙も出なかったのに…」

 

電の涙を見てふと思った事がある。黒潮も親潮も雪風も二水戦壊滅に涙を流した。だと言うのに二水戦が壊滅した事で一滴の涙も流していない私は薄情なのだろうか。

 

「先の戦闘の分析が行われていますが結果を鵜呑みにしてはだめなのです。誰にとってかは知りませんが都合のいい結果が報告されるはずなのです」

 

涙を拭うと電は言った。

 

「改竄されるというの?」

 

「どこにいたのかは知りませんがあの規模の艦隊を見逃すなんて通常あり得ないのです」

 

二水戦を取り囲んだ艦隊は150隻を超え、二水戦がその直前に倒した艦隊も合わせると200隻を超える艦隊がソロモン諸島周辺にいたことになる。たしかにそんな大規模な艦隊を見逃すなど通常ならあり得ない。

 

「一体誰がなんの意図でこんな事をしたのか知りませんが相応の報いを与えてほしいのです」

 

「仮に電の言う通りだとして一体犯人にどんなメリットがあるというの?」

 

正直俄には信じ難い。深海棲艦に対して現在優位に戦っているとは言え、戦略予備であった二水戦が壊滅しては戦況が逆転しかねない。

 

「二水戦は羨望の眼差しで見られるのと同じくらい恨まれているのです」

 

二水戦が恨まれているなんて思いもしなかった。

 

「逆恨みのようなものがほとんどですけど」

 

「逆恨み?」

 

「もっと早く二水戦が来れば誰々は轟沈しなかったとかそう言うのですよ」

 

バカバカしい話ね。

 

「私には理解できない感情ね。轟沈したのは本人と周りの人間の努力不足に他ならないわ。違う部隊の人間に責任を押し付けるのはお門違いよ」

 

「それが分からない人間も多いのです」

 

「あくまで二水戦は戦略予備として即応待機にあるのであって本来は担当部隊によって問題の解決を図るべきじゃない」

 

私達は攻勢のための予備戦力であると同時に有事の際にはすぐに派遣される即応部隊でもある。最近では各地を転戦しているが本来は攻勢のための戦力であって即応部隊は副次的要素でしかない。

 

「今回の二水戦の件も第八艦隊が自力でどうにかできていれば…いえ、受けた任務を完遂できなかったのは私達の実力不足ね」

 

第八艦隊だけで対処できるのが理想ではあるけどそれができないから私達が呼ばれたんだしその任務を完遂できなかったからと言って第八艦隊にあたるのは筋違いか。第八艦隊司令部は許さないけど。

 

「電が軍に入隊した時と違って軍全体の質が落ちている事が原因なのです。10年前に第一艦隊が壊滅して以来軍は現存艦隊主義をとっていますから実戦経験が増えるはずもないのですが…」

 

余程大きな戦闘が起こらないと大型艦に油を入れる事すらしないものね。

 

「その割には水雷屋を酷使しているけどね」

 

「第一艦隊の実力の高い戦艦、空母が悉く轟沈したせいで上層部は大型艦を使うことに消極的になって決戦兵器の位置付けとなったせいなのです。まぁ、その頃から既に水雷戦隊に頼るきらいがあったのは事実ですが今ほどではなかったのです」

 

未成年の艦娘の募集を始めるまでは戦艦、空母、重巡洋艦といった艦種もバランス良く編成して使われていたらしいけど艦娘の数が増えるにつれて艤装の製造コストが安く適応者の多い駆逐艦や軽巡洋艦が多く使われるようになっていった。これに拍車をかけたのが第一艦隊の壊滅だったわけだけど。

 

「というか水雷戦隊が大型艦を悉く撃沈したから私達水雷戦隊の実力を過剰に高く見積もったっていうべきじゃない?」

 

全ての水雷戦隊が二水戦クラスならともかく現実はそうではないのだからもう少し大型艦を積極的に運用してもいいと思う。

 

「それはそうなんですがあまり口に出さない方がいいのです。連合艦隊旗艦は元一水戦旗艦でもあるのですから機嫌を損ねることになりかねないのです。特に陽炎は二水戦旗艦ですからなおさらなのです」

 

連合艦隊旗艦は表面上、何もないように接してくるけどやっぱり元一水戦旗艦として思うところがあるのだろうか。

 

「私達は陽炎が新たな二水戦を率いていくことになると認識しているますがそうでない人もいるのです。過去の二水戦に対する妬みや恨みから色んな事を言われるでしょう。もしかしたらそれが原因で二水戦を離れようとする艦娘も出るかもしれません。二水戦と敵対しようとする全ての者から貴女は隊員達を守らないといけないのです」

 

「再編後も私が二水戦を率いることになるとは限らないわ」

 

何より私にはその資格がない。

 

「現実を見るのです陽炎。実績、実力共に貴女以上の軽巡洋艦、駆逐艦はもはやいないのです。貴女以外に二水戦を率いるに相応しい艦娘がどこにいるというのです」

 

そんな事は分かっている。艦娘が増えた事と人類の支配領域の拡大によって昔よりも艦娘一人一人が戦う機会は減った。私も配属当初は比較的安全な海域での護衛任務に従事することになっていたけど偶然深海棲艦がその海域で増えた影響で数度の海戦を経験した。その時の功績のおかげて二水戦の書類選考を通過したけど海域によっては一年の間に一度も戦闘をしない人もいるからそういう人達は中々功績を上げる事ができないし階級も上がらない。駆逐艦や軽巡洋艦に実戦経験を積ませるために配置転換は行われているけど実力と実績を兼ね備える佐官以上の艦娘は年々減少傾向にある。

 

「新たな二水戦が二水戦以外の艦娘に率いられる事を容認できる元二水戦はいないのです。事実として再編された二水戦を率いるのは皆陽炎だと思っているのです」

 

それは薄々感じている。代理と銘打っていて正式な任命式も執り行ってこそいないけど周りの人は皆私を二水戦の旗艦として扱ってくる。多分このままいけば二水戦が再編されるのと同時に私は正式に第13代第二水雷戦隊旗艦に補職されるのだろう。

 

「覚悟を決めるのです陽炎。あの日死なずに帰ってきたからにはその後の事に責任を持つ義務があるのです。それがたとえ陽炎が意図する事で無かろうとも…」

 

『あ〜もう!』

 

突然狭霧の大声がスピーカーから流れ思わず私達は話すのをやめてスピーカーを注視した。

 

『急に大きな声出してどうしたの?』

 

『教艦達の話してたらなんだかすごくムカついてきました。寝る前くらいは気分良くいたいですしもうこの話やめにしませんか?』

 

『それもそうだね。どうせ明日もまた気分の悪くなる顔を見ないといけないしね。楽しい話をしよう』

 

言うに事欠いて気分の悪くなる顔ときたか。覚えておけよ。

 

「どうやら今日の訓練では物足りなかったみたいなのです」

 

『夕立は疲れたから早めに布団に入るっぽい〜』

 

『夕立ちゃんお休み〜』

 

その後は3人がギンバイしたであろうお菓子を食べる音と談笑する声が聞こえそれが消灯時間まで続いた。

結局今日は夕立がギンバイに関わっている証拠は出なかった。

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