第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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控室にて

でち公の国葬が行われたのは私が旗艦になって5日後のことだった。

戦時中という事もあり規模そのものはそう大きくはなく主だった参列者は三権の長と閣僚の半分、それと野党の党首、皇室から勅使、日本軍統合幕僚長、陸海空の幕僚長、連合艦隊旗艦と言った面々だ。この他にも各国の大使と主要な艦娘などが参加している。

この中に加わるのは正直気が引けるけど第二艦隊旗艦として参加しないという選択肢はない。

 

「なにも2時間も前から会場入りしなくてもよかったんじゃないかしら」

 

「他の参列者への挨拶もあるからな」

 

そうは言っても私が挨拶しなければいけない相手なんて総理大臣と統幕長、海幕長、旗艦の4人くらいのものだ。

その4人全員が到着すらしていないのだから思わず愚痴をこぼしたくなるのも仕方がないだろう。

 

「新しい第二艦隊旗艦に挨拶したいって人は参列者の中にも沢山いるから対応頑張ってね」

 

呑気にお茶を飲みながら前第二艦隊旗艦、瑞鳳が言った。

 

「貴女が旗艦のままならこんな面倒な事にはならなかったのに」

 

縦社会の軍において階級が上の人間を指揮下に収めるのはたしかに歪だ。けど艦娘の階級にそれ程の意味があるのかもまた疑問の余地がある。

司令達正規の海軍軍人と私達艦娘では同じ階級制度を使ってこそあるけどその内実は異なる。例えば私は少将という地位についているけど艦娘ではない少将と比べると士官としての知識は不足している。だから私が艦娘でいられなくなった後に示される道は引退か艦娘の育成くらいのもので普通の少将ができる泊地の指揮官とかにはなる事は基本できない。

 

「私はもうすぐです引退だしそろそろ楽をさせてくれてもいいと思うの」

 

「比較的戦線が安定している今の状況じゃあ空母なんて殆ど出撃機会がないじゃない。十分楽してるでしょ、少しは手伝ってよね」

 

2、3年前は瑞鳳も東南アジアに派遣されていたけどここ1年くらいは呉ににいる時間が増えている。その頃と比べれば十分楽をしているわよ。

 

「最近デスクワークが多くて腰痛が酷いの。だから暫くはお昼寝して過ごしたいんだ」

 

金剛や日向を筆頭にいかにも武闘派という連中が集まった第二艦隊において瑞鳳は数少ない穏健派と言えた。

そもそも空母という艦種自体が最前線に出て自ら戦う事が少ないせいか穏健派が多いのだけどこの瑞鳳はその中でも特に大人しい部類に入る。その代わり頭の回転がすこぶる早くて戦い方もかなりヤバい。

正確な爆撃と緻密な魚雷の投射で逃げ道を無くして確実にダメージを与えてくる。昔一度訓練で戦った事があるけど、二水戦に所属して以来避ける以外の選択肢を選ばざるを得なかった数少ない機会を得る事ができた。軽く弾いて爆弾を逸らしたけど爆発のダメージは入れられたし、なかなか貴重な経験だったわ。

 

「腰痛が酷いことと昼寝は関係ないでしょう。第一艦娘が腰痛なんてなるわけないじゃない」

 

無駄に頭が回るからこんなふうに理屈にすらなっていない屁理屈を言ってくる。おとなしそうに見えて意外と性格が悪い。第二艦隊最大の欠点は指揮艦に私以外脳筋や腹黒い奴ばかりでまともな艦娘がいないことね。

 

「それにまだ23歳よね。暫くは現役じゃない」

 

平均的な引退年齢がだいたい25歳。早い艦娘だと23歳でも引退する者はいるけどそう多くはない。瑞鳳にまだ衰えは見えないし少なくとも1年は大丈夫だろう。

 

「そんなギリギリまで艦娘として戦うのは二水戦くらいだよ。普通衰えが見え始める1、2年前から本土の泊地や訓練学校で悠々自適に過ごすものだよ」

 

昔に比べて艦娘が増えた事と昨今の戦線が安定している状況から高齢艦娘は衰えが見え始めるギリギリまで戦うことは無くなった。そんな危険な事をしなくても代わりとなる艦娘は存在するからだ。

それは数の少ない大型艦でも変わらない。代わりの艦娘を確保した上で余剰分を陸、空軍に出向させているから余程大きな作戦で大敗北を喫したりしない限りは質的にはともかく量的な面で艦娘が不足する事はない。

 

「アンタの代わりになるような軽空母がそうそういるわけないでしょ」

 

空母艦娘が主力のアメリカなら瑞鳳クラスの軽空母は2桁単位で存在するだろうけど、生憎日本は水雷戦隊が主力だ。彼女程上手く艦載機を使える軽空母艦娘は空母艦娘を含めても片手で収まるほどしかいないだろう。

 

「引退したいのなら優秀な後任を用意しなさいよ」

 

彼女の第三航空戦隊に所属するもう1人の艦娘、隼鷹は優秀ではあるけど彼女程ではない。

第二艦隊における航空戦力の主力は第三航空戦隊だ。瑞鳳がいなくなるだけで第二艦隊は航空戦力を著しく損なうことは間違いない。その代わりとなる艦娘を見つけるのは先任者としての義務だ。

 

「人事は私の仕事じゃないよ?」

 

「隠居を決め込むならそれくらいは用意しなさいよ」

 

艦隊の人事は各戦隊の旗艦が自分の戦隊の人事を司令に提案してそれを承認する形をとっている。最終的な人事権は司令にあるけど旗艦の提案を司令が拒否する事は慣例としてあり得ない。

人事に司令が口出ししない以上第三航空戦隊旗艦の瑞鳳が決めた人事がそのまま第二艦隊の人事となる。なら後任を見つけることぐらいしなければならないだろう。

 

「そんな事言っても今日本にいる若手空母の中でも隼鷹はトップクラス、それ以上となれば私と同じような年齢ばっかりになるよ?」

 

私が知る情報と瑞鳳が持つ情報に大きな差異がない事に、正直私はがっかりした。空母艦娘なら知ってる事が多いと思ったけどそうでもなかったみたいね。

 

「やっぱりそうなのね」

 

「5年前に戦線が安定して以来大型艦は戦う機会がめっきり減ったからね。その少ない機会を私達みたいなベテランが使ってちゃ後任が育つわけがないよ」

 

5年前、良くも悪くもそれが全ての転換点だ。

5年前に第二艦隊が東南アジアのおよそ9割を奪還した事で戦線は一時的に安定した。それからは各地で防衛の要として戦っていた大型艦は訓練学校の教官や本土に近い泊地の旗艦という戦う機会のない部署に回されていた。

もちろん警備府であれば大型艦がいだけどそれもごく少数だ。それらの多くは5年と言う歳月の間に引退したり戦死しているし、その後任は彼女達ほど練度は高くない。戦線の安定は資源と、防衛の主力となっている小型艦の練度は上げたけど大型艦の平均的な練度は下がる結果につながった。

 

「今第二艦隊にいる大型艦が引退したら第二艦隊の戦力は激減する事になるわね」

 

「そうだね。けど二水戦がいれば問題ないよ」

 

「馬鹿な事言ってるんじゃないわよ。大型艦、特に空母がいないと制空権に関してはどうしようもないんだから」

 

防空能力の高い秋月型だけでは流石に限界がある。空母には空母をぶつけるのがセオリーだ。

 

「それは上次第じゃないかな。そこのところどうなの提督?」

 

「俺もあまり詳しいわけじゃないが、少なくとも艦隊司令官クラスでは大型艦の練度低下は問題視されている。

特に伊勢型のような艦種が変わるタイプが不足気味だ。下手をすれば航空戦艦で作られる第四航空戦隊なんかは今の代で終わりかねない」

 

「そんなに酷いの?」

 

航空戦艦と言う艦種は練度が高い伊勢型と扶桑型が改装を受ける事でしか出現しない。大型艦の練度が上がる機会の少ない昨今の状況では改装を受ける大型艦は減っているけどそれほどとは思わなかった。

 

「戦艦、空母の改装はこの2、3年殆ど行われていない。行われたとしても陽炎よりも年上の艦娘ばかりだ」

 

つまり元々ある程度練度の高いベテランがようやく改装にたると判断されたから改装が実施されたと言う事だろう。

 

「陸、空の連中はともかく海軍の大型艦娘はもっと積極的に使うべきかもしれないわね」

 

「沈んだ時の被害がすごい事になるがな」

 

「多少沈んでもリカバリーできるようにしてるでしょ」

 

確かに沈むのは痛いけど、年間数十隻単位で沈むならともかく護衛の小型艦の練度が高い今の日本ならどれだけ悪くても2桁に届くかどうかと言うところだろう。

 

「現状駆逐艦や巡洋艦でどうにかなっているからな。そう簡単にはいかないさ」

 

「ならいっそアメリカから空母を借りるって言うのはどう?

代わりにこちらからは駆逐艦を出せばあちらとしても文句はないんじゃないかしら」

 

小型艦、特に駆逐艦の練度に関しては日本に及ぶ国はない。代わりに空母の練度はアメリカほど高い国はなく戦艦に関してはイギリスに勝る国はない。

アメリカは駆逐艦の数は日本よりも多いけど練度についてはかなり劣っている。日本では二線級の部隊でもアメリカじゃ最前線に立てるくらいだからその差は歴然だろう。

 

「深海棲艦の殆どいない東シナ海あたりなら多少艦娘を引き抜いても問題ないでしょ?」

 

「確かにそうだが……」

 

「これ以上空母の練度が下がるのは空母艦娘としては見過ごせないかな」

 

「そう言うなら何か代案を出しなさいよ」

 

「代案を出しても出さなくても上層部が頷かないと意味ないでしょ?」

 

瑞鳳の言う事は正しい。私の出した案だっで上層部からすれば受け入れ難いものだろう。駆逐艦最大の利点はその数にある。どれほど広大な海を取り返しても空母や戦艦では数が少なすぎる。

取り返した海を維持するには駆逐艦が必要不可欠だからそれを減らすような事はしないだろう。たとえ日本では実践に耐えられないと判断される艦娘だとしてだ。

 

「大型艦の練度低下は早急に解決しないといけない案件だから提案すれば通ったりしないかしら」

 

「瑞鳳が何度もやっているが通っていない。上層部は余程大型艦を失いたくないらしい」

 

「やってたなら初めにそう言いなさいよ」

 

これまでの議論が全部無駄って事じゃない。

 

「随分と真剣そうだったからな。水を刺すのも悪いだろう」

 

まぁ、確かにそれを伝えられていたらこんな話さっさと切り上げていたけどそれならそれで別の話をすればいいだけじゃない。

 

「さて、そろそろお前に挨拶したい奴らが来るころだ。旗艦として第二艦隊が軽く見られないよう堂々振舞ってくれよ」

 

「当たり前でしょ」

 

とはいえこの後何十人もの人達の対応をすると考えると気持ちは萎えるわね。

階級が上がるなんてなにもいい事がないわ。




結局のところいつかあの海ではどう締められたやでしょうか。
最後、鎮守府が無傷なあたり一応勝利したと見るべきなのか、それとも敗北して人類が絶滅した事を鎮守府から人を消した事で表現したのか、はたまた勝利したからこそ鎮守府から人が消えたのか。
一体どれなんでしょうか。
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