今回の話は特に。精神がゴリゴリすり減った。
「なんやなんや!」
戦闘開始から約1時間、唐突に降り注いだ砲弾の雨に思わず叫んでもうた。指揮艦が取り乱すなんてあんまええ事やないけど今回ばかりは許してほしい。
「被害報告!」
なんとか動揺を落ち着けて怒鳴りつけるように叫ぶと幸運な事に直撃した奴はおらんかったみたいで一番被害が酷いのでも小破止まりやった。
やけどそれで敵の攻撃が終わるはずもなくさらなる追撃がウチらを襲った。
「黒潮、正面から敵機!」
親潮の叫び声に反応して敵上空を見ると豆粒のような黒い点々が大量に蠢いとった。
「多すぎやろ!」
ちゃんと数えたわけやないけど少なく見積もって200機以上の艦載機がこっちに向かって来とった。
「親潮、陽炎に援軍送るよう要請!!」
「敵に傍受されます!」
「そんなこと分かっとる! せやけどこのままやとウチら左翼部隊が突き崩されてそのまま全軍の瓦解に繋がりかねへんやろ!!」
秋月型がおるとはいえウチらの対空戦闘能力は200を超えるような艦載機に対処できるほど高ない。おそらく正面の敵も時間を置かずに突っ込んでくるしここで援軍をもらわなこの戦いに負ける。
「なりふり構ってる暇はあらへん。親潮は自分の駆逐隊と二十一駆を使って対空戦闘! 十九駆と巡洋艦連中は正面の敵の足止めや!!」
「駆逐隊一つと巡洋艦だけだと前線の戦力が足りません! せめてもう一個駆逐隊ないと」
「あの数の艦載機相手に一個駆逐隊で対応できるわけないやろ! 陽炎から援軍が来るまでだけなら正面の敵はなんとかする!!」
本来なら指揮下の艦娘全員で応戦したいくらいやけど正面の敵がそれを許してくれるとは思えへん。
艦載機による攻撃に巻き込まれんよう同時というわけではないやろうけどそのギリギリのラインを攻めてくることは間違いない。ならそのタイミングをずらすために少数の戦力で反撃するしかない。敵機が引き上げた後ならまだ体勢を立て直すことも可能かもしれへん。
「グダグダ言ってる暇はないで! ええから親潮は対空戦闘に集中するんや!!」
言うてる側から正面の敵が砲撃を開始してきた。まだ距離があるからあたりはしてないけどこれで艦列を乱したら対空砲火の効果が減少してまう。
いや、むしろこのまま突っ込んで乱戦に持ち込むべきか? そうすれば敵の艦載機は誤射を避けて……いや、アカン。まず間違いなく敵機の方が先に接触するからより悪い状況で敵右翼部隊とぶつかる事になる。
「いっそ急速後退して敵との距離を稼ぐべきか?」
「後退するんですか!?」
しまった、声に出したつもりはなかったんやけどな。
「いや、今更もう遅いわ。ここで陽炎からの援軍が来るまで食い止めるで。命令に変更なしや」
本来ウチらは正面の敵右翼部隊を抑えつつ中央の第四艦隊が引きずり込んだ敵中央部隊の側面を叩く事が任務やった。それが敵が乗ってこんかったせいで不知火の右翼部隊を前進させて右翼からの包囲を目指した。やけどその瞬間、敵は右翼を放置して支援砲撃と艦載機をウチらに差し向けてきた。艦載機の数的には第一艦隊が出せる最大数のざっと三分の一くらいやけど飛ばした艦載機の回収と補給、攻撃ペースとかを考えたらほぼ全力と言ってええ。多分この艦載機の攻撃が終わった後、あんま時間を置かずに第二派が来る。ただ耐えればええだけやのにここで決めに来るとはすっかり騙されたわ。
まず間違いなく戦いの天王山はここや。ウチらの働きいかんでこの戦いの趨勢は決する。多分この攻撃をただ食い止めるだけやとアカン。こっちの勝利条件が漣の撃破である以上、たとえこの攻撃を食い止めたとしてもその後に敵に対して攻撃できるくらいの戦力がないと、こっちの勝利条件を達成できへん可能性があるからや。不知火なり第四艦隊なりが攻勢に出た時、ウチらの戦力が少なかったら敵右翼部隊に行動の自由を与える事になりかねんから可能な限り犠牲は抑えなアカン。
「損な役回りやなぁ。こういうんは不知火が受け持って欲しいわ」
被害を最小限に抑えつつ、敵の攻勢は受け止める。改めて考えるとウチみたいな指揮艦初心者がやるような事とちゃうな。
「巡洋艦は敵の一番突出しとる部隊に対して砲撃を集中。駆逐艦は魚雷を扇状に発射、その後は主砲で嫌がらせや。当てる必要はないで。敵の進軍速度を少しでも遅くする事が目的やからな」
多分、いや確実にこの攻撃で沈む艦娘が出るやろうな。敵艦載機の攻撃に対抗する艦娘が少ないしその段階で沈む艦娘が出てもおかしない。
一応ウチら艦娘には主砲以外にも艤装に備え付けとる機銃がある。それらはウチらが操作して手動で迎撃するだけでなく自動で艦載機を迎撃する事もできる便利な装備やけど、欠点として自動迎撃は精度が悪くなる。新米の艦娘なら自動のほうが迎撃効率がええなんて事もあるけどウチら二水戦がそれに当てはまるはずもなく皆この機銃を信用してへん。迎撃する親潮らはともかくウチらは自動迎撃でこの機銃を使う事になるやろうけどどこまで信用していいのやら。
そんなことを考えながらも手に持つ主砲は接近する敵に向かって弾を撃ち続ける。時折上空で爆発音が聞こえたり真横に爆弾が降ってきたりしてメッチャ怖いけど全部無視や。当たりそうなんは親潮達が撃墜してくれるし撃ち漏らしがあっても普段は頼りにならへん自動迎撃の機銃がなんとかしてくれると信じて上は気にせず撃ちまくる。
ウチの普段の行いが良かったんかウチはなんとか被弾ゼロで敵機をやり過ごす事ができた。せやけどウチの十九駆は1隻が中破、2隻が小破。それとウチの指揮下に入っとる4隻の巡洋艦の内1隻が中破、他は小破やった。
「親潮そっちの被害はどうや!?」
「こちらは至近弾で艤装が少し損傷したくらいで全員無事です」
「よし、第一派はなんとか凌いだな。次は正面の敵右翼や!!」
予想に反して轟沈艦がおらんかった幸運を喜ぶ暇もなく、もうすぐ敵は水平射撃が可能な距離になる。敵の空襲で艦列が乱れたウチらが対抗し切れるかはギリギリのところやけど、艦列を整えての行儀のいい艦隊戦やなく敵味方入り乱れた乱戦状態に持ち込めばなんとかなる。
「艦列は整えんでええ! 全艦突撃用意や!!」
仮に防ぎ切れたとしてもウチらも敵の右翼も再度攻撃するような戦力は残らんやろう。せやけどそれでこっちからの攻撃の可能性が無くなるから戦術的には多少のメリットがある。
「旗風!?」
敵右翼に近づくにつれて敵の艦娘の顔がよく見えてくる。驚いた事にそこには旗風の、敵の第三駆逐隊の姿があった。不知火曰く三駆は一水戦の中でも精鋭揃い。おるとしたら最も激しい戦闘が予想される中央か、もしくは予備戦力として後方に控えるかのどっちかやと思っとった。
「魚雷発射用意! 残っとる魚雷は全部出すんや!! 出し惜しみする必要はないで!!」
乱戦になれば同士討ちが怖くて魚雷なんざ撃てへん。ウチら十七駆はさっき魚雷を撃ったからすっからかんやけど他は余っとる。敵の艦列が乱れるには十分な数を撃てるはずや。
「敵艦も魚雷を発射したようです!」
「こっちも魚雷発射や! 回避行動は最低限にできる限り速度を落とさずに突っ込むで!!」
ここで大きく回避運動を取れば敵に対して隙を見せる事になる。真っ直ぐ魚雷に突っ込んで最低限の動きで避ければ隙を晒す事もない。普通の艦娘やと無理かもしれへんけどウチらは二水戦、追従する巡洋艦連中も第二艦隊の艦娘や。できへんはずがない。
「敵が回避行動を取ったらその瞬間全艦主砲を叩き込むんや!!」
第一艦隊にはウチらと同じ動きはできへん。そう思って敵が魚雷を避けて隙ができたところを叩こうと思ったけどそれはできへんかった。思いの外敵右翼の動きは良くてウチらと同様魚雷に突っ込んで最小限の動きでかわしよった。
こうなったら主砲を撃ったところで大した効果は期待できへんけどしゃあない。こっちから撃たんでもどうせ向こうから撃ってくるんやし先手必勝や。
「全艦、主砲撃ち方はじめ!」
遠距離戦で行われる曲射と違って近距離の水平射撃は艦娘の練度が如実に出る。ウチらが攻撃を始めると殆ど同時に敵も攻撃を始めたんやけどその第一射でウチが見える範囲三隻、味方が被弾した。そんで敵には二隻が被弾。ウチが旗風に撃った弾はあっさりと避けられて水柱を上げるにとどまった。
この旗風は二水戦に勝るとも劣らへん実力者。ウチ以外やと親潮なら相手できるやろうけど他やと少し不安が残る。ウチが相手するしかない。
追撃を仕掛けようとしたけど旗風はそれを読んで先に主砲を撃ってきた。もちろんそんなもんに当たるほどウチは間抜けやない。簡単に避けさせてもらうとお返しに主砲を撃ち返した。
互いの部隊の隊長同士が一騎打ちを始めたからか周りの艦娘は邪魔をせんようにウチらから少しづつ距離をとった。
まぁ乱戦状態やし不意打ちは全然あり得るから警戒はせなあかんけど場所を開けてくれたんはありがたい。
「二水戦の黒潮ですか。陽炎以外は大した事がないと思っていましたけど中々どうして強いですね」
撃ち合いの最中唐突に旗風が話しかけてきた。
「ウチかて二水戦や。弱いわけがないやろ」
この戦いまでの一連の行動から、この旗風が第一艦隊内でも特に漣の信頼が厚いんは間違いない。ここで倒せれればウチらの勝利に一歩近づく。
だからこそ不思議に思うのはなぜ旗風が右翼部隊の指揮を取っとるんかといことやな。
「ですが貴女は敵を信用しすぎです。乱戦に持ち込んだのなら周りの警戒はキチンとしないといけませんよ」
「黒潮後ろです!」
敵と話したり、交戦中に敵の意図を考えたり余計なことしとったんが悪かったんやろうな。親潮の叫び声に振り向くと同時に足元に大きな衝撃が走り魚雷が当たった事を悟った。艤装が煙を上げ小規模な爆発を繰り返しながら足元がゆっくりと海に沈む中、頭は意外と冷静に旗風の策に嵌められた事を導き出した。
乱戦状態で魚雷を撃つ事は味方の同士討ちの危険がある。やけど今ウチの前には旗風しかおらんからその危険は殆どない。多分ウチは誘い出されたんやな。
失敗したなぁ。もっとウチに経験があればこんな事にはならんかったやろうに。まさか二水戦の生き残りでウチが最初に沈む事になるなんてなぁ……。
なんならウチ、陽炎、親潮、雪風の二水戦の生き残り4隻の中で一番年上やから沈むより先に引退するもんやと思っとったし。
せめて二水戦の生き残りの中で唯一の轟沈になってほしいなぁ。あの3人にはウチの代わりに長生きしてほしいわ。
そう言えば陽炎の泣いてるとこって見た事ないな。
二水戦が壊滅した時も陽炎は涙一つ見せずに事後処理しとったっけ。そんな暇もなく忙しかったと言えばそれまでやけど……。
ウチが死んだら泣いてくれるかな。長い付き合いやし少しくらい泣いてくれてもバチは当たらんやろ。
……気付いたら首まで海面に浸かっとんな。
意外と時間かかった気がするけど多分実際はほんの数秒とかなんやろな。これが走馬灯って奴なんかなぁ。
……ウチ、もうアカン。
「陽炎……」
さいならぁ〜……。