第二水雷戦隊壊滅ス   作:鉄玉

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突撃

黒潮達左翼部隊からの通信による援軍要請。それから私が援軍を送り出すまでには少し時間がかかった。と言うのも漣は確実に黒潮達の部隊を倒す為に私のところにも艦載機を送り込んできていたからだ。

第一艦隊が保有する空母は6隻。それぞれ100機前後の艦載機を有しているから合計で600機。多めに見積もってその三分の一が戦闘機だとしても400機は爆撃機や攻撃機だ。現在黒潮側に200機、そして正面から同じく200機の艦載機が突っ込んできている。余程黒潮のところに援軍を送ってほしくないらしい。

 

「全艦対空戦闘! 終わり次第私が第一中隊を率いて黒潮の援護に行くわ!!」

 

だけどそれが実行される事はなかった。私達が敵を撃退した時、既に黒潮達は敵と乱戦状態に陥っていたからだ。

 

「援護に行くなら指揮は引き継ぎますけどどうしますカ?」

 

乱戦状態でなければ一当てして引き返す事もできた。それなら予備兵力がいなくなる時間も最低限で戦線に与える影響も小さい。だけどあの混乱状態だと事態を収拾するには暫くの間左翼部隊にかかりきりになる必要がある。その間に中央なり右翼なりが突破されそうになれば対応できる部隊がいない。

 

「……仕方ないわね。十四、十五駆で黒潮の救援をさせる。流石に予備兵力が長時間無くなるのは避けたいわ」

 

結論から言えばその決断は遅かった。

 

『陽炎姉さん! 黒潮が、黒潮が……!!』

 

親潮から私への直接の通信に私は嫌な予感を感じた。

 

「落ち着きなさい親潮。何があったの?」

 

『黒潮が……轟沈しました!!』

 

その時受けた衝撃を、私は生涯忘れる事はないだろう。

黒潮との付き合いは不知火に続いて長い。だけど一所にいた時間では不知火よりも長かった。

 

「黒潮が……!? そんな……」

 

『他にも既に2、3隻轟沈していて私達だけで抑え切るのは不可能です! 早く援軍を!!』

 

言いたい事は幾つもあった。だけどその全てを堪えて私は一言だけ搾り出した。

 

「少し時間を頂戴」

 

『時間なんてありません! すぐにでも援軍を』

 

「いいから少し黙ってて!!」

 

怒鳴りつけた後、私は親潮との通信を切断した。今は何も聞きたくない。ただ考える時間だけが欲しい。

 

「陽炎、考えるのは構いませんが時間はあまりないデース」

 

「そんなのわかってるわよ!」

 

「ならすぐに援軍を出すですネ」

 

援軍、援軍か……。

 

「ねぇ金剛。私達の勝利条件ってなんだったかしら」

 

「何を今更聞くですか。そんなの漣を倒す事デース」

 

「そうよね。じゃあ私達の敗北条件は?」

 

「分散した敵が引き返して合流する事ですネ」

 

「違うわ。それは私達が敗北する前提条件の一つであって敗北条件ではないのよ。極端な話、敵に合流されたとしても漣さえ倒せば敵は旗頭を失い私達は勝利できるわ」

 

「なら敵の勝利条件は何だと言うですカ?」

 

一見すると私達の方が不利に見えたこの戦いだけど、私達の目標は第一艦隊ではなく漣だ。

 

「指揮艦を全滅させるか、継戦意思を削ぐこと。場合によっては、敵は私達を全滅させなければならないかもしれない。それにに対して私達の目標は極めてシンプルよ」

 

漣だけを狙えばいい私達と違って敵は私達全滅させなければならない。漣自身の戦闘能力が高いから一概にどちらの方が簡単と断言する事は難しいけどたった1人を倒せばいい私達の方がいくらか容易だろう。

 

「なるほど。それで、陽炎はどうするつもりデース」

 

「今更左翼部隊の混乱を収拾しても敵に勝てるとは思えないわ」

 

私達は攻め続けるしかない。ここにきて互角だった戦力が私達側が不利になるのならば、やる事は一つだ。

 

「親潮がうまく敵をいなすかもしれませんネ」

 

「あの混戦状態じゃあ指揮なんて取れないでしょ」

 

「……見捨てるですカ?」

 

「たとえあれをなんとか立て直せれても彼我の戦力比は戦闘開始前と比べて開くのは確実よ。だけど今なら敵と対等に戦える」

 

左翼は全滅するかもしれない。なんなら中央も、右翼も全滅するかもしれない。それでも漣さえ倒せば私達の勝ちなんだ。

 

「金剛、全体の指揮をとりながら左翼部隊の援護はできる?」

 

「誰に物言ってるですカ。余裕のよっちゃんデース」

 

最悪できなくても仕方がないと思っていたからこの返答は頼もしい。

 

「狭霧、第四艦隊の補給はどれくらい終わっている?」

 

「まだ3割ほどしが終わっていません」

 

「そう、3割も終わっているなら十分よ。ここから先は残弾を機にする必要はないわ」

 

多分、以前までの私だとこの作戦の成功率は低かったと思う。経験も実力も漣に大きく劣っていたから一対一で戦えても勝つ可能性は低かっただろう。

不本意な事だけど漣にあの注射をされて以来、私の調子はすこぶるいい。艤装の操作も、身体能力も明らかに上がっている自覚がある。最初は気のせいかと思っていたけど多分あの注射は適合したんだろう。今の私が漣に劣っているのは経験だけ。それさえも長らく実戦から離れて感覚が鈍っているであろう事から帳消しにできる。今の私なら漣を倒せる。

 

「第四艦隊は敵中央に対して全力で攻撃、乱れた敵に対して私達第一中隊で突撃して敵中を突破するわ」

 

「左翼の援護にいかないんですか!?」

 

「言葉の通りよ狭霧。後は金剛の判断で援護をしてくれるわ」

 

援護するのか他の手段を取るのかは知らないけどここから先の指揮は金剛の役目になる。無責任と言われるかもしれないけどたとえこの艦隊がどうなろうとも漣を倒すのが私の責務だ。

 

「右翼はどうするデスカ」

 

「右翼はこのままでいいわ。最悪私が突破できずとも不知火が突破して漣を倒せばそれでもいいし、もし倒せなくても一時的に指揮系統が麻痺するでしょうから私が突破する隙が生まれる」

 

不知火なら私達の行動を見て合わせてくれるはずだ。

 

「じゃあ私は第四艦隊と合流するから後は頼んだわよ」

 

「貧乏くじを押し付けられた気がしますが仕方ありませんネ」

 

「な、納得できません! こんなの戦術的に間違っています!!」

 

「今は時間が惜しいから詳しい説明は移動しながらしてあげるわ。第一中隊、前進するわよ」

 

狭霧の抗議を封殺して私は部隊を前進させた。

 

「確かに私がやろうとしている事は戦術的合理性に欠くわ。だけど今まさに負けそうになっている私達には、こんな無茶苦茶な手段を取るしか手は残されていないのよ。お行儀の良い戦い方ができる時間はもう終わったわ」

 

私だってできる事なら正当な艦隊戦で決着をつけたかった。こんな邪道とも言える戦い方はしたくなかった。

 

「戦線が崩壊するのが先か、漣を倒すのが先か。決着はそれで着くわ」

 

せめて黒潮が生きていれば……。

 

「黒潮教官が死んだからヤケになったわけじゃないんですね?」

 

「狭霧」

 

「はい」

 

「二度と、少なくともこの戦いの間は二度と、その事を口にしないで。この戦いが終わればいくらでも非難は受けるから」

 

私の声は震えていなかっただろうか。いつも通り話せていただろうか。上手く答えられたと信じたいけど、多分いつも通りでは無かったのだろう。

その証拠に狭霧は息を呑んでそれ以上その事に言及しなかった。

 

事前に司令部を前進させていたおかげで第四艦隊との合流にはそれほど時間は掛からなかった。

 

「由良」

 

「陽炎さん!? どうしてここに?」

 

「左翼が崩れたのは知っているわね」

 

「はい。ですからてっきり左翼の援護に行くものだと……」

 

「アレを助けたところで、もはや私達に勝利はないわ。それならいっそ今仕掛けるべきよ」

 

流石は指揮艦とでも言うべきだろうか、由良にはそれだけで十分だった。

 

「巻き返す事はできないんですね」

 

「少なくとも私には無理よ」

 

せめて黒潮が生きていれば、そう思わずにはいられない。指揮艦である黒潮が生きてさえいればまだなんとかなったかもしれない。親潮だと数の減った左翼部隊を指揮して、敵右翼の攻勢を受け止めることができない可能性が高い。だからと言って予備戦力を投入してもジリ貧になるだけ。

金剛には戦力差を理由に今攻勢をすべきと主張したけど、一番の理由は指揮艦の問題だ。せめて親潮や雪風が育ちきっていれば展開も変わっていたはずなのに……。

 

「それに不知火の敵左翼の突破もなかなかいい感じに進んでいるし、ここで中央部が攻勢を強める事は右翼部隊の援護にもつながるわ」

 

「了解しました。漣の元まで突撃すればいいんですか?」

 

「敵中央を突き崩すだけでいいわ。貴女の部隊がこじ開けた穴を私達二水戦第一中隊で広げて突破し漣を倒す」

 

それ以外に手はない。黒潮の死を無駄にしないためにも今ここで、漣を倒さなくてはならいない。

 

「……美味しいところだけ持っていくんですね」

 

予想外の発言に私は言葉に詰まった。

 

「インド洋の時もそうでした。私達が二水戦に劣っているのは事実でも艦隊決戦をさせてもらえないほど弱いとは思っていません」

 

そう言えばあの時はインド洋に巣食う深海棲艦の海上戦力はほぼ全て二水戦で駆逐したんだったわね。

 

「貴女達が強い事は知っているわ。だけど漣を相手にするには力不足よ。それよりも私達が突破した後、敵に挟撃されないよう中央をしっかりと抑えて欲しいのよ」

 

と言うか少しでも時間が欲しい今、その事でごちゃごちゃ言われたくない。

 

「それで十分なんですか?」

 

「ええ。私達の背後が脅かされなければそれでいいわ」

 

「……質問を変えます。敵中央を完膚なきまでに撃破しなくてもいいんですか?」

 

思わぬ言葉に虚をつかれ私は目を瞬かせた。

 

「できるのであればしてくれればいいけど……」

 

正直今まで互角の戦いを演じてきた相手を今さら撃破すると言われても強がりにしか聞こえない。

 

「ではそのように。しばらく待ってください。貴女達が突撃する為の穴を開けます」

 

そう言うと由良は指揮に戻った。

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