第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

57 / 72
陽炎主役の小説が読みたい。


瓦礫の女

「それにしても派手にやられたわね」

 

改めて鎮守府を見渡すと本当に酷い。

無事な建物は艦娘の寮くらいで一面瓦礫の山。鎮守府で働くのは艦娘だけではない。むしろ艦娘でない人の方が割合としては大きい。そんな中8隻もの艦娘を掘り起こすことができたのは運が良かったと言うべきだろう。

 

「まったくだ。奴ら手心を加えると言うことを知らないらしい」

 

「敵相手に手心も何もないでしょ」

 

「そりゃそうだ」

 

第一艦隊が行った空襲は一、二、五航戦の空母艦娘6隻によるものだと考えられている。それが6回にわたって反復攻撃を行ったと言うからこれだけの被害を被ったのも納得できる。

それにしてもここまで思い切りがいいのはそれだけ漣に対する忠誠心が高いからなのか、それとも他に何か理由があるのか。

そんなことを考えていると司令が唐突に口を開いた。

 

「陽炎、煙草をくれないか」

 

「ここは喫煙所じゃないわよ」

 

いくら煙草が好きでも最低限のマナーは守らなければならない。ただでさえ喫煙者に対する風当たりが強いのにこれ以上強くなられたらたまったもんじゃない。

 

「まだそこかしこで煙が燻っている。喫煙所みたいなもんだろ」

 

喫煙所とは即ち煙を吸う場所の事。暗くて見えにくいけど至る所で煙が出ているしこれは実質喫煙所ね。

 

「司令の煙草はどうしたのよ」

 

「あの中だ」

 

そう言って指差したのは瓦礫の山となった鎮守府だった。

 

「ご愁傷様。分けてあげたいところだけど生憎私も漣に取り上げられて手元にないのよ」

 

結局取り上げられたまま返されてないのよね。

予備のマッチは寮の部屋にあるけど煙草はもしかしたら切らしてるかもしれない。今の環境で追加の煙草を買いに行くなんて馬鹿げた事はできないししばらく禁煙か。

 

「……あぁ、そういえば漣と会っていたんだったな」

 

「報告とかいる?」

 

今はそんなことをしている場合ではないけど司令が必要だと言えばしなければならないだろう。

 

「時間がある時に話してくれればいい。そんな事より今は瓦礫の撤去と救助だ」

 

「そうね。私は何をすればいいかしら」

 

こう見えても私はこの鎮守府で二番目に偉い立場にある。下手に救助活動を手伝いに行けばそれまでに作られていた救助体制に悪い影響を与えかねない。

 

「食堂付近はまだ手付かずだ。十三駆を連れてそっちで作業してくれ」

 

「わかったわ」

 

空襲があったのが日が落ちる前。その時間はドックや艦娘の待機室、各戦隊に割り当てられた部屋以外に艦娘がいたとは考えずらい。戦力である戦闘艦がいるであろう場所を優先して掘り起こしていた結果、間宮達くらいしかいない食堂付近は後回しにされたのだろう。

 

十三駆を連れて瓦礫の山を登り食堂付近で声を上げながら瓦礫を掘り起こすと間宮達は厨房があった辺りで比較的すぐに見つかり順調に救助作業は進んだ。

 

「間宮達は案外軽傷だったしこの分なら救助作業は意外とすぐに終わるかもしれないわね」

 

彼女達も救助活動に回せれば漣達との戦いも思ったよりも戦力差がない状態で戦えるかもしれない。

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえり。どうだった?」

 

さっき見つかった間宮を送り届けるついでに狭霧には現在見つかっている第二艦隊の艦娘がどれくらい増えているかの確認も頼んでいた。

 

「指揮艦クラスが見つかっていませんね。巡洋艦は10隻も見つかってるのに指揮艦が1隻もいません」

 

狭霧の報告に思わず頭を抱えたくなった。

二水戦で指揮を取るとしたら不知火と黒潮になる。不知火はともかく黒潮はそれほど艦隊指揮の経験が豊富なわけではない。味方だけで100隻を超える大艦隊となればできれば黒潮よりも経験豊富な指揮艦を1隻、欲を言えば巡洋艦の指揮艦を2隻欲しい。

実力はともかく単純な艤装に付随する指揮機能では駆逐艦娘よりも巡洋艦娘の方が上だから前線部隊の指揮はできる事なら巡洋艦に任せたい。

 

「現時点でその数という事はもうこれ以上は難しいかもしれないわね」

 

広い鎮守府の中から艦娘がいた可能性の高い場所を優先して探していたのに見つかったのは巡洋艦が10隻のみ。指揮艦クラスがことごとく見つかってない辺りサボって女子会でもしていたんだろう。

精鋭揃いとはいえ年頃の少女達が集まる泊地や鎮守府では稀に見る光景だった。特に戦闘のない本土だとその傾向は顕著で本来即応待機している艦娘は専用の部屋にいなければならないけどしょっちゅう別の場所に行ったりしていた。

本土が攻撃されたのなんて20年近く前が最後だし気が緩むのもしょうがない。それに第二艦隊が即応する事なんて、本土の泊地で対応しきれないような敵が出た時くらいだけどそんな事はそうそう起きない。

 

「食堂でお茶でもしてたらここで見つかるかもしれませんね」

 

冗談混じり狭霧が言ったけどそれは十分あり得る話だ。

 

「アンタは配属されてから呉鎮で過ごした時間が短いからわかんないでしょうけど呉って暇なのよ」

 

私も各地を転戦していたから呉鎮にいた期間はそう長くはない。だけど少なくとも狭霧よりはよく知っている。

 

「本土近海に深海棲艦が現れれば一番最初に対応するのは泊地の艦娘。対応できない敵なら鎮守府から艦隊が出るって仕組みでしょ?

だから私達がいきなり出撃って事態はまずあり得ないのよ」

 

私の言葉に狭霧は考えるような少し素振りをすると口を開いた。

 

「大規模な艦隊が近づけば哨戒網に早い段階で引っかかりますから即応待機組だけでなく休憩中の連中も出撃できる。かと言って小規模なら泊地で十分対応可能ですし第二艦隊の出番はないという事ですか。

言われてみれば鎮守府から艦隊がいきなり出撃するなんて艦娘による奇襲でもない限り有り得ませんね」

 

第二艦隊だけでなく本土に置かれる鎮守府が即応待機する必要があるのかどうかはここ最近よく議論の対象になっていた。

艦娘に緊張感を持たせるためにも待機しておく方がいいという意見もあれば緊張感も何もサボり気味の即応待機なんてあってもなくても変わらないと言う意見もあった。

結局いつも結論は変わらず現状維持に落ち着く。

 

「ですけど幾ら何でも不真面目すぎませんか?」

 

「不真面目は語弊があるわね。上手い力の抜き方を知っていると言って欲しいわ」

 

ここでそれを認めたら私だけでなく二水戦の先輩や第二艦隊の他の先輩達まで不真面目だと認める事になる。それは第二艦隊の名誉にかけて認められない事だ。

 

「そう思うなら目を合わせてくださいよ」

 

「そんな事より救助を再開するわよ!」

 

なんか後ろで狭霧が文句言っている気がするけど気のせいでしょ。

 

「食堂の厨房部分はあらかた探し終わったし次はそれ以外を探すわよ!!」

 

望み薄だけど早めに訓練が終わったりした艦娘がいるかもしれないし本当に女子会してた艦娘がいるかもしれない。

 

「口を動かす暇があれば手を動かす。1隻でも多くの艦娘を救い出すのよ」

 

「お喋り始めたの教官じゃないですか」

 

「なんか言った?」

 

軽く拳を握りしめて尋ねてやると狭霧は顔を真っ青にして首を横に振った。それでいいのよ。

 

「けどこんなところに艦娘がいますかねぇ」

 

暫くして狭霧が愚痴をこぼした。

 

「いるかいないか言えば、いるんじゃないかしら。数は多くはないと思うけど」

 

多くて2、3隻と言ったところだろう。いや、もしかしたら金剛型が4隻ともいるかもしれないわね。金剛型だけ1隻も見つかってないあたりどこか別のところに固まっていたと考えた方がいいかもしれない。あの4隻結構仲良かったし。

 

「そう言えば死体安置所ってどこにあるのかしら」

 

「そう言えば見てませんね。まだないんじゃないですか」

 

「瑞鳳達が轟沈してるのに?」

 

「沈んだなら引き上げられないから死体安置所なんか必要ないですよ」

 

それもそうか。だけどこの鎮守府にいるのは艦娘だけじゃないのよね。

 

「艦娘以外にかなりの死者が出ているはずよ。ないのはおかしいわ」

 

もしかしたらそっちに巡洋艦連中がいるかもしれない。じゃないとここまで見つからないのはおかしい。

 

「提督に聞いてきますか?」

 

「そうね。正確な数を知らないと無駄足踏むことになるし」

 

漣がいつ動くかわからないしできるだけ早く救助活動をやめて対応できる体制にうつりたい。流石に今日という事はないだろうけど早く行動するに越した事はない。

 

「じゃあ聞いてきますね」

 

狭霧にお願いと返事をしようときた時だった。彼女の足元の瓦礫が崩れ右腕らしきものが地面から生えてきた。

 

「うわっ!」

 

思わず狭霧が悲鳴を上げて飛びのくくらいにはホラーな光景だった。

私も予想外の光景に唖然として数秒固まってしまった。

 

「た、助け出さなくていいっぽい?」

 

いつのまにか近くに来ていた夕立が恐る恐ると言った様子で尋ねてきて、ようやく私は正気に戻った。その頃には瓦礫の山が数センチばかり大きくなっていて中にいる人物が自力で這い出ようとしているみたいだった。

 

「そ、そうね。上の瓦礫をどかしましょうか」

 

かなり元気というか力が有り余っているみたいだし放っておいても自力で出てきそうだけど、手助けはするべきだろう。

狭霧達と恐る恐る近づくと突如瓦礫の下からくぐもった、しかし大きな怒声が上がった。

 

「Goddamn!!!」

 

その声と共に瓦礫が吹き飛び中から金剛型戦艦一番艦金剛が出てきた。本来なら喜ばしい事だけど私はこの瞬間、いつか絶対に彼女をぶち殺すと心に決めた。何故なら……

 

「ふべ!?」

 

吹き飛んだ瓦礫の一つが私の顔面にぶち当たったからだ。

絶対に殺す。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。