それはそうと6話どうでしたか?個人的には多いに笑わしてもらえました。
二水戦が二週間なんの作戦行動もない事は珍しい。西はアラビア湾から東はアメリカ西海岸、北は北極海から南は南極までと二水戦の行動範囲はすこぶる広く大昔の日本海軍みたく月月火水木金金と休みなんてないに等しい。そんな中ふって湧いてきたこの一週間という休暇を私は街へ繰り出す事で過ごそうと思う。
今から10年ほど前だろうか、私は外交官だった父の赴任地であるイギリスに住んでいた。だからと言う訳ではないけど紅茶に目がない。ここスリランカはかつてセイロンと呼ばれ紅茶の名産地だったから茶葉でも買いに行こうと思ったのは昨日の話。けどある事実を知ったせいで今はそんな事どうでも良くなった。
「まったく、基地が全面禁煙だなんて聞いてないわよ」
真偽は定かではないけど艦娘に飲酒喫煙を許可している理由が幼い時から艦娘として戦う私達のストレスを少しでもケアするためなんて噂もあるから全面禁煙を実施する基地は珍しい。と言うか聞いたことがない。
「しかも酒保に煙草置いてないから持ち込んだ分がなくなったら基地の外で買わないといけないし本当嫌になるくらい徹底してるわね」
たしかに前線の方は後方に比べて酒煙草に関して厳しい傾向にある。いつ深海棲艦が来るともわからないのに酒を飲むわけにもいかず煙草の吸いすぎで体力が低下して対抗できずに死んだら元も子もないと言った事が主な理由だ。対して後方はそんな心配をしなくていいから艦娘としての特権を存分に生かして酒も煙草も毎日のように楽しむ。酷い艦娘だと高給取りなのをいい事に連日ホスト通いをするような艦娘までいるらしい。
……いや、意外と煙草はそんなに吸ってないか。昔みたアンケートだと毎日1箱以上吸うのは海軍所属の艦娘だと1%以下だったわね。やっぱりみんな連合艦隊旗艦にあやかろうとしてるのかしら。
「あら?」
路地を曲がると地図にあった煙草屋の看板が目に入ると同時に何やら見覚えのある金髪の艦娘が2人、煙草屋と揉めているのが目に入った。
「こっそり売ってくれてもいいじゃない!」
「要するにNelson達にバレなきゃいいんだからおばちゃんが口をつぐめばいいのよ」
「何度言われようとアンタらには煙草は売らないよ。写真付きの手配書まで渡されて売るなってNelsonに何度も念を押されてんだよ」
店長と思しき小太りの中年女性が指差す先には東洋艦隊の駆逐艦JervisとJanusの顔写真と登録番号らしき数字が書かれたさながら手配書のようなポスターが貼られていた。
「おばちゃんは煙草が売れて嬉しい、あたし達は煙草が吸えて嬉しい。win-winの関係じゃない!!」
「何度言われようとアンタらには売らないよ」
「店長さん煙草1カートン貰える?」
時間がかかると判断して横から割って入ると2人は化け物でも見たような悲鳴をあげて煙草屋の脇に飛び去り看板に身を隠した
「お嬢ちゃん見ない顔だけど新人さんかい?」
「違うわ。そこにいる不甲斐ない連中のために日本からはるばる応援にやって来たのよ」
「一応登録番号の確認をさせてもらえるかい?」
「構わないけど……どうして?」
不思議に思いながらも私は身分証明書を手渡した。
「トリンコマリー基地所属の艦娘には煙草を売らないよう通達が出されているんだよ。配布されている登録番号に合致するようなら煙草を売ることができないんだ」
「徹底してるわね。トリンコマリー基地所属の艦娘には心底同情するわ」
煙草が体の悪いと言うのは理解できるけど喫煙家に対してその理論を押し付けないでほしいものね。私達は好きで吸っているんだからそんなもの全て承知の上なのに。
「元々煙草を吸う艦娘はトリンコマリー基地には殆どいなかったしいても態々街に買いに来なくとも配給分でどうにかなるくらいしか吸ってなかったみたいだからそう思うのは少数だろうね。はい、ありがとう」
黒潮なんかは逆にこれを機会に禁煙しろだなんて言ってきたけどそんなの冗談じゃないわ。吸うなって言われた方が人間吸いたくなるものよ。
「1カートンくれって話だけどウチも小さな店とはいえ煙草屋の端くれだからね、それなりに種類ってもんがあるんだよ。何か指定してくれないとこっちとしても困るよ」
「何でもいいわ。オススメのものを適当に頂戴」
吸い始めた頃は銘柄にも拘っていたけど各地を転戦していると手に入る煙草の銘柄もバラバラで次第にそんなこだわりも無くなっていった。今は吸えればそれでいい。強いて言うならキツければキツイほどいい。
「オススメって言われてもあたしゃ煙草を吸わないからそんなのわかりゃしないんだよ」
「煙草屋なのに吸わないのね」
「煙草屋が吸わなきゃいけない法律でもあんのかい?」
「それもそうね」
自分で選んでもいいけど……
「Jervis、Janus、アンタ達は何を吸ってるの?」
「…ラッキーストライクの1番軽いやつよ」
「Janusは?」
「マルボロの1番軽いやつ……です」
あんだけ騒いでたからてっきりもっとキツイのを吸ってるかと思ったけど全然そんな事はなかったわね。随分と可愛いの吸ってるじゃない。
「店長さんラッキーストライクとマルボロ、この店で1番……そう、タール量が多いやつを5箱づつ頂戴」
専門用語という訳ではないけど喫煙家の間だとキツイだとか軽いだとかそう言った言葉で通じるけど煙草を吸わない店長相手にそう言っても伝わらないだろう。
「はいよ。ちょっと待ってな」
店長が店の奥に商品を取りに行く間、私は気になっていたことを尋ねた。
「で、アンタ達はどうしてそんなに煙草が吸いたいのよ。あんなもの体に悪いだけでいいことなんて何もないわよ」
「アンタ、じゃなくて陽炎さんの方こそ随分とたくさん買ってましたけどそちらこそどうして煙草を吸うんですか?」
Nelsonの教育がよく行き届いているみたいね。昨日ならお前とかアンタとか言っていただろうけどさんを付けるなんて随分と成長したじゃない。
「アンタ達歳は幾つ?」
私の質問に2人は顔を見合わせるとJervisが答えた。
「13歳よ」
私達二水戦に対する物言いからしてそうだろうと思ってはいたけどやっぱり若いわね。
「煙草はいつから?」
「私もJanusも1年前、ここに来てからよ」
1年前という事は卒業してすぐに東洋艦隊所属となったということね。
「東洋艦隊に配属されたのは訓練学校での成績が悪かったから?それとも何かやらかしたの?」
東洋艦隊は他国の艦娘との交流、つまり日本の艦娘との交流を目的としてスリランカに設立された部隊だ。艦隊旗艦には相応の実力とコミュニケーション能力、そして人格的に優れた艦娘が求められるがそれ以外の艦娘は最低限の実力さえあればいいと考えているようであまり質が良くない。
イギリス本国を守る本国艦隊や地中海の奪還を目指す地中海艦隊、大西洋奪還のためにアメリカと合同作戦を続ける大西洋艦隊に比べるとイギリスの東洋艦隊への関心が低いことが原因だった。だから最低限の数の艦娘にイギリス最高だった艦娘を派遣することでお茶を濁していた。もっとも、現在イギリスにNelsonを超える艦娘がいないから今の東洋艦隊は歴代の東洋艦隊の中でかなり強い部類に入るだろう。
「……」
「言いたくないならいいわ」
「Nelsonの部隊に配属されたかったんです」
1年前のネルソンといえば地中海で深海棲艦を倒しまくっていた時期ね。
「それは地中海艦隊に所属したかったという事かしら?」
「両方よ。地中海艦隊旗艦、戦艦Nelsonの麾下で深海棲艦と戦いたい。その思いでNelsonの部隊への配属を希望したの」
「見事配属は許可されたけど代わりに東洋艦隊なんていう辺鄙な艦隊に配属されることになったと」
配属の希望が通った言う事実をこの場合どう見ればいいのだろうか。東洋艦隊はイギリスにとって軍事的には重要じゃないけど政治的には重要な艦隊だ。軍からすれば最低限の戦力を、政治家からすればある程度の戦力を保持しているのが望ましい。となるとこの2人は平均より少し下くらいの成績だったんじゃないだろうか。
「東洋艦隊に配属って事は大した実力じゃないんでしょ?地中海艦隊や大西洋艦隊みたいな激戦区に配属されても死ぬだけじゃないの」
地中海は広さの割に多くの深海棲艦が存在していて姫級の数も多く麾下の艦隊の練度も高い。
一昔前だとこれに対してイギリスやフランス、イタリアといった国々は数の力で対抗していたけど深海棲艦側が上手く立ち回っていたから数多くの未熟な艦娘が地中海に沈んだ。あまりの戦績の悪さに方針を転換し現在では経験豊富な練度の高い艦娘を即応艦隊として少数配置する事で最低限の航路を確保することに成功していた。
「そんな事……」
「東洋艦隊に配属されている時点で実力に察しはつくわ」
私の言葉に2人は自覚があるからだろうか、黙り込むことで答えた。
「そういえば煙草を吸ったのもこの基地に来てからって言ってたわね。なに、もしかして配属が思ってたのと違ったからグレたわけ?」
だとしたらなんともくだらない理由ね。実力不足は自分のせいでしょうに。
「違うわよ!」
「じゃあなによ」
しばらく黙り込んだ後、Jervisが答えた。
「……たかったのよ」
「なに?」
「だからNelsonの力になりたかったのよ!」
意味が分からない。
「力になりたい事の何が煙草を吸う事に繋がるのよ」
「ちょっとは大人に近づけると思ったんです。大人に近づけばNelsonの役に立てると思って…」
「まずは形から入ったってわけね」
そんな事しても実態が変わるわけじゃないのに。子供みたいな安直な考えね。いや、私より6つも下ならまだまだ十分子供か。
「よりによってどうして煙草なのよ。今じゃ世界的にも艦娘の喫煙は嫌がられる傾向にあるのに」
ここ数年の日本の勇戦によって東南アジアとインド洋の航路が復活した事は世界経済に少なくない影響を与えていた。アジアとヨーロッパの海上輸送による交易が復活した事で物資の供給が安定し、それに伴い嗜好品の供給も安定し始めた。特にチョコレートの原料となるカカオ豆、その一大生産地の一つであるインドネシアとヨーロッパの交易が復活した事が嫌煙機運を助長さら原因になっている。
所謂カカオベルトと呼ばれるものにあたる部分のほぼ全ての制海権が深海棲艦の手にあり唯一そうではない場所が東南アジア地域だ。元々生産量世界2位だったインドネシアと世界第1位だったコートジボワールとは生産量が2倍の開きがあったけどいくら作ろうとも陸路では運ぶ量に限界がありコストも掛かる。自然とコートジボワールのカカオ豆需要の低下とともに生産量は減少してそれに伴いヨーロッパでのチョコレートは超高級品の位置付けとなっていった。艦娘とはいえ若い女の子が甘いものが嫌いなはずがなく支給されるチョコレートの量が減るにつれて艦娘達の喫煙率が上がったなんて話もあるけどそれを裏付けするデータはない。
けど5年前にインド航路が復活した事でインドネシアから海路を通って比較的安定してかつ大量にヨーロッパへとカカオ豆を運べるようになった事が多少チョコレートの価格を下げる事につながりヨーロッパの艦娘達は煙草の代わりにこぞってチョコレートを求めるようになったという。以来、ヨーロッパでは嫌煙機運が高まり喫煙艦娘は忌避されるようになっていた。
「じゃあどうすればよかったのよ」
「普通に実力を高めていけばいいじゃない。そうすれば自然とNelsonの役に立てるわ」
「それじゃ遅すぎるわ!Nelsonはもう24歳。艦娘によっては引退していてもおかしくない歳なのよ!!」
その歳だからこそ東洋艦隊の旗艦になったわけで、今更Nelsonに手柄を立てたいとかそんな気持ちがあるとも思えないけど。
「有終の美を飾らせたいと。それをNelsonが望んでいるの?」
「それは…」
「貴女達の独断ならやめておきなさい。きっとNelsonはそんな事望んでないわ」
伝え聞くNelsonの人柄は仲間が戦死すれば涙を流し、無事に帰還すれば誰よりも先に出迎えに行き無事を喜ぶと聞く。長い間戦いの場に身を置き続けた艦娘はそんな当たり前の事さえできなくなる中極めて人間らしい行動をできるNelsonは実力、性格共に完璧な艦娘だと評されている。だけど私はそうは思わない。
実力と性格が完璧な事は認めるがそれがイコール艦娘としても完璧とは思えないのだ。あまりに優しすぎる艦娘は戦いの中で身を滅ぼす。性格的に艦娘に向かない者は往々にして実力が低く後方の基地で静かに艦娘としての任期を全うしているけど偶に性格と実力が合致しない艦娘がいる。そんな艦娘は何処かで精神を壊していつの間にかその命を海に散らしている。実際、私も何人かそんな艦娘を見たことがある。多分Nelsonもそのタイプだろう。だから彼女がこれ以上の戦闘を望んでいるとは思えないし今回の作戦にも参加したくないのではないだろうか。
「そんな…」
私に反論しようとしたであろうJervisを煙草を持ってきた店長が遮った。
「はい、どうぞ!待たせて悪かったね」
「そんなことないわ。この子たちのお陰で退屈せずに済んだから」
代金を払って煙草を受け取るとさっそく1本に火をつけて口に咥え、煙草を2人に一箱づつ手渡した。
「なかなか有意義な時間だったわ。これはそのお礼よ。願わくばその煙草が貴女達の人生最後の1箱になる事を望んでいるわ」
2人はまだ何かいいたそうだったけど私はそれに気付かないふりをして煙草屋の横に設けられた灰皿だけを置いた喫煙所に向かった。我ながら人に言えた義理ではないとは思うけど煙草はやっぱり良くない。
体に悪いと言うのもそうだけどああいう若くて純粋な、明日に希望を持っているような艦娘にこんなモノふさわしくないと思う。
アニメ6話なんですけど一月に気になったのが史実で時雨が沈んだのって龍鳳護衛中ではなかった気がするんですけど違いましたっけ?いや、そもそも史実から外れているからその辺に正確性はいらないと言えばいらないんですけど