第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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砲火

第二水雷戦隊教導隊での訓練も二ヶ月が経ち候補生の数は3分の2ほどに減っていた。

 

「ああ゛〜」

 

叫び声を上げながらだらしなく机に突っ伏した黒潮に思わず顔を顰めた。

 

「うるさいわよ黒潮。黙って仕事しなさい」

 

私が注意すると面倒臭そうな表情で黒潮が言った。

 

「そうは言っても夕立ちっとも尻尾出さへんやん。もうこれギンバイ犯どもと関係ないんちゃうか?」

 

ギンバイ発覚から一ヶ月以上経つのに未だに夕立の尻尾は掴めない。こうなると確かに夕立が無関係と思いたくもなる。

 

「元々なかなか尻尾を掴ませない連中だしね。根気強く証拠を集める事が大事なのよ」

 

「そんな事言われても校長と雪風はともかく他はみんなダレ始めてるで。ウチかて判明した時ほどのモチベーションはないし判明してるんだけさっさととっ捕まえた方がええんちゃう?現状夕立のやってる事はウチらに実害はないわけやし」

 

正直私も同じことを思っている。狭霧達を捕まえていないせいでここ一ヶ月ほど間宮羊羹を食べれてないからいい加減捕まえたい。けどそれだと二水戦が間宮羊羹欲しさに全員捕まえるのを諦めたみたいでなんだか悔しい。

 

「…先にギンバイすればいいのか」

 

「いや何言ってんねん」

 

しまった声に出てた。

 

「だってそうじゃない。ギンバイしても狭霧達のせいにできるから今ならやりたい放題できるわよ」

 

こうなったら黒潮を巻き込むしかないわね。

 

「アホか。カメラで撮影されてんのやからすぐバレるわ」

 

「そう思うわよね。けど最近不思議とカメラの映像が途切れがちなのよね」

 

この間カメラの録画を確認したら時間が途切れている日が何度かあった。編集というよりカメラを切っていた感じだったから急いでいたのかもしれない。

 

「それってまさか…」

 

「多分そう言う事なんでしょうね。一体誰がやってるのかしら」

 

教艦以外カメラのことは知らないしギンバイ犯の敷波は毎回カメラに写っているからまず間違いないだろう。

 

「そういや最近暁が妙に機嫌よかった気がするな」

 

暁やったのね…。

 

「未だに怒ってる雪風と神通は間違いなくやってないやろけどバレたらどうなるんやろな」

 

一番怒っていた2人がギンバイをやってないのにもしギンバイがバレたら絶対酷い目に会う。

 

「二水戦は隊内で不和を産むような行為を許さないわ。抜け駆けした艦娘がどうなるかなんて考えればわかるんじゃない?」

 

「抜け駆けしようとした奴がよう言うわ」

 

「あら、抜け駆けなんてしないわよ。ちゃんと黒潮に聞こえるように言ったじゃない」

 

うっかり口に出したのは黒潮に分かるはずがないしここは上手く誤魔化そう。

 

「やらかしたって顔に書いとったで。自分が顔に出やすいんちょっとは自覚したほうがええんとちゃう?」

 

マジか自覚なかったわ。

 

「私そんなに顔に出やすい?」

 

「付き合い短い奴ならともかくウチみたいに何年も一緒におったら分かるくらいにはわかりやすいな」

 

それって分かりやすいって言えるのかしら?

 

「それなら黒潮とか不知火くらいにしか分からないってことね。なら安心だわ」

 

これなら私がギンバイしても黒潮を巻き込めばなんとかなるわね。久しぶりの間宮羊羹楽しみだなぁ。

 

「言っとくけどうちは協力せえへんからな」

 

「なんでよ」

 

「ウチあの棒で殴られたないもん」

 

あの棒と言われて思わず私はお尻を押さえた。あの棒とは候補生内で雪風の代名詞になっている艦娘精神注入棒の事だ。あれでお尻を叩かれるのを毎日見ているからどれくらいの威力があるかはよく知っているけど正直見ているだけで逃げ出したくなる。

毎日のように叩かれるている狭霧は最近じゃあ殆ど声を上げなくなっているけどそれはきっと狭霧のお尻の皮が分厚くなっているのだろう。

 

「それは私も嫌よ。けどバレないから大丈夫」

 

「その自信はどっからくんねん」

 

「あれだけ怒ってた神通さんが何も言ってないんだから教艦がギンバイしている事には気づいてないっことよ。なら大丈夫じゃない」

 

あんなにも怒っていたんだもの、バレてたらきっと今頃お仕置きされてるに決まってる。

 

「あの人そんなに甘いかなぁ」

 

なんか不安になる言い方ね。

 

「…やっぱりバレてるのかしら」

 

「そらそうやろ。あとで狭霧達と一緒にまとめて罰則食らわされるんやろ」

 

並んでお尻を叩かれるのは嫌ね。それも雪風より力の強そうな神通さんとなれば尚更よ。恥ずかしいし何より教艦としての威厳が損なわれる。

 

「…やっぱりギンバイはやめておくわ」

 

久しぶりに間宮羊羹食べたかったのに。

 

「話戻すけどいっそのこと候補生の内情を知っとる不知火をこっちに引き込んだらええんちゃう?てか普通に二水戦に入れた方がええやろ」

 

正直それは不知火を見つけた時に思わななったわけじゃない。

 

「規定上は一水戦から二水戦への移籍なら旗艦の面接だけでできるんやしやらん理由ないやろ」

 

たしかに規定上はそうだけどあまりにも第一水雷戦隊と第二水雷戦隊の性格が違いすぎる事もあって今までそれが実際にされたと言う話は聞いた事がない。

 

「それに他の候補生のためにもならへんで。最近はグループでの訓練を増やしてるから不知火がおるかおらんかで訓練の難易度が大幅に変わってくる。今の段階で100人以上も残ってんのは明らかに不知火の影響やで」

 

本来ならもう20人ばかり候補生を減らすつもりだったのにここまで残っているのは候補生が不知火を中心に纏まり団結して課題に取り組んでいる影響は大きい。

 

「私はいいと思うけど…神通さん達が確実に嫌がるわよ」

 

一水戦の“い”の字でも出ようものなら顔を能面の様な無表情に変えるからあの人達の前ではこの話は絶対にできない。

 

「ウチが二水戦に入った時はもう10年前の当事者はおらんかったからよう知らんのやけどやっぱり一水戦ちゅうんはネックになるか」

 

「なるわね。私が二水戦に入隊した時の駆逐隊の隊長が当事者だったから話を聞いているけど不知火が同期じゃなかったら一水戦の艦娘を二水戦に移籍させようとは思わないわ。神通さん達は当時者だし尚更でしょうね」

 

人柄をよく知っているからこそ一水戦の艦娘でも不知火を二水戦に入れていいと思うけどそれ以外の一水戦だと流石に入れるかどうか悩む。

 

「当時の一水戦と今の一水戦は完全に別物やで。なんせウチら二水戦と違って生き残りがおらへんかったからな」

 

「それは分かってるんだけど神通さん達の気持ちもわかるだけに訓練を切り上げさせて入隊させるのは流石に後ろ髪が引かれるのよね」

 

先輩達がどれだけ一水戦の事で苦しんでいるのか直に見てきただけに簡単に一水戦の艦娘の加入を許したくはない。せめて候補生として選抜には参加してもらわないと。

 

「もう10年も経つっちゅうのになぁ」

 

「私達部外者にとっては10年も経ったと感じるかもしれないけど当事者にとってはたった10年としか感じないんじゃないかしら」

 

「そう言うもんなんかな」

 

「さあ?」

 

「さあ…て自分が言うたんやん」

 

「当事者じゃないから本当のところは分からないわよ。けど簡単に割り切れる物ではないと思うわよ」

 

結局のところその感情は当人達以外わかりようのないものだし全ては私の想像だ。けど多分そう大きく外れてはいないと思う。

 

「それはそうかもしれんな。けどな陽炎、先輩らを慮るのもええと思うけど今重要なのはどうやって二水戦を再建するかや」

 

黒潮の言っている事は正しいと思うけどそう簡単に先輩達の思いを切り捨てられるほど私は器用じゃない。

 

「そんでもってそのために目下解決せなあかんのは頭一つどころか二つくらい飛び抜けてる不知火をどうするかや。本来なら脱落しているはずの奴らが残って再建された二水戦のレベルが落ちることになりかねへん」

 

「厄介な話ね。一水戦でなければすぐにでも二水戦に入れたい人材なのに一水戦という肩書きが邪魔をする」

 

「今の二水戦の旗艦は陽炎や。陽炎が首を縦に降ればそれだけで全部解決するんやで」

 

理屈ではその通りだけどそう簡単にいかないのが現実なのよね。

 

「簡単に言うけどその後神通さん達に事情を説明するのは私なのよ。それとも黒潮がやってくれるの?」

 

「そう言う重要な役目は旗艦の陽炎に任せるわ」

 

そう言う黒潮はすごく嫌そうな顔をしていた。

 

「なんなら代わってあげるわ。給料も上がるしいいことしかないわよ」

 

「やめてくれや。ウチはまだ死にたない」

 

死ぬような役割を人に押し付ける気!?

 

「ウチは100歳まで生きてひ孫に見守られて死ぬのが夢やねん」

 

いけしゃあしゃあとよく言うわ。

 

「アンタみたいに性格が悪かったら誰にも見守られずに死ぬんじゃないの」

 

「陽炎は来てくれへんの?」

 

「私は…ってアンタ100歳って事は私は98とかでしょ?そんな長生きできるわけないじゃない!」

 

深海棲艦の現れる前は平均年齢は80歳とかだったけど今となっちゃ深海棲艦のせいでそれは下がっている。私はいつ死ぬともわからない艦娘だからこのまま死ぬ可能性だってある。そこまで生きるのは不可能に近いだろう。

 

「無理な事ないやろ。ウチらの代で深海棲艦との決着つけて平和な暮らしを手に入れればええだけなんやから」

 

「簡単に言ってくれるわね」

 

未だに太平洋南部は深海棲艦の手にあるしインド洋や大西洋、地中海だって深海棲艦の手の中にある海域は多い。簡単にはいかないだろう。

 

「黒潮なんて年齢的に4年もしない内に引退する事になるじゃない。できるとは思えないんだけど」

 

「ならその4年以内に深海棲艦と決着つけるためにもさっさと不知火を二水戦入れよ」

 

そう言うと黒潮は頼んだでと言って私の肩を叩くと職員室を出ていった。

 

「もう、わかったわよ」

 

上手く丸め込まれたようだけど不思議と悪い気はしなかった。

 

「まずは神通さんに話を通しに行こうかしら」

 

確かに大事なのは今どうやって二水戦を立て直すかであって神通さん達の気持ちをおもんばかる事ではない。けど…

 

「かつて神通さん達と砲火を交えた旧一水戦、その後継となった一水戦からの移籍を承諾してもらうのはなかなか骨が折れそうね」

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