第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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瓦礫鎮守府

私達が呉に戻ったのは事件が起きた日の深夜、日を少し跨いだ頃だった。普段なら到着室に灯りがついていているくらいで真っ暗な鎮守府は珍しくそこかしこに明かりが灯り、光が動き回っていた。

艤装についた探照灯を頼りに鎮守府を見るとそれは第二艦隊が母校とするあの呉鎮守府と同じ場所だとはとても思えなかった。

赤煉瓦の鎮守府庁舎は瓦礫の山に変わり果て艤装などが置いてあった工廠は鉄骨を残して全焼。私達の住んでいた艦娘寮は唯一形をとどめていたけど中には重傷を負った艦娘や鎮守府関係者が並べられていた。

 

「貴方が無事で良かったわ司令」

 

崩壊した鎮守府の前で指揮をとっていた司令は頭に包帯を巻いてこそいるけど比較的傷は浅そうだった。

 

「この後の事を考えれば俺が生き残るより瑞鳳達が生き残ってな方がよっぽど有意義だっただろうよ」

 

いつもと違い荒んだ様子に私は内心驚いた。二水戦がソロモンで壊滅した時でさえ驚いた様子は見せても口調が荒くなる事はなかった司令がここまで感情的になるなんて。

 

「生き残りはどれくらいいるの?」

 

「今掘り起こしている最中だが巡洋艦連中は現在8隻の生存が確認された。金剛型はまだ掘り起こせてない」

 

第二艦隊の巡洋艦は16隻、半分が掘り起こされた計算ね。生存者はもっと少ないと思っていたから嬉しい誤算だわ。

 

「瑞鳳達の轟沈は確認されているみたいだけどどうしてなの?」

 

瓦礫に埋まっていたなら金剛達同様生死不明になるはずなのにどうして轟沈が確定しているのかしら。

 

「アイツらは敵の来襲に気がついて直ぐに艤装を纏って対抗したから被害状況はこっちでもよく把握できてる。隼鷹以外は轟沈だ」

 

全員沈んでいてもおかしくなかったし隼鷹が生き残っただけ儲け物ね。

 

「隼鷹の容態は?」

 

「大破したが入渠できれば問題なく動ける」

 

「肝心のドッグは無事なの?」

 

「無事だと思うか?」

 

でしょうね。これだけ破壊尽くされて無事だったらそっちの方が驚きだ。

 

「近場の泊地に運ぶ必要があるわね」

 

私の言葉に司令は不愉快そうに眉を顰めた。

 

「漣の宣戦布告から約半日、行方不明になった艦娘は報告があっただけで100を超える」

 

行方不明と言うけど実質漣と合流したと考えていいだろう。漣のカリスマ性からすれば少し少ないように感じるけど泊地ごと寝返っていれば発覚も遅れるし黙認して報告していない部隊があるかもしれない。それを考えるとキリがないけど多分実際はもっと多いのだろう。

 

「司令の懸念は理解できるわ。けど事ここに至って私達には選択権はないものだと思ったほうがいいんじゃないかしら」

 

司令はドックを借りた泊地で漣に靡くものがでて隼鷹を害される事を警戒しているのだろう。もし漣に先手を取られずに戦いが始まっていたのならその可能性を考慮して入渠を遅らせると言う手段も取れたかもしれない。

だけどもうダメだ。私達は先手を取られたどころか既に負けつつある身、なりふり構わず戦力の回復を図るべきだ。

 

「援軍の当てがあるとすれば?」

 

そんなものあるとは思えないけど一応これには答えるべきだろう。

 

「それでも変わらないわ。私達には時間がないのよ」

 

一見すると反乱を起こした側の漣は時間が経てば補給の関係から自壊するように思うだろう。けどそれは大きな間違いだ。

司令が言っていた行方不明艦があの数で済むわけがない。まず間違いなく日を置く事に数を増やしていき補給を圧迫するだろう。だからその前に漣は規模の大きな泊地を占領して強引に物資を獲得すると同時に本土に対する橋頭堡を確保する。

そうなったらもう私達じゃ手をつけられない。上層部がどう判断するにせよ第二艦隊は独断専行してでも漣と戦い雌雄を決する。そうしなければ漣達は手のつけられないくらい大きな勢力になる。

 

「あの要望が聞き届けられる事はない。なら少しでも早く手を打たないと手遅れになるわ」

 

艦娘主導の政治体制、ようは国を明渡せと漣は言っているけどこの民主主義国家でそんな事が許されるはずがない。まず間違いなく拒否される。

 

「解答期限は1ヶ月後と長い。ギリギリまで待ってもいいんじゃないか?」

 

「それこそ漣の思う壺でしょ。その間に反乱艦が1000隻くらい集まっても驚かないわよ」

 

その長い回答期限は漣がさらに仲間を集めるための時間稼ぎに過ぎないだろう。物資そのものは1ヶ月分用意してるのかもしれないけど果たして漣を慕って集まった艦娘の分まで用意できているのだろうか。

いずれにせよこれは時間稼ぎに過ぎな事だけはたしかだ。

 

「違いない。上層部がどう判断しようと関係なく第二艦隊は漣に攻撃を仕掛けなければならない」

 

現状漣は補給に不安を抱えているけど必ずしも時間が私達に有利に働くとは限らない。むしろ内憂を抱えている分持久戦は私達に不利かもしれない。

 

「多少離脱者がいたとはいえ敵の数は第一艦隊だけで約80隻。行方不明になった艦娘が合流すると180隻を超える。現状第二艦隊は怪我人含めてざっと40隻。戦力差は絶望的ね」

 

いくら精鋭揃いとはいえこの戦力差は如何ともし難い。唯一の救いは漣さえどうにかすれば彼女達は自然と瓦解すると考えられる事だろうか。

 

「一概にそうともいえない。行方不明になった者には陸、空軍への出向組も多く含まれているから合流できない可能性もある」

 

「なら置き物連中の数によってはなんとかなるかもしれないわね」

 

彼女達は訓練学校で最低限の航海術しか身につけていない。

ネットに流された声明によると漣が拠点としているのは小笠原諸島姪島。私達なら簡単に辿り着けるその場所も、置き物連中は命懸けの航海をしなければならない。

 

「行方不明のうち半分以上は出向組だ」

 

「朗報ね。それならなんとかなるかもしれないわ」

 

今すぐに行動を開始すればなんとか互角の戦いができるかもしれない。戦っている最中に横槍を入れられる可能性はかなり高いし実際の勝率はそう高くはないだろう。

練度に勝る私達が第一艦隊相手に互角かそれ以下の戦いをしなければならないのは甚だ遺憾だけどこの際仕方がない。

 

「稼働する全ての艦娘を連れてすぐに出撃するわ」

 

「ダメだ」

 

「……理由を聞かせてもらえるかしら?」

 

持久戦は私達に不利、それがわからない司令じゃないから何か理由がある。それを聞いてから行動しても遅くはない。

 

「一つ聞きたい、漣の軍門に降ると言う選択肢もあるがそれを選ばないのは何故だ?」

 

その言葉を聞いた瞬間、私は司令の胸ぐらを掴んで顔を近づけた。

 

「アイツは二水戦を壊滅させるために意図的に情報を隠したの。そんな奴に下げる頭なんてないわ。二度とそんな事口にしないで」

 

私の言葉に司令は驚いたように目を見開いた。漣が二水戦の壊滅に関わっていると思っていなかったのだろう。私だって聞いた時は驚いた。

だからこそアイツの下に付くわけにはいかないし倒すのは私でなければないけない。

 

「……すまなかった」

 

「私のほうこそごめんなさい。熱くなりすぎたわ」

 

仮にも司令は上官、胸ぐらを掴むだなんて営倉にぶち込まれても文句は言えない。まぁ、今はその営倉がないんだけど。

 

「援軍を用意した」

 

「冗談じゃなかったんだ。よくこんな短期間で用意できたわね」

 

「1週間待てば100隻ばかり数を増やせる。その半分は第一艦隊に勝るとも劣らない練度だ」

 

魅力的な提案ではあるけど時間がかかりすぎている。1週間後だとその程度の数では対抗しきれない。

 

「ダメよ、そんなにも待てないわ」

 

「いいや待てる。確かに敵の数は今の数倍から10倍程度まで数を増やすだろう。だがそうなれば流石に物資が足りなくなるはずだ。追加の物資を得るために出てきた部隊を叩く」

 

「そこに漣が出てくるとは限らないじゃない」

 

いくら準備をしていてもこっそりと準備できる物資はそう多くはない。

いずれ漣が物資を求めて部隊を出すのは間違いないけど基本的には第一艦隊で事足りる。そこに漣がいる可能性は低い。

 

「いいや、出てくる。漣は虎の子の第一艦隊を失うわけにはいかない。

しかしだからと言ってそれ以外の艦娘では撃退される危険と必要以上に物資を消費してしまうリスクがある。

少なくとも初戦においては確実に勝利を得るために漣自らが第一艦隊を率いてくるはずだ」

 

「もし漣が出てこなかったら?」

 

「その時は第二艦隊が出てきた部隊を叩けばいい」

 

……なるほど、一理ある。確かに漣達はお世辞にも物資が多いと言えない状態なのは間違いない。

だから泊地を襲うと私も思っているしそれをされるまでがタイムリミットだと思っている。だからそれまでに漣の本拠地に突撃して叩くつもりだったのだけど……

 

「一歩間違えば漣に泊地の占領と物資の獲得を許す事になるわよ」

 

「仮に泊地を占領されたとしよう。漣は物資を姪島に移動させるか、泊地をそのまま再利用し新たな本拠地とするかを選ぶ必要がある。

前者の場合は物資を移動させている漣達を強襲すればいいし後者の場合は姪島から非主力部隊が移動するまでの間に泊地に留まる漣達を攻撃すればいい。

泊地を獲られる事は漣に一時的な隙を作らせる事になるからむしろ推奨したいところだ」

 

時間は私達に味方しないと考えていたけど必ずしもそうではないのか。長期的に見れば漣に有利かもしれないけど短期的に見れば私達に有利に働くこともあるのね。だけどこの作戦にも穴はある。

 

「集まった艦娘と第一艦隊の連合艦隊できた時はどうするのよ」

 

「その時は諦めるしかないな。しかしその可能性は低い。殆どは艦隊に所属できないような烏合の衆。そんな部隊を指揮下に組み込んだらむしろ第一艦隊の足を引っ張る事になりかねない。陽炎はそんな艦隊指揮したいか?」

 

有能な敵は恐ろしいけど無能な味方はそれ以上に恐ろしい。私が漣なら練度が不透明な連中を率いたくないわね。

 

「……わかったわ。司令の言う通り、漣が本拠地から出てきたところを叩く事にするわ」

 

本音を言うなら今すぐにでも出撃したいけど勝率が高そうなのは司令の案だ。この一戦は絶対に負けられない。勝利を手にするためにも私は自分の感情を押し留めた。

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