第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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いつかあの海で、終わりましたねぇ。


捜索

私達が伊58の行方不明海域、四国沖に到着したのは那覇泊地を出発して1日と更に半日ほどの時を経て到着した時には現場海域は暗く捜索は困難な状態だった。

さらに言うならば到着時点で既にでち公が行方不明になってほぼ2日が経過し、普通の人間なら死んでいてもおかしくないけど彼女は艦娘、それも潜水艦娘だ。

 

「陽炎はほんまに伊58が生きとるって思うてるんか?」

 

「潜水艦娘は他の艦種と違って艤装が少なく防御力が低い代わりにあのスク水に艦娘として必要な最低限の能力が詰まっているわ。普段からあの格好をしてるでち公なら海に投げ出されても海中でやり過ごすことも可能なはず……」

 

潜水艦娘以外の艦娘は基本的には脚部艤装により浮力を得る。対して潜水艦娘はあのスク水そのものが浮力を得るための艤装となっている。だから潜水艦娘は基本的にはスク水さえ着ていれば生き残ることは可能だ。

 

「陽炎、正面の艦娘が部隊の所属を訪ねてきています」

 

不知火の言葉に正面を見ると発光信号で尋ねてくる艦娘を見つけることができた。

 

「夕立、返事をしなさい」

 

「了解」

 

「あと相手の所属も聞きなさい」

 

この海域にいるとすれば高知か和歌山、大阪あたりの艦娘だろうけど事件から結構時間が経っているし第二艦隊の艦娘もいるかもしれない。

形骸化して久しいけど一応この海域は第二艦隊の担当海域だ。

 

「……ぽい?」

 

「どうしたの夕立」

 

「一水戦っぽい」

 

その言葉に二水戦はざわめいた。一水戦が出撃するのは珍しい。それも沈んだ船の生存者を探すなどと言う戦闘以外での出撃となると尚更だ。

 

「引きこもりニートが珍しいですね」

 

辛辣だかけど不知火の言葉は的を得ている。と言うか仮にも元一水戦なんだからもう少しオブラートに包んであげればいいのに。

 

「不知火、あんたの古巣でしょ。話聞いてきなさいよ」

 

「その必要はないと思いますよ。向こうから近寄ってきています」

 

言われてみればたしかにモールス信号を打つ光が少しずつ近づいてくるのがわかる。

 

「第一水雷戦隊、第三駆逐隊所属の旗風と申します」

 

第三駆逐隊と言うと実戦部隊ではないわね。一水戦は第四、第五中隊に現役の艦娘が、第一から第三中隊に引退前の艦娘が所属している。第三駆逐隊は第二中隊の所属のはずだから彼女は実戦部隊ではないと言うことになる。

 

「第二水雷戦隊旗艦の陽炎よ。潜水艦隊旗艦が襲撃され行方不明との報告を聞いて捜索のために駆けつけたわ。現状を聞かせてもらえるかしら?」

 

「申し訳ありませんがそれはできかねます」

 

「……理由を聞かせてもらえるかしら」

 

「今回の件、捜索は私達第一水雷戦隊に一任されております故、二水戦の出る幕などございません」

 

「この海域は元々第二艦隊の担当海域のはず、一体誰がそんなことを言ったのかしら」

 

豊後水道から紀伊半島沖までの太平洋側の海域は第二艦隊の、呉鎮守府の担当海域だ。日本近海が平和になったことでそれも形骸化していたけどそれでも書類上変更されていない以上は有効と考えるべきだろう。

 

「連合艦隊旗艦、漣の指示です」

 

潜水艦隊旗艦ほどの人物が行方不明となれば連合艦隊旗艦が動くのも納得できるけどそれで動かすのがよりによって一水戦なんて正直旗艦の正気を疑いたくなる。

 

「指示がご理解いただけましたらお引き取りを願います。ここは一水戦の任地、何人たりとも侵入を許しません。強引に侵入しようと言うのなら沈めてでも止めさせていただきます」

 

沈めてでも止める……か。

 

「神風型如きが随分と大口を叩きますね」

 

「この数相手にどうやって沈めるっぽい?」

 

「寝言は寝て言うもんだよ」

 

「後ろで踏ん反り返る事が仕事の一水戦が何言ってるんですか〜」

 

私が返事をするよりも先に狭霧を筆頭に旗風の言動に対して思い思いの反応を示した。よく見ると雪風はいつのまにか私の横に来て12.7センチ砲を構えているし視界の片隅に映る黒潮も今にも攻撃体制に移行しそうな格好だ。

比較的穏健なはずの巻雲でさえも不愉快そうな反応をしているのだから武闘派連中がそう言った反応をするのは仕方のない事とはいえあまりいい傾向ではない。

 

「じゃあ現在の捜索状況だけでも教えてくれないかしら。生存者はいるの?」

 

「お答えしかねます。全ての調査が終わるまで、一切の情報を外部に漏らさぬよう命令されています」

 

一水戦の第一から第三中隊は艦娘としての最終キャリアであり多くの駆逐艦娘にとっては憧れの一つだ。けどその門は想像以上に狭い。番号付き艦隊に所属していようがどれほどの戦果を上げようが関係ない。もちろん最低限の実力は必要だけどそれよりもなにより所属艦娘には何があろうと任務を達成する事ができると言う信用が必要だ。

たとえ相手が誰であろうと命じられた事を忠実に確実にこなすと言う信用。その点で言えばこの旗風は任務に忠実と言うのは合格だろう。達成できるかどうかは疑問が残るけど。

 

「貴女の任務はわかったわ。その上で聞くけど貴女は今目の前にいるのが一体誰であるのか、それがわかった上でその言葉を発しているのよね」

 

「当然です。第二水雷戦隊旗艦旗艦、陽炎。たとえそれが日本最強と謳われた部隊であろうと変わりません。必要であれば今ここで海の藻屑となっていただきます」

 

仲間同士のじゃれ合い以外で殺すと面と向かって言われたのは初めての経験ね。

 

「是非もなし、なんて言えば貴女はそうするのかしら」

 

私の言葉に背後から武器を動かすような金属音が鳴り響いた。

 

「貴女にその意思があれば」

 

それはそれで面白くはあるけど生憎私に味方同士で撃ち合いをする趣味はない。

 

「いいでしょう。それが連合艦隊旗艦の命令であると言うのなら私達は大人しく呉に帰港するわ」

 

「陽炎教官!ここまで言われて黙って引くんですか!?」

 

「漣の命令となれば覆しようがないわ」

 

そもそも連合艦隊旗艦からの命令と聞いた時点で私に否やはない。これまでのやり取りは全てこの子達のガス抜きのためだけにやったことだ。

 

「ここで引き下がったら雪風達がなんのために急いでここまできたのかわからなくなります」

 

雪風まで……。まったく、困った子達ね。

 

「黙りなさい」

 

それほど大きな声ではなかったけど強い口調でそう言うと騒がしかった二水戦の艦娘は一様に黙りこんだ。

 

「私が、第二水雷戦隊旗艦陽炎が連合艦隊旗艦漣の命令に対して諾と答えたのよ。これに対して反論すると言う事はそれなりの論拠があの事でしょうね」

 

私に対して意見を述べるのは構わない。けど時と場合は選んでもらわないと困る。艦娘が軍隊に所属する軍人である以上、身内しかいないならともかく旗風のような他人がいる場でまでこうも反論されては私の、引いては二水戦自体の実力を疑われかねない。

 

「……さて、どうやら反論はないみたいだし全員呉に帰港するわよ」

 

振り向き指示を出した後、再び旗風の方を振り向いた。

 

「悪かったわね」

 

「いえ、大人しく引き下がってくださるのでしたらそれで構いません」

 

旗風の言葉を聞いて改めて頭を下げると改めて帰路についた。

元来、移動中の艦娘は姦しい。年頃の少女が何人もいるのだから当然ではあるけど今回はそうではなかった。豊後水道の入り口に差し掛かるまで誰1人として口を開く事はなかった。どうやら脅しが聞きすぎたみたいだ。

 

「ところで陽炎、気付いてましたか?」

 

「気付いたって何に?」

 

最初に口を開いたのは不知火だった。元来寡黙な彼女だけど長い付き合いから彼女が沈黙というものがあまり好きでない事を私は知っていた。あまりの静かさに痺れを切らして自分から話したというところだろう。

 

「旗風の視線ですよ」

 

「……あぁ、私しか見てなかったって事?」

 

雪風や狭霧が何を言おうとも彼女は私から視線を外さなかった。それ程までに私の事を脅威と見ていたのか、それとも私さえ落とせば今の二水戦なんて烏合の衆と侮られたか。

 

「彼女の事は多少なりと知っていますが、あそこで強行しなくてよかったです」

 

「あら、彼女そんなに強いの?」

 

強いだろうとは思っていたけど不知火がこうまで言うなんて相当ね。

 

「3年前のスンダ海峡の戦いでスマトラ警備府の駆逐艦娘を率いていたのが彼女です。駆逐艦娘の中でもやや性能の劣る神風型でありながら性能ではなく技術を持ってスマトラ警備府の駆逐艦娘のトップに立っていたあたり、その実力は推して知るべきでしょう」

 

あの戦いの数少ない指揮艦クラスの生き残り、そしてその撤退を指揮したのがスマトラ警備府の駆逐艦だったという。生憎私は彼女と会う機会がなかったけど随分と上手く残存艦娘をまとめて撤退したという話だ。

 

「それは確かに強いわね。彼女、もしかして三駆の司令駆逐だった?」

 

「ええ。なので間違いなく他の三駆もいたはずです」

 

「三駆どころじゃない気もするけどね」

 

おそらく他の一水戦もいた事は間違い無いだろう。でなければいくら旗風が強かったとしてもあそこまで強気にはなれないだろう。

 

「そうですね」

 

「いるとすればどの隊だと思う?」

 

「彼女の所属する第二中隊は当然としてあとは第一か第三、あるいはその両方でしょう」

 

「そうね、そんなところでしょうね」

 

現役艦娘で構成される第四、第五中隊を行方不明者の捜索くらいで出すとは思えないし妥当なところでしょうね。

さて、不知火との会話で少し空気も和らいだところでお説教の時間ね。

 

「……雪風、狭霧こっちに来なさい」

 

私の呼びかけに雪風は肩を落として、狭霧は戦々恐々とした様子で隊列を離れて私に並走した。

 

「自分で考え行動する事は悪いことではなくむしろ推奨さえするわ。けどその考えを出す時と場所は選んでくれないの困るのよ」

 

自分で考え行動する。部隊を指揮する艦娘に必要な事であり二水戦の艦娘にはそれをどんどんしてもらいたくはある。

 

「時と場所……ですか?」

 

「そうよ。雪風はそれがわかっているから肩を落としているのよね。狭霧に教えてあげなさい」

 

雪風には酷な事かもしれないけどこれも罰の一環だ。

 

「………あの場では陽炎お姉ちゃんは二水戦の旗艦として連合艦隊旗艦の命令を伝えに来た旗風と話していました。立場的に旗風は旗艦の代理人といえます。その中に二水戦の高々中隊の副司令と平隊員が割って入りあまつさえ砲口を向けるなんてあっていいはずがありません」

 

「その通り。そしてそれは何も貴女達2人だけの話ではないわ。他のみんなも随分と好き勝手言ってたわよね」

 

後ろを振り返り睨みつけると一瞬、隊列が乱れた。

 

「特に黒潮。アンタは止める側でしょう。何一緒になっていきりたってんのよ」

 

他のみんなみたいに口に出したりはしてなかったけど今にも砲口が旗風の方を向きそうだった事にはちゃんと気付いてたんだからね。

 

「一応あの海域はウチラの担当海域や。やのにあんな風に言われて掻っ攫われるんは気ぃ悪いやろ」

 

「否定はしないけど最年長なんだし年長者として後輩達の規範となるような行動をしなさいよ」

 

「ウチは正直もんやからな。そんなんできへんわ」

 

私よりも年上のはずなのにどうしてこうも子供っぽいのかしら。

 

「黒潮」

 

横まで睨みつけると黒潮はビクリと肩を揺らした。

 

「わかったからそう睨まんといてぇや」

 

「なら次はちゃんと立場に相応しい立ち振る舞いをしなさいよ」

 

明らかに本心ではなさそうな了解という返事が返ってきたけど今回はそれでよしとしよう。

 

「みんなも、時と場所はちゃんと考えて行動するように。それで今回の件は終わりとするわ」




しばらくはいつかあの海での感想を後書きで書く事にします。

まぁ、まず一つ言える事は全8話でやるないようじゃなかったなと思いました。12話とまでは言いませんけどせめて後2話あればもう少しマシな形になったのではないかなと思います。
で、一つ思ったのが前半の西村艦隊。あの話必要でしたかね。最終盤に山城達にもっとフォーカスを当てるならともかく龍鳳護衛以降はそう登場も多くないですしレイテをなくしてレイテ後から坊ノ岬に内容を絞ってアニメをして方が内容も濃くて今のになった気がします。レイテ前からレイテにかけてを描くのでもいいですけど。
何より第8話が内容に対して明らかに時間が少ない。あれ2話くらいかけてやる内容じゃないですかね。だから尚更レイテ削ってその分坊ノ岬の描写に時間をかけた方がいいのではと思ってしまう。まぁ、普通にレイテで艦隊が集結した時がクライマックス感あったしあれを最終話にしてもいい気がしますけど。

次回は龍玄としさんの時雨について個人的な考えを少し書こうかなと思います。あの歌いい歌ですよね。
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