第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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第一水雷戦隊 後編

「不知火としては罪悪感なんて抱く必要はないと思います」

 

唐突に出入り口の扉から聞こえてきた声に私達は一斉に振り返った。

 

「いつから聞いていたの?」

 

「艦娘乙事件の名称を言ったあたりからですかね。ノックしても返事がなかった物ですから勝手に入らしてもらいました」

 

殆ど始めからと言うわけだ。

 

「声くらいかけてくれたらよかったのに」

 

「二水戦視点からの乙事件の話というのは随分と興味深かったものですから。元とは言え一水戦の不知火に気を使わせない方がいいと思いまして」

 

「別にアンタ相手に気を使ったりしないわよ」

 

いったい何年の付き合いになると思っているのか。お互い相手に使う気なんてないでしょうに。

 

「そうでしょうね。本当は面白そうだから黙ってただけです」

 

初めからそう言えばいいのに。素直じゃないんだから。

 

「そういえば一水戦ではこの話ってどんな扱いなの?」

 

「知ってる人と知らない人がいるのでそれによって全然考え方が違いますね」

 

「当事者全滅しとるのに知っとる奴おるんやな」

 

「実力ではなく艦娘としての最終キャリアが一水戦になった艦娘は親とか姉が昔一水戦だった艦娘が多いんですよ。もちろん、その中には反乱事件に参加した艦娘の遺族も含まれています」

 

「コネって事ですか?」

 

確かにその通りだけど随分とストレートな物言いしたわね雪風。

 

「なんせ元第一艦隊旗艦である連合艦隊旗艦は元一水戦でもありますからね」

 

ややこしい話だけど連合艦隊旗艦は最初は一水戦の旗艦を務めていた。第一艦隊旗艦だったもう一人の初期艦が連合艦隊旗艦になった時に第一艦隊の二代目旗艦に就任している。

 

「連合艦隊旗艦って元一水戦だったんですか?」

 

「なんや親潮しらんかったんか?」

 

雪風も驚いた表情してるし雪風も知らなかったみたいね。

 

「連合艦隊旗艦は第一艦隊の旗艦を務める前は一水戦の初代旗艦だったのよ」

 

初期艦と言われた5人の駆逐艦娘唯一の生き残りであると同時に日本の艦娘の歴史そのものとも言える連合艦隊旗艦の意向とあればいくら上層部といえどNOとは言えないわね。なんせ初期艦の恩恵を一番受けたのが当の上層部な訳だし。

 

「てか初期艦の話って訓練学校で習わんかったっけ?」

 

「習ったけど一水戦に所属していた話はされていないわよ。今にして思えばこれも乙事件隠蔽工作の一環だったのかもしれないわね」

 

第2代連合艦隊旗艦が元第二艦隊旗艦というのは話されたのに第3代旗艦、つまり現旗艦が元一水戦の話はされていない。当時の旗艦ではなかったとは言え一水戦の創設者と言える連合艦隊旗艦が反乱を起こした一水戦と関わりがあった事が汚点になるとでも考えたのだろうか。

 

「そうですね。けどもしそうだとししても連合艦隊旗艦は直接の関係ないでしょうね」

 

「あら、どうしてそう思うの?」

 

「旗艦は度々一水戦の訓練に加わる事があるんですけどその時、たまに昔の一水戦の話をしてくれるんですよ。一水戦が反乱した事もその時に聞きました」

 

私達でさえ口をつぐんでいたのに元一水戦旗艦は随分と気楽に話していたのね。

 

「特にコネ入隊の艦娘とよく話していますけど隠蔽工作なんていう後ろ暗い事に関係があれば遺族にそんなふうに接する事なんてできないでしょう」

 

「いくら一水戦が反乱したことは事実とは言えその経歴さえも消そうとするほど苛烈な隠蔽工作をしておきながらその遺族に対しては普通の態度で接するなんてこと、普通の人はできないわね。性格が悪すぎるわ

 

当時既に連合艦隊の旗艦であった以上少なからず一連の事件には関わりがあるわけで、それはつまり一水戦と二水戦の戦闘とその後の隠蔽工作を考え実行した側の人間であると言うことだ。遺族側がどう考えているのかは知らないけど少なくとも旗艦には負目があるはずた。

 

「それで旗艦はこの事件についてなんで言っていたの?」

 

「特になにも。事実を羅列しただけで二水戦に対して恨み言を言ったりしてた訳ではありませんよ」

 

「少しくらい一水戦を擁護してもいいと思うけどそれさえなかったの?」

 

一水戦の反乱は上層部が一水戦の気質をよく理解できていなかった事に起因すると言っていい。

もしも天龍の配属先が個人の技量よりも集団での連携に重きを置く二水戦で有ればうまく適応できていた可能性が高いく死なずにすんだだろう。

 

「ないですね。ただ自分がいれば二水戦に負ける事はなかったなんて言ってましたけど」

 

「随分と物騒なこと言っとんな」

 

聞きようによってはタイミングさえ合えば反乱に参加していたようにも取れる。

 

「もしそうなっていれば二水戦どころか日本の艦娘のほとんどが沈んでいたでしょうね」

 

比喩ではなく初期艦と私達にはそれだけの実力差がある。文字通り体の作りが違うからだ。

 

「そうですね。旗艦が偶然沖縄に視察に行っていたおかげでそうはなりませんでしたけど一歩間違えば一水戦側について戦争を起こしていた可能性も否定できません」

 

「……それは否定してくれない?」

 

私達二水戦の絆は強いけど一水戦はそれほど強くないはず。いくらなんでもそんなに親しくない艦娘のために反乱に協力するなんてないわよね。

 

「当時から一水戦同士はかなりいがみ合っていたみたいですけど旗艦は創設者と言うだけあって全員から慕われていたみたいですし意外とあり得ない話ではないと思います」

 

「恐ろしい話やな」

 

旗艦が一水戦の反乱に思う事があったなんて思っても見なかったわ。

 

「今回二水戦が壊滅した事、旗艦はどう思っているのかしら」

 

「どうって…」

 

「かつて一水戦を滅ぼした二水戦が深海棲艦の手により壊滅させられてせいせいした?それともかつての好敵手とも言える部隊が滅んで悲しいのか。あるいは日本という国の深海棲艦に対する抵抗力が弱まった事に頭を悩ませているのか…」

 

「一番目はあまりにもうがった見方をしすぎてるんとちゃうか?」

 

「そうかしら。一水戦に加担すればなんて仮定の話をするくらいには一水戦の事を思っていたのなら少しくらいそう考えても不思議じゃないと思うわ」

 

自分でも考えすぎかと思わなくもないけどもしも私が同じ立場ならそう思うような気がする。

 

「仮にも連合艦隊旗艦やで」

 

「その前に艦娘であり人よ。連合艦隊旗艦だからといって神聖視するのはどうかと思うわ。不知火はどう思う?」

 

「旗艦の心情を不知火が押し図る事なんて不可能です」

 

「ここにいる誰よりも関わりがあったんだから私達よりはその心情がわかるんじゃないかしら?」

 

私が旗艦と会ったのは駆逐隊の司令に任命された時ただ一度きり。それも事務的な話しかしなかったから彼女の人となりを知る事はできていない。

 

「不知火もよくわからないんですよ。旗艦は乙事件の事を話してくれはしましたけどそれ以外は訓練で指導するだけ。それ以上の関わりを持つのはコネで入った艦娘だけなんです」

 

「それ以上の関わりって例えばなに?」

 

「個人的に飲みに行ったりとかですね」

 

意外と普通ね。

 

「不知火はそれをしていないと」

 

「はい。噂ではよく乙事件の話が話題に上がるとか」

 

なるほど。けどこれではっきりわかったわね。

 

「やっぱり二水戦に対してあまりいい感情はないと思うわ。もし本当に何も思っていないのなら不知火ともコネ組と同じように接するか全員が不知火と同じような対応になるはずよ。それをせず共通の話題を共有できる者と親しくしている辺り何も思うところがないと言うのは無理があるわ」

 

「そうかなぁ。ただ昔のことを思って談笑しとるだけかもしれんやん」

 

「黒潮、それはつまり遺族が加害者に対して好意的な感情を持っているということになるわよ」

 

旗艦に思うところがなかったとしてもまず間違いなく二水戦を恨んでいるであろう一水戦の関係者と親しくしている事と電からの忠告を考えるとあまり楽観的には考えられない。

 

「朱に交われば赤くなる。遺族の混じった飲みの席で反乱の話題が上がる以上それが好意的なものである可能性は少ないと見るべきよ」

 

「それもそうやな。まぁ、だからと言ってそれがどうしたんやって話なんやけどな。二水戦の壊滅と関係があるわけでもあるまいし。深海棲艦と意思疎通とか出来へんのやから」

 

言われてみればそうね。旗艦が二水戦にいい感情を持っていないからと言って今回の二水戦壊滅とはなんの関係もないわ。

 

「確かにその通りね、考えるだけ不毛だわ」

 

過ぎ去った事は覆し用がないし別に旗艦が何か悪事を働いたわけでもない。そう考えて、私は旗艦の話をする事になった元凶に目を向けた。

 

「ところで不知火はどうして私の部屋に?」

 

特に来る予定はなかったはずだけど。

 

「友人の部屋に遊びに来るのに理由が必要ですか?」

 

「なら候補生の時も遊びにくればよかったじゃない」

 

ここにいる事を話してさえくれなかったのに。

 

「教官と候補生が親しくするわけにはいかないでしょう。今は二水戦所属になった上に陽炎と同じ教官ですからね。遠慮なく遊びに来れます」

 

そう言って笑みを浮かべた不知火に私はため息で返事を返したのだった。

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