第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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姉妹

二水戦が暇なのはいいことだ。それは戦闘がない、つまり戦線が安定しているということに他ならないからだ。

けどそれをよしとしない人達も存在する。二水戦ほど練度が高い部隊を複数作りたい。そのために二水戦に教導をさせようと上層部が考えつくのにそう時間は掛からなかった。

 

「二水戦による教導なあ。教導隊で教官したうちらはともかく新人連中にそんな事できるんか?」

 

「雪風は無理だと思います」

 

「少しくらい期待してもいいんじゃないですか?」

 

雪風は無理、親潮はできる。質問した黒潮は明言してないけど雰囲気的に試すくらいはしてもいいと思っていそう。

 

「不知火はどう思う?」

 

私の問いかけに不知火はお茶を一口啜ると口を開いた。

 

「無理です」

 

そう言うと今度はさらに盛られた煎餅に手を伸ばした。

 

「無理ですって……もうちょっと何かコメントはないの?」

 

「自分達の訓練で手一杯の艦娘が他の艦娘に教導などできると思いますか?」

 

「まぁ無理ね」

 

「そう言う事です」

 

私もあの子達が人に戦い方を教えることができるとは到底思えない。

あの子達の大半はまだまだ実力不足だし残りの半分も二水戦としては及第点、到底ものを教える立場にない。

 

「人に教える事で成長に繋がることもあると思います」

 

親潮が少しムッとしたような表情で言った。

 

「彼女達は教導隊で陽炎達二水戦の予想を超え多くの艦娘が二水戦に所属する事になりました。しかしそれは陽炎達の見積もりが甘かったからだとも言えます。

不知火が知る二水戦はあの程度の実力ではありません」

 

「そりゃ甘くしたからね」

 

まぁ、今となってはもう少しキツめでもよかったと思わなくもないけど今更それを言ったところでどうしようもない。

 

「それにしてもレベルが下がりすぎです。もうあと半分くらい落としてもよかったと思います」

 

「途中でカリキュラムを変える余裕がなかったし仕方ないわ」

 

なによりあの時は時間もそれを実行する人材も不足していたから変えたくても変えれなかった。

 

「それにしても意外ね。あんたがそんなに二水戦の事を考えているなんて思わなかったわ」

 

「駆逐艦である以上は不知火にとっても二水戦は憧れです。その憧れが汚れるような行為をしてほしくないと思うのは自然なことではないですか?」

 

駆逐艦娘で二水戦に一度も憧れを抱かない艦娘は存在しない、とは言わないけど見つける方が難しいのは確かだ。

多かれ少なかれ駆逐艦なら二水戦に憧れを抱く。抱かないものがいたらそれは親や親類縁者に無理矢理志願させられた哀れな艦娘か、旧一水戦の関係者だろう。

 

「アンタはそう言うのとは無縁だと思ってたわ」

 

冷めた性格の不知火が何かに熱中している所が想像できなかったこともあって少し驚いた。

 

「憧れくらい抱きます」

 

「ならどうして初めから二水戦に入らなかったのよ」

 

二水戦に憧れて志願したなんていう艦娘も少なくないし実際二水戦にもそういう艦娘は多くいた。

 

「陽炎も知っているでしょう。二水戦ほど戦いが多く死にやすい部隊はありません」

 

「あら、二水戦の死亡率は低かったわよ」

 

安全な本土の部隊と比較すればそりゃ高くなるけど戦闘数と比較すればその死亡率は極端に低い。

 

「一水戦と給料が同じなら安全な一水戦を選ぶ、道理ではありませんか?」

 

「最終的な給金は減っちゃうじゃない。私と同じ時期に二水戦に入ればより多くのお給料を貰えてたのよ?」

 

一水戦は三年任期な上優秀でなければ声すらかからない。不知火の実力ならいずれ一水戦に入れただろうけどそんな事するくらいなら同じ給料の二水戦に入った方が手っ取り早く給料が手に入る。

 

「その頃はそんなに必要ありませんでしたから。当時の任地は東南アジアとはいえ比較的平和でしたからね。二水戦に入って忙しく動き回るよりも楽に必要なお金がもらえました」

 

「なら一水戦をクビになった後二水戦に入ったのはどうしてよ」

 

「クビと言うと語弊がある気がしますがまぁそれはいいです。

一水戦所属中に妹が新しくできましてその分お金が必要になったんですよ」

 

「またできたの?」

 

不知火は両親の他に弟と妹がたしか合計8人? いる大家族の長女だ。1人増えるだけで必要なお金は増える。それに不知火は妹達に最低でも高校ば出させたいとかでとにかくお金を稼ぎたがっている。

深海棲艦の襲来以来高等教育を受けられる場所は減っているから学費も相当高いらしい。

 

「もう少し自重して欲しいものですが脳味噌が猿ですからね。聞いちゃくれません」

 

妹達の事は溺愛している不知火だけど両親についてはネグレクト同然に育ったと言うから蛇蝎の如く嫌っている。

初めの頃は最低限のお金を入れていたみたいだけど不知火が艦娘になった頃からそれすらもなくなり妹達の生活費とかは全て不知火が賄っているらしい。

 

「随分歳離れた妹やな」

 

「他にも8人くらいいるわよ」

 

「9人、不知火合わせて10人兄妹です。ほんとあの猿共は自重という言葉を覚えて欲しいものです」

 

殺気立つ不知火に黒潮達はそっと距離をとった。

 

「けど妹達は可愛いんでしょう?」

 

「当たり前じゃないですか。不知火が艦娘になってから生まれた妹以外はみんな不知火が育てたんですよ。可愛くないわけがないです。

本当なら新しい妹達も不知火が育てたかったのですが艦娘である以上それは叶いません。代わりに休暇で帰った時には精一杯お世話しました」

 

見てわかるように不知火は兄妹を溺愛している。

 

「訓練学校の時もよく写真見てはニヤニヤしてたもんね」

 

揶揄うような声音で視線を向けるのと同時に不知火の振り上げた拳が私の頭部に命中した。

 

「痛っ! ちょっとなにするのよ!!」

 

「不知火はニヤニヤなんてしてません」

 

「はぁ!?ニヤニヤして「不知火はニヤニヤなんてしてません」」

 

「……そうね不知火はニヤニヤなんてしてなかったわ」

 

まったく、なんで私が殴られないといけないのよ。

言葉に出すともう一、二発殴られそうだから言わないけど。

 

「にしても不知火がそんな大家族の長女やったなんて意外やわぁ」

 

「そうですか?」

 

「陽炎とじゃれあってるのみてたらどっちかと言えば妹に見えるで」

 

「こんな妹いらないわよ」

 

「不知火だってこんな姉はいりません」

 

黒潮の言葉に私と不知火はほぼ同時に答えた。

 

「仲ええなあ」

 

「仲がいいのは事実だけど不知火が妹は嫌よ」

 

別に不知火が嫌いというわけじゃないけど妹に不知火は嫌だ。

 

「陽炎が姉はないでしょう。不知火が姉で陽炎は妹です」

 

ちょっと待て。

 

「アンタが私の姉はないでしょ」

 

「?」

 

いやなに不思議そうな顔してんのよ。

 

「まぁ、そうやって言い争ううちはどっちも妹みたいなもんか」

 

「なら誰が姉なのよ」

 

「ウチやな」

 

「「それはない」です」

 

胸を張って親指で自分を指差しやがったからそう言うと偶然不知火と被った。

 

「意見があったわね」

 

「そうですね」

 

不知火と顔を見合わせて拳を胸の位置に掲げると黒潮は慌てたように雪風の影に隠れた。

 

「ちょっと2人して暴力はあかんやろ!」

 

「暴力じゃないわ」

 

「鉄拳制裁です」

 

「同じや!」

 

雪風の両脇からにじり寄る私達を止めたのは親潮だった。

 

「陽炎姉さんも不知火姉さんもあまり黒潮さんを揶揄わないであげてください。

関西人なのに冗談もわからない人なんですから」

 

皮肉とも取れる言葉だけど驚くなかれ、なんと親潮本気でこれを言ってる。

 

「そうね、関西人なのに冗談もわからない黒潮を揶揄うのは良くないわね」

 

「そうですね。冗談もわからない関西人を揶揄っても何も楽しくないですね」

 

当然私達2人は悪意100%でこれを言ってる。黒潮に鉄拳制裁するよりこっちの方が面白そうだ。

 

「お前ら……!」

 

「きゃー!黒潮が怒ってる!冗談なのに!!」

 

「大丈夫ですか陽炎。冗談もわからないエセ関西人の黒潮に何かされましたか!?」

 

棒読み気味に不知火に抱きつくと不知火も意図を察してくれた。黒潮から見えない方向に顔を向けて2人で顔を見合わせニヤニヤしながら煽ると黒潮が立ち上がる音が聞こえた。

 

「なに、暴力?これだから冗談の分からないエセ関西人は」

 

顔を向けると青筋を浮かべた黒潮が拳を掲げていた。

 

「やるなら受けて立ちますよ」

 

不知火が不敵に笑いそういうと黒潮は動きを止めた。

 

「いや、今ここで殴ったらウチがエセ関西人認めるようなもんやん」

 

小さな声で呟くと拳を収め笑みを浮かべた。

 

「そんなウチが冗談もわからんエセ関西人とかそんなわけないやん」

 

若干笑顔が引き攣ってるけど関西人としてのプライドか拳での対応は避けた見たいね。残念。

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