第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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まだまだ続きます。


第一水雷戦隊 中編

「ここまでは艦娘乙事件の名前を知っていれば誰でも知る事ができることよ。ここから先は私の隊長だった村雨から聞いた話を混ぜつつ話していくわね」

 

さて、とは言ったものの話すことはほとんど無いのよね。

 

「結論だけを言うなら一水戦は文字通り全滅。二水戦の被害は小破が5隻のみで二水戦の完全勝利よ」

 

「え、ならどうしてそんなに嫌う必要があるんですか?仲間が殺されたわけでもないのに」

 

「きっと嫌っているわけじゃないのよ…」

 

直接聞いたわけじゃないから本当のところは分からないけど私はそう信じている。

 

「実のところ当時の下馬評では一水戦が有利だと考えられていたの。だから上層部は二水戦で削り切った後に主力を投入することを考えていたみたいよ」

 

「中隊単位では二水戦が上やのになんでそんな評価なんや?」

 

「死んだ天龍が配属されて直ぐの頃、一水戦と二水戦は大規模な演習をしたらしいわ。村雨が言うにはそれでボコボコにされたんだって。上層部も同じ評価だったみたいで二水戦も到底勝てるとは思っていなかっのよ」

 

「そんな酷い負け方したん?」

 

「一水戦の轟沈判定はゼロに対して二水戦は5隻が轟沈判定だったみたいよ」

 

「あれ、思ったよりも酷くないんですね」

 

これだけ聞けば親潮の感想通りだけど中身が酷かったらしいのよね。

 

「演習指定海域から離脱した場合撤退という扱いになってそこで演習が終わるルールだったのよ。一水戦は二水戦を少数部隊で誘引し、半包囲して攻撃したけど二水戦側が上手く撤退して演習は終了したらしいわ。もしも海域からの離脱が禁止だったり海域の設定がなく更なる追撃が可能であれば二水戦はボロ負けしていたって村雨は言ってたわね」

 

天龍の作戦立案能力と指揮能力がどれだけ高かったかがよくわかる話ね。

 

「意外やな。その時は少なくとも天龍の指示に従ってたってことやろ?なんで一水戦の連中は天龍を殴り殺したりしたんやろな」

 

「これはあくまで私の想像だけど、二水戦に対して負けたくないって気持ちの方が強かったんじゃないかしら?共通の敵の前には団結するしかないでしょうしね」

 

一水戦と二水戦の中の悪さは当時海軍では有名な話だったみたいだし。

 

「そういや廊下とかで一水戦とあったら譲るまで絶対に動かんとか殴り合いの喧嘩に発展するとか色々言われとるもんな。実際は全然そんな事なかったけど」

 

「雪風は入隊するまで道を譲ったらダメだと思ってたから驚きました」

 

「教導隊の教艦方も一水戦には道を譲らないって言ってましたからてっきりそうなんだと思ってました」

 

…配属された時に村雨からは一水戦どころか第二艦隊と潜水艦艦隊に所属する艦娘以外に何があっても道を譲るな、もし相手が譲らないようなら殴り飛ばせって教えられた事は黙っておいた方が良さそうね。

 

「この勝利があっても天龍の評価は一水戦の中で上がる事はなかったらしいわ。彼女達は自分達の実力があったからこそ勝てたと考えていたからよ」

 

「個人ならともかく水雷戦隊やからなぁ。天龍の力が大きそうなもんやけど…」

 

「普通はそうね。けど一水戦は演習後天龍を責めていたそうよ。貴女がが強ければ二水戦に撤退を許す事はなかったって」

 

たかだか1人の力が戦局に大きな影響を及ぼすとは思えないけど一水戦は本気で天龍のせいだと思っていたみたいね。

 

「高い能力を持つ者だけを集めていた弊害というべきか、あるいは速成教育の弊害か。どちらかは分からないけど負けた二水戦や周りの人間ではなく勝った一水戦の方が天龍の有能さを分かっていなかったのもこの事件を産んだ原因の一つと言えるでしょうね」

 

一水戦がただしく天龍の実力を評価していればこんな酷いことにはならなかっただろう。

 

「それで、反乱はどうやって鎮圧されたんや?」

 

「一水戦は東京湾の2つの海堡にそれぞれ物資を集積して周囲を機雷で囲む事で防衛線を敷いていたわ」

 

「東京湾の出入り口を封鎖したわけか。陸軍と空軍に出向させとる艦娘に攻撃はさせんかったんやな」

 

「十分な数がないから東京にはまだ配備されていなかったのよ」

 

まだ制度が開始されて1、2年しか経ってなかったから第一艦隊のいる関東圏には配備が進んでいなかったと聞いている。

 

「空軍は無人機で偵察してくれてたみたいよ。だけど陸軍と空軍が攻撃に参加できていたら簡単に鎮圧できていた可能性は高いわね」

 

「機雷って3日くらいしか効果が持続しないから滅多に使われないって聞いたんですけど設置する意味あるんですか?」

 

「一水戦の意図はともかく意味はあったわ。反乱を早期に鎮圧するよう命じられていたから攻め方が制限されていたの」

 

横須賀は叩いたとはいえ艤装さえあれば基本的にはどこからでも艦娘は出撃できるから背後を脅かされないと言う点では短期間とはいえ東京湾を封鎖できることの意義は大きい。

 

「持久戦策を捨てさせるためか、あるいは別の理由があったのか。一水戦は第一中隊の駆逐隊8隻に海堡を守らせて他部隊は正面から二水戦に襲いかかったそうよ」

 

「陽炎お姉ちゃん、二水戦って人数の変動が大きいですけどこの時は何人くらいだったんですか?」

 

「軽巡洋艦4隻、駆逐艦が39隻と聞いているわね。対して一水戦は天龍が欠けた以外は欠員なし。圧倒的不利な状態での戦闘となったわ」

 

全体の数では10隻、水雷中隊約一個分の戦力差がある。

 

「けど護衛に8隻使うてるから実際の戦力はほぼ互角やんな」

 

「護衛の駆逐隊が遊兵と考えればその通りね」

 

いつでも投入できる予備兵力と捉えることもできるからそこは一長一短だろう。

 

「一水戦も機雷の持続時間が短いことは知っているから速攻を仕掛けた訳だけど、元々二水戦は上層部からできる限り早期の鎮圧を命じられていたからほっといても二水戦は速攻を仕掛けざるを得なかったから自ら仕掛ける意味はあんまりなかったわね」

 

「けど正面からぶつかってよく被害が小破5隻だけで済みましたね」

 

「真正面から馬鹿正直にぶつかり合うわけないでしょ親潮。二水戦は第三海堡跡付近から攻めたから第一海堡とは少し距離があったの。第一海堡の一水戦が来るまでに第二海堡にいた2個中隊を半包囲して出来る限りのダメージを与えたのよ。中隊間の連携も上手くとれていなかったから結構な被害が出ていたみたいよ。

少し遅れて残りの一水戦が到着したけど二水戦は戦闘に入らず即座に包囲を解いて後退、一水戦が味方を収容しようとしたタイミングで前進して魚雷を斉射、再び一水戦を半包囲下に置いたのよ」

 

具体的な被害は分からないみたいだけど一連の攻撃で最低でも約一個中隊の一水戦の艦娘が轟沈していたらしい。同じくらいの大破艦も出ていたと言うからこの時点で戦局は決したと見るべきだろう。

 

「各個撃破からの包囲殲滅を狙ってたんか」

 

「本来の作戦は少し違ったけどね。元々2個中隊相手だとしても一水戦相手に殲滅するには時間が少なすぎるから、後退までは予定通りの行動だったのだけど、最初の一撃で一水戦との戦力差をできる限り狭めて後はヒットアンドアウェイに徹して更に数を削る。その間後方に控えていた速吸と神威からの補給を受けながら一水戦との数の差を埋め最後は数の利を活かして包囲殲滅する作戦だったのよ」

 

二水戦が元々予定していたのは同航戦での削り合いだったから当初の予定通りとはいかなかったみたいだけど、これは一水戦の戦力が想定以上に削れたからそうしたのであって寧ろ良いことだった。

 

「にしても負ける予想しとったのによう補給艦とか用意してくれたな」

 

「元々一水戦を誘引して最終的に主力部隊が包囲する事が作戦だったのよ。補給艦は比較的数が多いから後々主力が苦労しないようにしたんじゃないかしら」

 

真正面からぶつかり合えばどちらが勝っても間違いなく大きな被害が出る。仮に一水戦が勝ったとしても後から戦う主力の負担をできる限り少なくしようとしたのだろう。今も昔も実力の高い大型艦は貴重だしね。

 

「けどまだ無傷の駆逐艦娘が8隻残っとるやろ?それ合わせりゃ互角くらいには持ち込めるんとちゃうか?」

 

「たしかに数の差を埋めるなら遊兵となっている駆逐隊を投入すればいいのだけど問題は指示する艦娘がいないことよ」

 

「駆逐隊隊長の判断でやればいいんじゃないですか?」

 

「言うは易しよ雪風。通信を聞けばどれくらい劣勢かくらいは分かるけど、どこに投入するかは全体指揮を担当する者が居ないとチグハグな場所に投入する事になるわ。何より同格の隊長同士が上手く歩調を合わせて8隻纏まってたならともかく、駆逐隊毎に違う場所、違うタイミングで仕掛けたりしたら各個撃破のいい的よ」

 

二水戦ならともかく個の力を至高と考えていた一水戦には難しい話だろう。

 

「あぅ、ごめんなさい」

 

「別に怒っているわけじゃないわよ。考え方としては間違ってはないわ。実際に一水戦は雪風が言ったように駆逐隊隊長の判断で救援に駆けつけた訳だし。ただ今言ったみたいにバラバラに突撃した上壊滅しかけている部隊の場所に突入したから各個撃破の対象になったわ」

 

「最悪を極めたわけか。せめてどっちかだけならもうちょっとマシな結果になったやろに」

 

「突入した頃にはまともな抵抗ができていたのは第一海堡にいた2個中隊くらいだと言う話だし撤退するのが精々だったんじゃないかしら」

 

戦闘詳報を読んだ感じだと、撤退すれば2個中隊規模の艦娘が残った可能性はありそうだけど無傷の艦娘はいなさそうだし、壊滅を先延ばしにするだけのような気がするわね。

 

「とまぁこんな感じで一水戦は包囲殲滅されて二水戦は名実ともに世界最強の水雷戦隊の座を手に入れる事になったのよ」

 

話終わると3人ともなんとも言えない表情を浮かべていた。そりゃそうよね最初の質問に答えてない訳だし何より当時世界最強の水雷戦隊だった一水戦と二水戦の戦いにしてはあまりにもあっさりしすぎている。

 

「それで、なんでタブーになったん」

 

最初に口を開いたのは黒潮だった。

 

「私達艦娘の敵は何?」

 

「深海棲艦やな」

 

「どうして艦娘同士争ってあまつさえそれが原因で世界最強なんていう不名誉な称号を与えられなければならないんでしょうね」

 

村雨が実際にそう言ったわけじゃないけど、気持ちとしてはそんな所だと思う。演習や深海棲艦の討伐実績で決めたならともかく味方どうしで殺し合って優劣をつけるなんてナンセンスだ。

 

「この戦いの後に二水戦を去った艦娘も多かったみたいよ。中にはPTSDを発症した艦娘もいたとかって話だし、この反乱が二水戦に与えた影響はかなり大きかったわ」

 

当時の二水戦で生き残っている艦娘の内、まだ軍に籍を置いているのは二水戦教導隊の神通、叢雲、電の3人。それ以外は皆轟沈したかこの事件の後に軍を離れている。

 

「当時の二水戦にとって、いえ二水戦の歴史全体で見ても唯一の負の歴史よ。色んな悲しい事があっただけに神通さん達先輩にこの話をさせて当時を思い出させるような事はさせたくないわ」

 

だからこそ私達は次世代に語り継ぐ事を辞めて厳重に封をしたんた。

 

「後悔してるんでしょうか?」

 

「それはないわ親潮」

 

もし本気でそう思っているのなら酷い侮辱だ。命令に忠実に従い任務を完遂した事は素晴らしいことだ。

 

「村雨は一水戦と戦う事そのものは名誉な事だと言っていたわ。だからそれだけは絶対にないの」

 

この戦い以来不眠に悩まされていた村雨が後悔の言葉を口にしなかった以上それだけは絶対にないんだ。

 

「ただ一つ、命令の上とはいえ人を殺す事になった事に対する自分自身への忌避感だけは捨てられなかったみたいよ」

 

「それはつまりなんや、神通らが一水戦に対して忌避感を抱いてるから一水戦のことを避けとるってことか?」

 

「それは違うわね。もしそうならそもそも不知火を候補生にしなかったはずよ」

 

「それもそうやな。けど忌避感がないならなんであんなに嫌がるんやろ。ウチ候補生の時に電に聞いたら胸ぐら掴んで脅されたで」

 

「一水戦の艦娘を見ると当時を思い出すからじゃないかしら。あるいは現一水戦に対する罪悪感か…」

 

「罪悪感?」

 

しまった。これは話すつもりなかったのに。

 

「…もし全滅させなければ一水戦は今も二水戦と並んで世界最強と言われていた、とか思ってるんじゃないかしら」

 

馬鹿馬鹿しい話かもしれないけど私はそう思えてならない。

 

「それはあり得へんやろ。反乱起こした時点で参加者はどんなに良くても一生牢屋の中や」

 

「サバイバーズ・ギルトでしょうね」

 

神通さん達は分からないけど少なくとも私は村雨にその気があったように思う。だって私が知っている村雨はどこか生き急いでいるように見えた。私が言えた義理ではないけど二水戦は死にたがりの集まりというわけではない。なのにあそこまで自ら激戦区に志願していた村雨は…。

 

「サバイバーズ・ギルトはあくまで災害や戦争から生き残った人間がなるもののはずです。今回のケースだと対象は元々二水戦が倒すべき敵なんですからサバイバーズギルトにはなりようが無いんじゃないですか?」

 

雪風の意見は正しいだろう。けど正しい事が全てを肯定するとは限らない。

 

「そうかもしれないわね。けどね雪風、反乱を起こすまでは一水戦は確かに仲間だったのよ。それをすぐに割り切れるほど二水戦の人間性は壊れていないわ」

 

深海棲艦との戦いでさえ心の弱い艦娘は心に傷を抱える事になるのに艦娘相手となれば尚更だ。




前編中編共にもしかしたら大幅改稿するかもです。もしすればその旨記載します。
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