「Hey陽炎!聞きましたヨ。一水戦相手に尻尾を巻いて逃げてきたんですってネ!」
到着早々出迎えたのは私のよく知るアメリカかぶれの金剛だった。
私を煽りたいのは分かるけど少し考えれば分かった筈だ。今ここにいる二水戦がどういう状況か。昔の彼女はそんな事も分からないほど馬鹿ではなかったはずなのだけど……
「どうしたデスカ陽炎!何か言い返し」
その言葉は狭霧の拳により遮られる事になった。二水戦の中でも狭霧、雪風は特に気が短い。今回は偶然狭霧が近くにいたから先制は狭霧に譲ったけど直後、雪風が所謂ヤクザキックを放ち金剛の鳩尾にクリーンヒットした。
「か、仮にも戦隊旗艦になんて」
これも最後まで言う事はできなかった。今度は夕立の砲撃が金剛の足元に突き刺さりさらに追撃とばかりに磯風の砲弾が金剛の頭を掠めた。
「ちょっと!ここには弾薬もあるんですよ!!当たって爆発でもしたらどうすんですか!?」
金剛、ビビりすぎて口調が素戻ってるじゃないの。
「そんなヘマを夕立達二水戦がするわけないっぽい」
夕立の言葉に金剛の顔が青ざめた。
「Hey!陽炎、仮にも親戚同士なんデスから助けてくれてもいいんじゃないですカ!?」
「ごめんなさい今目にゴミが入って何が起こっているか分からないの」
目が痒いわ〜
「この音で何が起こっているかくらいわからないデスカ!?」
あ、今度は敷波の蹴りが脛に当たったわね。痛そうに脛を押さえてぴょんぴょん片足跳びをしているわ。
「嗚呼、耳鳴りまでしてきたわ。一体何が起こっているの」
「うわっ!ちょっとそんなもの当たったら死んじゃいます!」
巻雲、魚雷なんか投げちゃってダメじゃない。金剛型は戦艦の中では装甲が薄い方だから一発で轟沈しかねないわよ。
「大丈夫ですよ〜。ちゃんと火薬は抜いてます」
「そうですか、それなら安心……ってなるわけないですネ!」
そんなに簡単に火薬は抜けないですネ!なんて言ってるけどまさにその通り。訓練用の魚雷でさえ多少火薬は入っているし仮に自分で火薬を抜こうと思ったら相応の設備が必要だ。巻雲の言っている事はまず間違い無く嘘だろう。あとは訓練用である事を祈るしかないわね。
「陽炎一体どう言う教育してるデスカ!?」
少なくとも実弾を味方に撃ってもいいと言う教育をしてないことだけは確かだ。
……誰も信じないだろうけど。
「私は司令に報告をしないといけないから不知火、後は頼んだわよ。黒潮は私についてきなさい」
本当は最後まで見たいところだけどいつまでも道草食ってはいられないのよね。遠征から帰還した報告を司令にしないといけない。
「分かりました」
「まさかこのままの状態で提督のところに行くつもりですカ!?」
「耳鳴りが酷くて何言ってるか分からないわ〜」
金剛は腐っても戦艦だ。陸の上で駆逐艦に殴り倒されるような事はないだろう。艤装を付けてない状態で砲弾が直撃すれば大怪我は負うかもしれないけど逆に言うとそれだけだ。四肢を欠損でもしない限りはドックで治療可能だしそんなに大きな問題にはならない。よってここは放置一択だ。
なんなら二水戦とは言え駆逐艦くらいなら金剛が全員のしてしまうかもしれない。
「黒潮、アンタはどっちに賭ける?私は金剛が勝つと思うんだけど」
「なんや二水戦に賭けへんの?」
雪風達が抗議の声を上げながら金剛に対して更に猛攻を加えるのを横目に私は答えた。
「いくらなんでも陸の上で駆逐艦が戦艦に勝てるとは思えないわ」
文字通り馬力が違う。艦娘は常人とは比べ物にならないくらい力があるけど駆逐艦と戦艦ではその強化度合いが違いすぎる。例外はあるけど駆逐艦は戦艦を、大型艦を超える筋力は持てないと言うのは艦娘の間では常識だ。
「人を賭け事の対象にするじゃないですネ!」
自分だって逆の立場ならそうするくせによく言うわ。
「それに私が二水戦に賭けた方が金剛が苦しむ様を堪能できるじゃない」
「意味わからんわ。なんで陽炎が金剛に賭けたら金剛が苦しむねん」
「私が二水戦に賭けたら金剛は嬉々として二水戦を倒そうとするでしょう。そうすれば私を賭けに負けさせる事ができるもの。けど私が金剛に賭けて金剛が負けたら二水戦と言う私の部下に負けたと言う屈辱感を味わう事になるし勝てば私を賭けに勝たせたという敗北感を味わう事になるわ」
私の言葉に黒潮が深々とため息を吐いた。
「捻くれとんなぁ」
「捻くれてて結構。ていう事で金剛、私のためにせいぜい頑張るのよ!」
少し大きな声でドックに向かって声をかけるとふざけんじゃねぇデスヨ!という言葉が聞こえたがそれを無視して黒潮とともに司令室へ歩みを進めた。
「司令、二水戦旗艦陽炎只今帰還したわ」
「おかえり陽炎、黒潮。戦艦Nelsonが沈む中1隻の犠牲者も出さずに帰還した事は喜ばしい事は二水戦の復活を世に知らしめる事になっただろう。
現に連合艦隊司令部のお偉方は大喜びしていたぞ」
撃破した当初は私も嬉しかった。けど戦いの興奮が冷め冷静になるにつれ現実というものが見えてくる。
「戦艦棲姫1隻の艦隊相手に二水戦が全力で戦うなんて本来ならあってはならない事だわ。昔なら一個水雷中隊で対応していたわよ」
違いがあるとすれば被害の多さだろう。二水戦に被害が出るかは分からないけどインド洋派遣艦隊と東洋艦隊は確実に被害が増えている。それはデメリットではあるけど代わりに二水戦という強力な部隊を中隊単位で差し向けられるという事でありこの戦い全体で見れば各地に派遣できた方がメリットは大きいだろう。
「そういうな。中隊規模で戦隊並みの力を持っていた昔の二水戦が凄すぎたんだ。そこに追いつけていないからと言って悲観する事はないだろう」
「私が目指すのは昔の二水戦には勝てなくともそれに近しい実力を持つ部隊よ。この程度では到底近しい実力とは言えないわ」
「高すぎる理想は身を滅ぼすきっかけになり得るぞ」
「なら大丈夫よ。この理想は全然高くないわ」
私の理想は二水戦を超える事にある。けど私にそこまでの練度を持つ部隊を作れる自信はない。ならせめてそれに匹敵する部隊を作り上げようとするのはむしろ妥協の産物と言っていいだろう。
「まぁこの話はもういい。それより本題に入ろう」
「本題?任務の報告が本題ではないの?」
それ以外に話すべきことはないと思うのだけど。
「違う。本題は一水戦だ」
「ウチのテリトリーを犯した一水戦ね。けど連合艦隊旗艦からの命令なら仕方がないんじゃないかしら。もちろん、厳重に抗議すべきでしょうけど」
「……潜水艦艦隊旗艦伊58の護衛を担当していたのが誰か知っているか?」
「知らないわ。四国沖で沈んだなら担当としてはウチの指揮下にある泊地か、もしくは佐鎮の指揮下にある泊地の艦娘じゃないかしら」
日本本土において艦娘が配置されている港は意外と多い。重要港湾以上に位置付けられた港から艦娘を駐屯させるに適した港を抽出、そこに一個中隊程度の艦娘を配置して必要とあれば日本近海を通る船舶の護衛につける。引退間近の艦娘や極端に練度の低い艦娘が配置されるポジションだ。
重要港湾だけで100を超える数がありそこから厳選してもかなりの数が残る。
「九州、鹿児島沖から佐世保の連中と交代して一水戦の艦娘一個中隊が護衛についている」
「……伊58が行方不明になったのは深海棲艦の潜水艦の雷撃によって船が沈んだからよね。一水戦の連中が気づかなかったと言うの?」
旗風を見ても分かるように一水戦の実力は低くない。私達二水戦と比べるとその差は歴然としているけど潜水艦に雷撃された上にその下手人を取り逃すほど彼女達は弱くない。
「妙な話だろう?」
「そうね。さらにその規模の艦娘がいたのに伊58が行方不明というのもおかしな話ね。
船に乗っていたのなら爆発に巻き込まれるみたいな直接的な攻撃を受けない限りダメージは負わないわ。なのにどうして彼女は行方不明なんていう状態になっているの?」
「残念だが陽炎、その情報は古いな。さっき届けられた情報によると行方不明から12時間32分後に死亡が確認されている」
私達が沖縄を出発して直ぐにその死は確認されていたわけね。ならどうして旗風はあの海域に止まっていたのかしら。
「なぜ私達にそれを伝えなかったのか、どうしてあの海域に入る事が許されなかったのか。疑問は尽きないけどこの感じだとどうせ教えてもらえないんでしょうね」
「質問状は送った」
第二艦隊司令部からの質問なら直ぐに返事が返ってきてもいいはずだけどこの言い方だと返ってきてないのだろう。
「一体、連合艦隊旗艦は何を考えているのかしらね」
「ビッグセブンと謳われる艦娘がここ1年ほどで3隻も沈んでいる、世間のショックは大きいだろう。それを軽減するために何か手を打ちたかったのか……」
連合艦隊旗艦の意図が分からず黙り込んだ私達に黒潮が呆れたように口を開いた。
「そんな深く考えんでええんちゃう?
旗艦にどんな意図があったにせよそれがウチらとって悪い影響を及ぼすわけとちゃうやろ。味方が変なことしてるから言うて必要以上に疑うんわあんまようないと思うで」
「……黒潮の言う通りだな」
「そうね。深海棲艦相手ならともかく味方の艦娘相手にあれこれ邪推しても仕方ないわね」
思うところはある。けどそれを言ったところで何も変わらないのだからこれ以上の言葉は必要ないだろう。
「それはそうと司令はん、ウチ今陽炎と賭けやっとるんやけど司令はん証人になってや」
「何を賭けているんだ?」
「金剛と二水戦の乱闘騒ぎの勝敗や」
「さっきから騒がしいのはそれか」
執務室まで結構距離があるはずなのに時折物が壊れる音や発砲音が聞こえるあたりまだ戦いは続いているのだろう。
「そんでウチが勝てば陽炎が禁煙することなってるんやけど」
「待ちなさい黒潮。そんな事一言も言ってないわよ」
「それは賭けの対象決めずに言い出したら陽炎が悪いな。代わりにウチが負けたら禁煙せぇって二度と言わんからそれでええやろ」
それは悪くないわね。7割くらいの確率で金剛が勝つと思っているしこれは分の良い賭けなんじゃないだろうか。
「いいわ、それで手を打ちましょう。司令が証人よ」
「よし、ならすぐドックに戻るで」
さて、この賭けの結果だけど私の予想は外れた。なんなら黒潮の予想も外れた。
ドックに戻った私達が見たのは雪風と金剛が見事なクロスカウンターを決めて同時に倒れふしたところだった。
どうやら二水戦は私の予想よりも幾分か強かったみたいね。
アニメ8話のエンディングが遺影と言われてますけど個人的にはあれ結構納得してるんですよね。
と言うのもあの歌自体が艦娘というよりは実際の軍艦に対して歌っていると個人的には解釈しているんで最後に歌と一緒に艦歴出したのはしっくりきました。
もちろん内容的には艦娘に対しても歌っていると思うんですけどどうにも比重が実際の軍艦に対しての方が大きいような気がしてなりません。個人的にはすごく好きですけど。