戦いが始まって約1時間。この間中央の第四艦隊は突撃と後退を三度行い第一艦隊の中央部を誘引しようとした。
幸いにも大破や轟沈した艦娘はまだ出ていなくて私達は高い戦闘能力を維持していた。だけどそれは漣達第一艦隊も同じで未だに決定打を与えられずにいた。
「上手くいかないわね」
「相手はただ耐えれば勝てるわけですし当然といえば当然ですがそれにしてもいやらしい事この上ないですね」
私の呟きに答えたのは狭霧だった。
「後退する度に両翼に敵の砲撃と攻撃機が飛んでくるのはこっちの意図がバレてるっぽい?」
「そうね。そのせいで逆に第四艦隊が敵の中に孤立しかねないから突撃はそれほど効果的じゃないし、かと言って後退しても向こうは必要以上に追撃を仕掛けてこない。よく統率されているわ」
漣の勝利条件の一つが耐える事とはいえここまで徹底されると嫌になる。
漣達は現状維持でもいいかもしれないけど私達はそうはいかない。局面を打開する義務はこのままだと負けるしかない私達にある。
「今の所漣は一貫してこちらの攻勢を行っている第四艦隊に対して戦艦、空母の支援を集中させている。両翼のいずれかに突撃させて敵の判断を見たいわ」
もしも攻勢に出た部隊に同じように砲撃と航空支援を集中させるならチャンスかもしれない。
「Janus、不知火の右翼部隊に攻勢を強めるように連絡してきて」
ついさっきJervisが第四艦隊への伝令へ行っていてまだ帰って来てなかったから第四艦隊と黒潮には巻雲と敷波に頼んだ。
「どうするつもりですか教官」
「もしこれで不知火側の敵戦力が増えるようならそのまま一時後退させ敵兵力を誘引、黒潮率いる左翼に予備戦力を投入して敵右翼側から半包囲するわ」
戦艦はともかく航空機に関しては補給や展開時間から航空部隊を突然別の場所に展開するのは困難だ。
「斜行戦術ですか」
右翼を後退させ左翼は突撃、中央の位置が変わらないから陣形は斜めになり狭霧の言う通り斜行戦術に当たる形になる。
「なんの反応もしなければどうするっぽい?」
「その時はその逆、黒潮達左翼を後退させて不知火達の右翼は前進して敵左翼部隊から半包囲すればいいわ」
「そうかもしれませんけどなんの反応もされないのはは不気味じゃないですか?」
たしかに明らかに脆弱な第四艦隊からの攻勢に対しては全力で応対しているのに第四艦隊より数は少ないとはいえ精鋭の第二艦隊からの攻撃に対してはなんの反応も示さないのは少し不気味だ。
「だけど私達に様子を見ると言う選択肢はないのよ。敵の合流にはまだまだ時間がかかるけどいつまでも手をこまねいてはいられないわ」
開戦直前に届いた情報によると潜水艦隊による足止めはうまくいっている。一番近い艦隊でも合流に数時間はかかると言うからじっくりと漣の首を締め上げるのも一つの手ではある。
だけど補足漏れの可能性や艦隊ではなく小隊や戦隊単位に分散して強引に潜水艦隊の足止めを振り切ってくる可能性だってあるから早めに決着をつけるに越したことはない。
「早期決着を目指すのは理解してますけどやや焦りすぎなのではないでしょうか」
「そんなことはないわ。この攻勢で決着がつくだなんて最初から思っていないし本当の目的は別にあるのよ」
相手は私よりもずっと艦歴の長い漣だ。私の作戦くらい簡単に看破してくるに違いない。
「この1時間で第四艦隊は随分と弾薬を消費したみたいだからここら辺で第四艦隊の艦娘に順次補給をさせておきたいのよ」
艦娘が保有している弾薬はそれほど多くない。基本的には水平射撃が可能な近距離での砲戦を想定しているから命中率が高く一度の海戦で使う砲弾の量は数十から百数十発程度、そして艦娘が通常搭載する量は大体500前後。
駆逐艦娘の場合は最大で毎分10発程度撃つことが可能だけど常にそうするわけではない。距離が遠かったりすれば発射速度は落ちるし逆に突撃したりして距離が近ければ発射速度は最大速度に近くなる。その分砲弾の消費量も増えるから攻勢に出ていた時間の長い第四艦隊は他の部隊と比べて砲弾の消費が大きかった。
「1時間程度の交戦時間ならまだ余裕があると思います。わざわざ右翼が攻勢に出るタイミングで補給しなくてもいいんじゃないですか?」
「右翼が攻勢に出るからこそよ。今なら敵は攻撃する右翼部隊に集中するから比較的安全に補給ができるわ。逆に今を逃せば安全に補給できる機会はない」
どんな展開でも中央の第四艦隊が果たす役割は戦線の維持だからしばらくの間第四艦隊は安全だ。度重なる攻勢で減った弾薬の補充をするのは今を置いて他にない。
「じゃあ夕立達は念のため第四艦隊の支援に行くっぽい?」
「そんな事したら不知火達の攻勢から中央の第四艦隊に漣の注目が移るかもしれないから必要ないわ」
攻勢の主軸は不知火の右翼部隊。そっちに戦力を集中するなら黒潮の左翼部隊が攻撃を開始するけどこの時一番やられてまずいのは中央の第四艦隊への攻勢だ。この場合こちらの右翼部隊が前進しつつ第一艦隊の中央が突出することになるから下手をすれば不知火達との連携が断ち切られる恐れがある。
ただこれをすると私達は不知火達右翼の壊滅と引き換えに第一艦隊の中央及び右翼を予備兵力を使って半包囲し各個撃破する作戦に出るつもりだし漣もそれをわかっているはずだ。そんな危険を犯すはずがない。
「ですが援軍を送らなければもし敵中央部隊が攻勢を仕掛けて来たら支えきれないんじゃないでしょうか」
「向こうも物資を消費しているからこっちが大人しくしてると見れば同じように補給するんじゃないかしら」
希望的観測が混じっているけど多分この予想は外れていないと思う。
第四艦隊は三度の突撃と後退を行ったけど敵はその度に苛烈な砲火で防衛し後退に際しては突出こそしてこなかったけど曲射まで用いた追撃をしてきていた。第四艦隊ほどでないにしろ間違いなく物資が減っている。
「向こうは腰を据えてじっくりと戦いたいわけだし安全に補給できるチャンスがあればきっと補給をするわ」
漣の勝利条件は他の艦隊が到着するまで耐える事。ここまで第四艦隊の攻勢を耐え続けて来た以上ここでもそれに準ずる選択をするはずだ。
「ですがもし攻勢に出て来たらどうするんですか?」
「その時はそれが予備兵力の投入タイミングになるわね。おそらく一時的に戦線を押し込まれてしばらく攻勢に出るのが困難になるわね」
案外、その展開もあり得るかもしれない。こちらが後手に回り続ければ漣は比較的少ない労力で多大な時間を得る事ができる。でも逆にこちらが迅速に対応すれば労力に見合った結果を得ることはできずともすれば中央部隊の壊滅を招きかねない。なぜなら不知火は攻勢に出てるけど左翼の黒潮は待機状態、左翼の余力と予備兵力を持って突出して来た敵中央を叩く事も可能だ。
「念の為に私達も少し前進しておきましょうか」
「敵の砲火に晒される可能性が高くなるっぽい」
夕立の意見は正しい。指揮系統を麻痺させるために前進した私を狙ってくる事は想像に難くない。だけどそれ以上にメリットもある。
「問題ないわ。距離的に砲撃はそれほど苛烈なものにはならないだろうし第一艦隊の艦載機からの攻撃も前進して第四艦隊に接近しておいた方が対応しやすいわ」
なんせこちらは空母の数が少ない。負担を軽くするためにも部隊同士が近い方がいい。それに前線に近い方が戦場の様子をよく見れて指揮も取りやすい。
「巻雲ただいま戻りました〜」
「敷波戻りました」
「Jervisも戻りました」
巻雲、敷波、それとJervisが戻って来て私達の話は一時中断した。
「ご苦労様。黒潮と由良は何か言ってた?」
「由良さんはそろそろ一度補給したいって言ってましたよ」
やっぱり第四艦隊は補給が必要だったみたいね。
「それは手配済みよ。黒潮はどうだった敷波」
「特になにも。強いて言うならそろそろこの行動にも飽きて来たって言ってました」
「漣が不知火に反応しなければその飽きからも解放されるでしょうね」
「Janus戻りました」
「お疲れ様。不知火は何か言ってた?」
少し遅れて帰って来たJanusにも同じ質問をするとJanusは困ったように頬を掻いた。
「突破して漣を沈めてしまってもいいんですよねって言ってました」
「それはもちろん。できるのならやってしまいなさい」
不知火の戦力じゃ突破はできても漣まで倒すのは戦力不足が否めないけど突破した時点で私が第一中隊を率いて援護に入るし全く問題ない。
「教官、右翼部隊が動き始めました」
報告を聞いている間に不知火達は陣形を変更して戦線を押し込み始めた。
「第四艦隊も強かったけど流石に第二艦隊には劣るわね」
中央の攻防で第四艦隊の凡その実力はわかっているけどやはり第二艦隊には少し劣る。第四艦隊は戦線をほとんど動かすことが出来なかったけど不知火達はどんどんと前進している。敵がその場に止まって受け止める事ができないと判断して勢いを受け流そうと艦隊を後退させているのもあるけどそれにしても前進スピードが速い。これなら右翼方面から第一艦隊を包囲できそうだ。
「金剛、不知火の方に砲撃を集中してあげて」
辛うじて崩壊は防いでいるように見えるけど流石に支援砲撃が集中すれば崩れるだろう。
「それはちょっと待つですね陽炎」
「どうしてよ。今がチャンスなんだから躊躇う理由はないわよ」
「敵右翼、つまり黒潮の左翼部隊正面に動きがありマス」
「……なんですって?」
金剛はレーダーを装備しているから私よりもよっぽど戦場の状態を把握できている。無視すべき意見じゃない。
今回の戦いに臨むにあたって私は双眼鏡を首に下げていたから直ぐにそれを手に取り左翼正面に目を向けようとした。
「教官左翼部隊が!!」
狭霧の言葉に顔を上げると今まで見た事のないような数の水柱が左翼部隊から上がっていた。
裏で3本くらい艦これの小説作ってるんですけど投稿するか迷ってます。
一番多いのでもまだ五千字くらいしか書けてないですし投稿するとしても当分先にはなると思いますけど。