「それで、派遣するのはしゃあないとして誰向かわすんや」
「依頼自体の数は大した量じゃないけど……」
それぞれ1人ずつでいいなら私達だけでもなんとかなるくらいの数しかない。
「なら不知火達で手分けして行きますか?」
「それも悪くないけど、今後のことを考えるなら新人連中に経験を積ませたいじゃない。
私達の中の誰か1人と小隊一つで派遣するのがいいんじゃないかしら」
今回の依頼きりで終わるのならいいけどこの状況がしばらく続く以上まだまだこの手の依頼は来ると考えた方がいい。
なら今後新人連中を派遣できるよう訓練した方が先々間違いなく楽になる。
「えーウチそれ嫌やわぁ」
「私だって嫌だけど仕方ないじゃない」
私なんて問題児の狭霧達がいるから自分で提案したけどほんと気が進まない。
「自分の中隊の隊員の面倒を見るようにするからアンタ達が狭霧達とどこかに教導に行く事はないわよ」
他にも問題児は多いけどあの子達ほど問題児の集まった小隊はない。貧乏くじを引く事がないんだからそれで納得してほしいわ。
「一番の問題児を引き受けてくれるんやったらええけど……」
「不知火も問題ありません。ウチの子達はみんないい子ばかりなので」
「陽炎姉さんは1人で3個小隊の面倒を見ることになりますけど大丈夫ですか?」
「大丈夫に見える?」
第二艦隊旗艦と二水戦旗艦、両方を兼任しながら教導もなるなんて普通に考えたら無茶もいいところよ。
「無理そうなら手伝います」
「雪風にも手伝わせてください!狭霧達を連れてビシバシ鍛えてきます!!」
「あら、ありがとうそれなら任しちゃおうかしら」
狭霧達が可哀想な目にあう気がしないでもないけど普段の行いが悪かったと言う事だろう。無事を祈っとこう。
「親潮、雪風、あんま陽炎を甘やかしたらあかんで」
「2人とも陽炎の演技に騙されないでください。
本当に無理ならこんな遠回しな言い方しません」
「第二艦隊旗艦と二水戦旗艦を兼任してるのよ。仕事が多くて休む暇もないわ」
「嘘つけ。毎日喫煙所で煙草吸うくらいには暇な仕事やろ」
「最近煙草の消費量が増えていますよね。また禁煙させますよ」
ちょっとなんでそんな事まで知ってるのよ。いや、まだ証拠はないかもしれないしなんとか誤魔化さないと。
「なんのこと?最近は喫煙所に行く暇もなくて大変なのよ」
「最近煙草を買う頻度が多くなったと酒保の間宮が心配してましたよ」
後方支援を担当する間宮や伊良子と言った給糧艦は基本的に艦娘の料理を作る事が仕事だ。けどそれ以外にも鎮守府の主計関連の業務、例えば酒保の管理も担当している。
私が煙草を買うのもこの酒保だけど、最近の酒保で販売してる煙草はニコチン含有量の少ないのばかりだから物足りないのよね。
「間宮の気のせいじゃないかしら」
「教官をしていた時が1週間に1回ワンカートン買っとったんが今は4日でワンカートンに増えとるみたいやで」
「なんだまだ少ない…じゃなかった結構多いわね」
「少ないやって?」
しまった口が滑った。
「黒潮、たったそれだけですか?」
「4日でワンカートンやで?メチャクチャ多いやろ」
「陽炎はひどい時は1日でワンカートン吸ってましたよ。所謂チェーンスモークと言うやつで不知火はそれを見て煙草を辞めました」
不知火!余計な事を!!
「え?不知火姉さん煙草吸ってたんですか?」
「訓練学校時代に少しだけ」
「何が少しよ。1日1箱開けるベビースモーカーだったじゃない」
私が煙草吸い始めたのだって不知火が原因だし。
「訓練のない土日に吸い貯めとか言ってワンカートン以上吸ってた陽炎に言われたくありません。それに今は吸ってません」
「訓練学校なんて5年以上前やろ?ならもう時効でええやろ」
なるほど、5年以上前なら時効なのね。
「嘘は良くないんじゃないかしら不知火」
私の言葉に不知火は首を傾げた。
「一水戦時代喫煙所が少ないって愚痴を聞いた覚えがあるけど?」
「……認めましょう。確かに不知火は一水戦に入ったばかりの頃は暇だったんで煙草をまたはじめてしまいました」
「本当に一水戦の時だけ?ウチに入ってからも吸ってるんじゃないの?」
ここぞとばかりに追及すると不知火は表情は一つ変えずに吸ってませんと言った。
「間宮に聞いちゃおうかしら」
「どうぞお好きな様に」
「じゃあ聞いてくるわね」
立ち上がり部屋から出ようとする私を黒潮が引き止めた。
「待てや、逃げるな陽炎。まだ話は終わってないで」
チッ!バレたか。
「可愛い可愛い妹艦達がお姉ちゃんの事を思って自主的に手伝ってくれるって言うんだから、もうこの話は終わりでいいじゃない」
「そうはいくか。艦隊旗艦までやっとんのに煙草消費量上がるってどんだけ暇なんや。理由聞かせてもらうまでは逃さんで」
「そうですね。仕事が増えてるはずなのに煙草が増えてる意味がわかりません」
「雪風も気になります!どうやってお仕事早く終わらせてるんですか?」
黒潮、不知火と違って単純に仕事を早く終わらす方法を知りたそうな雪風の純粋な視線が痛い。
「第二艦隊旗艦って元々他の艦隊旗艦に比べると仕事が少ないのよ」
「少ない?」
「艦隊旗艦は主に通常時においては所属艦娘を提督と共に管理する管理職の役割、戦闘時における前線指揮官の二つの役割を持っているわ」
第四艦隊旗艦は少し特殊だけど他の艦隊は全てこの形をとっている。
「他の艦隊での旗艦は管理職としての役割が強いけど、第二艦隊は基本は二水戦旗艦が兼任しているから前線指揮官としての活躍が多いわ。
だから元々艦隊旗艦としての事務仕事の多くは提督が受け持っていたのよ」
「艦隊旗艦の仕事が少ないんは分かったけどならなんで兼任前より暇になったんや?」
「そんなの海外への派遣がないから、時間がたっぷりあるからよ」
二水戦の旗艦としては二水戦への装備や各種弾薬の分配、練度管理と言った事が通常時の主な仕事だけど、艦隊旗艦は二水戦だけでなく第二艦隊全体の装備や各種弾薬の分配、練度の管理、それに加えて提督と一緒に行う予算編成が主な仕事になる。
予算編成はともかく装備の分配は海外への派遣がない現状は均等に分配すればいいだけだし、練度管理は各戦隊旗艦からの報告書の確認だけで済む。
予算編成も今までと大きく変わることはないから海外派遣がなければすぐに終わる。
「そんな簡単に終わるもんなん?」
「艦隊旗艦になったばかりの時は毎日遅くまで執務室で仕事してましたよね?」
「それは川内さんが沈んでからの引き継ぎがうまくいってなかった事が原因ね。その頃は二水戦壊滅の穴を他の第二艦隊で埋めてたから尚更引き継ぎできなかったのが祟って瑞鳳も随分苦労したみたいよ。
それが積もり積もって私が艦隊旗艦になったときに大量に降りかかってきたのよ」
いやぁ、あの時はびっくりしたわね。執務室の中が書類だらけなんだもの。まぁ、簡単なのばっかりだから慣れればすぐ終わったけど、あれにはまいった。
「だから今は暇なんやな」
「そうね」
「なら教導も手伝わなくて大丈夫ですね」
……しまった!
「いやー最近書類仕事が多くて腰痛が酷いから教導任務は無理かな〜」
「腰痛なら尚更体動かせや。運動不足やろ」
「え?あ、えっと……」
「陽炎、諦めてください」
「……もう、わかったわよ」
せっかく楽できると思ったのに。
「て事で親潮、雪風、陽炎のことは手伝わんでええからな」
「雪風、狭霧達と教導行きたかったです」
「この暇人働かせなあかんから、それはまた今度な」
雪風、狭霧達に何か恨みでも…ってもしかしてまだ間宮羊羹の事怒ってるの?
「どうしてそんなに狭霧に拘るのよ」
「狭霧が問題起こさないわけがないです。旗艦である陽炎お姉ちゃんの前でそれをやられたら二、水戦の立つ背がないから雪風が責任を持って見張りたいです」
「……ちなみに問題を起こしたらどうするつもりなの?」
「艦娘としての精神を注入しなおしてやります」
やばい、目が本気だ。なんならちょっと怖い。
「雪風、二水戦内ならともかく他所に行ってまであの棒を使うのはダメよ」
なんなら狭霧達相手でなくても使いそうな雰囲気だし。
「心配しないでください陽炎お姉ちゃん」
よかった、ちゃんと弁えてるみたいね。心配しすぎだったかしら。
「他所で醜態を晒す様なら砲弾を叩き込んで海の藻屑にしてやります」
違う、そうじゃない。
「いえそれはダメよ。いや、ダメじゃないけどダメよ」
確かに他所で醜態を晒す様なら相応の罰を与えないといけないけどそれはダメだ。
「そんな事したら下手すりゃ軍法会議よ。やるなら呉に戻ってからにしなさい」
「了解しました!」
「いや2人とも待てや」
「何よ黒潮」
「沈めるのはあかんしそもそも狭霧達は陽炎が連れてくんやろ?雪風は今回関係ないで」
「そうですよ。それに狭霧達は最近大人しいじゃないですか。教導隊時代の印象で考えるのは偏見がすぎます」
まぁ、確かに最近はお菓子を少しギンバイするくらいだけどそろそろ暴れる気がするのよね。
「ここらで引き締めとかないと何するかわかったもんじゃないわ」
「もうちょい自分の部下を信じたったら?」
「無理。どんだけ煮湯を飲まされたと思ってるのよ」
なんか思い出したら腹が立ってきたわね。
「よし、決めた。
一番初めの教導任務には狭霧達を連れて私が行くわ」
「なんか悪い事考えてへん?」
「大丈夫よ。狭霧達には教導のやり方を骨の髄まで染み込ませてやるだけだから」
楽しみだわ。久しぶりにアイツらを扱き倒してやるんだから。