第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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次話は文章のチェックが終わり次第出します。早ければ明日、遅くとも3日以内の予定です。


姉として指揮艦として

「これより艤装着脱訓練を行うわ。内容は簡単、今手に持っている艤装を着けて500メートル先のブイを回って帰ってきて艤装を外す」

 

もちろん規定のタイムに遅れた者がいた班は罰則だけど敢えて言わない。

こちらが期待するタイムが出るとも思えないし罰があるという理由で急がれてもあまり訓練の意味がない。

 

「では、訓練開始!」

 

通常、艤装の着脱には専用の機械を使う。けど何処でも使えると限らないから必ず訓練学校では自力での着脱訓練を行う。駆逐艦と軽巡洋艦なら平均タイムは5分と言ったところだろうか。急げは3分かからないくらいで着れるけど意外と背面の艤装を付けるのが難しくてそこで手間取ればかなりの時間を食われる。今回の目標タイムは2分55秒、ギリギリできないこともないけど班員全員となるとほぼ不可能だ。

ちなみにスタートしてブイを回って艤装を外すまではかなり甘く設定していて5分。それでもこれをクリアできる班はないだろう。

 

「全班遅すぎね。スクワット500回」

 

艤装の着脱タイムが規定のタイムを過ぎた時点で罰則を宣告する。人によっては艤装を完全に背負った状態でスクワットをすることになるから時間が普通よりかかる。どんなに急いでも往復して戻るまで1分かかるがスクワット500回した上で5分以内は不可能だ

案の定全員が往復を終え艤装を外す頃には10分くらいたっていた。

 

「遅い。そんなことでは二水戦でやっていけないわ。もう一回行ってきなさい」

 

無意味に見えるかもしれないけどこの訓練にも意味がある。極限まで肉体を追い込んだ状態で正確に艤装を装着して出撃。

激戦区に投入される関係からいつでも万全の体制で出撃できるとは限らない二水戦に少しでも近い環境を体験させることにより艦娘達の素質を見ることを目的としてこの訓練をさせている。

もっとも、この訓練の意図がわかる候補生が多かろうはずもなく案の定不満をいう者がでた。

 

「これになんの意味があるっていうのよ!」

 

耐えられなくなって叫んだのは狭霧だった。

 

「私はこんな意味の分からない事をするためにここにきたんじゃないわ!」

 

通常第二水雷戦隊教導隊は半年に一度、書類と面接により選考して集めた100隻ほどの駆逐、軽巡艦娘を教導、選抜し毎年5人程度を二水戦に採用していた。

今年は再建のためにその倍の204隻を教導隊に入隊させ最低でも20隻程度を合格させろというのが上層部からの指示だった。だからこんなのが混ざる。

 

「黙りなさい!」

 

私が何かいうより先に元十五駆逐隊の雪風が怒鳴った。

 

「この訓練が意味あるかないかは雪風達が決める事であってお前達が決めることではないです!」

 

雪風の言葉になおも納得できないという表情を浮かべているのを見て雪風は校舎を指差して言った。

 

「職員室に神通さんがいます。納得できないなら書類を書いて出て行ってください」

 

例年なら見込みなしと見れば多少強引な手段を用いて強制除隊もできたけど今期は二水戦再建のためにそれは禁止されている。候補生達の自主的な脱退のみがここから出ていく手段になる。だから訓練はいつもより厳しく追い出すつもりで行なっている。

 

「…話が違います。今なら二水戦に楽に入れるって聞いましたのに…」

 

ボソリ、と狭霧が呟いたのを雪風は聞き逃さなかった。

狭霧に近づくと胸ぐらを掴みみんなの前に引きずりだし拳を振りかぶって…ってちょっと待て!

あまりに自然な動きだったから声をかけ損ねたけどすんでのところで黒潮が雪風の腕を掴んで止めた。

 

「待て待て待て!雪風、いくらなんでも暴力はあかん」

 

「黒潮お姉ちゃんはこんなやつか二水戦に入ろうとするのを許すって言うんですかぁあ?」

 

虚な目をして黒潮に問いかける雪風は何処か狂気を孕んでいた。

 

「いや……それは…」

 

黒潮が怯んだ一瞬の隙をついて手を振り解き雪風は拳を振り下ろそうとした。

 

「雪風、貴女が二水戦を誇りに思う気持ちはよくわかるわ」

 

内心慌てている事をおくびにも出さずに私は雪風に言った。

 

「貴女の知る二水戦はこんなのが最後まで残るような部隊なの?それほどこの訓練は緩いものだと思う?」

 

腐っても二水戦、軽い気持ちで受かるほど落ちぶれてはいないつもりだ。

 

「……そうですね。陽炎お姉ちゃんの言う通りです。後でコイツの部屋に書類だけ送っておきます」

 

そう言って汚物を見るような目を雪風は狭霧に向けた。

 

「…ほどほどにしておきなさいよ」

 

あの可愛くて優しかった雪風がどうしてこんなにも苛烈になったのか、その理由は私が黒潮に出撃を止められた後にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒潮、雪風のことなんだけどね」

 

ひとしきり笑って落ち着いた後、私達はドックに向かっていた。

 

「雪風がどうかしたんか?」

 

「あの子ほっといたら死ぬわよ」

 

「勘弁してくれや。陽炎だけでそう言うんは手一杯なんや」

 

本気で嫌そうな顔を浮かべる黒潮に少し申し訳ない気持ちになった。

 

「ていうかそれが分かってるなら自分が死んだ後雪風のことどうするつもりやったんや」

 

「私が代わりに死ねば多少はあの子の心の傷が癒えるかと思ってたのよ…」

 

「アホか。そんな事したらますます雪風は気に病むやろ」

 

黒潮は心底呆れたと言わんばかりの目を向けた。

 

「ちゃんと雪風宛の遺書も用意したし貴女と親潮にも遺書で指示するつもりだったから大丈夫のはずよ」

 

今となってはただの紙屑だけどそれでなんとかなるつもりだった。

 

「とにかく、しばらく絶対に雪風から目を離さないで」

 

「それはわかったけど原因を究明して雪風を納得させな根本的な解決にはならへんで」

 

「わかってる。私が雪風を説得するわ」

 

ドックの脱衣所のドアを開けると慌てた様子の親潮が浴室から駆け寄ってきた。

 

「陽炎姉さん!黒潮さん!」

 

「どうしたんやそんな慌てて」

 

「ゆ、雪風さんがいなくなったんです!」

 

どうやら恐れていた事が起きてしまったみたいだった。

 

「黒潮は念のため工廠に行って雪風が来ないか見張っておいて!親潮は私と一緒に雪風の部屋へ行くわよ!」

 

2人に指示を出して私は急いで雪風の部屋へと向かった。

 

 

 

「雪風!」

 

予想通り、雪風は部屋にいた。扉に背を向けペタンと座り込んでいるその姿を見るにまだ早まった真似はしていないようだった。

 

「あ〜、雪風?」

 

よく見ると私が書いた遺書の封筒が封が開いた状態で雪風の隣に落ちている。おそらく中身は読まれているんだろう。色々と恥ずかしい事を書いているだけに話しかけにくい。

 

「陽炎お姉ちゃん…」

 

振り向いた雪風は涙と鼻水でドロドロになった顔をこちらに向け、立ち上がるとトタトタと駆け足で駆け寄り私の胸に顔を埋めた。

 

「死んじゃったと思ってた…」

 

「黒潮に我儘言われちゃってね、もう少しだけ生きることにしたの」

 

肩を震わせる雪風の背中を優しく撫でながらそう言った。

 

「…どうして……どうして陽炎お姉ちゃんが死なないといけないんですか!?」

 

雪風の言葉に背後で親潮が息を呑んだ音が聞こえた。

 

「悪いのは雪風なのに!陽炎お姉ちゃんは何もしてないのに!」

 

「何もしてないからよ」

 

私は何もしなかった、何もできなかった。

 

「ねぇ雪風、二水戦で最も死亡率の高いのってどんな艦娘だと思う?」

 

唐突な私の質問に雪風は胸元から顔を上げて私を見た。

 

「答えは指揮する部下がいる艦娘、つまり私みたいな司令艦よ」

 

普通の部隊ならおそらく死亡率が一番高いのは新人だろう。けど二水戦は指揮艦の死亡率が最も高い。第二水雷戦隊24年の歴史の中で旗艦になったのは12人。生きて引退した旗艦はたったの2人しかいないといえばその高さがわかるだろう。より前線に出る機会の多い駆逐隊司令や水雷中隊中隊長はもっと酷い。

 

「指揮艦先頭と後退するとき指揮艦が最後尾にあって味方の撤退を最後まで見届ける事は二水戦の伝統。それは知っているわね?」

 

故に指揮艦の死亡率は高くなる。指揮艦先頭は日本海軍創設以来の伝統とされて来たけど実際に実践するのはそうそういない。なぜならそんな事して続けていたら優秀な指揮艦がどんどん戦死して指揮するにふさわしくない人がその役職につき結果的に部隊の実力そのものが落ちる事に繋がるからだ。しかし二水戦は精鋭故に部隊内の人員から容易に後任を決める事ができた。

 

「私が駆逐隊司令になった時それまで教えられていなかった二水戦としての心構えを神通さんから教わったわ」

 

本当の意味で二水戦たりえるものだけが司令艦になれる。私よりも先任で階級が同じ駆逐艦娘は何人もいた。なのに先輩たちを差し置いて私が駆逐隊司令になったのは二水戦としての心を誰よりも持っていると判断されたからだ。

 

「"もし自分の部下や後輩の艦娘が先に死ぬような事が有れば一生の恥と思え"例年確実に1人は指揮艦が死ぬのはその教えを守り恥を晒して生きるくらいならと無理な作戦や危険な任務に自ら進んで志願し名誉ある戦死を目指すからよ」

 

「さっきから黙って聞いていたら……!

たとえその教えを守るとしても陽炎姉さんが死ぬ必要がどこにあるんですか!?責任を取ると言うのなら他の司令艦達がとったじゃないですか!」

 

それまで黙って聞いていた親潮が耐えきれなくなって声を上げた。

 

「他の司令艦が責任を取った?それだけで足りると思っているの?第二水雷戦隊が壊滅したのにたった1人の指揮艦だけがその責任から逃れていい道理がどこにあると言うの」

 

おそらく先に死んでいった二水戦司令艦のみんなや教導隊からは死を恐れた、二水戦の誇りを汚したと言う誹りは免れないだろう。私だって同じ状況で駆逐司令が1人生きて帰ってきたらあらん限りの言葉を使って罵倒する。なんなら殴り倒す。

 

「生き残った者の使命として、先輩たちの意志を継いで深海棲艦と戦い続けることこそが正しい責任の取り方だと私は思います」

 

「親潮、貴女は私のようにはならないでいつまでもそのままでいなさい」

 

多分、一般的には親潮の考え方が正しいのだろう。

私はこの考えを正しいと思っているけど二水戦全体で見ても私と同じ考えの者は少数だろう。それこそが二水戦の司令艦になれるかならないかの違いであり私が先輩達を差し置いて司令艦になれた理由だ。

二水戦5年目ともなれば半分くらいのメンバーが私の後輩になる。直接指揮を取らずとも先輩として後輩を指導する機会は何度かあった。全く指導した事がない子もいたけどそれは私の怠慢であり死んだ責任の一端はやはり私にある。

 

「雪風、私と違って新人の貴女に仲間の死の責任は一切ないわ。むしろ二水戦の最後の勇姿を伝えることのできる唯一の艦娘として貴女には生き続ける義務がある」

 

「ならどうして……どうして陽炎お姉ちゃんは戻って来てくれたんですか?」

 

"戻ってきてくれた"……か。

 

「私は二水戦である以前に貴女達の、陽炎型姉妹の長女よ。不甲斐ない妹がいる間はまだ死ねないわ」

 

「……雪風は頼りないですか?」

 

「そうね、けどそれは雪風だけじゃないわ」

 

多分雪風はこれを言うと怒るだろう。だって私と雪風は似ているから…。

 

「実は司令から二水戦の再建を命令されたの」

 

「…ソロモンで全滅したのが二水戦です。それ以外は二水戦じゃありません」

 

「私もそう思って断ったわ。黒潮にでも任せておきなさいってね。

けど当の黒潮が嫌がったのよ。おまけにお姉ちゃん助けてなんて言われたら姉として助けないわけにはいかないじゃない。だから私は二水戦を再建するまでは死ねない」

 

たとえそれて私が第二水雷戦隊第十八駆逐隊司令の陽炎として死ねなくなるしても。

 

「陽炎お姉ちゃん……」

 

それからしばらく私の胸の中で肩を震わせていたけどいきなりパッと離れると袖で顔を拭い敬礼をして言った。

 

「不詳雪風!陽炎お姉ちゃんが安心して死ねるよう、仮称第二水雷戦隊再建のため微力ながら協力します!」

 

雪風の中でなにか折り合いがついたのだろう、雪風は元気を取り戻したのだった。代わりに鬼のように怖くなったけど。




次回は狭霧のキャラが崩壊しますのでご注意ください。いやほんとどうしてこうなったてくらい崩壊します。
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