第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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援軍到着

彼女達が到着したのは呉の空襲から1週間後の事だった。

 

「援軍来たの?」

 

寮から持ってきたトランプで黒潮達と七並べをしている所に狭霧からもたらされた報告に私は内心歓喜した。

 

「じゃあ会いに行かないといけないわね」

 

「ちょっと待ちいや。次陽炎の番やからそれだけやってたらどうなんや」

 

嬉々として立ち上がる私に待ったをかけたのは黒潮だった。

 

「待たせるわけには行かないからこの勝負はドローって事にしておいてあげるわ」

 

「パス二回目のくせになに言ってるんですか」

 

あたかも勝っているような態度で黒潮に途中退席を告げると不知火が苦言を呈してきた。

 

「まだ三回目じゃないわ」

 

まるで私が負けているかのような物言いに(事実、負けているのだけど)精一杯の強がりでそう言った。

 

「でしたら最後のパスをして行きますか?」

 

嫌味ったらしく言う不知火の言葉を聞かなかった事にして私は狭霧に尋ねた。

 

「援軍はどこにいるの?」

 

「提督の所に挨拶に行ってます」

 

「あ、司令はんとこから帰ってくる時には人数分のラムネ取ってきてな」

 

狭霧に礼を言ってその場を離れようとする私に向かって黒潮が言った。

 

「なんで私がそんな事しないといけないのよ」

 

「罰ゲームや。どうせ陽炎がドベなんやからええやろ」

 

黒潮の言葉に舌打ちをしながら渋々了承すると姉ちゃんありがと、なんてニッコニコの笑顔で言われるもんだから毒気が抜ける。

あの日以来度々姉ちゃん呼ばわりされるけど黒潮はまるで牙を抜かれた獣の様に大人しくなっていた。元々雪風達見たく闘争本能に溢れていたわけではないけど最近の黒潮は少し心配になるくらい大人しい。大人しいことが悪いわけではないけど二水戦の中隊長なのだからもう少しらしさと言うものを見せて欲しいと思う。

 

さて、司令が手配した援軍だけど今日到着したのは第一艦隊に勝るとも劣らないと言われた精鋭部隊だった。

 

「お久しぶりです。第四艦隊、第四水雷戦隊旗艦兼インド洋派遣部隊旗艦の由良です」

 

集まった艦娘達の中から代表して挨拶してきた由良に私は驚いた。艦娘の足で1週間やそこらでスリランカから呉まで艦娘が来るのは不可能に近いからだ。深海棲艦がいる場所を多く通らないといけないし途中の補給や休憩を考えればどんなに頑張っても2、3週間はかかる。

 

「随分早かったわね」

 

「そちらの提督さんが手配してくれた飛行機でインドから中国、最後に日本海を渡って来ました」

 

航空機は深海棲艦の発生前と比べると随分と廃れた。最大の理由はやはり海が深海棲艦に支配された事だろう。海上を飛んだ飛行機はことごとく撃墜される。それを護衛するために艦娘が艦載機を展開しようにも飛行高度と航続距離の関係ですこぶる効率が悪い。

結果、飛行機は深海棲艦の脅威が殆どない大陸内での移動にしか使われなくなり需要が減少した。これによりジェット燃料の生産量も飛行機、特に大型ジェット機の生産数が減り続け、現在では最も高価な移動手段となっていた。

 

「初めて飛行機に乗りましたけど私達とは比べ物にならないくらい速かったですよ」

 

艦娘の移動に飛行機が使われるなんて聞いた事がないし日本だとよっぽどの金持ちか要人でないと乗る機会がないのが飛行機だ。正直すごく羨ましい。

 

「援軍はありがたいけどインド洋は大丈夫なの?」

 

「戦艦棲姫の撃破以来、インド洋は深海棲艦の活動が低下しています。有事の際には残してきた2個水雷中隊と大型艦が対応しますし指揮も東洋艦隊のSheffieldに預けていますから問題ありません」

 

他国に自国の艦娘、それも国内トップクラスの練度を誇る精鋭艦娘の指揮を他国の艦娘に預ける事に問題がないわけじゃない。だけど非常時である事とイギリスと言う日本と密接な関係にある国である事が辛うじてこの事態を正当化できている。

 

「由良以下水雷中隊が2個と巡洋艦の戦隊が2つ、合計34隻が第四艦隊から。さらに東洋艦隊から駆逐艦2隻、潜水艦艦隊より軽空母が1隻の合計で37隻だ」

 

第二艦隊の残存艦は二水戦が私含め37隻、第三戦隊の金剛型4隻と巡洋艦連中が10隻の計51隻。これに援軍が加われば数の上では88隻になる。数の上では第一艦隊と互角か、私達の方が少し多いかもしれない。

だけどその援軍に一つ気になることがある。それは潜水艦艦隊から来たと言う軽空母の存在だ。私が記憶している限りあの艦隊に軽空母はいない。

 

「陽炎さんお久しぶりです。軽空母龍鳳です」

 

挨拶されても最初は誰なのか分からなかった。聞き慣れない龍鳳という艦娘の名前に彼女の顔をよく見るとそれが誰かわかった。

 

「もしかして大鯨?」

 

大鯨の制服は白いセーラー服だけど今の大鯨の制服はピンク色のセーラー服へと変わり少し大人びた印象を受けた。

 

「はい。改装して軽空母に艦種が変更になり軽空母になりました」

 

艦娘の数が増加した事で全ての艦種において艦娘の不足がない事と日本がそれほど大型艦を重視していない事から昨今では艦種が大幅に変わる改装を受ける艦娘は滅多にいない。だから大鯨のこの変化にどう反応すればいいのかよくわからなかった。

 

「この手の改装の数は年々減ってはいたがそのノウハウを失わないために少数だが行われていた。彼女はそれに自ら志願して認められたんだ」

 

司令が何か言っているけどそれすら耳に入らないくらい私は動揺していた。伊58に彼女の事を託されたのに龍鳳が第二艦隊と共に漣討伐に赴いては彼女との約束を破ることになるのではないか。

 

「伊58は貴女が深海棲艦と戦う様な事を、ましてや同じ艦娘と命のやり取りをする様なことを望んでいなかったと思うわ」

 

辛うじて搾り出した言葉はこの場にあまりにも不釣り合いな言葉だった。

 

「漣さんと母が仲違いする前、私は漣さんと何度会った事があります」

 

「貴方にとって知らない仲じゃないと言う事じゃない。なら尚更参加するべきじゃないわ」

 

私達の多くは彼女の事を、反乱した第一艦隊の事を知っているわけじゃない。だからと言って第一艦隊と殺し合いをしてもいいと言うわけじゃないけど龍鳳が戦うよりは幾分かマシだろう。

 

「母を殺したのが漣さんと知ってしまったのにそれを知らないふりをしている事なんてできません」

 

「知ってたの?」

 

「漣さんが反乱したその日、謝罪から始まる手紙が送られてきました」

 

律儀とでも言えばいいのかしら。わざわざ自分が殺して艦娘の娘に手紙を送るなんて。

 

「なら貴女が漣との戦いに参加したいのは復讐が目的?」

 

「どうなんでしょうか?」

 

「どうなんでしょうかって……」

 

不思議そうな顔されても困るわよ。

 

「私自身、よくわかっていないんです。母の仇を討ちたいのか、それとも漣さん自身の口からこんな事をしたか聞きたいのか、はたまたそれ以外の理由なのか」

 

航空戦力が軽空母1隻しかない現状、龍鳳の加入はありがたい。だけどこんな精神状況の龍鳳を戦いに参加させてもいいのかどうか、私は迷っていた。

 

「敵の航空戦力は一、ニ、五航戦の6隻。貴女が加入してもこちらの航空戦力は2隻。数の上では三倍、だけどこちらは軽空母だから実際はもっと差があるわ」

 

それだけじゃない。改装して軽空母になったと言うことは艦載機の扱いにおいては間違いなく参加する空母艦娘の中で一番下だ。多分できる事は偵察と艦隊の直掩くらいじゃないだろうか。

 

「司令、本気で龍鳳を参加させるつもりなの?」

 

「今は1隻でも多く空母が欲しい。集められる戦力としては洋上を航行できれば及第点と言っていい」

 

海軍所属の空母は約300隻、その殆どは本土ではなく東南アジアに展開している。この1週間で軍上層部の意向は漣の捕殺で纏まった。私達の動きを黙認してくれているとはいえあくまでも私達の動きは独断専行に過ぎない。だから必要以上に部隊を動かす訳にもいかずかと言って少ない戦力では漣との戦いに負けかねない。

 

「せめて本土にいる空母を持って来れなかったの?」

 

「空母を保有しているのは第三、第五だがどちらも日本海という日本の資源地帯がある海域への防衛を担当している。いくら上層部が我々の動きを黙認していると言ってもここから空母を持ってくるのは無理だ」

 

「東南アジアに展開している空母は……」

 

「信用できない。その点龍鳳は実力面では不安が残るが信用というただ一点においてどんな艦娘よりも勝っている」

 

現在部隊を離脱し漣との合流を図ろうとしていると言われている艦娘は約500隻。数の多い駆逐艦や軽巡洋艦の離脱者の割合は少ない一方で重巡、戦艦、空母と言った艦娘の離脱者は極めて多い。前者と後者で半分ずつくらいだけど元々駆逐艦、軽巡洋艦だけで艦娘全体のおよそ八割を占める事を考えれば後者の割合がいかに高いかよくわかる。

 

「わかったわ、今はこれで納得するけど司令は当初100隻の援軍を用意するって言ってたわよね。残りの63隻はいつ用意できるの?」

 

「すでに用意して展開済みだ」

 

「どう言う事?」

 

漣との戦いはまだ始まってすらいない。なのに展開済みだなんてまるでこちらから仕掛けるみたいじゃない。

 

「ありがたい事に大盤振る舞いしてくれて実に150隻の潜水艦娘が小笠原諸島周辺で哨戒と合流する艦娘の撃破に当たってくれている」

 

「援軍って潜水艦のことだったの……」

 

詳しく聞かずに水上艦の事だと思っていたのは私の落ち度だけどなんだが釈然としない。

 

「潜水艦の足でよく1週間なんて言う短い期間で展開できたわね」

 

「潜水艦隊保有の高速輸送艦を全て使って小笠原諸島近海まで運びましたから展開は3日程度で済みました」

 

「小笠原諸島に行ったの!? 危ないじゃない下手すれば攻撃されて輸送艦ごと海の藻屑よ!!」

 

「漣さんは1ヶ月は攻撃しないと言ってました。だから今近づいても攻撃はされないと思いました」

 

第二艦隊が奇襲を受けた事をすっぱりと忘れ去り呑気に近づいた潜水艦娘達に呆れるべきなのか、それとも漣の事を信じた豪胆さを褒めるべきなのか。

 

「それで、現状どれくらいの艦娘が合流してるのよ」

 

「確認できたのは200隻弱です。ですが展開完了前に合流している艦娘は見逃していますから正確な数は不明です」

 

第一艦隊と合わせて約300隻。なかなかの数ね。

 

「それと現地の潜水艦艦隊の指揮官だが……」

 

「なによ勿体ぶって。早く言いなさいよ」

 

何故か言い淀む司令に続きを促すとため息を吐いた。

 

「第二水雷戦隊教導隊の校長神通が元部下の教官連中を引っ提げて前線に出張っている」

 

「……はい?」

 

「一度漣とは戦ってみたかったそうだ」

 

「現地潜水艦娘の指揮が目的よね?」

 

そもそもあの人達は全員艦娘としての能力が衰えているから戦うなんてもってのほかよ。

 

「今の二水戦候補生達はどうなってるのよ。次の候補生が入学して訓練中のはずよね?」

 

「全員が出張ったわけではない。電を筆頭に責任感のある教官が何隻か残っている」

 

安心していいのか悪いのか……。と言うか司令、暗に神通さんの事責任感がないって言ってるわね。

 

「叢雲は残ってないの? あの人無口だけど責任感はあるわよ」

 

「何かあった時の抑え役として神通に同行している」

 

「教頭が残って電が抑え役としてついていくのが普通じゃないかしら」

 

「叢雲はじゃんけんで負けた。珍しく大声を出して悔しがっていたぞ」

 

あの叢雲が悔しがって大声を出すなんてよっぽど神通さんについて行きたくなかったのね。

 

「ともかく神通達が前線にいるから突然動きがあってもある程度は対応できる。それこそいきなり第一艦隊が出てこない限りは潜水艦艦隊の艦娘からの情報を統合して正確な報告を上げてくるはずだ」

 

「そうね。ならそれまでに部隊の休息と、できれば龍鳳の訓練をしたいわね」

 

「近々隼鷹も戻ってくる事になっている。決戦の日までに完璧に準備を整えるぞ」




神通って打つとたまに陣痛になってる。
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