第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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軍事裁判

ソロモン海で第二水雷戦隊が壊滅して二ヶ月ほど経った今日はその軍事裁判が開かれる日だった。

 

「意外と早く捜査が終わったわね」

 

事が事だけにじっくりと時間をかけて調べると思っていたからこんなにも早く裁判が開かれたのには素直に驚いた。もっとも、完全に調べ切ったのかどうかはわからないけど。

 

「そうだな。責任の所在と真相がわかればいいんだが…」

 

裁かれるのは第八艦隊司令部とラバウル基地司令部に所属していた人間数十名と軍令部が対象となっている。ただ今回軍令部は業務が円滑に行えなくなることを理由に当人達は出席せず代理人が立てられている。

事前に手に入れた証拠資料の一覧を見れば大体何を聞くつもりなのかは分かるけど、これで軍令部の責任まで問えるかどうかは疑問だ。

 

「証人の1人はラバウル基地所属の赤城なのね」

 

ラバウル基地は海軍ではなく空軍の管轄でこの赤城は空軍に出向している赤城だ。出向している艦娘の中には海軍にいる艦娘に対してよくない感情を抱いている艦娘もいると言うけど…。

 

「空軍には情報を隠蔽した疑惑があるからな」

 

ソロモン海域の偵察はラバウル基地とトラック泊地、つまり第八艦隊から出されていてソロモン諸島に囲まれた部分をトラック泊地が、その他のソロモン諸島周辺をラバウル基地が担当していてソロモン諸島そのものの偵察を空軍が怠ったと言う噂を私も耳にした覚えがある。

 

「隠蔽なんかしたら艦娘を貸し出してもらえなくなるからそれはないんじゃないの?」

 

「航空偵察は海軍と空軍で協力しあって行っているが空軍としては全て請け負いたい考えがあるようだ。偵察の不備が海軍側にあればそれを口実に偵察を一手に引き受けることができるかもしれないし場合によっては一部の空母を正式に空軍所属にすることができるかもしれないからそれが狙いだという話だが…」

 

海軍から出向している艦娘に関する費用のうち給料は海軍が、それ以外は出向先が持つことになっている。ただ維持に関わる物資は海軍が独占しているから自動的に海軍から買い取る形になる。それに加えて出向した事による戦力の穴埋めにかかる費用という名目でお金を出させているから陸軍や空軍は自分達の軍に所属する艦娘を欲しがっていると言うのは有名な話だ。

 

「これほど大きな被害を出してまで実行する価値があるとは思えないわね。バレれば空軍に所属させるどころか空軍への出向さえ打ち切られかねないもの」

 

いくら二水戦とはいえあの規模の深海棲艦と戦うのはごめんこうむる。奇襲となれば尚更だ。

 

「陽炎の言う通りだ。何が真実かは知らないが今日の裁判で明らかになることを願おう」

 

◇◆◇

およそ3時間でその日の裁判は終わりを告げた。いや、二水戦壊滅に関わる全ての処分がこの日の内に終わらされた。

 

「満足できたか?」

 

「そう見える?」

 

軍令部の責任まで問えるかは分からないと思っていたとはいえこれは酷すぎる。

 

「いや…」

 

裁判では最初に今回の二水戦壊滅に関する事実確認が行われ、その後ラバウル基地の偵察指揮をとっていた赤城の証人喚問を行った。証人として登場した赤城曰く担当海域には姫級の存在はなかったとの事だった。当時の報告書とも証言は一致している事から偵察においては空軍に過失はないとされた。また、海軍側の資料も担当海域には姫級の姿は確認されず偵察自体は見逃しはなかったものとされた。ただ…

 

「けどまさかあんな初歩的な事が原因だったなんて…」

 

第二水雷戦隊壊滅後、ラバウル基地から出された偵察機により判明した事だけど深海棲艦は陸から海に出撃する、つまり艦娘と同じ手法をとっていた事が判明した。

深海棲艦は頻度は少ないが陸に上がることがある。ただ陸に上がると海上ほどの防御力を発揮することができず通常兵器の攻撃が効くようになるから艦娘でなくても倒す事ができるようになる(とは言っても駆逐イ級でさえM2機関銃クラスの火力が必要だけど)。

最近では私も参加したキスカ島からの撤退作戦が行われる前にアッツ島に上陸されているし撤退後にはキスカ島にも上陸されている。

 

「深海棲艦が陸に上がる事があるのは周知の事実。なのにそれを考慮に入れずに作戦を考えるなんて思ってもみなかったわ」

 

「これまで深海棲艦が陸地を利用した戦いをしてこなかったせいで軍全体に深海棲艦は海での戦闘で陸を使った作戦はしないと言う固定観念が蔓延していだ事が原因だが……これは言い訳に過ぎないな」

 

今まで深海棲艦は陸上の人間を攻撃するために海から陸に上がることはあってもその逆、海にいる艦娘や艦船に対して攻撃を行うために陸から海に戻る事は確認されていなかった。たしかに私も陸上偵察の結果を聞くたびその行為に意味があるのか考えた。だって深海棲艦は多くの場合陸には上がらないし、もし陸に上がったとしても艦娘を攻撃するために海に出る事はなかったから。けどそれでもしないわけにはいかないとは分かってた。それが自分達の生死に直結しかねないからだ。

 

「問題はトラック、ラバウルの両方の司令部が陸の偵察を軽視ししていて偵察が不十分だったことに気が付かなかったことね」

 

いくら深海棲艦が陸から海に攻撃のため行動する事が確認されていないとはいえ陸から海に行く行動そのものは何度も確認されている。それがただ攻撃のための行動でなかったと言うだけであって攻撃のために海に戻らない事とはイコールにならない。

 

「トラック、ラバウル双方の司令部は互いがやっているものだと考えていたようだな。そんな雑な仕事で作戦を実行しないでもらいたいものだ」

 

偵察担当だったラバウル基地の赤城達にその命令がなかったことから偵察担当には瑕疵がなかったとみなされたのよね。ただトラック泊地の偵察指揮をとっていた龍驤はかなりのベテランで実戦経験もそこそこあるからその辺を曖昧な状態で偵察するとは思えない。

 

「処分としては第八艦隊司令官と第八艦隊参謀長、ラバウル基地司令の3名が軍籍を剥奪されただけだったわね」

 

「今後こんなミスが起きないよう各部隊に島嶼部に対する偵察を徹底するよう通達するだけでその他には何もなく終わったな。ラバウル、トラック両方の司令官が除隊されたのは最低ラインはクリアしたと言えるが…」

 

対外的にはこの処分で今回の件は決着となるのだろうけど正直不完全燃焼だ。

 

「軍上層部の罪も決して小さなものではなかったわよね。政治的要請を優先しなければ第八艦隊は十分な戦力を持ってソロモン海域の攻略に臨めたし偵察の不備もなかったでしょうし」

 

上層部からの要請が偵察の不備が焦りを招いた側面があるのも事実だ。細かい作戦指揮は第八艦隊が取ったとはいえ作戦計画そのものに上層部は目を通していたみたいだからその時に指摘しないといけない事だった。

 

「海軍大学校では習わない事だからな。大学校の教本を作ったのが今の上層部の年代だ。深海棲艦と初めに戦った世代の生き残りでもあるし深海棲艦はこう言うものだと固定観念もあるんだろうな」

 

一応同じ海軍大学校を出た身として思うところでもあるのかしら。

 

「ふーん。ならその海軍大学校を主席で卒業したとか噂の司令は偵察の不備に気付けたの?」

 

何期かは知らないけど海軍大学校を主席卒業してるらしいというのは第二艦隊で噂になっていた。

 

「我々が陸から深海棲艦を攻撃するんだ。その逆がないとどうして言い切れる」

 

艦娘の力の源は深海棲艦と殆ど一緒。基本的には人か、そうでないかの違いでしかないと私は思っている。人によってはこれを言うと怒る人もいるけど概ね間違ってないのだろう。というか否定しないって事は本当に主席で卒業しているのね。

 

「それが分からなかったのが第八艦隊司令部であり上層部じゃないの?

偉そうなこと言っているけど同じ水を飲んできた司令がそうでないとどうして言えるのかしら」

 

私達艦娘と違って艦隊司令官や上層部の人間が通う海軍大学校では実際に戦う艦娘を補佐するために戦術面ではなく戦略面に重きを置いている。小さな作戦であれば艦娘が作戦を立てそれを艦隊司令官が承認する形を取るけど大規模な作戦になれば艦隊司令官達や上層部が出しゃばることも多い。今回は第八艦隊司令部が作戦を立てていて第二水雷戦隊もその指揮下にあったから偵察に関しては詳しいことを知らなかった。知らされていたら島の偵察がされていない事を理由に作戦の延期ないしは取りやめを要請していたはずだ。

 

「耳の痛い話だな。だがこう見えても第二艦隊の司令官を任されているからな。他の木端な艦隊と違ってある程度優秀じゃないとこの艦隊の司令官にはなれない。その点を評価してくれると嬉しいな」

 

第二艦隊は他と違って実戦が多い分司令官も相応に優秀な人間が補職される。司令が海軍大学校を主席で卒業しているあたり優秀なのは事実みたいだし私が初めて配属された泊地が深海棲艦と戦闘になった時も的確な指示を出していたから司令の能力はよく分かっている。詳しい年齢は知らないけど見た目的に30代後半から40代くらい。それくらいの歳で、司令官職につくあたりやっぱり優秀なんだろう。

 

「自慢?」

 

だからといって肯定されるとなんだかムカつく。

 

「まさか、ただの事実だ。そもそも俺は艦娘に全幅の信頼を置いている。わざわざ自分から口出ししようとは思わんさ」

 

「たしかに司令はそう言う人ね」

 

司令が私達のすることにうるさく口出しする事は殆ど無い。強いて言うなら補給関連で忠告してくることはあるけどそれはだいたいの場合司令が正しい。

 

「…それにしても島の偵察をしなかったなんて本当にあり得る話なのかしら」

 

電の忠告もあってどこか判決を信じきれない。

 

「元々あの海域は命令が無かろうとも近々攻略予定だった。第二艦隊なら毎日でも変化を観測する。俄には信じ難いな」

 

東南アジアの島々を解放したのは第二艦隊だった。私が二水戦に加入した頃には殆ど解放し終えていたけどそれでも数度、深海棲艦から東南アジアの島を解放している。基本的に深海棲艦は島そのものを占拠することはなく周辺海域の制海権を取るだけだけどそれでも島そのものに対する偵察は欠かせない。

 

「けどトラックの偵察担当だった龍驤、鳳翔が轟沈しているから真実は藪の中。確かめようが無いわよね」

 

「そもそも仮に島を偵察していたとしてそれを司令部に伝えない意味がないからおそらく本当に偵察をしていなかったんだろうな」

 

釈然としないものがあるけどこれ以上どうすることもできないのも事実。個人的に調べようとは思うけどかなり時間がかかりそうね。

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